狂言の人間国宝・野村万作が主宰する「万作の会」。その一門を支える若手が大曲やシテ(主役)に挑む年に1度の公演「ざゞん座」。そのメンバーである狂言師5人のうち、深田博治さん、高野和憲さん、月崎晴夫さんにお話を伺った。(取材・文/田中晶江 撮影/峰田達也)
深田「若手、と言ってももうそれほど若くはないのですが(笑)、我々の世代5人が普段の公演ではできない大きな役を勤める場として万作先生が9年前に作って下さったのが『ざゞん座』。芸の向上の場ですね。解説付きで初めての方にも楽しんで頂けるのはもちろん、万作先生や先輩方が我々の相手をして普段やらないような役をやって下さるのも『ざゞん座』ならではです」
――― 古典と無縁の生活から狂言界に飛び込んだのは“たまたま”だった?!
月崎「元々芝居をやっていたんですが、自分の演技のベースになる何かが欲しいと相談したところ、万作先生を紹介して頂けることになり狂言を習うはこびとなりました。狂言には芝居の原型があり、日本語の美しさがあり、独特のリアリティがある。舞台を観るようになってそれに気付きましたね」
高野「僕と深田さんは国立能楽堂の養成所出身。古典なんて何もわからずに入りました。田舎に帰りたくなくて東京にいるために養成所に入ったんです(笑)。修行は本当に厳しく辞めたいと思う時ばかりでしたけど、やっていくうちにこれは面白いなと思うようになりました」
深田「大学時代に演劇をやっていたんですがなかなか上手くいかず、自分の助けになるような芸を身につけたいと思っていた時に養成所の試験があると知りました。特に狂言と決めていたわけではなく何でもよかったんですが(笑)。面接時ずらっと並んだ偉い先生方の中で唯一質問をして下さったのが万作先生で、狂言をやることになりました」
高野「もちろん最初から狂言師を目指してくる人もいますよ。でも僕らはそうじゃなかった」
――― 「ざゞん座」今年の演目と見所
月崎「『磁石』で田舎者を演じます。すっぱ(詐欺師)に騙された田舎者がピンチを乗り切るために思いついた方法がなんとも奇想天外! いかにも狂言らしい演目です。若い田舎者の役をパワフルにはっちゃけた感じでできたらいいですね」
深田「『金岡』は平安時代の有名な絵師・金岡が主役の大曲です。謡(うたい)があり、語リを聞かせ、最後は舞って終わるという三部構成をどううまく見せられるか。万作先生に教えて頂いた家の芸がお客様にちゃんと伝わるように頑張りたいと思います」
高野「『三人片輪』は障害者になりすまして金持ちのところに入り込もうという話。狂言には障害を持つ人々のたくましく生きる姿を描いた曲があり名曲が多いのですが、残念ながら上演機会は多くありません。長い名乗りがあって、酒を飲んだり謡ったり舞ったりと狂言師にとって技術的に重要な要素を網羅した名曲です」
深田「『ざゞん座』は僕らにとっても1年に1度のお祭りのような会。5人のメンバーが制作にも関わり、一所懸命手作り感覚でやっております。まだ狂言を観たことがない方もぜひお気軽にお越しください」