大林素子やSHOGO(175R)らを迎えて昨年名古屋で上演された『ソウサイノチチル』が新宿村LIVEに登場! えのもとぐりむがさまざまなアーティストとの新たな試みに挑む【ぐりむの法則】の魅力が存分に発揮され、観客と作り手の双方に確かな手応えを残した本作が、今度はどのように生まれ変わるのだろうか。作・演出を務めるえのもとと主演の大林、そして新キャスト陣から國立幸と薫太を加えた4人に話を聞いた。
女優・大林素子のターニングポイント
――― えのもとが2015年に書いた『ソウサイノチチル』は、駄目人間を絵に描いたような父を亡くした息子とその母親を中心にさまざまな人々が絡み、葬儀場で繰り広げられるワンシチュエーションコメディ。母親役は当初から大林をイメージしていたという。
えのもと「コントの王道として、マフィアものや自殺もの、死刑ものとかは絶対作っておきたいなと思った中で、お葬式ものをピックアップして芝居に落とし込んだ作品です。僕がまだ役者メインでやっていた頃に出演した舞台の打ち上げに素子さんがいらっしゃって、いつか出てくださいってお誘いさせていただいたんですけど、そのとき「素子さんに合う役って何だろう」と考え始めたのがそもそものスタートでした。それで、夫がたくさん女を作って死んでしまった女性が似合うんじゃないかと」
大林「私は『嘘つき歌姫』(2014年初演)で【ぐりむの法則】を初めて観たんですけど、出ている人全員が輝いていて素敵で、その世界観も含めて、ぐりむワールドに一気に引き込まれたんです。特に台詞の「音」がすごく印象に残る舞台だなと思っていたら、実際に音とか台詞の「は?」っていう音1つにもすごくこだわってらっしゃるという話を後から聞いて、なるほどと思いました」
えのもと「初演の名古屋でもゆっくり時間をかけて演出しましたよね」
大林「もともと私をイメージして書いてくださったというのがありがたくて……私はバレーボールから芝居の世界に入ってまだ10年ちょっとなので全然素人なんですけど、大林素子というキャラとか存在で使っていただくことが多かった中、こんなにさらけ出した表現をする機会は初めてで、自分の中でもターニングポイントになった舞台です。死ぬほどしんどかったですけど(笑)」
えのもと「素子さんが演じる多恵という役は、台詞の1文字ずつ音を決めているくらい繊細にやってもらったんですけど、素子さんはそれをボイスレコーダーに録音して、それを朝から聴いて稽古場に来て、夜も寝るまで聴いていたそうなんです。なんてストイックな方なんだろうと思って、すごく嬉しかったですね。あと、素子さんみたいに許容力のある人もなかなかいない。良い悪いは別として、普通は強要すると縮こまっちゃったり、お芝居が小さくなっちゃう人もいて、そういう人に対しては自由にやってもらうんですけど、その辺りが素子さんとは合うなと思っています」
メインキャストにも新たな顔ぶれが
――― 葬儀で自由奔放なマイクパフォーマンスを聞かせる司会者・立石役には、声優/女優として活躍する國立幸が新たに起用された。
えのもと「音で遊んでもらう役なので、國立さんのプロフィールを見せていただいて、どんだけ遊んでくれるんだろうってすごく楽しみにしています」
國立「台本を読んですごくワクワクしました。私はもともと舞台をやりたくてこの世界に入ったんです。過去に、今回出演される高田淳さんのX-QUESTにも出させていただいたんですけど、今はアニメや吹き替えの仕事がメインで、舞台に使っていただける機会はなかなかないので、今回はとても嬉しいです。自分の武器である声をフルに活用して頑張ります」
えのもと「司会なのでいっぱいしゃべるし、その「音」でお客さんの感動が変わってくる。だからけっこう大事な役なんです。だから國立さんに決まったときは「勝った!」と思いましたね」
――― そして、多恵の息子役を松田裕とWキャストで務めるのが、『ミュージカル忍たま乱太郎』『龍狼伝』などで知られる若手注目株の薫太。
えのもと「素子さんの息子役ということで、まずビジュアルで選びました(笑)」
大林「やだー!嬉しい!(笑)」
薫太「僕も嬉しいです」
えのもと「もちろん彼もすごく大事な役で、死んだ父のことを一番好きな人間が彼なんです。僕は母子家庭で育って、父親はけっこうだらしないクズ野郎だったっていう話を周りからいっぱい聞かされていたんですけど、でもその父親のことが僕はずっと好きで……そんな自分を投影しているような役だと思います。つまり、他の人とは違う視線で父のことを見ている。1人の死んだ人間に対して、いろんな視点で物事を言う人がたくさん出てくる作品でもあります」
薫太「僕も親父は好きですね。今は東京と大阪で離れていますけど、僕が大阪に行ったときは必ず一緒に飲むし。友達みたいな関係です」
大林「お父さん、若いんでしょ?」
薫太「49歳です」
大林「同い年だ!」
えのもと「すごい!ピッタリだね」
演劇畑以外の人もどんどん呼んでいきたい
――― 175RのSHOGOが僧侶を演じ、主題歌を生で歌うなど、音楽ファン注目の舞台でもある。
えのもと「オープニングからいきなり全然葬式っぽくない曲が流れて、みんなで踊るんです。振付は『嘘つき歌姫』でもお願いしたスズキ拓朗さん(CHAiroiPLIN/コンドルズ)で、ものすごい才能のある方です。そしてSHOGOさんの歌も最高で、稽古場で出演者が泣き出すくらい上手い」
大林「芝居じゃなくて歌を聴いて泣いちゃうから、気をつけないと(笑)」
えのもと「SHOGOさんはロックのバンドマンの中でも究極に歌が上手くて、出てもらうときはいつも生歌で歌っていただくんですけど、お客さんに録音だと思われちゃうくらい音を外さない。これまで30ステージくらい一緒にやってきて、音を外したところは一度も見たことがないですね」
大林「だから毎回カーテンコールのご挨拶で「本当に歌ってます」って言ったりして(笑)。本当に素敵な、いい声なんです」
――― さらに新キャストとして東京ダイナマイトの松田大輔も出演するなど、話題や見どころに事欠かないのが本作の特徴だ。
えのもと「芸人さんやミュージシャン、そして素子さんのように、僕のお芝居には生粋の演劇人ではない人が出てくれるからこそ、ちょっと面白いものができているのかなという感じはあります。そして、ちょっと偉そうですけど、観劇することの敷居を下げて、いろんな人が観に来る第一歩のカンパニーになるのが目標なんです」 大林「まだ30歳の若さでこんなことを考えているのが、びっくりですよ」
國立「しかも実行なさっているのがすごいし、嬉しいです。今の時代ってどうしても、スポーツ選手だったらスポーツ選手、舞台だったら舞台、アニメだったらアニメっていう住み分けみたいなものがありますけど、みんな1人の役者でありパフォーマーだから、本当はもうちょっとざっくり1つに見ていただきたいと思うんです。それをこんなん若くて実行なさっているえのもとさんに、自分もこの機会にお力添えしたいなって思ってます」
えのもと「嬉しい!仲間だ(笑)。そして薫太くんのように2.5次元のフィールドでも活躍している人に、向こうからもお客さんを連れてきていただいて、楽しんでもらえたらなと」
薫太「2.5次元作品のお客さんは一体感がすごいです。アイドルファン以上の団結力で、そういう人がストレートの舞台にも来てくれたらいいなというのは、すごく思いますね」
えのもと「これからもどんどん違う畑の人を呼んで、お芝居というものの敷居を下げたいし、ポップな僕の作品をきっかけにして、その先にあるもっと濃いお芝居に触れてもらいたいなと思います」
(取材・文&撮影:西本 勲)