CUBEというドラッグを飲んだ主人公「僕」が、自分の中に潜り込むと、そこには様々な四角い部屋が存在し、部屋ごとにCUBEの住人という「もう一人の僕」がいた……。まつだ壱岱が主宰するACTOR’S TRASH ASSHの20回公演は、インナー世界を描いた物語に決定した。舞台を前に、CUBEの世界で大ボス的な役割の「彼」を演じる鵜飼主水、主人公「僕」の理想の人・チカを演じる船岡咲、影のあるシドという役を演じる瀬戸啓太、そして主宰のまつだ壱岱に話を聞いた。
映画のキャラクターをイメージして作り上げたインナー世界の住人たち
――― この舞台を構想したきっかけについて教えてください。
まつだ「10年以上前になりますが、僕が下北沢のバーで一人芝居をやっていて、一人でやることのネタが尽きてきて、今度は二人芝居を考えていたときに、心の世界で様々な『もう一人の自分』と出会うというコンセプトはどうかなと思ったのが最初です。それと、『CUBE』というタイトルの映画もあって、低予算でも面白くてヒットしてたんですね。その映画を見て、閉鎖的空間がどんどん変わって行くという話は面白いし、その閉鎖的空間が主人公の心の中だったらどうだろうと思って作り始めたんです」
――― 鵜飼さんは、この舞台には三度目だそうですね。
鵜飼「一度目と二度目は、ラブ&ピースという愛と平和を象徴する、女装の役を演じました」
まつだ「実は、CUBEの中の内向世界の登場人物は、僕の好きな映画のキャラクターをモチーフにしているものが多いんですよ。ラブ&ピースという役は、映画『プリシラ』のドラッグクイーンをイメージしました。瀬戸くんが演じるシドは、『シド&ナンシー』のシド・ヴィシャスから。で、鵜飼くんが今回演じる『彼(欲望のCUBE)』は、『時計仕掛けのオレンジ』のアレックスからきています」
――― 船岡さんの演じるチカはどうなんでしょうか。
まつだ「チカの場合は、CUBEの中にもいるけれど、『僕』と一緒で現実世界の人でもあるから、映画のイメージというわけではないんですよ。だから、僕とチカは普通の人。でも、ゴスロリを着ててツンデレではあります。『僕』の中に理想の人がいて、その理想の人がチカなんだけど、理想の人には、現実的にはなかなか会えないじゃないですか。でも、『僕』は会ってしまうんです」
船岡「それってすごい素敵なことですよね。なかなかないことですし。そんな素敵な人物像が演じられるって、うれしいです。それと、ツンデレな女の子を演じるのって大好きなんですよ。私自身がまったくそういう部分がないので、ハチャメチャな気分で楽しみながら演じたいなと思います」
まつだ「シドは前回から登場したキャラクターなんですよ。抑圧された中に憎しみを持っていて、鎖につながれていて、でも『僕』がCUBEに入って来たときに、その鎖を解き放って『僕』を乗っ取ろうとするという」
瀬戸「僕は普段はあまり憎しみを持たないタイプの人間なんですね。自分自身に対してはマイナス思考なんだけど、人に対してはプラス思考で考えるほうなので。でも、眠っている憎しみの感情というものがあると思うので、この舞台の稽古をしていくうちに出していければと思っています」
――― 鵜飼さんは、前回まで演じていたラブ&ピースという役から、今回は『欲望の彼』という別の役に変わるわけですが。
鵜飼「今まで、別の役者さんが『彼』を演じてきたのを見ているだけに、プレッシャーはあるんですけど、見てきたからこそ、違う『彼』になりたいなという欲があります。この『彼』は、CUBEの中の負のキャラクターの大ボス的な部分もあるんです」
――― 衣装やメイクの感じとしては、明るくてポップな感じがありますね。
まつだ「それも、『彼』が壊れちゃってることの表れで、『欲』から、欲しいものを何もかも全部くっつけたらこうなったという衣装なんですよ」
いずれはミュージカル化も!? 音楽面にも変化が
――― まつださんは今回、なぜこの三人を起用しようと思われたんでしょうか。
まつだ「まず鵜飼くんには、この『しょうゆ顔』に、新しいことをさせたいなと思って(笑)。それと、今回はアクターズトラッシュアッシュの第20回公演なので、劇団のメンバーを主軸にしたいなと。船岡さんは、僕の舞台にもよく出てもらっていて、目を引くところがあるのでお願いしました。瀬戸さんはオーディションだったんですけど、お芝居をしてもらうと影があって、独特な役に似合うなと思いました」
――― 最後に、これから見に来てくれる方に、どういう部分を期待してほしいか教えてください。
鵜飼「僕はこの『CUBE』という作品は三回目になるんですけど、劇団の公演というと、身内の人が多いんですけど、今回はオーディションで選ばれた方も多くて。初めての方と一から作ることも楽しみだし、今まで舞台をあまり見ていない方にも、こういう世界観があるんだと知っていただければと思います」
船岡「何度もやっている公演なので、前回よりも良いものをお見せできるように頑張りたいです。今回はセミロングラン公演ですし、ダブルエンディング、ダブルキャストで、いろんな組み合わせがあると思います。ほかの舞台とも一風変わったものになると思うので、私自身も楽しみです。そして、ゴスロリだけどツンデレというキャラクターを演じますので、舞台を見に来て、ぜひ私を好きになってもらえたらいいなと思います」
瀬戸「実は、今回演じる『シド』という役は、前回は河原田巧也さんがやられていたんですね。実は河原田さんは、僕の初舞台である『Innocent world 千年の夜と百億の邂逅―』でもご一緒していて、僕の尊敬する先輩なんです。そんな先輩の後を引き継げたのがすごくうれしいし、僕も初舞台から二年になって経験も積んできたので、前作を超えるよう役作りをしていけたらなと思っています。前回のパンフレットを見たら、すごくカラフルなイメージなんですけど、僕の演じるシドはその中ではダークな役なので、そのふり幅を表現できたらいいなと思います」
まつだ「僕の作品には時代物も多いんですが、こういうにぎやかな作品もあって、そんな中でもこの作品は代表作だと思います。過去の作品も人気があって、DVDもよく見られているのですが、今回は原点回帰したパワーのあるものにしたいなと思っています。また、今回は生ギターを使ったり、歌入りのテーマ曲なんかも準備しています。いずれはミュージカルにしたいという思いもあって、今回はその布石でもありますので、楽しみにしていてください」
(取材・文&撮影:西森路代)