2016年1月の開幕に向け、徐々にそのヴェールを明かしつつあるミュージカル『手紙』。主演の三浦涼介、吉原光夫以外の主要キャストも発表され、ますます期待が高まっている。今回は、その中から若手俳優の廣瀬大介と和田雅成が登場。24歳の等身大の目線から見た『手紙』の魅力を語ってもらった。
完成形が想像できないからこそ、面白いと思った。
――― もともと和田は作家・東野圭吾の大ファン。原作も出演が決まる前から読んでおり、映画版にも強い感銘を受けた。いちファンとして、『手紙』という作品の魅力を和田はこう説く。
和田「東野さんって、現実で起こるか起こらないか微妙なラインの話を書くのがすごく上手い作家さん。『手紙』もどこかでこういうことが起きているんじゃないかって、いろんな登場人物の視点に立って感情移入しながら読むことができますよね。そういう入りこみやすさが、多くの人に支持されている理由なんじゃないかなと思います」
―――それだけにミュージカル化の話を聞いた時は、驚きを隠せなかったと言う。
和田「『手紙』はもし舞台化されるなら絶対に出たいと思っていた作品。だからミュージカルでやるって聞いた時は、あの『手紙』をどうやってミュージカルにするんだろうって、ただただビックリしました」
廣瀬「最初に聞いた時、『手紙』はストレートプレイでやった方が素敵になるんじゃないかと思いました。と言うのも、僕のイメージだとミュージカルってちょっと架空の話やファンタジーが多くて、それをミュージカルにすることで世界観がより伝わってくるのかなと思っていたから。そこに『手紙』っていうジャンルが来ると、“おや?”って引っかかりはしますよね。その分、どうなるのか楽しみにもなりました」
―――しかも兄弟役を演じるのが、三浦涼介と吉原光夫というまったく異なる個性だからこそ、ますます完成形が想像もつかない。
和田「はじめに出演者を見た時、“このふたりが兄弟をするの!?”って思いました。ミュージカルですから、ふたりで歌うシーンもあるんじゃないかと想像しているんですけど、どう交わるのかまったくわからない。出演したい気持ちはもちろん、自分自身もひとりの観客として観てみたいなって思いがますます強くなりましたね」
廣瀬「おふたりとも初めて共演させていただく方。三浦さんはヴィジュアルがすごく華やかで、異色な印象を受けますよね。吉原さんはよく舞台仲間からとにかく歌が素敵だって話を聞いています。そんなおふたりと共演できるのが、僕も楽しみなんです」
自分が同じ立場に置かれたら、果たしてどうなるか。
―――廣瀬も和田もプライベートでは兄のいる身。兄弟の複雑な機微は痛いほどに共感できる。だからこそ、「もしも自分が弟・直貴と同じ立場に立たされたら?」と問われると、慎重に言葉を選びながら素直な気持ちを告白した。
廣瀬「僕は家族構成が複雑で、24歳までずっと生涯を共にしてきたのは兄だけなんです。自分にとって、兄は分身のような存在。お互い仕事しているし、なかなか会えないんですけど、この間久々に一緒に飲みに行ったら食の好みとか共通する部分がいっぱいあって、やっぱり兄弟って似るんだなって実感したし、そんな些細なことさえ嬉しかった。誰の代わりにもなれない相手だからこそ、兄が犯罪を犯しても僕は変わらないんじゃないかと思う。ただ、実際にはなってみないとわからないし、想像もつかない。そんな想像のつかない世界をどれだけリアルに表現できるかが、今回の僕たちの課題なのかなと思います」
和田「僕も兄がいる分、兄が自分のために罪を犯したことはよくわかっているけど、そのために自分の人生が悪い方向に進んでしまうことに複雑な感情を抱く弟の気持ちはよくわかります。自分の兄が犯罪を犯すなんて想像もしてない。でもどれだけ悪いことをしたとしても、自分にとってはただひとりのお兄ちゃん。だから何がどう変わるってことはないのかなと、今の僕は思っています」
――― 肩を寄せるようにして生き抜いてきた兄・剛志と弟・直貴。しかし、ふたりの間を社会からの差別や迫害が阻み、やがて亀裂を生んでいく。犯罪者の兄を持った直貴への世間の視線は冷たいが、それもまた今の日本のリアルだろう。
廣瀬「僕だって今だったら気にしないよって言えちゃうけど、未成年の時に友達のお兄ちゃんが殺人を犯したら、どう接するかちょっとわからないですね。言っていいことと悪いことの区別がつかないから何を言っちゃうかわからないし、周りに流されちゃうこともあると思う。
変な言い方すると、高校生ってまだ子どもじゃないですか。どれだけ自分のやっていることが重たいのかもわかっていない。だから軽はずみに人を傷つけるようなこともやっちゃうかもしれません」
和田「その時になってみないとわからないけど、仲の良い子のお兄ちゃんが悪いことをしてしまっても僕は変わらないんじゃないかなと思う。実は高校2年生の頃に、似たようなことが僕の周りにもあったんです。
その子は負い目に感じていたのかもしれないけど、僕から見ればその子自身は関係ないし、お兄ちゃんもどういう境遇でそうなったかわからない。だから、僕は何も変わりませんでした。もちろん周りが一歩引いちゃうのもよくわかるんです。でも、だからと言って自分がそんなふうに引いてしまうのも違うだろうって感覚でしたね、当時の僕は」
――― この『手紙』は小説や舞台の中だけの話ではない。明日、同じようなことが自分の身にも起こるかもしれない。その実感が若いふたりの言葉からもひしひしと伝わってくる。
廣瀬「すごく人気のある原作で、すでに映画化もして舞台化もしている。その作品を改めて今度はミュージカル化するんだから、当然お客様の期待もあるし、ハードルもきっと高い。今回初めてのキャストさんばかりで、まだお会いしたことがないんですけど、みなさん頼りになる方ばかりだって聞いています。だから絶対に素敵な作品になると思うし、みなさんの期待をいい意味で裏切るような作品にしていくつもりです。それに今回は神戸や大阪での公演もある。劇場が変わればまた印象も変わると思うので、一度と言わず二度三度と足を運んでもらえたら」
和田「ミュージカルだけあって歌の部分で魅了できる方たちが今回の座組みにはたくさんいる。その人たちに比べたら僕は確かに歌の技術は持っていないかもしれません。でも、おこがましいかもしれないけど、伝えるっていうことに関しては負けていない気持ちはある。だから、しっかりこのキャストの中でも自分の色を表現していきたい。僕が原作を読んで作品の世界に感情移入したように、観ている人たちが『手紙』って作品の中に入りこんでいただけたら、こうしてミュージカルにした意味が出てくると思います」
―― 様々な人たちの想いがつまったミュージカル『手紙』。その開幕の時は、確かに近づいている。
(取材・文&撮影:横川良明)