極々普通の男・秀樹の周りの人々には各々抱えている人生があった。そんな人々の本音と建前にいち早く気づく秀樹を中心に、リンクする2つの物語を同日に上演する。芸人時代から、さまざまな男女の人間模様を観察してきた島根さだよしならではの鋭い視点でつむがれた男女の二つの物語について聞いた。
――― 「秀樹のヒロイン」「悲劇のヒドイン」というタイトルがユニークですが、どのようにこのタイトルを思いついたんですか?
島根「タイトル先行でいつも台本を書くんですよ。だいたいタイトルは本公演中に思いつくことが多いんですよね。今回は泣きと笑いで二本同時にやろうと思いついて、泣くっていったら悲劇のヒロインかって思ったら、語呂合わせで悲劇のヒドインになったっていうね」
――― 二公演にしようと思ったのは。
島根「次のコンセプトとして、初めて泣かせにいきたいなと思ったんですよ。書き始めたら、どこで泣かせるのかっていうくらい、笑いが先行してしまってますが(笑)。でも、いつも泣かせるシーンはあったんですけど、今回は本気でいこうかなと思って」
――― 台本は、どのように書いていくんですか?
島根「いつもあてがきが多いんですよね。キャスティング決まってから人を動かすように書いていくので、書きだすと最初に用意したあらすじと変わっていくことも多くて、ちらしができる頃には、あらすじを変えることは多いですね」
――― ちらしに今書かれているあらすじを見ると、秀樹っていうのは間男で、でも女性たちにとって悪い人ではない感じのキャラクターですね。
島根「女の子たちは、そんな秀樹に対していろんな感情を抱くんですよ。女性って、職場で見せる表の顔と、プライベートで彼氏に見せる裏の顔ってあるもんですよね。だから、この2つの芝居の中で、女性たちの表の顔と裏の顔が見せられたらって思うんです。その裏の顔って、なかなか見せないかもしれないけど、例えば、動物のドキュメントでも、ライオンを主役にするときは、ライオンが子供に獲物の取り方を教えたりすることは子育てだから、いい話に思えるけど、一方で獲物の側からすると、美談にはならないわけで。そんな風に、スポットを当てる人を変えることで、表と裏が描けるかなと」
――― エピソードというのは、どうやって集められるんですか?
島根「自分の周囲の人の話もあるし、自分自身の芸人時代の話もあるし。人って100人いたら、100通りの恋愛話がありますしね。あと、僕がバーで働いていた経験もあって、いろんな女性の話を聞いたということも大きいですね。話を聞いていると、これはダメだなっていうことはわかるんですよ。そこは、ゲッターズ飯田の占いじゃないですけど、統計学ですね。
例えば恋愛って、三か月、半年、一年、一年半、三年で別れることが多いと思うんです。そして、三年たっても結婚しない場合はダメなことが多い。あと、長くつきあってて、惰性で結婚するとすぐ別れたり。逆に、惰性でつきあって別れたあと、出会ってすぐ結婚したらうまくいったり。苦労した恋愛のあとの楽な恋愛で結婚するってけっこうあると思います」
――― 島根さんは、お笑いをやっていた経験があって、今は舞台を作っているわけですが、違いはありますか?
島根「基本的には、コントも芝居も内側から伝えないといけないと思いますね。感動させる場面で自分が泣いたら感情が伝わるだろうとか、笑わせる場面で、自分が大声で笑ったら笑うだろうというのは間違いで。でも、コントのいいところと芝居のいいところを融合させて、真剣にやることで泣けるとか笑えるとか、そういう風にしないといけないですね。そういう経験や勉強をしてきました」
――― 勉強って、どんなところでしてきましたか?
島根「お笑いの先輩で、ちゃんとお芝居をやられている方を見たり、逆にダメな人を見て反面教師にしたり。ダメな芝居は、自分でもやってきたけれど、それを教えてくれたのは先輩でしたね」
――― 先輩っていうと、どなたを思い浮かべますか?
島根「宮川大輔さんには、心構えを教えていただいたなと思いますね」
――― このお芝居の中で、結局、女性たちを苦しめる彼氏たちはどうなるのか気になります。
島根「現段階では結末はまだ書いてないんですけど、みんなでぶん殴りあうような結末になるかもしれないですね。だって、みんな生きてれば頭の中で誰かを殴ってるでしょ。僕の作品て、結局バッドエンディングが多いんですよ。最後の最後に予想を裏切るというか。だって、いろんな作品見てると、だいたい結末が予想できちゃうでしょ。それを裏切るために、僕は起承転結ではなく、起承転転結で書くことが多いんです。だから、うちの作品で寝ちゃう人っていないんですよね。それは、役者にも言っていて、お客さんが気持ちの上で背もたれによりかかってるようじゃダメだって」
――― 今回の舞台を見た方の反響も楽しみですね。
島根「どちらか一本見た方が、もう一本も見てみたいと思ってもらるように頑張らないといけないなと思っています。あと、役者さんでも、マチネとソワレで別のお芝居をやることって初めてだと思うんですよね。演じるキャラクターは一緒だけど、違う感情が描かれているから、見る側にとっても、演じる側にとっても楽しいことだと思いますね」
(取材・文&撮影:西森路代)