子供から年配まで数多くのファンを持つダンス集団、コンドルズのメインダンサーとして活動する一方、個人としても振付家/ダンサー/グッズデザイナーなど数多くの顔を持つ藤田善宏。その彼が、ジャンルに捉われない新たな発想を具現化するために立ち上げたプロデュースユニットがCAT-A-TAC(キャットアタック)である。
これまでにパントマイムやタップダンスとのコラボによる公演を行ってきたが、新作『Mariage』は、10人の出演者によるパフォーマンスダンスストーリー。とあるレストランで彼女にプロポーズする冴えない男、それに周りの人々があれやこれやと口や手を出してきて……というちょっと奇妙な物語を、台詞を用いず身体表現で伝えるという試みだ。「すごく面白いものになりそう」と期待を膨らませる藤田に、ダンスとの向き合い方や新作への意気込みなどを聞いた。
大学時代に“巻き込まれて”ダンスの道に
――― 藤田さんがもともとダンスに興味を持ったきっかけは何だったのですか?
「遡ってみると小学3〜4年生くらいの頃、町の盆踊りに混ざって踊っていたらアイスや鉛筆をもらえたり、着物を着た妙齢のお姉様方が“上手ね”って褒めてくれたりしたんです。それが原体験というか、踊ることにあまり抵抗なく育った理由だと思います」
――― 踊ることが好きというよりは、褒めてもらえるのが嬉しかったんですね。
「そうなんです。現金な感じでした(笑)。そこからしばらく時代が飛ぶんですけど、大学に入ったときの寮の飲み会で、先輩の命令で1年生は何か芸をしろと言われて、ピンクレディーの「UFO」の振り真似をやったんです。すると別の1年生の男がガバッと立ち上がって、“見つけたー!”って絡んできた。話を聞くと、彼はダンス部に入ったんだけど1年生で男が自分しかいなくて寂しいから、人前で踊った僕を見て、ダンス部に入ってほしいと言うんです。耳元で“離さねえぞ!”なんて言いながら、紙とペンを持ってきて、“明日ダンス部の見学に行きます”という誓約書を書かされて。朱肉まで持ってきましたから」
――― ものすごい話ですね(笑)。
「その頃は僕も変に真面目だったから、約束通り次の日に出かけていったんです。ジャージを着て来いって言われたから、それも守って。そうしたら、他にも見学に来ていた1年生はみんなジーパン姿だったので、ジャージを着ていた僕はやる気があると思われて、そのままレッスンに参加して」
――― まんまと巻き込まれてしまった。
「そうです。そこは創作ダンス部だったんですけど、初めてメイクしてステージで照明を浴びて踊って、こういう世界もあるんだなと。自分が踊って楽しむだけじゃなくて、人に見てもらうという視点を持つことも面白かったので、これはもうちょっとやってみようかなと思いました。後にコンドルズの結成に加わったのも、ダンス部のOBで早稲田の大学院に行っていた石渕(聡)さんから“東京に来ちゃいなよ”と誘われたのがきっかけです。また巻き込まれてしまった(笑)。でも楽しかったんですよね」
出演者の動きから発展させていく面白さ
――― CAT-A-TACを立ち上げることになったのは?
「最初はコンドルズのことだけを考えて活動していましたが、興味のあることには触れていこう、顔を出せるところは出そうという感じで、どんどん幅が広がっていきました。あと、コンドルズにも新しいメンバーが入ってきて刺激を受けたというのもあって、いわゆるコンテンポラリーダンス以外の人と作品を作ったらどうなるかなっていう興味が湧いてきたんです」
――― 巻き込まれるようにしてダンスの道に入ってきたけれども、いろいろな方向に関心を向けて活動の幅を広げてきたというのは面白いですね。
「これだけが好きっていうよりは、いろいろなことに興味があった方が楽しいじゃないですか。それが作品を作るときにいろいろな断面というか、要素になっているかもしれません。ダンスだけじゃなくて仏像も好きなので、地元の福井で『仏像×ダンス』という催しをやったり、猫も好きだから神楽坂の化け猫フェスティバルで『あにゃ踊り』という参加型イベントを企画したり……面白い方向に転がっている感じはありますね」
――― では、今回の公演『Mariage』の狙いは?
「今まで二人会というデュオスタイルでやってきましたけど、もっと大人数でやったら可能性が広がるかなと思ったのと、もう少し身体を駆使したものに改めて挑戦したかったというところもあります。ちょっとした角度とか手の振りとかだけじゃなくて、身体を大きく使ったダイナミズムを出してみたい。今回集まってもらったメンバーはみんなすごく身体が効くので、そういう表現ができると思います。そして女性もいるので、男性だけでやっているときのような力強さだけじゃなく、繊細さや柔らかさも出せるんじゃないかと」
――― 出演者は全員が何らかの形でダンスに関わっていらっしゃいますが、ジャンルはさまざまですね。
「3歳からずっとバレエをやっていますという人もいれば、ジャズダンサーだったり、ヒップホップの経験があったり。もちろんコンテンポラリーダンサーもいますが、そういう人だけを集めるよりも、ちょっと出っ張りがあるというか、トゲトゲしていた方が面白いものができると思ったんです。
特に女性は本当に身体が柔らかくて、ありえないくらい脚が上がったり、ブリッジで歩けちゃったりとかするので、最初から振り付けありきで進めるだけじゃなくて、みんなでディスカッションしていく中で良い動きは取り入れたりそこからどう発展させようかなというやり方ができる。そこは僕にとってすごく面白いなと思います。演劇で言うと、エチュードから発想を広げていくようなものですね」
ここからたくさんのものが派生する作品に
――― 資料に「演劇とダンスの狭間」という言葉もあるように、今回はしっかりしたストーリーのある舞台なんですね。
「そうですね。でも台詞は使いません。今はダンスもするし台詞もあるっていう公演が増えていますが、僕は、せっかくダンサーなのだから身体だけでいろいろ表現できるんじゃないかとずっと思っていまして。“目は口ほどに物を言う”といいますが、“身体は口ほどに物を言う”っていう感じ。言葉じゃないからこそできる強い表現もあると思うんです。かといって、解釈を完全にお客様に委ねるわけでもありません。僕は作品を深読みしたり、解釈について語り合ったりするのも好きですが、今回はそうじゃなくて、観た人が“これはこういうシーンなんだ”と腑に落ちるような流れにしたいんです」
――― それが「演劇とダンスの狭間」だと。
「それこそお子様からお年寄りまで、誰が観てもはっきりわかるようなストーリー展開というか、流れを持ったダンスにしたいと思っています。そのダンスも、飛んだり跳ねたりクルクル回ったりというだけじゃなく、いろんな意味でのダンスをやりたい。全員が歩いてパッと止まってまた戻る、っていうだけでもダンスだと僕は思うし、海外の作品を観ると、ダンスとも何とも言えないような、でもすごく面白い作品がいっぱいあるんですよね。これは演劇、これはダンス、これはよくわからないからパフォーマンス、みたいに分類できないような、ジャンルレスの舞台を目指しています」
――― 台詞を使わず身体だけでストーリーを表現する、でもアートっぽいアプローチではなく、わかりやすいものを目指しているということでしょうか。
「はい。でも、本当にわかりやすくしようと思ったらマイムでもいい。でもそうじゃなくてそこはちょっとまわりくどくやることによって、曖昧だけどちゃんとわかる、そういう新しい表現方法で落とし込めたらいいなと思っています」
――― レストランで男が女にプロポーズする、というストーリーはどこから?
「料理とワインの組み合わせが良いときに使う“マリアージュ”という言葉が僕は好きなんですけど、今回集まった出演者を見て、この10人をミックスしたらどういうことになるだろうと思ったときに“マリアージュ”が思い浮かんだんです。もともと“結婚”という意味の言葉でもあるので、料理、結婚というところからレストランとかプロポーズを想起しました。よく漫画家の方の話で、登場人物が勝手に台詞を喋り出す瞬間があるっていうのを聞きますが、それと同じように、頭の中にレストランがあって、そこでコックや客席係、お客さんといったいろんなキャラクターが勝手に踊り出すイメージがパッと浮かんだので、これはいけるなと思いました」
――― ストーリー自体は観る人を選ばない感じですね。生の舞台を初めて観るような人が、ここからダンスや演劇に興味を持つきっかけにもなりそうな気がします。
「そうなんですよね。これまでのCAT-A-TACの作品を観てくださったお客様の中にも、パントマイムの公演を観に行くようになったり、タップダンスを習いに行ったりと、そこから派生するものがたくさんあるんです。今回は、これだけダンサーを揃えたのでダンサブルな作品にしたいですし、本当にどんなジャンルが好きな方も、どんな年齢の方も、どんな国籍の方が観ても楽しめるものにしたいと思います」
(取材・文&撮影:西本 勲)