ミステリー&ファンタジー要素に満ちた作風で観客を魅了する空想組曲。1年ぶりの公演は、2007年に上演された『小さなお茶会。』だ。現在のほさか作品にも通じる精緻な構成力は、目の肥えた演劇ファンからも高く評価され、ほさかようの名を一躍演劇界に知らしめた。 あれから8年、小さな喫茶店を舞台に巻き起こるスクランブルコメディは、この冬、果たしてどのような進化を遂げるのだろうか。脚本・演出のほさかようと、空想組曲には2度目の参加となる町田慎吾に聞いた。
今まで見せたことのない自分を見せられたら。
――― 舞台は、二階建ての喫茶店。その一階で、気弱な大学生・亀山とアルバイトの園美の、どこにでもある淡い恋模様が繰り広げられていた。しかし、不意にコーヒーカップがひっくり返った瞬間、次々と複雑な人間関係が明らかになり、まるでエッシャーの騙し絵のようにそれまでの物語と印象が一変していく。『小さなお茶会。』は、ほさかようの技巧の粋を堪能できる一作だ。けれど、物語の本質はもっと別のところにある。
ほさか「確かにどんでん返しは観客を楽しませるひとつの手法ではあるけれど、あくまで「手法」であることを忘れてはいけないなと思うんです。大事なのは、そのトリックを使って何を描きたいか。なぜそんな手の込んだトリックを使う必要があったのか。そうせざるを得なかった切実な理由に重点を置かないと、トリックを見せたいだけの作品になってしまう。それだと面白いは面白いかもしれないけど、何かを強く訴えるものにはならない。そんなことを意識しながら書いた作品です」
――― そんな作品の魅力に、町田は台本を一読した時から虜となった。
町田「ドキドキしながら一気に読みました。最初はほのぼのと読んでいたんですけど、ある時点で“そうなるんだ!”っていうビックリするような仕掛けがあって。今まで見ていたものと次に見るもので印象がガラリと変わる。僕は舞台を観る時、脚本に魅力を感じるものに強く惹かれるんです。だから台本を読み終わった瞬間に初演がどんなものだったのかすごく観たくなったし、再演の作品に出させていただくということはプレッシャーだなとも感じました」
――― 今年3月に長年在籍した芸能事務所を退所した町田。9月に上演された『AZUMI』で再始動を果たし、本作が復帰2作目となる。新たな環境で挑む役者業。その胸の内を聞いてみた。
町田「今までお世話になった方や仲間たちが背中を押してくれたおかげで、こうしてまた舞台に立つことができました。今は完全にフリーなんですけど、気持ちは何も変わっていないです。自分は自分。だから今までとまったく変わらない気持ちでひとつひとつの仕事に臨んでいます」
――― 町田が演じるあきらは、喫茶店でアルバイトをするフリーターだ。
町田「結構ひどい男ですよね(笑)。今まで僕が演じてきた人物とは全然違うので、見たことがないような面を見せられると思います。役者としては、ずっとこういう役をやってみたかったんです。お客様に町田慎吾の人間性まで疑われるくらいのところまでいけたらいいなと思っています」
――― あきらを含め、みな登場人物は一筋縄ではいかない多面的な顔を持っている。
ほさか「人間なので、どんなにひどいやつでも、年がら年中ずっとひどいなんてことはない。例えばまっちー(町田)は絵に描いたような好青年だけど、別の人の視点から見れば、その好青年ぶりが鼻につくということもあるかもしれない。好青年が故に、誰かを傷つけることだってあるはず。そういうところが人の面白さだと思う。
だから普段のまっちーと全然別のものを持ってきてほしいとは思っていません。むしろまっちーのこの「ほわん」とした空気感のまま自然に台詞を言ってもらった方が、受け取る方もドキッとするし、まっちーって本当はこういう人なんじゃないか、自分たちが勝手に好青年だって思い込んでいたんじゃないかってゾクッとすると思う。一面的に誰かを決めつけること自体が間違っているんじゃないか、そう思わせるくらいのところまでいけたら面白いだろうなと考えています」
人間関係もひとつのエンターテイメントと思える作品にしたい。
――― 座組みには有馬自由、原田樹里から家納ジュンコまで多彩な顔ぶれが揃った。この組み合わせの妙もまたプロデュースユニットの醍醐味だろう。
ほさか「僕はキャスティングの時、この人がこういう台詞を言ったらどうなるんだろうって予想もつかない人を選ぶのが好きなんです。今回も、普段やっているお芝居のテイストが全く異なる役者さんたちが揃ってくれました。この人たちを同じ土俵で会話させた瞬間に何が生まれるのか、考えるだけでゾクゾクします。せっかく同じ舞台に立つのだから、ゴングが鳴った瞬間に役者同士が本気の戦いをするような、そんな面白いバチバチ感が見られたらいいですね」
町田「戦ったら、僕負けますね(笑)」
ほさか「まっちーは年上・年下に関わらず共演者には必ず敬意を払う役者さん。でも、正しいプライドを持っているから、相手に全てを丸投げするようなことはないし、自分の役の責任は絶対に果たしてくれる。だからこそ今回お願いしたんです」
――― 作品づくりを通じて深い信頼関係を築いてきたほさかと町田。本作でさらなる傑作をつくり出してくれそうだ。
ほさか「この作品を観たら、次に誰かと会う時に、“いつもニコニコしてるけど、内心は違うのかもしれないな”と勘繰るようになるかもしれません。でも、大げさな言い方もしれないけれど、それが裏返って希望になればいいなと思ってます。苦手だと思っていた人とは逆にわかり合えるかもしれないし、友達をやめたくなるような裏の顔を見たとしても、自分だってそんな面はきっとあるはずだから、お互い様だと認めることで今までの友情関係よりさらに一歩踏み出したところにいけるかもしれない。これを観て、自分を取り巻く周りの人間関係そのものが、ひとつのエンターテイメントだって感じられるようになれたら素敵だなと思います」
町田「きっと観ながら感情がぐわんぐわんに揺さぶられると思います。劇場を出た後に、友達と作品についてあれこれ感想を喋りたくなるような、そんな作品にしたいですね。観た人にとって人生の中で忘れられない作品になれるよう、しっかり頑張ろうと思います」
(取材・文:横川良明)