95年の誕生以来、20年以上に渡って活動を続け、室内オーケストラの楽しみを古典からオペラまで幅広く伝えてきた、トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ。三鷹市を拠点に行ってきたこれまでの活動からさらにそのフィールドを広げ、新たな一歩を踏み出す最初の公演を3月に開催する。その名の通りのモーツァルト尽くしとなる今公演について、指揮者の清水醍輝さんに話を聞いた。
――― 国内外オーケストラからの演奏者や次世代を担う若手音楽家が多く参加しているトウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ。どんな個性のアンサンブルですか。
「いろんな所で普段から研ぎ澄まされている人たちの集まりなので、現場では常にチャレンジしているというか。それぞれがどんどん進化して、今最先端の自分をその現場に持ってくるような集団ですよね。だからと言ってピリピリ、ギスギスしているとかではなくて、その最先端の自分を持ってくるのをみんな楽しんでいるっていう感じです。指揮に関しては、皆、自分がいなくてもできる人たちばっかりなので(笑)、一緒に演奏しているつもりで、いいアンサンブルでいい音楽が作れればいいかなと思っています。」
――― 今回は『ALL MOZART PROGRAM』と銘打って、その名の通りのモーツァルト尽くしのコンサートですね。
「僕が指揮をするのは、前半、序曲とオペラアリア4曲と、デュエット1曲のところです。普段あまり入れない声楽の方を4名お招きしたところが今回の醍醐味。歌手の方お一人お一人が最高の自分を表現できる曲をそれぞれ選んでくださったので、僕はこれやって、と言われたやつを振るだけなんですけど(笑)、初めて振る曲もあって楽しみです。
モーツァルトのオペラって、各登場人物の描写が絶妙なんですよね。誰もが心の中にちょっと持っているようなところを、いろんな役で表現するのがすごく上手っていうか、どの人を見ても“あるある!”っていう感じがする。今回のプログラムでは、物語の主役のアリアは1曲だけで、あとは脇役の歌なんですけど、彼らにも主役級のアリアが配置してあって、それがものすごいんですよね。オペラは、もちろん全体通して聞くと面白いのですが、今回は状況や思いがストレートに伝わってくる曲が並んでいると思うので、オペラはよく分からないな、という人でも大丈夫。時間があれば開演前にちょこっとプログラムでも読んでおけば、もう十分楽しんで聴けると思います。」
――― 後半は、元ウィーン・フィルのコンサートマスターであるウェルナー・ヒンクさんをお迎えする、交響曲第1番と第41番『ジュピター』です。
「実は僕、この2曲を並べて演奏会したいなってずうっと思っていたんですよ。なのですごい“やられた感”があります(笑)。ヒンクさんの選曲だそうですけど、おしゃれというか、すごいことをするなと思って。」
――― 「すごい」と言うのは?
「第1番のシンフォニーの第2楽章に4つの音だけで構成されるあるテーマが与えられているんですけど、この4音が、第41番の最後、第4楽章の頭に出てくるんですよ。すごくないですか? しかもこの2曲、調は違うんですけど記譜は一緒なんですよ。それ知ったら、そのテーマに挟まれた間の部分ってどうなっているのかな、って知りたくなったりしません? 僕としては、もうそれだけで十分楽しい。“すげーなーこの人”っていう。これ、真剣にやったのか、遊んだのか、モーツァルト本人にぜひ聞いてみたいんですけどね(笑)。
で、41番は有名だし、まあまあ聴く機会もあると思うんだけど、1番は編成も小さいし、ほぼ演奏されないです。モーツァルトプレーヤーズでさえ、昔々に1回やっただけ。まさに、この並びでやるからこそ意味のある選曲なんです。さすがヒンクさんですよ。このシンフォニーを並べているのは本当に貴重なので、皆さん聴いた方がいいです!」
――― 選曲の時点でそんな秘密があるとは、クラシックビギナーでもなんだかワクワクしますね。コンサートの最初も『フィガロの結婚』の序曲で、楽しげな雰囲気で始まる春らしい演奏会になりそうです。
「歌手の方も、賞をとったりして注目されている若手4人なので、フレッシュな感じを楽しんでいただけるんじゃないかな。なんとかうまいこと4人の素晴らしい所を引き出せればと、思っています。1曲目の『フィガロの結婚』序曲は、静かに始まって、いきなりフォルテになるところがあるんですけど、僕としてはそこに賭けたいというか、思いを込めたいんですよね。ここでドンって立ち上げたい。長年お世話になった三鷹市を離れて新たな出発となるコンサートなので、自分たちの全部をぶつけられるように頑張ります。」
(取材・文:土屋美緒/撮影:友澤綾乃)