――― 創立60周年を迎える牧阿佐美バレヱ団が、30年ぶりに上演する全幕バレエファンタジー『飛鳥』。改訂演出・振付を手掛ける牧阿佐美のもと、団員たちが一丸となって稽古に汗を流す日々が続いている。
「今回踊るダンサーは、30年前の『飛鳥』を知らない世代です。だから理解しようと稽古をよく見ているし、時間があれば集まって話し合う姿を見かけたり、全体の熱意が高まっていて嬉しいですね。今の子たちは、踊りそのものは昔のダンサーより上手だし、プロポーションもずっといい。でも精神的な面や音楽への感性はまだまだ。『飛鳥』によって、その成長が得られたら、次に古典バレエをやる際にも深みが増すと思うのです」
――― クリエイティブ集団ZERO−TENとタッグを組んだ映像演出も、バレエ公演において意欲的な試みだ。
「舞台美術を束ねる洋画家、絹谷幸二先生のアイデアです。『作品は、多くの人に受け入れられて初めて、続いていくもの。遠い時代の物語を、現代の人たちにエンターテイメントとしてどう楽しんでもらうかが大切で、それには時代の流れに合った、新しい演出が必要だ』と。従来のように大がかりな装置の転換がないので、よりスピーディーな舞台運びになり、テンポ感を求める若い方にも見やすいバレエ作品になると思います」
――― 作品の重要なモチーフである竜には、牧の母で創作者、橘秋子らしいアイデアが盛り込まれている。
「竜神というと雨を降らせる水の神や、権力の象徴という形で思い浮かべる方が多いかと思います。ですが母は自分が芸術に携わっているというところから、“芸術を磨き極めた者こそが、竜神になる”というイメージを膨らませ、『村で一番美しく、踊りの上手な者が竜妃になる』という物語を考えました。バレエだからこそ表現できる設定だと思います。この軸は変えることなく、今回も引き継ぎます」
――― キャストとスタッフが、たゆまぬ努力を尽くして臨む新レパートリー。その完成形がどのようなものになるか、ぜひ自身の目で確かめてほしい。
(取材・文:木下千寿 撮影:佐藤雄哉)