花組芝居の創立30周年アニバーサリーイヤー第4弾作品は『いろは四谷怪談』を上演。 1987年、1990年、1993年、1994年、2004年と形を変えて上演されてきた代表作であることに加え、初演版の復活上演となる今回。出演にはかつての仲間や花組ゆかりのメンバーが大集合する見逃せない内容になっている。 劇団を代表して脚本演出・出演の加納幸和と、17年ぶりに花組芝居のステージに立つ佐藤誓に話を聞いた。
自らを『ネオかぶき』と称し、高尚で堅苦しいイメージになってしまった『歌舞伎』を、昔のように誰にも気軽に楽しめる娯楽にと、『歌舞伎の復権』を目指し活動開始から30年
加納「10周年までは、やっと来たね…。20周年って来るのかな?という感覚だったんです。でも20周年を超えたら、そのうち30周年だろうって(笑)。長かったとか短かったとか感覚はないですね。今回『30周年BOY』という若い子を集めましたが『僕が生まれる前からある劇団』と言われて、おお!そうか!と。
でも劇団を作った頃から感覚は変わらないですね。ただ作品については5年後どうしていようかと先を考えて創っていたので、それについては随分変わったと思います。実は『いろは四谷怪談』は、1994年に封印して、2004年に平成版を創ってしまっていたので、今回悩みました。そして『スズナリでやった初演をやろう!』、そうであれば『みんな呼んじゃおうか』と(笑)」
佐藤「30周年おめでとうございます! 僕は退団して17年になりますが、当時と同じ配役で出演いたします」
――― それは楽しみですね、同じように演じるのか、変化を入れて演じるのか気になります。
加納「DVDを見返したんだけど、この通りできる?」
佐藤「(爆笑) …できないと思います! あの頃はすごく動いていて身体を使っていましたね。僕は退団してからも仲良くしていただいていて、できるだけ公演を観に行くようにしていました。30周年は予想がつかなったけれど、加納さんが続けているうちは続くであろうと思っていましたね。それで去年加納さんから、30周年作品の出演のお話しを頂いていて」
――― 演目は決まっていたんですか?
加納「あの時はまだ決まっていなくて、スズナリでやることだけは決めていたんです」
佐藤「何度かオファーを頂きましたが出演のタイミングが合わなくて、今回23年ぶりに出演させて頂くことになりました」
――― この大星役は渡せないぞと。
佐藤「この作品は2組(Wキャスト)あって、同じ大星役が原川浩明さんで初演もそうだったので、『(Wキャストはもちろん)原川さんなんだよね?』と確認をして(笑)。この2人でできるのは楽しみです」
加納「誓を含めて、なるべく初演版の同じ役でつけようとしましたが、この30年で役者としてのキャラクターが変わっている人もいて」
佐藤「僕と原川さんは変わらないということです(笑)」
――― 花組通にはたまらないキャスティングになりますね。
加納「そうなんです、ずっと観てくださっている方がいるんですよ」
佐藤「僕の事を知らない人もたくさんいるので、初代を観る機会かもしれないですね」
加納「23年前に一度封印しましたが、こんなことを最初に創っていたんだと知ってもらうには、いい機会かな」
チラシに隠された秘密
――― 初演版とはいえ、歳を重ねて来ている分、挑戦になる部分もあると思いますが。
加納「最初、新宿タイニイアリスで上演した時は多少アングラな作風で、その後、認知度が上がってきてお客様も楽しめる方向にもって行くことも考えて、スズナリの時はわりと明るめな感じにしました。その後にパルコの時はもっと華やかにしようとフィナーレを付けたので、今回スズナリ版では初のフィナーレが付きます!」
佐藤「普通『豪華フィナーレ付き』ってチラシに書かないですよね(笑)」
――― 通であればピンとくると(笑)。それにしても今回のチラシは、今までのイメージからガラリと変わっていますが、イラストレーターの内田春菊さんによるものですね。
加納「ずいぶん前からお友達で、出会ったきっかけは思い出せないんですが(笑)、ずっと書くわよ!って言ってくださっていて。今回お願いしたら快く引き受けてくださいました」
佐藤「初めて見た時、なんだこれは!と思いました(笑)。これはフィナーレが関係しているんですか?」
加納「そう、春菊さんのイメージはそこからで、劇中歌はジャズを使っているのでシルクハットとステッキを持っていて…。それでですね、(お岩さんなので顔の)右を隠しているんですよね!」
佐藤「あ!なるほど! それで裏の絵は包帯を巻いている、さすがだな。以前『奥女中たち』という作品のチラシもおおやきちさんのカワイイ漫画チックなイラストの時がありましたけど、それ以来の驚きがありました」
加納「初演の時はエノケン(榎本健一)の和製ミュージカルの方向で作ろうとしていたので、ジャズのスタンダードを替え歌として入れる形にしていて。以前は作品のイメージからチラシを作っていたんですけど、今回は歌って踊るんだからいいじゃん!て開き直って(笑)」
はち切れんばんかりの事になると思います
――― そして公演にはゆかりのメンバーが多数出演ですが、楽しみにしていることや見所など教えてください。
加納「23年前に子供だった座員が、いまいい位置にいるので、主要な役についてもらいます。
最近スズナリで上演する時は少人数でしかやらなかったところに、いきなり本多劇場ばりな人数を出しちゃうんで、それははち切れんばんかりの事になると思います。もちろん前の台本を受け入れてもらえるか怖さもありますが、小劇場の昔のパワーを、昔を経験していない若い座員や、当時を知らないお客さんにも味わってもらえたら、今の小劇場系とイメージが変わるのではないかと。当時のエネルギーを観てもらいたいですね」
佐藤「こういう芝居に出るのは本当に久しぶりです。加納さんが『昔の通りできないのでは?』と言ったのは、当時あまりにも動きまくってやっていたのと、DVDを見たんですが、こんな事よくやっていたなぁって。
よくこんなくだらないことを『面白いでしょ?』って見せていた恥ずかしさと、『あんなギャグに長い時間を使うのか!』とか、今なら絶対無理なことをやっていたんですよ。ホントに見ていて自分が恥ずかしくて(笑)。ただ、そこをできるだけ残しつつ、ケガをしない程度には頑張ろうと思っています! あえて洗練されないように」
加納「おじさん達がのどかにやっていると!(全員爆笑) ただ無理しているという訳ではないので!」
佐藤「(笑)。そうそう、今できるバカバカしさね。あと僕は、お互いは知っていても初共演がたくさんいるんですよ。そういう意味ではこれも楽しみですね」
――― この作品ならではの顔ぶれになっているので色々な楽しみ方ができますね。
加納「配役はけっこう悩みました。山組のお岩役・秋葉陽司は、これは思い切ってみました。(川組は加納氏)彼は今、肥満を売りにしている(笑)」
佐藤「『毛皮のマリー』でも体格差のWキャストをやっていたので、僕は意外では無かったけど面白い(笑)」
加納「お岩が全然違うので、かなり違うものになると思います。 後は今回の公演のポイントとして、『30周年BOY』という19〜30歳までの若い人と一緒にやります。20代の人が、どういう勉強をして役者をやっていて、どういう気持ちでいるのか知りたくて募集しました。日替わりゲストも含め、こちらも今後発表していきますので楽しみにしていてください」
――― そしてこの唯一1日限りの「天地会」とは?
加納「最近あまり聞かなくなりましたが、文楽や歌舞伎とかであるもので、役割や配役をひっくり返して演じることです。例えば旦那を演じていた人が奥さんをやったり、花組は都度都度やっているんですよ」
――― では本公演を観てから参加しないと面白さはわからないですね。
加納「そうなんですけど、この日しか来られない人もいるみたいで…」
佐藤「(笑)。本当はどうなのかわかないまま終わっちゃう!」
加納「実は以前の天地会で、彼はお岩をやったんですよ」
佐藤「そうなんです!しかもフィリピン人のお岩(笑)。昔は東南アジア出身の花魁とかもやりましたね」
加納「タイに旅行した時、タイ人よりタイ人っぽいって言われたらしいですから。今は封じ込めていますが、彼は小技ができるんですよ」
佐藤「(笑)。花組通な人向けのスケジュールですけど楽しめます」
――― 中には初めて観劇予定のお客様もいらっしゃると思います。最後に花組芝居のポイント、意気込みをお願いします。
佐藤「劇団時代にこの作品を上演した時、歌舞伎などの四谷怪談を観ていなかったので、お岩さんがでてくるイメージしか無かったものが、価値観がひっくり返るような芝居だったんです。その頃はわからないままやっていたことが、最近別の四谷怪談の演目を観て、『あ、そういう話だったんだ』と、初めて筋が通って。それでここに戻ってきた時に『この時のあれはそういう事だったのか』と、初めて納得したことがたくさんありまして、やっぱり加納さんはすごいなと。同じ台本ですが、心を入れ替えてがんばろうと思っています」
加納「そうなんです、お岩さんが出てくるのに『お皿数えないんですか?』って、いま皿屋敷と四谷怪談の区別がつかないんですよ」
佐藤「一緒になっていますよね」
加納「小劇場系なので、あちゃらかに創っていますが、台本上は原作のここから、あそこから、忠臣蔵関連の台本から持ってきたり、知っている人は知ってるみたいな作り方をずっとやっており色々な要素が入っています」
佐藤「この作品は間口が広いと思います。初心者でも楽しめる、知っている方はもっと楽しめるだろうな」
加納「誰が観ても楽しめます。歌舞伎のもっている貪欲性みたいなものを受け継ぎたいということで劇団を始めたので、四谷怪談というお化けが出てくるお話ですが、音楽劇になっておりますし、会話は落語のようなやり取りを取り入れています。『歌舞伎が古典でなければ今どうなっていたのか』を観られると思って来てくれたら、POPにしたらこうなります!」
(取材・文&撮影:谷中理音)