『アガルタの花』をはじめ、良質なファンタジー作品に定評のある演劇ユニットキャットミント隊。最新作『アンジェラ』は、『遙かなる時空の中で』シリーズや『下天の華』など近年話題の舞台を数多く手がけるキタムラトシヒロ氏が2005年に上演した人気作品だ。アクションエンターテイメントの第一人者として走り続けてきたキタムラ氏だったが、2015年、突然の活動休止を発表。そんな偉大なるパイオニアの初期の傑作に挑戦することを、キャットミント隊は決意した。その胸中にあるものとは果たして――主宰の拝田ちさと、そして出演者の奥仲麻琴、大平隆行に、今回のリメイクに寄せる想いを聞いた。
大先輩の意志を継ぎ、新たな『アンジェラ』をつくり出す。
――― 拝田にとってキタムラ氏は演劇界における大先輩。キタムラ氏も拝田のことをよく目にかけてくれていたと言う。
拝田「キタムラさんはあまり他の方の舞台をご覧になることはないそうなんですが、キャットミント隊の公演にはよく来てくださって、“あそこはもっとああすれば良かったのに”なんてフランクに感想をくださいました。私にとっては大先輩ですが、友達感覚でお付き合いができる方ですね」
――― 『ハナレウシ』など和のテイストを活かした作品づくりで知られるキタムラ氏だが、中には西洋を題材にした作品もある。それが、海賊たちの活躍を描いた本作『アンジェラ』だ。
拝田「私も海賊モノをやりたいなってずっと思っていたので、キタムラさんから『アンジェラ』のことを教えていただいたときは“機会があったらやりたい”と盛り上がっていたんです。それが、ちょうど2015年の春ぐらいのこと。その後、キタムラさんが休業されることを発表されて。今回は、大先輩の意志を引き継ぐつもりで頑張っていきたいと思います」
――― 『アンジェラ』の初演は、2005年。当時、キタムラ氏が率いていた演劇集団Z団にとっても、まだ旗揚げから3本目の公演だった。にもかかわらず、動員は1830名を記録。演劇集団Z団が東京きっての人気劇団へと躍り出るきっかけとなった記念碑的作品とも言える。
拝田「すごくわかりやすくて、今観ても十分に面白いと言える作品ですが、これをアレンジしたら、さらに今の時代にマッチした質の高いエンターテイメントになるんじゃないか。そう直感的に思って、リメイクを決めました。ありがたいことに、キタムラさんからも“好きにやってくれて構わない”とお言葉をいただいているんです。なので、まずは台本からもう一度しっかり見つめ直して、キャットミント隊版の『アンジェラ』がつくれたら」
キュートでカッコいい最強のヒロイン、誕生。
――― タイトルロールであるアンジェラを演じるのは、奥仲麻琴。海賊王の血を引き、大海原へと冒険の旅に出る少女に扮する。
奥仲「今までやったことがないような役で不安もありますが、もともと『パイレーツ・オブ・カリビアン』が大好き。ディズニーランドに行っても何回も同じアトラクションに乗るくらい好きなんです(笑)。だから、自分がそんな海賊の世界に飛び込んでいけると思うと、すごく楽しみでもあります」
――― そして、アンジェラと敵対する海軍の英雄・セルバンテスを演じるのが、ユニットメンバーの大平隆行だ。
大平「僕も昔から海賊に憧れていたので、こういう作品にチャレンジできるのはすごく嬉しいです。今回、残念ながら僕は海賊役ではないのですが(笑)、僕にとっては初の悪役に挑戦します。いつもヘタレで頼りない役を演じることが多いので、気合いを入れて演じていきたいですね」
――― 奥仲は、キャットミント隊への出演は2度目。15年7月、『アガルタの花』でヒロイン・ハムサを好演し、観客に鮮烈な印象を与えた。
奥仲「私にとって、あそこまで動く役は初めて。体力がないから大丈夫かなって心配だったんです。でも拝田さんや大平さん、共演の平山(佳延)さんがたくさんアドバイスをくださったおかげで乗り越えることができた。千秋楽を終えたときは、ひとつ女優として成長できたかなという達成感で胸がいっぱいでした。キャットミント隊さんへの出演は、私にとって2015年でいちばん大きな出会いになりましたね」
拝田「ご覧いただいたみなさんが、“とにかくハムサが可愛かった!”っておっしゃるくらいインパクトが強くて。稽古中も、いろんな人のアドバイスを熱心に聞きながら、ずっと真面目に稽古場のはじっこの方で練習している姿が印象的でした」
大平「稽古中も“できなくて悔しい!”という表情をされるんですけど、それがまた可愛くて、みんなを味方にする力を持っているんですよね。あるシーンで上手に奥仲さんがハケるのですが、その奥仲さんを見たくて、稽古中、“ハムサ特等席”だって言ってみんなが上手の袖側で待機していたくらいです(笑)」
拝田「座長になる方は、もちろんお芝居も大事なんですけど、人柄もすごく大事。麻琴ちゃんが座長になってくださるなら絶対いい作品になると思います。麻琴ちゃんは、普段はほわんとしているんですけど、お芝居についてはすごくしっかりしていて、負けず嫌い。そういうところもアンジェラにぴったりですね」
大平「ちょっとタイミングが合わないところがあったら、自分から“もう一回やりましょう”と言ってくれる。そういう熱さや芯の強さが、奥仲さんにはあります。普通、海賊と言えば男性をイメージされると思いますが、この作品は出てくる女性がとにかくカッコいい。アンジェラも物語が進むにつれて、どんどん強くなっていく。奥仲さんがどんなふうにアンジェラを演じるのか、僕もすごく楽しみです」
既存のイメージを覆したい。それぞれの挑戦が、始まる。
――― 劇中、見どころとなるのがキタムラ作品には欠かせない迫力たっぷりの殺陣シーンだ。
奥仲「私、殺陣をやるのが初めてなんです。カッコ悪くならないようにしっかり練習したいですね」
大平「僕も殺陣はあんまり経験がなくて。しかも、僕が演じるセルバンテスは、周りが“こいつ、強い!”というような役。今から緊張してるんですけど、奥仲さんと一緒に頑張っていきたいです」
拝田「殺陣で定評のあるキタムラ作品に、キャットミント隊がどう挑むのか。お客様の既存のイメージに負けない舞台をつくることが、今回の課題のひとつです。でも殺陣も大事なのは技術ではなく熱量。そこをしっかりお客様に伝えられるものにしたいですね」
――― 観終わった後に明日への勇気と希望が湧いてくる作品づくりが持ち味のキャットミント隊。本作も、そんな自分たちのカラーを活かした爽快な冒険ファンタジーを見せてくれそうだ。
拝田「海賊と聞けば、『パイレーツ・オブ・カリビアン』を思い出される方も多いと思います。真似をするつもりはありませんが、だからと言って奇をてらう必要もない。王道のカッコよさは残して、そこにキャットミント隊らしいファンタジー色を加えていきたいですね。単に客席で観ているだけではなく、テーマパークのアトラクションのように、お客様を巻き込むような舞台を目指していきたいと思います」
大平「せっかく今までの自分のイメージとは違う役をいただいたので、今回はとことん悪役に徹したい。出てくるだけでみなさんに嫌がられるような、そんな嫌われ者になるのが目標です(笑)」
奥仲「私も普段の私のイメージを覆したいですね。ボーッとしていることが多いと言われるのですが(笑)、そんなみなさんの奥仲麻琴像を裏切るようなアンジェラを演じたいです」
取材・文&撮影:横川良明