天才プロ棋士と称され、映画化もされる村山聖九段と、賭け将棋で生計をたてていた真剣師、小池重明という実在の二人の棋士。実際には交わることのなかった二人が、「もし同じ時代に生きていたら」を描いた完全オリジナルストーリーが再演される。この『天召し−テンメシ−』の脚本・演出の井保三兎、出演の木田健太、雪島さら紗、江崎香澄、高橋杏奈に話を伺った。
――― 2014年に上演された『天召し−テンメシ−』を今、再演しようと思ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
井保「今年、この『天召し−テンメシ−』のモデルにもなった村山聖がテーマの映画が公開されるということもあって(松山ケンイチ主演の『聖の青春』)、その前にやっておこうかなと思ったのもあります。それだけじゃなくて、普段、池袋演劇祭では、介護施設の話をメインにやっているので、たまには僕が好きな作品を、演劇祭のお客様にも見てもらおうかなと思ったのもきっかけです」
――― 今回、木田さんは、その村山聖をモデルにした智という役を演じるそうですね。台本を読んで、智はどんな人物だと思われましたか?
木田「智は家族の優しさをすごく求めてる人なんですね。だからこそ、一人の人に言われた何気ない一言を守って生きているんです。ただ、言われた言葉を守るということは、その言葉に縛られているという部分もあります。だから、僕自身から智を客観的に見たら、『その荷物を軽く降ろせていたら、楽に生きられたんじゃないかな』って思う部分もあるんです。
でも、それを背負い続ける智の不器用でまっすぐな部分があるからこそ、見ている人にも、共感できたり、がんばろうと思ったりできるんじゃないかなと思いました。もしかしたら、井保さんの意図と違っているかもしれないんですが……」
井保「ええで!(笑)。将棋の世界の勝ち負けではなく、棋士の勝負の裏側にある人生を書きたかったので。智のモデルは村山聖ですが、彼と対峙する池田という人物のモデルは、小池重明という賭け将棋で生計を立てていた人なんですね。その二人が対決したら、どういうドラマが起こるんだろうというところからスタートして、両人の実話をもとに、脚本を書いているんです」
――― 実在の人物の史実を調べて、掛け合わせたんですね。実際にこの二人は出会っているんですか?
井保「村山聖は、1969年生まれ。羽生善治と同世代のプロ棋士で、東の羽生、西の村山と言われていたほどだったんですね。一方の小池重明は1947年生まれのアマチュア棋士で、村山は中学生のときに小池を見たと言われていて、少し接点はあるようです。でも、この『天召し−テンメシ−』のように、実際に対決したことはありませんでした」
――― 実在する人物をモデルにしているということで、名前も少し違っているんですね。
井保「そうです。特に僕は、小池の生き様が好きで。団鬼六さんの書かれた『真剣師小池重明』という本を、一日に一回は読んでるんですね。だから、風呂場に一冊、部屋に一冊、鞄に一冊、合計三冊、同じ本を持ってるくらいなんです。小池は女性をとっかえひっかえするようなダメな奴なんですけど、最近、僕自身が小池の影響を受けているようでヤバいなと……(笑)。でも、演劇も破滅主義者みたいなところがないと、続けられないものなので」
――― そんな人物がモデルの、池田と智が勝負をすると。
井保「智は生きるために将棋を指した男で、池田は死に場所を探して将棋をした男ですね。その二人が対決して、勝つのはどっちかという話になります。昔、『マジンガーZ』と『デビルマン』の対決がありましたが、そんな夢の対決です」
――― 雪島さん、江崎さん、高橋さんは、前回に引き続きこの舞台に出られるそうですが、今回の役は同じになりそうですか?
雪島「まだ今回の役は決定はしてないのですが、前回は智の少年時代を演じました。智は天才少年なので、いたって普通な自分が演じるのに苦戦した部分もありました。智が将棋に出会うシーンなんかも演じないといけなかったので、すごくプレッシャーもありました」
江崎「私は、智たちの仲間の棋士の彼女で、後に結婚するという女性の役を演じました」
高橋「私は池田に捨てられる役だったんですけど、役に入りすぎて、将棋なんて大嫌いって思いましたね(笑)。でも、振り回されながらも、どこか強さもあって、そんな女性たちの強さがあるからこそ、棋士たちが戦えてるということも描かれていて、そこは素敵だと思いました」
江崎「女性たちは、若いうちは振り回されるんですけど、年齢を重ねるうちにどっしりしてきて、勝負の外の世界で成長するんです」
雪島「男性はずっと青春の中にいて、変わらないんだけど、でも、その中に絆なんかも描かれていて、その辺は見ていてすごくかっこいいんです」
――― 木田さんは、智をどう演じていこうと思われていますか?
木田「僕が普段演じる役って、闇があったり何かを抱えている役が少ないんですけど、智を忠実に演じたいから、不器用さとか泥臭さをちゃんと表現して、そんな中にも、ふとしたところで、智の悲しさが見えたらいいなと思いますし、それと同時に、希望も感じてもらえたらと思っています」
井保「木田くんにしても、池田役の西川智宏にしても、華がある役者なんですよ。僕は親に捨てられた智の面倒をみる師匠を演じるんですが、二人の華に負けないようにと思ってます。あと、木田くんは客入れから始まるまでの30分、一人で舞台で正座してないといけないから大変ですよ。あと、将棋の『パチン』って音で始まるから」
木田「正座は大丈夫ですけど、そっちはやり直しがきかないからかなり練習しないといけないですね……(笑)」
(取材・文&撮影:西森路代)