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津村禮次郎・小㞍健太・酒井はな


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熊野古道に伝承されたさまざまな物語を軸に

ダンスと能のコラボレーションを

修験と信仰の道「熊野古道」に伝承されてきた神と人の交流と救済を、能+ダンス、笙+和太鼓+ヴィオラ・ダ・ガンバの分野次元を越えた身体と音楽で表現する。上演される演目は、古典の「国栖(くず)」、「葛城(かづらき)」、創作ダンス作品の「THE KUMANO」。紫綬褒章受章受賞したバレリーナの酒井はな、国内外でダンサー、振付家として活躍する小㞍健太、そしてこれまでにもさまざまな分野のパフォーマンスと能のコラボレーションを手掛けてきた津村禮次郎に話を聞いた。(撮影 :セルリアンタワー能楽堂にて)


インタビュー写真

――― こうした能と別のジャンルとの融合はどのようなきっかけで始められたんでしょうか?

津村「私自身は外部の世界から能の世界に来たので古典をきっちりおさめないと、と思っていたんですが、40代半ばになって、私の師匠も古典の形式に思いを込めて新作能を作っていたので、師匠の足跡を自分も辿りたいというところからスタートして、だんだん創作のほうにいくようになりました」

――― 今回、小㞍健太さん、酒井はなさんと一緒にされるということになったきっかけは。

津村「健太さんはオランダを始め世界で活躍されていて、2007年に私が『トキ』という佐渡島のトキの再生を願って作った新作能を、ダンス作品にするために演出振付をしてもらったのが最初です。はなさんはもとより新国立劇場の創立からのプリマだし、一人の観客として既に存じ上げていて」

酒井「私は先生のワークショップも受けていて、 『ひかり、肖像』という作品で初めて御一緒しました。それまでバレエをやっていたので、初めてお能の世界に触れましたが、能とバレエには共通の部分があって、興味がつきなかったです」

――― バレエと能の共通するところとはどんなところでしょうか?

酒井「能は小さな所作の中にもいろんな心の動きが詰まっていました。体全部で動くのが私たちバレエのやり方なんですけど、静と動とで違った中にも、同じことが表現できるのが素晴らしいなと思いました」

小㞍「僕もはなさんと近い感覚がありました。共感する部分が多くあり、表現を内に入れるのか、外に置くのかなど舞台の成り立ちが異なるので表現の違いはありますが、根底にある身体の使い方は同じだと感じます」

――― 小㞍さんはバレエやコンテンポラリーダンスの世界でやられていて、能の動きを振りつけるということはいかがでしたか?

小㞍「津村先生とは、動きでも対話をしながらつくっていけたので、新しい発見はたくさんありましたが、別のジャンルをやるという感覚はなかったです」

インタビュー写真

――― 今回の演目についても教えてください。

津村「タイトルに修験と巡礼の道とありますけど、それは吉野の山から熊野に続く精神文化圏のことで、そこに関わる作品になっています。最初にやる仕舞というのは能のソロパートで、特別な衣装を身に着けることもなく、楽器もなしで声だけの素踊りで5分くらいの短いパフォーマンスなんです。演目の『國栖』というのは、壬申の乱を題材にしたお話なんですけど、その中に吉野山の神様である蔵王権現が出てくるシーンを、まずは皆様ををお迎えする食前酒のような感じでやって、熊野古道への導入にしたいと思います」

――― その次に「修験と巡礼」というお話があるということですが。

津村「このお話をして頂く田中利典さんは、現役の山伏さんで全ての修行を終えられている方なんですね。能や伝統芸能の世界には山伏が登場するものがたくさんあって、歌舞伎では有名な『勧進帳』のヒーロー『弁慶』も偽山伏になって活躍する話だったりして、そういうところから芸能と修験の道の関わりなどをお話して頂けるのではないかと思います」

――― その次が『葛城』ですね。

津村「これは、大和国(現在の奈良県)にある葛城山の女神の話です。修験道の開祖・役(えん)の行者と山の神様の苦悩を描いた能です。古代は神様も極めて人間的ですよ」

――― そして最後が創作ダンスの『THE KUMANO』ですね。

津村「熊野本宮大社に至る巡礼道・熊野古道にまつわる伝承をベースにダンスにしたものです。熊野を中心とする紀伊山地の巡礼道は世界遺産になって観光地だと思われているけれど、そこには日本人の精神世界の奥深さがあるんだよということを、みなさんに理解してもらえるかなと」

――― この演目は何度かパフォーマンスされているんですか?

小㞍「津村先生が演出された新作能『THE KUMANO』として、2014年に小金井薪能と熊野大社で公演を行いました。僕はダンサーとして出演させていただきました。今回はダンス作品として作り直していますので初演となります」

津村「最初は能の手法で作り、熊野古道の10周年記念に招かれて熊野本宮の聖地でやらせて頂きましたが、今回はダンス作品としてのリクリエイションになります。ベースになるモチーフは二つあり、小栗判官というプレイボーイでイケメンの武者がいて、照手姫と無理やり結婚したために地獄に落ちるのですが、土葬であったから、姫が掘り起こして骸骨になった夫を熊野に向かわせ蘇生させるいう、愛と信仰を描いたお話です。
 もうひとつは、平安中期の女流歌人和泉式部の話で、式部が熊野詣を志し、熊野本宮の間近に来た時、月のものが始まり、不浄の身で熊野参詣を思いとどまり、『晴れやらぬ身のうき雲のたなびきて月のさわりとなるぞかなしき』と詠んだところ、熊野権現が夢に現れて『もろともに塵にまじはる神なれば月のさわりもなにかくるしき』、つまり女の血の道も『それはちっとも障りではないよ』と返歌があったので、熊野詣が叶ったという物語です。
 実は、小栗判官は人に嫌われる業の病で、熊野奥地の湯の峰温泉に入り蘇生したのであり、どんな病人でも女性でも分け隔てなく受け入れるという、現代的にいえば差別を全くしないよということが熊野の信仰の根底にはあるんです。そういう話をふまえて、今回ははなさんにONNAをやっていただこうと」

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――― ダンスを踊るときに、役をどれくらい意識したものになるんでしょうか。

小㞍「役や物語は抽象的にしていますが、はなさんと宝満さんは神が見せる幻想として姿を表すようなイメージがあります。熊野にゆかりのある話“スサノオ”、“小栗判官と照手姫”‘、“和泉式部”などを各シーンの人物像に想定して踊りに変化をもたらすことで、彼らの存在が幻想的になるのではないかと思って試しています」

――― 酒井さんは実際に踊ってみていかがですか?

酒井「健太さんが抽象的ではあるけれど、根底に流れるテーマが現れるようなダンスを作られる方なので、いろんなことが想像できるように舞いたいと思います」

――― この中で津村さんはどのような部分を担うのでしょうか。

津村「僕は熊野の神様ですね」

小㞍「この世(現実)とあの世(想像)をつなぐ『THE KUMANO』の神様、そして山の神様」

津村「熊野っていうのは自然信仰なんですね。ここに天照大御神とか須佐之男命とかも出てきますが、そこはまた別の若いダンサーがやって。私は全体を俯瞰して見ているような感じになると思います」

――― 最後に、見に来る方にメッセージをお願いします。

酒井「予備知識はなくていいので、私たちが舞うことによって、いろんなものを感じていただけたらと思います」

小㞍「能楽堂は、演者の呼吸もお客さんに届くほど、とても繊細で神聖な場所と感じていただけると思います。からだの動きだけでなく、目線や仕草、そして空気の動きも観客のみなさまの想像を掻き立てるものとなり、空間すべてを楽しんでいただけたら嬉しいです」

津村「能楽堂でやるということは装置や照明もすごくシンプルにせざるをえないし、音楽も今回は和太鼓や弦楽器など簡潔な音楽構成です。でも魅力的な方々に演奏していただき、能楽堂は響きが自然で素晴らしいので、そんな中で醸し出される和と洋の舞台を楽しんでいただきたいと思います」


(取材・文&写真:西森路代)

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PROFILE

津村禮次郎(つむら・れいじろう)のプロフィール画像

● 津村禮次郎(つむら・れいじろう)
1942年生まれ、福岡県出身。一橋大学経済学部・社会学部卒業。一橋大学、二松学舎大学講師。大学在学中に女流能楽師のパイオニアである津村紀三子に師事。さまざまな芸術家とコラボレーションしており、その活動は2015年にドキュメンタリー映画『躍る旅人 | 能楽師・津村 禮次郎の肖像』として公開されている。

酒井はな(さかい・はな)のプロフィール画像

● 酒井はな(さかい・はな)
1974年8月23日生まれ。アメリカ合衆国ワシントン州生まれ。5歳からバレエを始め、1997年に新国立劇場バレエ団に参加し、開場公演で『眠れる森の美女』で主演し、芸術選奨文部大臣新人賞を受賞。バレエにとどまらず、劇団四季のミュージカル『コンタクト』『アンデルセン』にも出演。2017年には紫綬褒章も受賞している。

小㞍健太(こじり・けんた)のプロフィール画像

● 小㞍健太(こじり・けんた)
1981年生まれ。ダンサー・振付家。 3歳よりクラシックバレエを始める。1999年第27回ローザンヌ国際バレエコンクールにてプロフェッショナル・スカラーシップ賞受賞。モナコ公国モンテカルロバレエ団で研修生を経て、18歳の時に入団。現在はオランダを拠点にダンサー兼コレオグラファーとしてフリーランス活動をしている。

公演情報