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大西弘記


キメ画像1

福島原発事故から今も生き抜き実在する牧場『希望の牧場』がモチーフ

多くの被ばく牛と、その牛から生まれた人間の少女が生きる幻想物語。

牛から人間の少女が生まれてくる。一見、ファンタジーと思えるストーリーで非現実的ではあるが、きっと現実離れをしているものではない。6年の歳月が過ぎた東北大震災において、未だ解決されていない問題を描き出されている作品。アナログな手法とも言える演劇だからこそ、ダイレクトにこの作品が持つ意味を感じとり、改めて問題と向き合うことができる。その演劇の力を信じ、演出・作をするのはTOKYOハンバーグの主宰である大西弘記。今回は先日、改めて福島で取材をした話も含め、作品について語ってもらった。


インタビュー写真

未だに解決されていないこと

――― 本作はTOKYOハンバーグが2013年12月に上演した作品。2011年の東北大震災における福島第一原発事故がストーリーのバックボーンとなる。

「5年前に公演したものの再演ですが、再度自分が挑戦したいというのと、今震災から6年目ということで、改めて色々と書き直したものを上演したいと思っていました。」

――― 『KUDAN』という作品のきっかけとなったのが、福島県の浪江町にある「希望の牧場」の存在だ。

「震災があった年の12月に南相馬市に取材に行っており、津波の爪痕が刻々痛々しくあったのを一番最初に実感したのですが、ただ津波で家がなくなったということだけでなく、原発事故で人が住めなくなり、そこにいる家畜が国からの命令でほとんど殺処分されたんですよ。被ばくした家畜なので価値が0、それでいて牛を飼ったとしても膨大な飼育料がかかります。ただ「希望の牧場」では、代表の吉沢さんを筆頭に被ばくした家畜は「原発事故の生き証人」であると国からの殺処分命令に拒否をして、被ばく牛をその地域から連れ出さないという約束で、殺処分から免れ6年間被ばくした牛たちを飼っているんです。他の農業の方にもそういった方がいます。当時、その存在を知った時に、結局は被ばくしなくても人間は牛を食べるために命を殺め、今回食べられなくなったために、被ばく牛を殺処分する。殺す理由が変わっただけで、殺す・生かすの意味ってなんだろうなって思ったんですよ。牛を育てて出荷して、その売ったお金で生活していた人が、被ばくして食べられなくなったから殺さなくなったという人間っぽいところに興味をもちました。」

――― 現在では300頭近くが希望の牧場で飼われているが、この6年の間で約200頭の牛が亡くなったという。6年の歳月で変わったこと、そして未だに解決されないことも多いと大西は言う。

「僕ら演劇人、作家として、どういうことを書いていかないといけないかを考えた時に、そういう出来事・時代に生きているっていうことを忘れたくないというのがあるんです。ちゃんと向き合いたくて、先日また福島まで行きました。5年前は事故20km圏内で柵があり、警察の方もいて、許可書がないと入れなかったんですよ。ちょうど、警察の方とやり取りをしていた時に、白いワンボックスが2台、横を通ったので、パッと見たら、みんな全身防具をしているんですよ。その時に20km圏内先というのが垣間見えました。今回は10km圏内まで入れて、第一原発の1号機を肉眼で観ることもできました。
 また、牧場にも伺いましたが、スタッフさんはマスクもせず作業をしています。未だに除染作業もやっていますが、その廃棄場所がなくて困っているみたいでした。そういうのを目の当たりにした時に何も解決していないんだなと思ったんですよ。希望の牧場がある浪江町では全域が避難区域となっています。でも国は宅地の除染がほぼ終わり、生活環境が整いつつあるとして、今年3月31日に帰還困難区域を除き避難指示を解除する方針ですが、まだ簡単には戻ってこられないと思います。本質的な解決をするには、気が遠くなるぐらい時間がかかるんじゃないかなと思います。」


無数の正しいを考える

――― 初演当時、取り扱う題材としてはナイーブで刺激的な面を持ったこの作品。内容も現実的にはありえないファンタジーであるが、今抱えている問題が押し出されて表現されている。大西は自身のTwitterで「怒りと哀しみと慈しみに満ちた物語」とも表現をしていた。

「『KUDAN』という作品は、牛から人間が生まれてくるという非現実的なお話なんです。「件」という日本の妖怪(半人半牛の姿をし、災厄の前兆を予言する怪物)がいまして、そういうのとかけたのと、特に虫がそういう傾向になりやすいのですが、放射能が原因で奇形の幼児が生まれてくることとかけています。舞台上では、牛を擬人化して牛目線で描いています。
 原発事故により被ばくした牛たちが殺処分から逃れるために小さな森の中へとたどり着き住んでいく中で、被ばくした仲間たちが人間によって殺処分されていく。仲間が少なくなっていく中で、新しい仲間が生まれてくる、その時に人間が生まれてきたら、どう思っていくんだろうというのを描いています。葛藤はありますし、命を奪われるのは怒り、哀しみだと思います。その中で、生きているものだからこそある感情が慈しみだと思うんです。ただ、生きている者にとって当たり前のことだとも思います。観た人間が日常の中の己を振り返ったり、隣の人間、親、友人、子、恋人、他人、隣の国に対して、もっと想像できるような作品にしていければなと思います。」


インタビュー写真

――― 殺処分・被ばく牛というキーワードが軸で進む物語。だが、根本は原発事故によって1人1人が考えなくてはいけない問題、それらを改めて考えさせてくれるキッカケとなる作品になるだろう。

「福島で起こっていることを繰り返さないようにするという努力はできると思うんですよ。声高に原発反対というのを叫ぶつもりはないです。原発で潤った街もあります、それで原発が全てなくなったら今度は雇用の問題も出てきますからね。被ばく牛・殺処分というキーワードだけでも、なぜ、そうしなければいけないのかという原理を辿っていくと自分たちが今後どうしていかなきゃいけないのかという根本原理に辿り着くと思うんですよ。その上で、無数の正しいがあると思います。「希望の牧場」でやっていることが正しいか間違っているのかと言ったら、正解は色々とあると思います。とても普遍的で哲学的なことだと思いますし、被ばくした牛を生かしていく意味を問うていくことが大事だと思うんです。」


心の栄養
――― TOKYOハンバーグとしてもこの5年で大きく変貌したという。

「今いるメンバーは、半分ぐらいが平成6年生まれで若いんですよ。ただ、若いのにしっかりしているし、僕は彼ら彼女らをどういう風に育てていけばいいのかというプレッシャーがあります。団体力というのが5年前と比べれば違うので、仲間がいるから、今があるかなと思っています。観に来た人がTOKYOハンバーグの作品を観て、明日も頑張ろうって思ってくれるような作品を作れればいいなと思っています。あと、お客さんは観たい俳優、作家の本があって来られる方も多いと思うんです。ただ、観たいことって漠然としていると思うんですよ。観終わった後に、観たかったことが具体的になっていると思うので、僕は作品とは別で、そういうことをものづくりとして追求していきたいなと思います。」

――― 5年の月日が経ったからこそ、改めて描かれる『KUDAN』。観るものが劇場を出た後に、作品と向き合い、自身の考えを持ち帰るキッカケになるいい機会の作品になるだろう。

「座・高円寺1という演劇人であれば憧れる劇場の1つで、自分の団体が上演できるということ、また日本劇作家協会の2017年度プログラムのトップバッターでもあるので、自信を持って恥じないようなものを作っていきたいです。団体として、心の栄養になるものを上演したいと思いますが、非現実的で現代社会と対峙したものを書きたいとも思っているので今回はかなり気合いを入れて作ろうと思っています。」


(取材・文:熊谷洋幸/撮影:安藤史紘)

PROFILE

大西 弘記(おおにし・ひろき)のプロフィール画像

● 大西 弘記(おおにし・ひろき)
6月29日生まれ。三重県出身。1999年に伊藤正次演劇研究所に入所、後に外部舞台も含め様々な舞台に出演し、2006年にTOKYOハンバーグを旗揚げ、現在までにTOKYOハンバーグの作品全てを脚本・演出。現在はワークショップや演技講師なども努めている。