「自分の過去への後悔をやる直すことが出来る」そんなツアーに出かける乗客たちを待ち受けていたのは、バスの転落事故だった。しかし、乗客たちは次の瞬間、それぞれの持つ後悔の元である時代W過去Wにいた。10周年の記念の年を迎えたボクラ団義の『サヨナラノ唄』に出演の沖野晃司、竹石悟朗、入来茉里、若狭勝也と、作・演出の久保田唱に話を聞いた。
――― この作品は、2013年の舞台の再演だそうですね。
久保田「本編中ずっと雨が降っている作品で、劇中にも『雨が天と地をつなぐ』という言葉が出てきたりするので、再演するなら雨の季節がいいかなと思ったんです」
――― 雨の演出はあるんですか。
竹石「初演の時はけっこうずっと傘をさしてましたね」
久保田「傘が重要なモチーフになっているんです」
沖野「舞台上に傘がずっとあるというのも、不思議な光景ですよね。照明さん泣かせ。斜めに光を当ててくれましたね」
久保田「照明さんといえば、竹石くんのセリフで、『俺たち影がないんだ!』っていうシーンがあって。それで照明さんに『すみません、影をなくしてください』って言ったら、「無茶言わないでください」って言われました(笑)」
沖野「でもその後の場当たり稽古で、みんな『おおー』ってなりましたね」
――― 影がなくなるというのは、最初にこの作品の登場人物の乗ったバスが転落事故にあうからですね。みなさんがどのような役を演じるのかも教えてください。
若狭「僕はそのバス会社の社長で、物語を進行していくような役割です。この人はどういう存在なのだろう、というのがわからないところから始まるので、生っぽく演じるのか、それとももっと不思議な感じを出すのか、久保田さんと稽古で作っていくのが楽しみです」
入来「私が演じる瞳はバスの乗客の一人です。状況を徐々に理解していったり、謎解きのようなことをしたり、新たな発見をしたりするので、お客さん目線に近い役なのかもしれません。それに、瞳というキャラクターはけっこう作っていける役でもあると思います」
竹石「いろいろできる役ですね」
入来「バランスを見ながら、いろいろ試していきたいです」
久保田「瞳は、竹石くんが演じる喜村と二人で、この世界はなんだろうと一緒に行動をするんです。喜村はよくわからないけど瞳さんについていくみたいな」
竹石「喜村は自分がなぜその時代のそこにいるのかもわからないんです。舞台の上でも『どういうことなんだよ!』『わからない!』というセリフばっかり言ってました(笑)」
――― 沖野さんはどんな役なのでしょうか。
沖野「私はバスの運転手を演じます。この人は何を知ってるんだろうと思われるような不思議な存在感があるんです」
久保田「転落事故を起こすバスの運転手なので、乗客は、あの運転手を止めれば転落はふせげたのではないかと、みんな探すんですね。ちなみに初演の時は舞台上でその運転姿も見られましたね。(運転の)マイムがうまいんですよ(笑)」
沖野「一番見てほしいのがエンジンのかかる瞬間ですね」
――― ボクラ団義への出演は二度目の若狭さん、そして初めての入来さんですが、バスの転落から始まって不思議な時間を生きる、この脚本を読んだ時のご感想はいかがでしたか?
若狭「小説みたいな感覚で読み進みましたね。この作品だけじゃないんですけど、ボクラ団義の作品は飽きさせないというか、スピード感があって、中だるみする瞬間がないんです。今回も、そういうスピード感を皆さんと作っていけたらなと思いました」
入来「この舞台って、キーワードとしては『サヨナラ』とか『雨』とか『後悔』とか暗いイメージのものが多いんですけど、実は最初から最後まで、良い意味でのボケとツッコミが、嵐のように続くんです。テーマ的には、それぞれの思いがフィーチャーされてるんですけど、お客さんとしては、気楽な感じで楽しめる部分もあるし、そうやって笑いながら観ていたら、いきなりぐっとくるシーンがあるのかなと思いました。だから、台本を読んでの第一の感想は、客席から観たいっていうことでした。私たちは、そういうちょっとした笑いを全力で作っていくわけで、そういうところが演劇のいいところだと思いましたね」
――― 入来さんの役はボケとツッコミでいうと。
入来「私はツッコミのほうですかね」
久保田「だいたい喜村と一緒にいて」
入来「探偵でいうと、瞳と喜村はバディみたいな感じですかね」
――― 運転手さんは役の上で誰かと関わるというのは?
沖野「僕は初演のときは、竹石くんのことをうらやましい気分で観てました。というのも、運転手はずっと個人行動で、しかも、みんなとの出会い方も良くないので、仲良くしてもらえないんですね」
――― バスを転落させた張本人だからですね。
沖野「でも最後には、人との関りも出てきて、この人もこういう表情をもっているんだなと、わかってくると思います」
――― 乗客のみんなは、過去に後悔の念を持っているわけですけど、若狭さん演じる社長にも、そういう後悔があるんですか?
久保田「社長はツアーを見ている立場なので、後悔というものをもっている人たちとは別のところにいますね」
竹石「でも、社長もなんかありそうな雰囲気でしたけどね。臭いセリフもありますし」
久保田「ちなみに初演ではダンスがあったんですけど、そういう「ダンスもやる劇団」ってところから、若狭さんは前回のボクラ団義に出ていただいたときに心構えをしてくれてたとかで……(笑)」
若狭「別のお芝居で、ボクラ団義の大神さんと一緒だったときに、この振付はやるだろうというものを教えてもらったんですけど、結局前回はダンスはなかったですね(笑)」
――― では、最後に一人ずつ意気込みを聞かせていただけたらと。
沖野「ボクラ団義の前回の公演は時代劇だったので、それで知ってくださった方が、こんな現代の群像劇もやるんだと、知ってもらえたらと思いますね。いろんなゲストさんも出てくださりますし、お名前聞くだけで本当にワクワクするような方に出ていただけるので、誰かひっぱってきてでも、多くの方に観てもらえたらと思います。僕らもいいものが作れるように頑張ります」
竹石「今年の12月に10周年を迎える節目の年に、勝負をかけている公演でもあります。4年前の再演ですが、僕らの感覚も違うし、違うものになるんじゃないかなと思います。あと、僕は昔は雨が好きじゃなかったんですね。でも、この作品を観て、雨もいいなと思うようになりました。そういう思い出深い作品なのもあって、ぜひ観ていただけたらと思います」
入来「この舞台は再演なんですが、新しいキャストも多いので、雰囲気に染まらないで、壊していける存在になればいいなと思っています。そして、新しい『サヨナラの唄』を楽しみにしています」
若狭「たぶん、俳優の中では最年長になると思うんで、若いパワーに引っ張ってもらいつつ、僕も何か出せるように頑張っていきたいと思います。作品の面白さももちろんあるけど、中身とか感情を丁寧に作って、観客のみなさんを揺さぶって刺激することができたらなと。あと、僕のダンス(があるのか無いのか)も楽しみにしていてください(笑)」
久保田「入来さんも染まらずに新しいものをと言われてましたけど、4年前の初演のときをなぞるのではなく、今、この環境の中で、どう新しい『サヨナラノ唄』を作れるのか、良い意味で新作を作るような気持ちで取り組みたいと思います。あと、頑張って作るからこそですが、例えば、おいしいご飯屋さんを見つけると人に勧め合ってみんなでワイワイ行くことってあると思うんですけど、そんな気持ちで、お誘いあわせの上で、ワイワイ観に来ていただけたらと思います」
(取材・文&撮影:西森路代)