2014年に初演が上演されたえのもとぐりむ作・演出の『嘘つき歌姫』。2017年の上演には、えのもとがかねてからオファーしたかったというモロ師岡と、初演でゲスト出演していた与座よしあきを迎え、宮下貴浩らが引き続き出演しての再演となる。演劇の舞台裏を描く風刺的ハートフルコメディに挑む4人に話を聞いた。
――― この舞台は、2014年が初演だそうですが、このお話はどういうところから生まれたんですか?
えのもと「嘘ばっかりつく人はなんでそうなっちゃうんだろうと、自分なりに解釈して作ろうと思ったんです。嘘ばかりを唄う歌姫がいたら面白いなと、タイトル先行で作りました」
――― 今日は出演者の3名に来ていただいていますが、歌姫とはどう関わっていくのでしょうか。
えのもと「小劇団で嘘つきな歌姫を主役にした公演をやることになるんですが、その歌姫を演じる新人女優のお父さんがモロさんで、その舞台の作・演出をする役が宮下さん、与座さんはよくわからない役で(笑)」
与座「人手が足りなくて、Facebookで見つけられて手伝うことになる舞台演出の助手という役なんです」
宮下「初演のときは僕が演じてた役なんですよ。そのときは、与座さんは日替わりゲストで出ていただきました」
与座「日替わりゲストのときは、自由にやっていいと言われたので、完全にお芝居の流れを壊してる感じでしたね」
――― モロさん演じるお父さんというのも、いろいろ巻き込まれるんですか?
えのもと「モロさんが演じるお父さんは、けっこう娘に強気なお父さんで」
モロ「うちにも娘がいて、でも、ぜんぜん強く言えないので、この舞台で演じるようなお父さんになってみたいもんですよ。娘はバンドをやってるんですけど、演劇も勧めたいくらい」
えのもと「ミュージシャンなんてやめてこっち来いよって」
モロ「そんなこと言ったら、一生口聞いてもらえない(笑)」
――― 小演劇の話というと、えのもとさんや宮下さんの経験が書かれているんですか?
モロ「演劇の厳しさがいっぱい書いててね」
宮下「僕とえのもとがずっと小劇場でやってきて、底辺でやってるのに、自分がすごいって勘違いしてた感じを、自分たちでディスってる感じで書いてありますね」
えのもと「そういうアンダーグラウンドの感覚を、僕自身が自分でディスってる感じなんです。与座さんやモロさんは、こういう部分に共感するところはありますか?」
モロ「僕は、大学で演劇を始めたので、その頃のアンダーグラウンドは、もう今よりもすごくて犯罪スレスレですよ(笑)。演劇論を交わしてるうちに喧嘩になったり」
えのもと「今の劇団員、演劇論は交わすけど、そこまでの喧嘩はないでしょうね」
モロ「無頼派ばっかりでしたからね。僕も大学は早稲田じゃなかったけど、大隈講堂に夜中に集まってテントたてて芝居したりしてましたね」
宮下「そういうの映像で見てみたいですよ」
えのもと「でも、こうやって今もアンダーグラウンドの若手とかかわってくれるのは何かあるんですか?」
モロ「小劇場は演劇のコアな部分でもあるし、こういうことを続けていかないといけないと思うんですよ」
与座「今回、モロさんと一緒にできることがうれしいんですよ。モロさん、まだネタも作ってて。やっぱり年齢が上がると自分でネタを作ることは減るんですよね。それだけ大変なことで。モロさんがずっと続けてるって相当すごいことで……」
モロ「一回やめるとダメだと思うんですよ。僕はストリップ劇場でネタをやっていたけど、二年くらいブランクがあったら通用しなかった。ブランクがあると、取り戻すのが大変なので、やめるのが怖いですね。演劇の場合はまた違うかもしれないけど、ネタ作りは続けたいなと思いますね」
与座「舞台にも筋肉はあると思いますね。休んだらすぐに贅肉になるというか、動けなくなったり」
宮下「僕はずっとお笑い芸人になりたかったけど、向いてなかったんでその後バンドやってて。そのバンドやってたときに、えのもとに声をかけてもらったんで、お笑いをやっているモロさんと与座さんには憧れがあるんです。でも、えのもともずっと与座さんとモロさんに出てほしいって何回も言ってたよね」
モロ「逆にプレッシャーだな(笑)」
えのもと「僕らアンダーグラウンドでずっとやってきて、ちょっとずつ頑張って、やっとオファーできたんで、がんばってきてよかったなと。そういう長年の苦い気持ちをぶつけた作品でもあるんです」
――― これから稽古が始まりますが、どんなところに注目して観てほしいですか?
宮下「僕らがずっとやってきた演劇の内側が書かれているので、俳優をやっている方とかにも見ていただけると、いろいろ気づいたり、あるあるって思ってもらえるのかなと。それと、会社でもそうだけど、何か一つのことを目指して活動している集団って、人がついてきたり、逆に途中で人がついてこなくなったり、そういうことがあると思うんですけど、そういうことを、自分のいる場所と重ねてもらえたらとも思います。モロさんが演じる部分の親子の話も個人的に楽しみなところです」
与座「宮下さんの言ったことと被る部分もあるんですけど、お芝居と関わる人って、ダメな人もいるし、ちゃんとした人もいるし、そんな人たちが、いろんな人に迷惑かけたりもしながら、ちゃんとした形にしてく。みんながどうやって舞台を作っていくのかが、このお芝居を見たら伝わると思います」
えのもと「実は一時、書けなくなった時期があって、そのときに僕たちの仕事って嘘つきだなと思って、それで舞台の話を書こうってなったんです。作家として苦しんでたときに書いた話なんで、何か今ネガティブな気持ちで来たお客さんのことも、死ぬほど笑わせたいですね。そして、明日一日がんばろうって思ってもらいたいです。だから、笑いに来てください」
モロ「僕ももう58歳になるんですけど、舞台で悪あがきをして、お客さんが涙が出るくらい、もうやめてくれってくらい笑わせたいですね」
えのもと「本当にモロさんが暴れるシーンがあるんですよ」
モロ「でも、本番では"口先ばっかでぜんぜんじゃねーか!"てことにならないようにしないと(笑)」
宮下「でも、モロさんがそこまでやろうとしてくれてることが……」
えのもと「うれしいよね」
(取材・文&撮影:西森路代)