TVドラマや映画の脚本なども手がける元芸人の西条みつとしが作・演出を務め、温かく驚きのある作品で目下注目度急上昇中の演劇チーム・TAIYO MAGIC FILM。
最新作『時分自間旅行』は約2年ぶりの新作となり、ヨネックス千晴ら劇団メンバーに加え、客演として、町田慎吾、エハラマサヒロらが集う。
初めて観て号泣。ここまでの衝撃を受けた演劇はなかった
――― 町田さんとエハラさんは初参加ですが、TAIYO MAGIC FILMの印象は?
エハラ「僕、今までに何本かミュージカルとか出させてもらってるんですけど、実は昔から映画とかドラマとか演劇とか全然観てこなかったんで…… 申し訳ないんですけど、お芝居ってもんにめっちゃ興味ないんですよ。なのに、知り合いの子が出てるからって観に行った最初のTAIYO MAGIC FILMで、もうボロッボロに泣いて。すごいと思って次も行ったら、またボロッボロに泣いて。普通、映画でも2本目は大体こけるし、1発目の衝撃ってなかなか越えないじゃないですか。“なのに何だこれは!涙流してこんなに気持ち良いことないわ、こんだけ感情がガツンってやられるものを僕も作りたい!”って思ったんです。
今まではお芝居をやっても、言うたら結構コメディにしたがるというか、自分の持ち場は“笑い”と思ってやってきたんですけど、西条さんには、「本当に感動したし、こんだけ心掴まれるようなことをしたいから出たいです」って話しましたね。観に行って、自分も出たいと思ったのはTAIYO MAGIC FILMだけです」
町田「僕もエハラさんと同じで、初めて観た時に、嗚咽するくらい泣いたんですよ。ぽろっと涙が流れるとかはあるんですけど、ウウッて声が出るくらいになるのは初めての経験で、この衝撃は今までないなって思って。僕はこの仕事をやってく上で、お客さんの心に響くものを作る表現者になりたいと思ってやってるんですけど、まさにそれをガツンと見させていただいて。いつかご一緒できたらと思って、その後ワークショップに参加したり、別の作品も拝見したりして、その流れで今回ご一緒できることになりました」
笑いも涙も、感情の振れ幅マックスの芝居
――― 今回の『時分自間旅行』は、どんな作品になりそうですか?
西条「自分は今39歳なんですけど、昔思ってたことと今思うことって全然違ってて。例えば昔の自分にアドバイスできたら、もっと今うまくいってたのになとか、昔はできてたことが、色々知ってしまった結果できなくなってたりとか。この年になってくると段々思うところがあって、というところから今回の話を作り始めました。
さっきエハラ君も言ってましたけど、実は僕も、基本舞台がそんなに好きじゃなくって、どっちかというと嫌いで……。観てきたものの順番や作品でたまたまそうなったんだと思うんですけど」
エハラ「ああ、それ、めっちゃ分かりますわ」
町田「(小声で)実は僕も…… ダンスからこの世界に入ったからなのかもしれないですけど、人前が苦手なんで、演劇ってもともとはあんまり好きじゃなかった(笑)。もともとですよ? 今はそんなことないですけど」
エハラ「なんでみんな好きじゃないことやってるんすか(笑)。ていうか、演劇を紹介するフリーペーパーのインタビューでこんなこと言ってええの?(笑)」
西条「総本山で(笑)」
――― 全然大丈夫です(笑)。
ヨネックス「TAIYO MAGIC FILMは、観た人の気持ちがぐちゃぐちゃになるっていうか、感情とかの振れ幅がすごく大きいお芝居。笑わせるときは精一杯笑わせることに真剣になりたいし、泣かせるシーンではとことん極限まで泣かせたい。パラメータがあるとしたら、全部をまとめ込んでやりたいという意識は持ってますし、そこを目標にしてますね。ちなみに僕は、まさかマイノリティになるとは思わなかったですけど、演劇はすごく好きです(笑)」
――― それぞれの役柄などは?
西条「町田さんは、さっきも「人前が苦手」っておっしゃってましたけど、僕も人前が嫌いなので勝手に自分と近いものを感じてて、心情の部分で投影しやすいんじゃないかと思ってたんです。自分の作品で出したい感情が、町田さんを通すとすごく伝わりやすかったり、表現しやすかったりするんじゃないかなって。なので、町田さんにはそういうイメージの役、心情を動かす役をやってもらいたいなって思ってます」
町田「僕もなんとなく西条さんとは似てる感じがしてました。楽しみです」
西条「エハラ君のことはもちろん芸人として知ってはいたんですけど、今までだったら、なんとなく自分自身に近い感じの人間(役者)を選んでたんで、うちでお願いすることのなかったタイプだと思うんです。
しかし、今回はお願いしました。エハラ君は、出てきた時のエネルギーの圧倒的感がすごいので、TAIYO MAGIC FILMがさらに見せていく上で、そういういう人の力を借りたいな、そういう人と関わってみたいなっていうことで、この役でとかじゃなく、一緒にやりたいというところからお願いしました。なので、今までにない感じのキャラクターになるかもしれないです」
エハラ「確かに、今までの西条さんの作品観てて、この作品やったらこの役やりたいとか普通あるじゃないですか。でも、どこもできないですからね。ハマる感じがしない(笑)。でも、芸人っていう立場でこんだけ泣かせるお芝居に入れてもらってるっていうのは、どういう立ち位置になるかすごいワクワクしますね」
西条「ヨネックスは、今までたくさん芸人も見てきた僕から見ても、一役者ですけどキャラクターがとんでもなく濃い。他の劇団で初めて見た時は、約2時間のうちに7〜8言しかない役だったのに、そのすべてが大爆笑で。なので、このキャラクターを大切にしたいなって思ってます」
TAIYO MAGIC FILMを観て、演劇を好きになってもらえるように
――― お稽古前の今のうちに、演者の皆さんから西条さんへのリクエストや、言っておきたいことはありますか。
エハラ「西条さんは、作品に対して妥協は絶対しないと思いますけど、感情をバーッと出す人じゃないような気がするので、気を遣わずにとにかく全部ちゃんと言って欲しいです。それはダメだとか、そのボケやめろとか。僕は演者として、稽古場でいろいろやろうと思って行くので、はっきり言われた方がやりやすいし気持ちいいんです」
ヨネックス「台本をなるべく早くってことですかね。まあ、いつも直前どころか幕が開いても内容が変わるし、僕のパートは大体最後の方に回されるんですけどね」
エハラ「でも多分、西条さんって切羽詰まらんとやらんわけじゃなくて、準備してちゃんとやってても納得できんかったら変えてまうんやろうなって思います。ぐわーっと突き詰めて考えてしまうというか」
西条「そうですね。それでよく大人の人たちに怒られてます(笑)。自分が舞台は面白くないと思ってたから、TAIYO MAGIC FILMを観て“演劇ってこんなもんか”って思われたらと思うと…。それでギリギリまでやっちゃうところもあります」
町田「でも僕、舞台の台本買ったのはTAIYO MAGIC FILMが初めてですよ。本当に面白くて、時間軸が入れ替わったりいろんなことが起きていて、“これ、台本ではどう書かれてるんだろう?”って、どうしても知りたくなって」
エハラ「やった分、伝わってるんですよ」
西条「…嬉しいですね。ありがとうございます」
――― では最後に、舞台への意気込みをお願いします。
エハラ「お芝居の経験は一番薄いですけど、西条さんとできるのが本当に楽しみですし、こんな素晴らしい作品に出させていただくので、新しい自分が見えるような、そんな作品になればと思います。役者がよく言うやつみたいになっちゃいましたけど(笑)、本心です」
ヨネックス「新しいメンバーと一緒にできるのが本当に楽しみですね。TAIYO MAGIC FILM、今年はこの一作だけなんですけど、今まで作ってきたものをまた新しく大きくやっていきたいので、いろんな人に、何度観てもらっても新しい発見があるような作品にしていきたいと思います。よろしくお願いします」
町田「ずっとご一緒させていだけたらなと思っていた念願が叶ったので、本当に嬉しいのと、脚本・演出が本当にすごいので、ぜひたくさんの方に観に来ていただきたいです。とにかく、自分にできることを精一杯やりたいと思います」
西条「今までと違うことをしようじゃなく、今までやってきたことをちゃんと今回も出すっていう、そこはブレずにやりつつ、新しい出会いもたくさんある中で、自分の見えてなかったTAIYO MAGIC FILMが見られたら嬉しいです。全員が全力で信じてそこに向かっていれば、新しいものが絶対手に入れられるんじゃないかと思ってて、“手に入れられれば必ずお客さんに伝わるはずだ”と思って今までもやってきたので、そこの基本を忘れないように。観たお客さんの一生のうちの「観て良かったなと思える演劇」に入れてもらえるように、今回も頑張りたいと思います」
(取材・文:土屋美緒/撮影:友澤綾乃)