熱中できることが見つからず、何をやっても長続きしない女子高生「いろは」がダンスチームを作り、大会での優勝を目指すミュージカル『ダンスレボリューション〜ホントのワタシ〜』。毎年メインキャストを入れ替えて上演を続けている本作の2017年版では、いろは役にAKB48の本田仁美を起用。
さらに、2015年にスタートしたスピンオフ作品『番外編ダンスレボリューション〜ソノトキのワタシ〜』で、今年は同じくAKB48の小田えりながいろは役を演じる。両作品で脚本・演出を手がけるベテラン是枝正彦と、それぞれの振り付けを担当するとともに『〜ソノトキのワタシ〜』にいろはの母親役で出演する相原愛を交えた4人が、作品が生まれた背景や今年の意気込みなどを話してくれた。
目をキラキラ輝かせてダンスに打ち込む子供たち
――― 主に大人向けのオリジナルコメディを作っておられる是枝さんにとって、『ダンスレボリューション〜ホントのワタシ〜』は女子高校生の青春物語という、少し毛色の違ったものになっています。これはどういうところから発想されたのでしょうか?
是枝「おっしゃるとおり、僕は大人が楽しめるような上質なコメディにこだわって書いてきましたが、今から6年前、東日本大震災の頃に『見えない人たち』っていうブラックなテイストのコメディ作品をやったんです。そこに中学生の女の子が2人出ていたのですが、その子たちを見ていると、やる気があるのかないのかわからないというか、きっとやりたいことはあるんだろうけど、それがわからない状態に見えて……自分にもこういう時代があったなと思いました。『ダンスレボリューション〜ホントのワタシ〜』にも「腐った魚のドヨーンとした目」という言葉が出てくるのですが、それは僕が中学生のときに母親から言われた言葉なんです(笑)。
それで、このくらいの年代の子たちが楽しめるような、この子たちを中心にした作品を書いてみようと思ったのが始まりでした。そして上演してみたら思いのほか評判が良くて、さらに手直ししながら本格的にやってみようということでシリーズ化し、今年で6年目になります」
――― 相原さんは是枝さんの作品に多く関わっていらっしゃいますが、『ダンスレボリューション〜ホントのワタシ〜』にはどんな印象を受けましたか?
相原「私もずっとダンスを教えていまして、小さな子供たちから大人まで教えているので、この作品はそんな子供たちが活躍できる場ということでとても共感しました。とにかく子供たちがとても真剣で、大好きなものには全力投球していくんです。そうやって成長していく姿を見るという意味でも楽しみですし、自分としてもそれを応援したいという気持ちがあります」
是枝「最初にモデルにした子たちがまさに「いろは」そのもので、学校の勉強はちゃんとやらないんだけど、芝居になると目がキラキラ輝くんです。稽古も本番も、こんなに力が出るのかっていう感じで、それを見ているご家族の方も感動してらっしゃったし、お客様にもそれが伝わって予想外の反応をいただきました」
――― 芝居として書いたものが、現実の役者さんたちの成長とシンクロしたのですね。
是枝「そうなんです。当初、そこまで狙って作ったものではなかったので意外な驚きでした。それまで僕がやってきた作品とは違う手応えがあって、こういう広がり方もあるんだなと」
――― さらに『番外編ダンスレボリューション〜ソノトキのワタシ〜』が生まれた経緯は?
是枝「本編では、ダンスレボリューションというダンスの大会に出るために紆余曲折があって、その過程で子供たちが成長していく話を書いているのに対して、それを見つめる大人たちはどう変化していったかを書いたのが番外編です。なので登場人物も時系列も同じで、本編は16歳の女の子の視点、番外編はその母親の視点で書いています」
いろいろな種類のダンスが見どころの1つ
――― その2つの作品で主人公のいろはを演じるのが本田さんと小田さん。もともとお芝居に興味はあったのですか?
本田「本格的にお芝居をするのは今回が初めてですけど、小さい頃からよくミュージカルを見に行ったり、ビデオとかでも見たりしていて、すごく興味はありました。特にミュージカルは、歌とダンスで気持ちを伝えることができるのがすごいなって思うし、AKB48のステージにも通じるところがあると思います」
小田「私はもともと歌が大好きで、演技は自分にはできないと思っていた部分があったんです。でもAKB48として舞台に2回出させていただいて、演技って楽しいなと思えるようになりました。レッスンや稽古のときは不安でいっぱいでしたが、観に来てくれた方が「すごく良かったよ」って褒めてくれたりして、頑張って良かったな、次も頑張ろうっていう気持ちになりました」
――― 当然、ダンスシーンは大きな見どころになるのですよね?
是枝「いろんな種類のダンスが出てきます。私はダンスに関しては素人なので、見て意見を言うだけですが(笑)」
相原「いろはちゃんたちが作るFISH'S EYEというグループと、もう1つライバルのグループがあって、そっちはヒップホップダンスなんですけど、FISH'S EYEの方は実際のキャストに合わせてある程度雰囲気を変えていきたいと思っています」
是枝「もちろん踊れる皆さんに集まってもらっていますが、だんだんうまくなる過程を見せていく作品なので、最初はダンスが下手なところから描いていきます」
――― ということですが、ダンスに対する自信は?
本田「私は小学校1年生から6年生までチアダンスをやっていて、その中でちょっとジャズとかも教えてもらっていたので、ダンスは割と得意かなって思ってます」
小田「私は全然……ただ踊れるっていうくらいです。一応アイドルなので(笑)。だからほんとにダンスは頑張っていきたいなと思います」
相原「今の世代の子は吸収力がすごいから、こちらもしっかりバックアップしたいですね」
是枝「実際に稽古をしてみて、その子自身の得意なことを取り入れる可能性もあります。去年はたまたまバク宙ができる子がいて、「これ入れよう!」ってことになったりしましたから」
毎年キャストが変わることで新しい発見がある
――― 是枝さんと主役のお2人は今日が初対面だそうですが、何か話しておきたいことはありますか?
是枝「普段は元気いっぱいの姿を見せるのが仕事だと思いますが、今回は「腐った魚のドヨーンとした目」から始まります。でも最後にはお客様を元気にする、感動させるという意味では、普段の活動も今回の舞台も同じ。役柄もほとんど等身大ですから、あまり難しく考えないでやっていただければと思います」
本田・小田「わかりました!」
是枝「3年目の公演ではAKB48の竹内美宥さんがいろは役を演じましたが、忙しい彼女をみんなでフォローし合って、本当にいいチームワークが出来上がっていました。今でも当時のメンバーと交流があって、一緒に食事に行ったりしているそうです。今度もそんな関係性ができるといいですね」
本田・小田「はい!(笑)」
――― そんなお2人から、ファンの方に舞台への意気込みを伝えてください。
本田「初めての本格的な舞台出演で、しかも私が得意としているダンスをメインにした作品で主役をやらせていただけるのはすごく嬉しいです。いつものAKB48での私とは違う姿をお見せできたらいいなと思います。まだ何もわからなくて不安ですが、この役にすごく合ってたよといろんな方に言ってもらえるように頑張ります」
小田「ファンの方から「また舞台に出てほしい」ってよく言っていただいていて、私自身も「ミュージカルに出たい」と思っていたので、このお仕事が決まってすごく嬉しかったです。ファンの皆さんの期待に応えられるように一生懸命舞台を作り上げて、観てくださった皆さんの夏の思い出になればいいなと思います」
――― 相原さんは『〜ソノトキのワタシ〜』に母親役で出演されますね。
相原「こんな可愛い娘がいたら嬉しいですね(笑)。私も母親役は何度も経験していますが、もともと歌のお姉さんをやっていたので子供は好きですし、本田さんや小田さんくらいの頃にはいろはちゃんみたいな役をやっていたので、世代交代を感じます。自分自身も子供がいますので、自分の娘を見ているのと同じような気持ちになりますし、舞台の先輩としてアドバイスできることはしてあげたいなと思います」
――― 作品を通して次の世代にバトンを渡していく、そんな公演が6年も続いているのは素晴らしいことですね。
是枝「リピーターの方も年々増えています。同じお芝居で、同じ役をいろんな人がやると、そのたびに違うものが出てくるので、作っている僕ら自身も毎回新しい発見がありますね。ストレートプレイが好きな方の中には、ミュージカルに抵抗があるお客様もいらっしゃると思いますが、言葉にできない感情の高まりを音楽やダンスで表現できるのはミュージカルならでは。僕はストレートプレイもよくやりますが、台本や演出がちゃんとしていれば、ミュージカルは音楽があるぶん舞台芸術としては楽しいと思います。ミュージカルが苦手だという方も、ぜひご覧いただきたいです」
(取材・文&撮影:西本勲/取材協力:TITLES)