独特な感性とこだわりの作品で観る者を刺激し、2017年だけでも5作品目、驚異的なスピードで作品を送りだしている劇団た組。の加藤拓也。新作となる『壁蝨(ダニ)』はインパクトあるタイトルに加え、1回限りの本番という初の試みで開催される。
主演の南乃彩希は舞台2作目で初主演、さらに2役に挑戦。その役どころは「ロキタンスキー症候群」(先天的に女性の腟全部が欠損し、機能性子宮を持たない疾患)という約5000人に一人の確率で発症すると言われている難病を持って生まれた主人公・マコだ。この作品を代表して、南乃彩希、岡本あずさ、宮田早苗に話を聞いた。
今日を反省して次を頑張ろうができない
――― 1公演のみという手法はどう思われましたか?
南乃「1回限りという公演は初めてで、セリフを噛んだりしないかとても緊張します。今日を反省して次を頑張ろうができないので。でも怖いというよりはワクワクする気持ちの方が大きいです」
岡本「短い稽古期間で本番を迎えたことはありましたが、1か月バッチリ稽古する作品なので、どれだけのプレッシャーの中で本番を迎えるんだろうなと思っていましたが、本番は1回だということをどれだけ忘れられるかという気持ちで臨みたいと思っています」
宮田「芝居って1つだけ答えがあるものではないですし、毎回挑戦していくことなので、あまり回数を意識はしていないですね」
人生には大小どうしようもないことがたくさん起きる。その時、どうすれば良かったのか。何を選択すれば正しかったのか。抱えきれない出来事に対して未熟な選択をしてしまう。その時、人間はどうなって行くのか…をテーマに描く
――― 台本を読んだ印象や役どころを教えてください。
南乃「私は2役を演じますが、メインで演じるのはマコ役で、病気だったという事を知ってからの立ち向かい方や、母親(宮田)に相談したり、友人に立ち向かっていくという役柄にとても胸を打たれました。これからどんどん稽古をしていって自分がどう変わっていくのかが楽しみです。 もうひとつの役はまだ秘密ですが、初めて2役を演じるので、その違いをしっかり演じ分けていきたと思います」
岡本「大人になった主人公マコを演じます。その立場の人をなかなか理解することは難しいと思いますが、マコの人柄については自分とかぶる所があって、本音で向き合えないとか、言いたいことを言いきれないところとか、ひとりで抱え込んでしまうところが台本を読んだ時に『あ、これは絶対にやりたい』と思ったんです。自分自身とも照らし合わせて役と向き合っていきたいです。また舞台で1つの役を2人で演じることは初めてなので、もっとコミュニケーションをとって一緒に作り上げていけたらと」
宮田「私はマコの母親を演じます。私達だけではなく、登場人物はみんな多かれ少なかれ何かを背負っています。ユキ(母親)が何を背負って生きてきたのか、これからどう生きていくのか、稽古をしていく中で具体的に探したいと思います。台本を読んで一番印象的だったのは、『壁蝨ってそうなんだ!』と思いました」
(全員納得)
キャスティングの決め手は眉毛!?
――― 出演者を決めた時のエピソードで、加藤さんから『眉毛を見せてください』とお願いされたと聞きました。
南乃「あ!確かに眉の話をしました!」
岡本「えー!?そんなことが!?」
――― 決め手は眉の形で、眉毛基準があったそうです。
岡本「(笑)。加藤さんは他にいらっしゃらないタイプですよね」
リアリティの中に散りばめられた斬新な演出に驚かされる
――― 準備として劇団た組。のほかの作品をご覧になったそうですね。
南乃「はい。『パーマネント野ばら』という作品で女子会のシーンがあったのですが、その会話がいつも友達としゃべっているようなやり取りで、観ていて自然に笑いが出ました。別のシーンでは切ない気持ちになったり引き込まれてとても面白かったです!余韻が凄くて思い出しながらフワフワ帰った記憶があります。今回の作品もどっぷりとその世界に浸かってしまうと思います」
宮田「私も『パーマネント野ばら』を拝見しました。いろいろな要素があって時々ハッとしました」
――― 岡本さんは出演経験者として思うことはありますか?
岡本「加藤さんの作品は共感できることが多いんです。小さな会話やエピソードであったり、写実的な描き方とか、23歳の加藤さんからどうしてこんな本が生まれるんだろうと、毎回すごいなと思います。
そのリアリティの中に散りばめられた斬新な演出にも驚かされているので、今回も何かが出てくると思うと楽しみですね。男性なのに女性の描き方がとてもリアルなんです。 今作も女性が主人公で女性を中心に描かれるので、そこは見どころだと思います!」
――― では最後に意気込みをお願いします。
岡本「最初に台本を読み終わった時に、無性に家族に会いたくなりました。きっと観にきてくださった方も、友達とか周りの人の事を思い出して、明日が少し変わるような作品になると思っています。後悔はさせません!」
宮田「とにかく暑い時期なので、体調に気をつけて、みんなで力を合わせて頑張ります」
南乃「稽古をやっていくうちに、役でもどんどん良い関係性を築けるようにがんばりたいです。劇場でお待ちしております!」
(取材・文&撮影:谷中理音)