良質なエンターテイメント作品を輩出し、演劇界を盛り上げるDMFとENG。提携公演第3弾となる『クレプトキング』は、盗んだ金はすべて貧しい民に施す正義のスリ・月斗が主人公。無実の罪により死刑を宣告された月斗の流転の物語を描く。
主演は数々の舞台でキラリと光る存在感を見せる平山佳延。さらに中野裕理がヒロインとして華を添える。そこで、作・演出の宮城陽亮、プロデューサーの佐藤修幸もまじえ、本作の魅力を大いに語ってもらった。
主演と聞いたときは、「本当に俺でいいの?」と思いました(笑)
――― 『クレプトキング』はスリの月斗が主人公。謎の少年『レン』との出会いによって、月斗はスリから怪盗にプロデュースされる。怪盗となった月斗は闇に潜む悪を討ち果たし、やがてこの国を治める皇王の真の姿を知ることになる。その世界観は、大正ロマンとスチームパンクがあわさった和風ファンタジーだ。実は、この構想自体はずっと前から宮城の頭の中にあったと言う。
宮城「もうずっと昔に、とある雑誌の漫画原作で、スリが主人公という設定を思いついて。そのときは残念ながら途中でボツになってしまったんですけど、いつかスリを主人公にした話をやりたいなというのは、ずっと考えていたんですね」
―――宮城にとっては、実に7年ぶりのオリジナル新作。否が応でも期待が高まる。
宮城「最近は再演のリライトが多くて。そろそろ書かないとダメになるんじゃないかという想いはありました(笑)。この7年間はアニメ・ゲームなど、原作があるもの、作品を支える幹の部分がすでに完成してる状態で、脚本の仕事をさせてもらうことが多く、他人のふんどしを借りつつ、内側から作品に触れ、様々なテクニックやネタを“盗んで”きたと思う。得てきたものが、頭の中で消化されてきたので、面白い物が生まれそうな気がします(笑)」
―――主人公・月斗を演じるのは平山佳延。数々の舞台で活躍する実力派だが、主演の看板は珍しい。
平山「そうなんです、いつも変な役が多くて(笑)。佐藤さんから主演でとお話をいただいたときは、思わず『本当に俺でいいの? 辞めた方がいいよ』って言っちゃいました(笑)」
佐藤「今年の1月に上演した『Re:call』という舞台で初めてご一緒したんですけど、そのときの演技がすごく好きだったんですね。しかも今回はスリの役。どこかアウトローな雰囲気がないと務まらない。それに宮城さんの演出は肉体を酷使するんですよ。だから、高い身体能力も必要です。そう考えたら、もうこの人しかいないな、と」
―――座組を率いる座長として、やはり舞台に臨む気持ちも違うのだろうか。
平山「今いちばん気になるのは、何回お弁当を入れればいいのかなってことですね。ホットミールは何回入れたらいいだろう、とか(笑)」
佐藤「『Re:call』のとき、カレーをつくってきてくれたじゃん。ルーはつくるから、みんなは米だけ持ってきてねって言って(笑)。あれ、また食べたいなあ」
平山「わかりました(笑)。こんな感じで、先頭に立って引っ張るようなことは、僕の性格上とてもできない。だから、みんなで楽しもうよっていうスタンスでカンパニーを盛り上げていけたらなと思います」
よっちの集中力は、人智を超えるレベルです
―――ヒロイン役は、中野裕理。怪盗になった月斗の相棒となる役どころだ。
中野「お話を聞いたところによると、最初は主人公のことが嫌いで、性格はクールな女の子だそうです。私も冷静な性格なので、そういうところは合っているのかなって」
佐藤「冷静なの?」
中野「えっと……冷静と情熱の間くらい?」
平山「……それ、普通ってことだよね(笑)」
中野「本当だ(笑)。よっち(平山)はいつもこういうふうにツッコんでくれるので、きっと私とのバランスはいいんじゃないかなと思っています」
―――平山と中野は、『Re:call』『THRee'S [スリーズ]』と共演が続く。
平山「コメディもできるし、芯のある女優さん。だから座組にいるだけで、すごく心強いです。共演は続いているんですけど、役柄的に絡む場面がなかったので、直接お芝居をするのは今回が初めて。どんなふうになるんだろうって楽しみです」
佐藤「平山さんは、稽古場でも中野さんのシーンのときだけ、むちゃくちゃ嬉しそうに笑うんですよ。それがすごく印象的でした」
平山「いや、女優さんであそこまでできる人ってなかなかいないから」
中野「ありがとうございます。私から見るよっちは、オーラと集中力がすごい。特に集中の仕方なんてちょっと人智を超えてるレベルだと思います(笑)」
平山「そう?(笑)」
中野「特にすごいなと思うのは、集中しながらもちゃんと周りを見ているところ。集中すると他が見えなくなる役者さんは多いけど、よっちのようにちゃんと座組み全体を見渡せる人ってあまりいない。そういうところをすごく尊敬していますね」
佐藤「きっとふたりの相性はバッチリだと思いますよ。ぜひご期待ください」
最前列のお客様が思わず驚くようなアクションを見せたい
―――宮城作品をよく知る中野と佐藤は、その魅力をこう解説する。
中野「いろんな方にお世話になっていますが、宮城さん以上に設定を細かくびっしり書きこんでいる作家さんは見たことない。生い立ちから全部詳細に決まっているんです」
佐藤「なのに決して説明過多じゃないところが、また絶妙なんです。中には、頭の中に思い描いていることを全部台詞で描写するような方もいますが、宮城さんは行間で表現することを役者に求める。そこが魅力的だと想います」
宮城「平田オリザさんのワークショップに参加したとき、『想像力を常にいい具合に開いておく』ということをおっしゃっていたんですね。それは常に心がけているポイントの一つ。説明しすぎると想像力が損なわれる。常に想像できる余白は残すようにしています」
―――また、見応えたっぷりのアクションと、中野が振付を担当するダンスにも注目だ。
宮城「アクションについては、根本(太樹)さんにお願いしているんですが、根本さんのアクションが面白いんですよ。カッコいいし、暴力的。僕、絶対当たらないだろうってわかる殺陣が嫌いで。しっかりと殺しにかかっていて、しっかりと当たってる(ようにみえる)アクションが好きなんです。根本さんのつけるアクションはまさにそれ。今回も最前列のお客様が思わず『え!』っと驚くような迫力あるアクションが繰り広げられると思います」
平山「今まで殺陣のある舞台にいろいろ出させていただいているんですが、実は自分がやったことってほとんどなくて。ずっとやってみたかったので、今回挑戦させてもらえるのはとてもありがたいです」
中野「ダンスに関しては台本を読んでから決めたいなと思っているので、今はまだ私の中ではまっさらな状態です。ただ、最初に構想を聞いたときに浮かんだイメージをお話しすると、キーワードは『ピエロ』。流れるようなダンスというより、キレキレだけど静かという感じでつくりたいなと思いました」
宮城「面白いかも。実は、冒頭に話した漫画原作を考えていたとき、主人公のスリがサーカスに拾われて、ピックポケットショー(客のポケットなどからモノを盗み取るスリの実演の手品)をやっているっていう設定だったんですよ。作品のイメージは、和風スチームパンク。明治後半から大正くらいの日本をアレンジした世界観の中で、日本人の肌にあった、地に足ついた感じのファンタジーを生み出せたらと思います。きっと見終わった後は、人っていいなと思えるお話になるはず。もしこれが上手くいったらシリーズ化したいくらい愛着のある題材。今回がその第一章になればなと思います」
平山「ぜひお願いします! そのためにもどうかみなさん観に来てください!」
(取材・文:横川良明/撮影:友澤綾乃)