2008年8月号灯体
【照明器具のこと。】
【初級編】
「ちょっと手の空いてる人、灯体吊るの手伝って」
※通常の使い方。
【中級編】
A「だって僕さ、眉毛太いし・・・・・・」
B「男らしくて凛々しい眉毛じゃない!」
A「太ってるし・・・・・・」
B「包容力あっていいじゃない!」
A「顔濃いし・・・・・・」
B「だからそれのどこがいけないのよ!君さ、もっとこう、全体的に色んなところを灯体化していった方がいいよ」
※コンプレックスをチャームポイントとして個性にすること。
【上級編】
A「町田さんのドレス、シャ●ルなんだって!」
B「うそ!ボロボロのドレスでかわいそうだねって今話してたとこなのに」
A「あのネックレスについてる大量のダイヤはもちろん本物らしいし」
B「えっ!・・・・・・なんでオモチャつけてるんだろうって思ってた・・・・・・あたしものを見る目ないのかな・・・・・・」
A「大丈夫、町田さんが灯体下暗しなだけだから・・・・・・」
※いくら華やかに光を当ててもみすぼらしく見えてしまうこと。
劇場に行ったとき、ステージの天井を見上げてみてください。上から吊られている
照明器具、ソレが灯体です。灯体を吊るす照明さんの姿、ザ・職人って感じで
かっこいいんだなぁ(←個人的好み)。
2008年7月号いってこい
【台詞の順番が逆になること。テレコともいう。】
【初級編】
「そこ、いってこいになってるからもう一回台本見といて」
※通常の使い方。
【中級編】
A「いいか、女を口説くのに焦りは禁物だ。とりあえず、このレストランを予約して、高いワインを注文して、うんちくをたれるフリをして、相手の服と髪型を褒めて、プレゼントを渡して、それから本題に入る」
B「わ、わかった。が、がんばってみるよ」
A「お前はすぐいってこいるからな。俺は心配だよ」
B「と、とりあえず、今から電話して、す、好きだって言ってみる!」
A「お前、今までの会話何だったんだよ・・・・・・」
※ものごとの順序が逆になること。
【上級編】
A「いや、うちが会社っていっても、社員300人ぐらいの小さい会社だよ」
B「そうなんだー」
A「オヤジが車にうるさくてさ、ベンツにしか乗るなっていうんだよ。俺はホントはフェラーリに乗りたいんだけどさぁ」
B「なるほどねー」
A「あっ、今度別荘おいでよ。ハワイか沖縄か軽井沢。あと最近バリにも買ったんだよね」
B「へーすごいねー」
C「あんたっていってこいらずな応答、ほんとに上手いよね」
B「そう?頭の軽いボンボンの相手も慣れれば楽しいわよ」
※会話の順番が入れ替わっても差し障りのないこと。
お芝居をしたことのない人からよく言われるのが
「台詞覚えられるなんてすごいね」。そう言われる度に、
「う〜ん、そこをほめられても・・・・・・」と複雑な心境に
なるのはわたしだけでしょうか。
2008年6月号テキレジ
【テキストレジー。オリジナルの台本を書き直すこと。】
【初級編】
「じゃあテキレジ入ったところの読み合わせやろうか」
※通常の使い方。
【中級編】
A「有名私立幼稚園に入園するもスカートめくりで退園、エスカレーター式の小学校に入学したがどうしても制服が嫌で公立に転校、中学では3年間引きこもりその後パリに渡ってデザイナーデビュー、日本に帰国後医大を受験し合格、現在休学中・・・・・・で、次は何をするつもりなの?」
B「しばらく山にこもるよ。陶芸家の修行をしようと思ってさ」
A「あんたってとことんテキレ人生ね・・・・・・」
※こうなるであろうという人生設計をことごとく裏切っていく生き方。
【上級編】
A「ばあちゃん、さっきバラ柄の真っ赤なコート着て出ていったよ。 よくやるよなあ」
B「最近彼氏ができたらしいよ。15才下だってさ」
A「今度はHIPHOP習いだしたんだろ? ホントよくやるよなあ」
B「ハタチでじいちゃんと死に別れてから、ひたすら働いて母さんたち育ててきたんだもん。今はばあちゃんのテキレジ期なのよ」
※大変な時期の反動で、楽しいこと、やりたいことに興じる時期。
台本を自分で書いてみるようになって、
それまで何気なく読んでいた台本とは、こんなに書き手の思いが
詰まっているものなのだと再確認する今日この頃。
役者が舞台の顔だとすれば、台本は舞台の心臓なのです。
2008年5月号つなぎ幕
【舞台転換のために幕を降ろすが、休憩しないで続けて次の場面が始まること。】
【初級編】
「ここのつなぎ幕の音楽、何がいいかなあ」
※通常の使い方。
【中級編】
A「どうだい、調子は」
B「おかげで仕事は振り出し、家族には冷たくされるし、いまだに傷跡は痛むしで散々だ。もう僕もおしまいだよ」
A「気弱なことを言わない!今はつなぎ幕期なんだよ。これを乗り越えたら、きっと新しい未来が開けているはずさ」
B「ありがとう。そうかもしれないね。がんばるよ」
※物事が好転する前に一時停滞すること。
【上級編】
A「そうそう、私、1ヶ月前に離婚したのよ」
B「えっ、それは、何と言うか・・・・・・大変だったね」
A「だから5ヵ月後、今の彼と結婚式だからよろしく!」
B「えっ!そんな相手がいたの?!」
A「10日前にできたのよ」
B「それはまた何と言うか・・・・・・すごいつなぎ幕力だね」
注:日本では6ヶ月たたないと女性は再婚できない。
※何かあってもすぐに次のアクションを起こす能力。
“小劇場”と呼ばれるところでは、幕そのものがない
ことが多いですが、大きな老舗の劇場なんかではよくあります、つなぎ幕。
しかも時々それがやたらと長かったりして。「何かあったんじゃ・・・・・・」
なーんて勝手に心配したりすることもしばしばです。
2008年4月号バラシ
【終演後、舞台上のものを撤去すること。】
【初級編】
「明日はバラシがあるから軍手忘れず持ってこいよ」
※通常の使い方。
【中級編】
A「あ!そういえば今日この神社のお祭りだったんだ!チョコバナナ買わなくっちゃ!!」
B「ほんとだ。でももう終わりみたいだよ。みんな帰り始めてる」
A「チョコバナナ、まだやってないかな」
B「あぁ、祭のバラシーンはいつでもなんだか切ないなァ」
A「チョコバナナ、チョコバナナ……あ、もう閉まってる」
※ものがだんだんと撤去されたりなくなっていく場面。
【上級編】
A「冷蔵庫、慰謝料にもらっていくわ」
B「う、うん」
A「ベッドもいいわよね?」
B「も、もちろん」
A「あとプラズマテレビと、DVDプレーヤーと、電子レンジと、」
B「あのぅ、ちょっとだけ僕にも何か残しておいてくれないかな、なぁんて……」
A「え?何か言った?」
B「な、何でもないです……。あぁこれですっかりバラナシだな……あははは……」
※何かが終って物がきれいになくなること。
楽日はバラシをして打ち上げ。小劇場のお決まりコース。
舞台装置が解体されて何もない空間が現れた時、高揚した気分に
ちょっぴり混ざる切なさ。でもその切なさが、決して嫌いでは
なかったりするのです。
2008年3月号エアモニ
【エアーモニター。会場内の様子を調光室や楽屋、ロビーなどで確認するための音声。】
【初級編】
「このエアモニ聞きづらいなあ。どうにかならない?」
※通常の使い方。
【中級編】
A「あっ、隣の桜木さん、今やっと起きたぞ!」
B「へぇ、よく分かるね」
A「おぉ・・・今日は顔を洗うよりも先にヤカンを火にかけたぞ。あ、今新聞を手に取ったな」
B「確かにエアモニーはするけど、よく分かるね」
A「ふっふっふ、僕は心で聞いているからね、愛する桜木さんのエアモニーを。はっ、電話?!誰からだ? ん? ・・・男? なになに『あ・い・し・て・る・わ』・・・・・・うん、きっとお父さんからだな!」
B「・・・・・・エアモニーだけじゃなくて他の事も汲み取ろうよ」
※人が動くもしくは居る気配。
【上級編】
A「寛樹!あんた部屋で遊んでばっかりいないで、ちゃんと勉強しなさい!」
B「よ、読んでないよ、勉強してたよ」
A「嘘ばっかり!3冊マンガ読んだ後、みかん食べてから爪切って、一瞬勉強しようかと思って教科書ひろげたけどやっぱり止めて、結局ヘッドホンで音楽聞きながらギター弾く真似して踊ってたでしょう!」
B「うっ、なんでそんな細かいことまで分かるんだよ!」
A「お母さんはエアモニアンなんだから。何でもお見通しよ」
※気配だけでその人が何をしているのか見抜いてしまう人。
楽屋でエアモニから出てくる音を聞いている時って、結構楽しかったりします。
客席の様子を感じてわくわくすることもあるし、自分の出番がない時、エアモニに
耳を傾けながらお菓子食べたり。(えっ、わたしだけですか?)
2008年2月号歯紅(はべに)
【メイクの口紅が歯につくこと。】
【初級編】
「ちょっと、歯紅だよ、鏡見たほうがいいよ」
※通常の使い方。
【中級編】
A「渋井先輩、お好み焼き美味しかったですか?」
B「ウン、って何で分かるの?!」
A「歯紅口になってますよ」
B「ちょっ、カガミ、カガミ・・・はっ、口の回りがソースだらけ・・・」
A「で、ちゃんと封筒買ってきてくれたんでしょうね」
B「ええっと・・・もう一回いってきまーす」
※食べカスが残って食べたものがバレバレの口。
【上級編】
A「桜子さん、今日もキレイだなぁ」
B「ああっ、桜子さんが階段で躓いたぞ」
A「うんうん、躓いてもかわいいなぁ」
B「ああっ、スカートからラクダシャツがはみ出てるぞ」
A「うんうん、それすらオシャレだなぁ」
B「ああっ、誰も見てないと思って鼻をほじってるぞ」
A「うんうん、何故だろう、絵になるんだよなぁ」
B「ふぅ、歯紅美人は何をやっても許されるんだね」
※どんな失態もチャラにするほどのすごい美人。
そこそこ大きな劇場だったら気づかれない可能性もあるとして、役者との距離が近い
小劇場だったら大変です。歯紅が気になってお芝居どころじゃなくなってしまうかも。
お客って、意外と細かいところを見てたりするんですよね・・・。
2008年1月号アゴアシ
【アゴ=食事代、アシ=交通費。つまり食事代と交通費のこと。
】
【初級編】
「今度の仕事はアゴアシ付きなんだよね」
※通常の使い方。
【中級編】
A「お疲れ。コレ片付けたら呑み行かない?」
B「ゴメン、今月ちょっと金欠でさ」
A「まだ給料日から一週間よ?アゴアシラインは確保できてるの?」
B「もちろん!駅前のパン屋さんで食パンの耳がもらえるし、通勤は運動も兼ねて自転車で!」
A「毎日パンの耳食べて、自転車で2時間半かけて通勤・・・・・・一種の修行だね」
※最低限の生活を維持できるギリギリの線。
【上級編】
A「原田さん、どこかいいフレンチレストラン知らないかな?彼女が今夜どうしてもフレンチが食べたいって言うんだ」
B「えっ、昨日も彼女とデートしてなかった?」
A「昨日は中華だったんだよ。彼女がどうしてもフカヒレを食べたいって言うから」
B「ねぇ、車も買ったって本当なの?」
A「うん、アルファロメオ。彼女がどうしても助手席に乗りたいって言うから」
B「……誰かこいつに自分がただのアゴアッシーだということを教えてやってちょうだい」
※食事、移動等において都合よく利用される男子。
「小劇場」と一言で言っても、その中にまた小から大まであるからややこしい
のですが、とりあえず、小劇場でアゴアシ付きの現場ってそうはなかなか
お目にかかれません。みんな手弁当、交通費なんて自腹が当然。それでも
やめられない魅力が「小劇場」にはあるんですけどね。
2007年12月号引枠(ひきわく)
【平台などにキャスターをつけて可動式にしたもの。
】
【初級編】
「あの松、引枠にしとかないと転換間に合わないよ」
※通常の使い方。
【中級編】
A「ねぇ、この本ってどういう話?」
B「主人公がポーランド生まれのドイツ人なんだけど、父親の仕事の都合でエチオピアで育つんだ。6歳の時、イギリス人の家庭教師に出会うんだけど、あ、その前に3歳の時にトルコ人の船乗りと仲良くなって、そのまま船にのってトルコまで行こうとするんだけど、あ、そのトルコ人の船乗りっていうのは、天涯孤独で、若い頃にフィンランド人の恋人に、」
A「ごめん、もうちょっと引枠化して話してもらえる?」
B「えーっとね、つまり、ドイツ人の男が成長して結婚して年取って死ぬ話」
A「・・・・・・引枠化にもほどがあるわ」
※複雑なことを単純化してわかりやすくすること。
【上級編】
A「石垣さん、この前のA社からのクレーム処理ってどうなりました?」
B「あ、それなら解決したよ」
C「石垣、頼んどいた予算の件・・・やっぱり部長納得してくれないよな?」
B「いや、何とか上にかけあうから、そのまま進めろってさ」
D「石垣君、例の5匹の仔猫なんだけど・・・」
B「うん、もう貰い手見つかったから安心して」
E「いやぁ、石垣はさすがだね。その並外れた引枠能力を見習いたいよ」
※難しいことをいとも容易にやり遂げる能力。
最近わけあってン万円するお芝居をよく観ます。ン万円する
お芝居というのは、それだけステージにもお金がかかっているわけですから、
もうその時点で見ごたえがあります。もちろん、芝居の素晴らしさとチケット代が
必ずしも一致するとは限りませんけどね。
2007年11月号書き割り
【舞台セット。風景や建物が描かれた大きな板(張り物)。】
【初級編】
「2幕と3幕の間、書き割りが変わるから」
※通常の使い方
【中級編】
A「お、お父さん、なんですかその恰好は」
B「今日は大事な娘の初デート。母さん、万が一に備えてこっそり尾行してくるぞ!」
A「そんなみっともない真似やめてください!第一そんな恰好じゃすぐバレますよ」
B「そうか?完璧に原宿に書き割れるファッションだと思ったんだが…」
A「……せめてそのピンクのカツラをとってください……」
※背景の一部として馴染むこと
【上級編】
A「いやー、セレブのパーティーなんて初めてだよ!あッ、伊東岬、小田切像、それに長澤松美まで!スゲー!あっ、どうしたの、主役がショボンとしちゃって」
B「だって……なんだかわたしなんて完全に書き割り負けなんだもん」
A「そんなことないよ!今日はチャネル社長令嬢である君のバースデーパーティーなんだぜっ!それに……僕の目には君はいつだって誰よりも輝いて映ってるよ」
B「うれしいっ!ありがとう総一郎さん!!」
A「じゃあ僕の誕生日には約束どおり……」
B「もちろん!クルーザーねっ!」
※背景に主役が負けること
限られた空間に限りない空間を作り出す、それが舞台。幕が上がり、ふっとその世界に
のみこまれる瞬間、もしかしたらわたしたちも書き割りの一部になっているのかもしれません。
2007年10月号ハウる
【マイクとスピーカーを近づけた時、ウォーン、キーンといった音が出る事。ハウリング。】
【初級編】
「マイク、ここだとハウるから位置変えよう」
※通常の使い方
【中級編】
A「おはよう」
B「久しぶり」
A「相変わらず変なシャツ着てるね」
B「はぁ? お前こそいい加減その太い足しまえよ」
A「あんたね、久々に会ったのになんでそうけんか腰なわけ? 大体この前だって」
B「そう、この前言ってた、スイカが野菜だっていう根拠だけどな、」
A「そんなことはどうだっていいのよ! くだらないことしか覚えてらんないわけ?」
C「はぁ、案の定始まりましたね」
D「こいつらはほんっとにどうしようもなくハウる仲だな」
※顔を突き合わす度に喧嘩する仲。
【上級編】
A「山城くん! 今日は東南線には乗らない方がいいわ。そして北澤くん、右足に邪悪な波動を感じるから気をつけて」
B「ありがとう! じゃあ北澤、今日は地下鉄やめてバスで帰ろう」
C「えっ、まさか桃川の言うことを信じるのか?」
B「あいつはハウラーだからな。実は最近の地震も全部予知してるんだ」
C「そんな! じゃあ……俺の右足に何か大変なことが……そんなの嫌だぁぁぁ!! ……ふはっ!!! ……」
B「ど、どうした……」
C「……右足の下に何かある……」
B「あっ……イヌのう●こ……」
※アクシデントを感じ取る能力を持つ人。
ハウる。カラオケなんかで経験されたことがある方もいらっしゃるでしょう。
あのキーン!ってやつです。カキ氷をイッキ食いした時のキーン! に似てるなぁ
なんて思うのは、わたしだけでしょうか。
2007年9月号ト書き
【台本の中で、登場人物の表情・動作や、場面の状況、照明・音響・効果などの舞台上の指定を、セリフとセリフの間に書いたもの。】
【初級編】
「ここのト書きに“靖子、立ち上がって静かに出て行く”ってあるから、その前までは座ってなくちゃいけないってことだよね」
※通常の使い方
【中級編】
A「た、大変だ大変だ!!」
B「どうしたの、そんなに慌てて」
A「午後二時、青い空が一面に広がる。静かな住宅街。手をつないだ子供と老人通り過ぎる。にわかにサイレンが聞こえる。不安げに外へ出てくる主婦たち」
B「そんなト書き語りはいいから、何が大変なの?」
A「君の家が火事なんだよ!」
B「それを早く言えよ!!」
※周囲の状況ばかりをつらつらと連ねて要領を得ない喋り方。
【上級編】
A「お待たせいたしました、当店名物ト書きうどんでございます」
B「あ、いただきます」
A「では始めさせていただきます。山根さま、箸をとる。出し汁の匂いを嗅ぎ、満足そうにため息をつく。きらきらと光る出汁、艶めくうどん。上には仙台名産笹かまぼこと、繊細な九条細ネギ、そしてまさに天女の羽衣のような太白とろろ昆布がたっぷりと……」
B「あの、すいません、ちょっと静かに食べたいんですけど」
A「ト書きうどんですのでご了承ください。さて次、山根さま、ついに出し汁を口に含み歓喜と驚きの表情を浮かべる」
※逐一状況の解説が入る食事。
一冊の台本というものは、何と奥深いものであろうと思うのです。
「あ」から「ん」までの文字の組み合わせによって、全く別の世界が
作り出せてしまうわけですから。ト書きは台詞のようにお客さんに直接
伝わることはないけれど、その世界の空気や光や匂いを作り出すのに
まさに重要な役割を果たすものなのです。
2007年8月号舞台端(ぶたいばな)
【舞台と客席の境界。】
【初級編】
「舞台端まで歩いたらすぐ右にはけて」
※通常の使い方
【中級編】
A「あぁ……桜子さん……容姿端麗、頭脳明晰、社長令嬢、大和撫子、どうしよう、僕はあまりにも高嶺の花に恋をしてしまった!」
B「フッフッフッ、ここは一つ僕に任せたまえ」
A「あ、あなたは……」
B「どんな高嶺の花も何のその、舞台端渡しの高橋といえば僕のことさ」
A「あなたが伝説の!是非よろしくお願いします!!」
B「任せたまえ。じゃ、とりあえず頭金で2万ね」
※どんな高嶺の花とも結び付けてくれる恋のスーパーキューピット。
【上級編】
A「今回は“クリーム苺大福は洋菓子は和菓子か”について話合います」
B「はい、議長。我々はクリームに着目すべきです。というのは……」
C「いや、問題は、クリームと苺を組み合わせるという行為であって、それはショートケーキに見られるような……」
D「いや、でも大福という概念はそもそも……」
E「いやぁ、今回の舞台端会も白熱した議論が繰り広げられてますな」
※あいまいな境界にあるものをどう分類すべきか決定する会議。
舞台端。それは劇場の三途の川だと言われています。嘘です。しかし、あちらの世界(舞台上)とこちらの世界(客席)を隔てる
境界だということは事実です。二つの世界が舞台端という境界によって同時に存在しうる空間、それが劇場なのです。
2007年7月号1ベル
【開演五分前を知らせるベル。】
【初級編】
「1ベルまでに入場できなかったお客様には、一旦ロビーでお待ちいただいて下さい」
※通常の使い方
【中級編】
A「山田、明日は渋谷に7時半だからな!絶対遅れるなよ」
B「わかってるって。じゃあな」
C「ねえねえ、集合時間って8時じゃなかった?」
B「あいつは“1ベル行動”が出来ないやつだから早めに言っといて丁度いいんだよ」
※時間に余裕を持たせた行動
【上級編】
A「さとし!起きなさい!!」
B「う〜ん、昨日遅くまで勉強してたからあと5分・・・」
A「さとし!テレビ見てないでもう行かないと遅刻だよ!!」
B「う〜ん、もうちょっとで長○ま×みが出てくるからあと5分・・・」
A「さとし!いつまでトイレ入ってるの!!」
B「う〜ん、ちょっとお腹の調子が悪いからあと5分・・・」
A「まったくあの子は“1ベル凌ぎ”なことばっかり言うんだから!!」
※ほんの僅かな時間かせぎ
開演5分前のベル、もしくはブザーが鳴った瞬間、客席の空気がガラッと変わります。誰が何を言ったわけでもないのに、
皆一斉に神妙な面持ちで座り直し、何かが始まるのを待ち構えるかのようにじっと静かに息を潜めて舞台を見つめ始めるのです。それは不思議な
光景です。5分前のベル(1ベル)は、未知なる世界へつながる扉の開く音なのかもしれません。
2007年6月号どんつき
【緞帳がおりて、舞台床面につくこと。】
【初級編】
「カーテンコール、一旦どんつきになったらすぐ全員出てきて並んでください」
※通常の使い方
【中級編】
A「結構呑んだし、そろそろシメにはいろうか」
B「うん」
A「えーっと、すいませーん、じゃあ僕は、イチゴのミニパフェでお願いします」
B「わたし、たこわさ」
A「えっ・・・なんで、たこわさ?」
B「どんつきメニューはたこわさって決めてるの」
A「そ、そうなの。別にいいけど・・・」
※呑んでシメに頼む一品
【上級編】
A「新品のパソコンを落として壊すわ、親知らずが痛くて眠れないわ、急に体脂肪が10%もアップするわ、家に帰ったら水漏れで床中水浸しだわ、
部長の悪口をうっかり本人にメールするわ、もう最近悪いことしか起こらないよ」
B「きっと今はどんつ期なんだよ。あんまり落ち込みなさんな」
※あらゆることが停滞してしまって上手くいかない時期。
緞帳が下りる瞬間が好きです。大きな劇場であればあるほど、緞帳が下りる瞬間には迫力があると同時に、
何とも言えない切なさが漂います。その舞台が自分にとって、どれだけ心に響いた舞台であったか、緞帳が下りる瞬間の切なさで
分かるような気がします。
2007年5月号明転
【照明をつけていない暗い舞台上を明るくすること。】
【初級編】
「明転した時は板付き完了で頼むよ」
※通常の使い方
【中級編】
A「課長!前回門前払いを食らった○×商事が、もう一度企画書に目を通してくれるそうです!」
B「課長!△△テレビから商品をぜひ取材したいとのオファーがきました!」
C「周囲の無理解、生産コストの調整、商品としてのクオリティ・・・数々の難問を乗り越えて、
我らが“お留守番埴輪・はに〜るくん”にも、ようやく明転風が吹いてきたぞ!」
※状況が好転すること。
【上級編】
A「昨日さ、渋谷の交差点でさ、あのさ、それがさ、その・・・クックックッ・・・アハ、アハハハハハ!!」
B「なになに、気になるよ、渋谷の交差点で何があったの?」
A「それがね、渋谷の、こ、交差点・・・ヒャヒャヒャヒャ!!」
B「もぉ明転八倒してないで何があったのか教えてよ!」
A「だから、しぶ、渋谷・・・アハ、ハハハハ、アーッハッハッハッ!!」
B「・・・こりゃダメだ」
※いきなり笑い出して転げ回ること。
明転する瞬間。それはもしかしたら、舞台に立っている役者にとって、最も心地よい瞬間かもしれません。
また、舞台ファンの皆さんなら、舞台がぱっと明るくなった瞬間、思わずふっと舞台上の世界に引き込まれる、そんな感覚を
味わったことがあるのではないでしょうか。明転とは、こちらの世界とあちらの世界を切り替える、言わばスイッチのようなものなのです。
2007年4月号袖(そで)
【舞台の左右の客席から見えない場所。】
【初級編】
「1幕終わったらすぐ舞台のそでで待機してて」
※通常の使い方
【中級編】
A「部長!明日のプレゼンにむけて、ここは一つ袖りませんか?」
B「山田くん、そういうささいな気の緩みが大きな失敗につながるんだ!
大体君はこんな前日に袖ろうなんてこのプロジェクトの重要性が#※$\・・・」
A「そうですか〜。せっかく可愛い子がいるお店予約したんですけど」
B「つまりだな、わしが言いたいのは、ある程度の袖りは、
仕事の成果を挙げるのに必要だということなんだよ。さ、いくぞ、山田くん♪」
※大きな仕事の前の景気付け
【上級編】
A「ぺ・●ジュンが来日した時、僕近くまで行ったよ、すぐ帰ったけど」
B「へぇ」
A「アライグマの●太にお嫁さんが来た時近くまで行ったんだけど、すごい人でさあ、ソッコー帰ったよ」
B「ふぅん」
A「浜●あゆみのラジオ収録、近くまで行ったんだけど、すっごい待たされたから結局見る前に帰っちゃったんだよね」
B「小山くんって袖帰りが多いんだね」
A「えっそうかなあ」
B「それに・・・もしかして、ヒマ人?」
※華やかな場所や話題の場所に行ったはいいが、、
人の多さに辟易するなどして、近くまで行っただけで帰ってきてしまうこと。
袖での過ごし方は人それぞれです。やたらと緊張して身動きの取れなくなっている人、
おどっている人、顔の筋肉をほぐそうとしてとんでもない表情をしてる人、
台詞をぶつぶつ呟いている人など、そこはまるでもう一つの舞台です。
もちろん袖はお客様にお見せすることはできませんから、袖という舞台を
楽しめるのは、役者の特権かもしれません。
2007年3月号ロスコ
【スモーク、またはスモークマシンの俗称。】
【初級編】
「1幕と3幕の終わりにロスコ炊くから」
※通常の使い方
【中級編】
A「なんだかどんどん雲が増えてきたね」
B「うん。このロスコ空は天気が悪くなる兆候だ。今日のサッカーは中止だな」
A「あーぁ。空にも本物のロスコのように雲のスイッチがあればいいのになぁ」
※雲がどんどんでてきて曇っていく空
【上級編】
A「だいたいね!あなたみたいに、テレビばっかり見て勉強も家の手伝いもろくにしないぐうたら娘はお嫁に行けないよ!」
B「残念でしたー!ぐうたらは、テレビ見ながらねっころがってせんべい片手にお尻をかくような、もしくは足でリモコンを取ろうとして筋をちがえるような、
もしくはアイライナーを探すのが面倒くさくて油性マジックでアイラインを書くようなお母さんに似たんですー」
A「まったくこの子はどうしようもないロス子だね!」
※口が達者で延々と口から言葉が流れ出てくるような人。
ロスコ。本当はスモークマシンを売っている会社の名前だそうですが、スモークやスモークマシンの俗称として使われることが多いようです。
特に冷たかったり暖かかったりするわけではありませんが、その舞台の内容に応じて、ひんやりとして見えたり、ふわぁっと温かく見えたり、
そしてどこか幻想的な雰囲気を演出するスモーク。これもまた、なかなか舞台以外には味わえない魅力的な演出の一つかもしれません。
2007年2月号でとち
【舞台に出るきっかけをはずしてしくじること。】
【初級編】
「二幕のアタマ、でとちしちゃった・・・」
※通常の使い方
【中級編】
A「どうしたの、元気ないじゃない」
B「それが午前中に課長と営業先へ挨拶に行くはずだったんだけど寝坊しちゃってさあ・・・」
A「あらら。怒られちゃったの?」
B「ううん、怒られはしなかったけど、でとちデーは何やっても気合が入らないんだ」
※一日の始まりが思わしくなかった日
【上級編】
A「結婚おめでとう!ところで二人の馴れ初めを聞かせてよ」
B「それがね、この人が配属されてきた初日、わたしの顔見た瞬間に、“歯に青海苔ついてますよ”って言って」
C「僕は親切のつもりだったんだって」
B「だって初対面で普通そういうこと言う?とんだでとちんだったわ。でも今は・・・うふ」
A「はいはい、ごちそうさま」
※最初の印象が良くない人
でとち。人間ですもの、百歩譲ってとちってしまったものはしょうがない。
問題はその後どうするかなのです。でとちを引きずってしまうか、そこから
立て直せるか。まさに役者の精神力が問われるところです。舞台の上では
何が起こるか分かりません。でとちに限らず、何が起こっても物語は続きます。
アクシデントが起こった時こそ、役者の器量が試されているのかもしれま
せんね。
2007年1月号キュー
【合図、きっかけ】
【初級編】
「2場の登場の時、キューください」
※通常の使い方
【中級編】
A「あれっ、花子なんだかキレイになったんじゃない?」
B「えっ、そうかな。でもあいつにフラれてからから体重が5キロも減ったの」
A「・・・そうだったんだ。ゴメン」
B「いいのいいの!でもコレでキレイになれたんなら、あいつも立派なキュー太郎だったってことね。アハッ」
※何かのきっかけを与えてくれる人
【上級編】
A「7時46分のバスに乗り8時7分高校前下車、途中コンビニでコーヒー牛乳を購入するのに所要時間3分、その先の曲がり角までは約50メートル、
推定8時14分に飛び出せば、ほぼ確実に拓也くんとぶつかれる・・・」
B「ちょっと考えすぎじゃない?」
A「なにいってるの!万全なキュー算こそが、恋を勝利に導くのよ!」
B「隣の席なんだから普通に話しかければいいのに・・・」
※あるきっかけを綿密な計算のもとに準備すること。
キュー。開幕や舞台転換終了を照明・音響スタッフに知らせるキュー、
俳優に登場のタイミングを知らせるキューなどキューにも色々あります。
キューという言葉は、本番で心臓がキュゥーンとなるという擬音語から
きたという説もあるとか。キューを出す(出される)瞬間の緊張感を絶妙に表す
エピソードです。
2006年12月号コロガシ
【舞台上、床面に直接置いてある照明機材。】
【初級編】
「ちょっとコロガシの明かり強すぎるなぁ」
※通常の使い方
【中級編】
A「山村くんに“今日の格好かわいいね”って言われちゃった」
B「眉毛の形ほんのちょっと変えただけなのに気付いてくれたわ」
C「えっ、あたしなんて、毎朝君と会うと一日が楽しく始められるって言われたのよ」
A「あぁ山村くんって本当に罪なコロガ氏だわ」
※人の気分をよくさせて輝かせるのが上手い人。
【上級編】
A「平良くんってホント仕事の手際がいいわよね」
B「そういえば止まってるとこ見たことないなぁ。さっきまで弁当食べてたはずなのにたちまち会議の準備を終わらせ取引先との電話でなにやら交渉してたと思いきや、ホラ、もう姿が見えないよ」
C「彼は分コロガシだからね」
※ひたすら有効に時間を使おうとする人。
コロガシ。音響用スピーカーなどを含む場合もあるそうです。また、コロガシが
ごろごろ並んでいると舞台が豪華に見えるとか。だけど気をつけてください。
ついついエキサイトしてしまい、本番直前にコロガシに突っ込んで
パリーンというイヤな音が・・・なんてことも。「コロガシ」なんてかわいく
呼ばれながらやつらは曲者です。そう、何しろお高いんですもの・・・。
コロガシには要注意!!
2006年11月号有りもの
【大道具、小道具、照明機材などで、すでに劇場にあるもの。】
【初級編】
「とりあえず今は有りものでセット組んで」
※通常の使い方
【中級編】
A「どうしたの良夫さん、いきなり話があるなんて」
B「幸子さん・・・僕の有り者になってくれ!」
A「・・・・・・はい!」
B「ありがとう!絶対幸せにするよ!!」
※いつも当たり前のようにそばにいてくれる存在。
【上級編】
A「あーん、昨日うっかり寝ちゃって全然勉強してないよ。どうしよう、今日のテスト」
B「わたしも。こうなったら観念して有りも脳で勝負するしかないわ」
※もともとある知識
演劇人は意外と(失礼!)よく働く人が多い気がします。小屋入りからバラシ
(舞台装置を解体したり、楽屋を片付けたりすること)まで、みんなよく働きます。
そんな中にいると大勢の人たちと一つのものを作り上げる喜びをひしひしと感じ
ます。そして本番が終り、さっきまで自分が走り回っていた舞台を自分の手で
壊す時は、いつもほんの少しだけ寂しくなるのです。
2006年10月号粒立てる
【あるセリフ、またはその一部を明確に伝えるために、
特に際立たせる表現方法。】
【初級編】
「二行目の“愛してる”、もっと粒立たせて」
※通常の使い方
【中級編】
A「じゃあ、兎にも角にも明日は六時集合で。あ、兎にも角にもハチマキは忘れないでね。それでは、兎にも角にも晴れることを祈りましょう
」
B「Aさんって“兎にも角にも”が粒立ち語ですよね」
C「うん。時々使い方間違ってるけどね」
※普段の会話の中で目立って使用される言葉
【上級編】
A「・・・・・・・・・・・かんぴょう!・・・・・・」
B「えーなんだっけ。ねえ、分かる?」
C「えっ、ごにょごにょ言ってて“かんぴょう”しか聞こえなかったんだけど」
B「あぁ、『ロールキャベツのキャベツを巻いてるのってかんぴょうだよね?何でできてるんだっけ』だってさ」
C「そんな粒立ち話法よく聞き取れるね・・・」
※肝心な部分しかはっきり言わないので、結局肝心なことが全く伝わらない喋り方。
「自分の言葉で台詞を言うこと」は、若葉マークの役者にとって一番難しいこと
かもしれません。“台詞”ではいけないのです。あくまでも、その場に生きて自
分の言葉にしなくてはならないわけですから。芸達者な役者さんももちろんですが、
例え地味でもリアルな演技をされる役者さんに非常に心奪われるのは、その言葉が
リアルだから、つまりその感情がリアルな感情だから。そういう風に人の心を動か
せるのって、とっても素敵だと思うのです。
2006年9月号ろれる
【ろれつが回らずセリフが不明瞭なこと。】
【初級編】
「あそこの台詞、どうしてもろれるんだよなぁ」
※通常の使い方
【中級編】
A「浜田くん、最近口数少ないけどどうしたの?」
B「なんだか最近プレゼンなんかでやたらと言葉をかむんだよね。
すっかりロレールコンプレックスなんだ」
A「疲れてるのよ。気にしない方がいいわ」
※ろれつが回らないことで喋るのが億劫になってしまったこと。
【上級編】
A「課長!そろそろ帰らないと、奥さんに叱られますよ!」
B「#♪●◇×▲☆♭〜」
C「課長!タクシーでお送りしますから、お宅を教えてください!」
B「@●<□★♭★♪〜」
A「いや、だからろれルンバはもういいですから!」
※意味不明な言葉を発しながら、よくわからない踊りを踊る酔っ払い特有の動き。
言いにくい台詞ってあるんです。そこばかり何度も練習します。しかし本番では
意識するあまりに結局ろれっちゃって・・・なんてこと、実はよくあります。
滑舌は練習すれば必ずよくなります。別に舞台人じゃないから、なんて言わないで!
「僕と結婚してくらはい」なーんて大事な台詞でろれることがないように、
皆さんも今日からさあご一緒に!「東京特許許可局」!
2006年8月号大向こう(おおむこう)
【歌舞伎、大衆演劇などで「待ってました」「××屋」などと声をかける人。】
【初級編】
「いやぁ、大向こうを唸らせる演技だったね」
※通常の使い方(大向こうを唸らせる=大衆の賞賛を得る)
【中級編】
A「えーっと、磯野といいます」
B「ヨッ、サザエさん!」
A「出身は秋田です」
B「ヨッ、なまはげ!」
A「趣味はカラオケです」
B「ヨッ、亀田○毅!」
C「さすが大向こう上手、言うことが違うね!」
D「う〜ん、まぁ言うことが人と違うのは認めるよ…」
※かけ声をかけるのが上手な人。
【上級編】
A「いらっしゃいませーッ」
B「しつれいいたしまーすッ」
C「ありがとうございまーすッ」
D「ドアひらきまーすッ」
E「階段お気をつけくださーいッ」
F「…この店、大向こう屋にもほどがあるね…」
G「…うん。なんか疲れてきたわ…」
※身動き一つする度に決まり文句が飛び交う店
大向こう。歌舞伎、大衆演劇で主に使われる言葉です。
芝居を盛り上げるために、主催者側で仕込む事もよく行われるとのこと。
一昔前、アイドルのコンサートなんかで、熱烈なファンが曲の間で入れる
合いの手を思い出しました。いずれにせよ難しいのはタイミング。
うっかり変なところで「待ってました!」なんて言わないようにご注意を。
2006年7月号かえし
【繰り返し同じ場面の練習をする事。】
【初級編】
「じゃあ休憩後、2幕の途中からかえすぞ」
※通常の使い方
【中級編】
A「どっこいしょっと」
B「よく『どっこいしょ』って言うよね」
A「あぁ、子供の頃からのかえし言なんだよ。どっこいしょっと」
B「・・・テレビのリモコン押すだけに『どっこいしょ』はないだろ」
※繰り返し頻繁に口をついて出てくる口癖やきまり文句。
【上級編】
A「おはよう。企画書、ちゃんとできあがった?」
B「それが結局深夜の2時までかかったんだよ。あり得ない」
A「それってもしかして課長も一緒だったの?」
B「うん。カエサルの部下になった悲運を嘆くしかないよ」
※かえし猿の略。何度も完璧になるまでやり直さないと気がすまない人。
カエサル(ジュリアス・シーザー)とは無関係。
稽古も佳境に入り、疲れもピークに達すると「かえし」は恐怖の言葉に
変わります。私の様なひよっこ役者は、同じシーンを繰り返し稽古して
いると、ついつい「カタチ」だけのお芝居になってしまうことも。例え何
度演じようと、その一瞬はあくまで生まれたての一瞬でなければならな
い。それはお芝居の難しさであり、魅力でもあるのです。
2006年6月号丸物(まるもの)
【360度どこから見ても差しつかえないように立体的につくられたもの。】
【初級編】
「二幕に出てきたエッフェル塔、丸物だったよ」
※通常の使い方
【中級編】
A「小久保くんって本当にいつもニコニコしてるよね」
B「うん。いつでもどこでも、誰に対しても、そして一人で居るときもあんな感じなんだよ」
A「へぇ。彼って丸物だね」
※いつでもどこでも誰に対しても裏表のない人
【上級編】
A「さや子ちゃんのケータイって、すごいラインストーンだよね」
B「さや子ちゃんの肌って冬なのに常にこんがりしてるね」
C「さや子ちゃんの付け睫毛ってウズラの卵ぐらいは乗りそうだよね」
B「さや子ちゃんってとりあえず常に肩出してるよね」
A「う〜ん、とにかくさや子ちゃんってギャル系丸物だよね」
※どこから見てもある一貫したテーマに貫かれている人や物。
丸物。実は私、あまりお目にかかったことがありません。小劇場だとやはり
スペースも予算も限られてしまうので、それこそエッフェル塔を完全再現
なんて夢のまた夢、ほとんどの場合がいわゆる半丸物、見える部分だけが
立体的に作られているわけです。(立体的ですら無い時もしばしば)
大きな劇場でドドーンとビッグな丸物に遭遇すると、その舞台のゴージャス
度は一気にUP!「あぁ、金、かかってんなぁ……」と、羨望交じりの遠い目で
眺めている演劇人はきっと私だけではないはずです。
2006年5月号ピンスポット
【ピンスポットライトのこと。ピンスポともいう。】
【初級編】
「一番最後、真ん中二人をピンスポでぬいてください」
※通常の使い方
【中級編】
A「次の企画は『誰も知らない名物』でいくぞ。どこか候補はないかね?」
B「編集長!鶯谷にあるロシア料理の店の“マトリョーシュカたい焼き”
なんてどうでしょう」
A「おぉ、じゃあそれにピンスポッティングしてみるか」
※今まで注目されていなかったものに注目すること。
ちなみにマトリョーシュカとは、人形の中に人形が入っているロシアの人形。
【上級編】
A「洋子ちゃんには思わず何でもしゃべっちゃうよね」
B「うん。そして彼女と話すと落ち込んでいても不思議と元気になるんだ」
C「それに、それまで悩んでいても何故か名案が思い浮かんだりするんだよね」
A「彼女みたいなピンスポッターの友人がいるって幸せだよ」
※人の暗い部分を明るくしてあげることのできる人。
私のピンスポ初体験は、中学生の時の学芸会の劇でした。それは、生を受ける前の
子供たちが神様に自分たちの暗い未来を見せられて、一旦失望するものの、最後は
希望を持ってこの世に生まれていくという感動的な物語でした。ピンスポを浴びて
の私の台詞。「えっ、私ってスケバンだったの?!」場内大爆笑。そりゃスケバンっ
て今どき言わないかもしれませんけど。だから今でもピンスポをあびるたびに、あ
の時を思い出してちょっぴり恥ずかしくなってしまうのです。
2006年4月号地明り(じあかり)
【舞台全体を照らす白色のベースの明かり。
色づけや演出された明かりではない作業用の照明。】
【初級編】
「二幕の頭、ここは地明りでいこう」
※通常の使い方
【中級編】
A「斉藤さんは今どき珍しいくらい、正直で優しくて、誠実すぎるくらい誠実な人だね」
B「彼は世間の地明りの中を歩いてきた人だからね。苦労した人間の本当の強さって
やつだよ」
※華々しくは無いが、謙虚で真っ当な生き方をすること。
【上級編】
A「アイドルの松浦々綾子、実は昔レディースのトップだったらしいよ」
B「しかも事務所の社長の愛人らしいよ」
C「この前街で偶然見かけたんだけど、サングラスからパンプスまでシャ○ルだったよ」
D「あの娘の地明り看板もこれまでね」
※飾り気の無い純朴さを売りにすること。
地明り。特別な演出が施されているわけでもないシンプルなものである場合が
大体ですが、役者が登場する前の地明りのみに照らされた舞台というのは世界
が生まれる前のような、不思議な静けさがあります。劇場はそんなふとした異
空間を所々に携えている、そんな場所なのかもしれません。
2006年3月号色物
【本来の演技ではなく小ネタや、おかしな動作、性格などを中心に見せる役者。】
【初級編】
「彼は本当に色物だね。特にあのおかしな歩き方は誰にもまねできないよ」
※通常の使い方
【中級編】
A「あのカバ似の山根君って、すごく女の子にもてるわよね。どこがいいのかしら」
B「やつは色物師なのさ」
※容姿ではなく、独特な面白さで異性を虜にする人。
【上級編】
A「この床、ン千万円のペルシャ絨毯らしいよ」
B「えっ、そんな軽々しく歩けやしないじゃないか!」
A「あのシャンデリア、ン百万のベネチアンガラスらしいよ」
B「えっ、ま、眩しすぎるっ」
A「このグラス、一個ン十万の某国王家御用達の品らしいよ」
B「えっ、ダメだ、緊張して何も飲めない・・・」
A「でもどうしてもこのソテーはサバ缶としか思えない味がするんだよ」
B「・・・とんでもない色物レストランだね」
※食事など肝心な要素よりも、副次的な要素に秀でたお店。
色物。誰にも真似できない強烈な個性を持つ役者さんを指してしばしば使われる言葉です。
飛び道具、と言われることもあります。
もともと落語の寄席などで、黒の墨で書かれる落語家の看板に対し、曲芸、漫才、奇術などは朱色の文字で書かれることや、
本来の出し物に色取りを添える事から、曲芸、漫才、奇術が色物と呼ばれるようになりました。
それが転じて、現在のような使い方をされるようになったというわけです。
2006年2月号見切れる
【舞台上で、出演者以外の人間や舞台裏の道具など客席からみえてはならない
ものがみえること。】
【初級編】
「おい!そこに置きっぱなしの衣装誰のだ?見切れてるぞ!」
※通常の使い方
【中級編】
A「偶然を装って一緒に下校したのが三ヶ月前、初めて映画に誘ったのが二ヶ月前、
その次に野球観戦へ行ったのが一ヶ月前、そろそろ告白する頃合だな」
B「完全な見切れ発車だね」
※密かな目的に向かって、ばればれの準備をすること。
【上級編】
A「この前駅のホームで佐々木君をちらっと見かけたよ」
B「この前喫茶店にいたら外を佐々木君が通って行ったわ」
C「この前映画館を出た時に入っていく佐々木君とすれ違ったよ」
A「彼って本当に見切れ人だね」
※会うはずのない所でちょこちょこと微妙に見かける人
見切れる。これは結構恥ずかしいことでもあり、一つの世界を作り上げる舞台に
とっては重大な問題です。ちょっとしたことで、その世界を壊してしまうことに
もなりかねません。かなり初歩的ともいえるこの「見切れる」という事態、
舞台そでが狭い小劇場では充分に有り得るミスです。ものすごくシリアスな芝居で
「うまい棒」が見切れていたとします。みんな「うまい棒」に目が行って、感動も
涙もへったくれもありません。「うまい棒」?あの「うまい棒」は何、何なのっ?!
いや、もしかしたら更なる感動への布石かも。物語の中で、何か重要な役割が・・・。
しかし一向に「うまい棒」が出てくる気配は無いし・・・もう頭の中はうまい棒。
オンリー・うまい棒、オール・オブ・ザ・うまい棒。お客様をそんな事態に陥らせ
ない為にも、「見切れる」には注意したいものです。
2006年1月号バカ棒
【いちいち長さを測らなくても、あてがうだけで長さが調整できるように、
よく使う長さに調整してある棒。】
【初級編】
「そこの鳥居の高さ、バカ棒で調整しとけよ」
※通常の使い方
【中級編】
A「教授!なぜ私の研究は評価されないのでしょうか」
B「そんなバカ棒レベルのことをやってちゃあ、当然だよ君」
※いつもと変わらないありきたりな程度のこと
【上級編】
A「お父さんのおかげで、僕たちは毎日ご飯が食べれます。ありがとう」
B「お父さんのおかげで、私たちは欲しい物が何でも買ってもらえます。ありがとう」
C「殊勝なこと言うじゃないか」
A「どうかいつまでも元気なバカ棒のパパでいてね」
※家族のために常に変わらずせっせと働く物分りの良いお父さん
バカと言ってもこのバカ棒、ちっともバカじゃありません。わたしたちの手間を省いてくれる、心強い助っ人
です。どうしてバカなどと失礼な名前がついたのでしょう。バカ棒もさぞ
憤慨していることと思います。バカ棒、バカぼう、バカぼん。どうでしょう、
これからバカ棒のことをバカぼん、と呼んでみるのは。どこかのマンガで
聞いたことがあるような気がするのは気のせいです。ほら、想像してみてください。
「ちょっとそこのバカぼん取って!」「バカぼんは、ちゃんと用意した?」
張り詰めた現場に一時の安らぎが満ちるような錯覚に陥りませんか?
バカ棒。我々は敬意と親しみを込めて、この助っ人に愛称をつけましょう。
バカぼん。