演出家・山本夢人が「これからの芸能界や演劇界を担うタレント・女優を育てたい」というテーマを掲げて立ち上げた、女性キャストのみで行う舞台公演プロジェクト=AUBE GIRL'S STAGEが、6月の旗揚げ公演に続き早くも第2回公演を行う。その作品『ざわつくから叫んでみたんだ』はどんな内容なのか。そしてAUBE GIRL'S STAGEが目指す先にあるものとは?
大きく変化した社会と、若者の悩みをリンク
――― AUBE GIRL'S STAGEの発案者である演劇ユニット・レッドカンパニーの山本は、旗揚げ公演『光射す場所へ歩く君たちへ』の手応えを「大成功だった」と話す。
山本「若いキャストたちの良いところ、純粋で生き生きしているところをきれいに出しつつ、ストーリーにも深みがある良い作品になったと自分でも思いますし、高い評価もいただきました。さらにAUBE GIRL'S STAGEをレベルの高いところで認めてもらうためには、この成果を何回もきっちりと出していかなければいけないと思っています。今回は演出家もキャストも変えて、前回を超えるものになるかどうかというのがチャレンジですね」
――― その演出家に、俳優の南翔太を起用しているのも大きなトピック。山本いわく「けっこう早い段階から、次は南くんに賭けてみたいと思っていました」。南が演出を手掛けるのは、昨年の『ヒカケン〜非科学的超常現象研究会のなんでもない1日〜』に続いて2回目になる。
南「演出にはもともと興味がありました。いろんな演出家さんを見てきて、自分がやったらどうなるんだろうとか、役者としての視野が広がるんじゃないかと。それに最近、自分から自発的にやらないようなことに突っ込んでいくのが好きなんです。知らない世界を発見したいという感じですね。AUBE GIRL'S STAGEはしっかりしたお芝居をしていきたいということなので、僕も変に遊ぶことなく、ちゃんと“人間”を演出できたらいいなと思ってます。けっこうピリピリした感じでいこうかな(笑)」
――― 今回の『ざわつくから叫んでみたんだ』は、前作と同じく女子高生がメイン。人工知能が進化・普及した未来の日本を、今の女子高生が覗いたらどう思うのだろうか?というストーリーだ。
山本「人工知能というと、一般的にはまだまだ遠い将来の話かなというイメージを持たれる方が多いかもしれないですが、けっこう進化しているんですよね。そして、今の女子高生たちが30代くらいになった頃に、この社会はガラッと変わると僕は思っているんです。そういうことをいろいろ調べて、物語に盛り込んでいます。人工知能やロボットが進化した未来に対する希望や、そういう社会ならではの問題と、若者なら誰でも抱く悩みがリンクしていくような内容になると思います」
2つのチームを全く違う色に仕上げていく
――― すべての役柄がWキャストだというのも、AUBE GIRL'S STAGEの特徴のひとつ。主人公を演じる小板橋みすずと重元美沙は、舞台への期待を次のように話してくれた。
小板橋「演出家さんがとても厳しそうなので(笑)、どちらかというとビビってます。人工知能っていうのもなかなか触れたことのない話題で、一番に思い浮かんだのは、ドラえもんとかコロ助みたいなポップな感じ(笑)。自分の世界が広がっていきそうだなと思っています。
あと、キャストが女子だけというのを聞いて、絶対いい匂いがするだろうなって(笑)。私が通っていた高校がもともと男子校で、共学化されて2年目に入学したので、女子校状態がすごく憧れというか楽しみなんです。いい匂いをいっぱい嗅げたらなと思います(笑)」
重元「さっきの山本さんのお話を聞いていると、今回の作品で初めて知るようなことが多いのかなって思いました。がっつり主役をやらせていただくのも初めてなので、すごく楽しみです。女の子だけの舞台は以前やったことがあったんですけど、主役がWキャストっていうのは今回が初めて。お互いのいいところを取り入れて、どちらのチームもいい舞台になればいいなと思います。
南さんとは2回共演しているので安心していて、厳しくしている姿は想像できないんですけど(笑)、すごく信頼しています」
南「ありがとうございます(笑)。基本は楽しくやりたいと思っています」
山本「前回は、2つのチームをあえて全然違う色にしようと言っていました。もちろんメンバーが違うので必然的にそうなるとは思うんですけど、それを僕も演じる方も楽しんでいこうというふうに取り組んだので、全く違う作品になりましたね。今回はどうするか、南くんと相談しながら決めていきたいです」
南「役者さん本人が持っている魅力と、役柄の両方を活かした人物にしたいので、どうしても(チームそれぞれで)変わってくると思います。僕自身、自分が役に近づくより、役を自分に近づけるタイプなので、演出するときもそうしたいですね。例えば、主演の2人に役を近づけていきたいなと」
山本「オーディションに集まってくれた人たちも、とても良かったです。前回も若かったんですけど、今回はさらに若くなった印象でした。経験値に関しても、今回の方がよりフレッシュなイメージです。AUBE GIRL'S STAGEのコンセプトにどんどん近づいていっている感じがしますね」
今は“変化”が人を感動させる時代
――― まだまだ始まったばかりのAUBE GIRL'S STAGE。そこにはいくつものチャレンジが織り込まれているように見える。
山本「そういう(=挑戦する)方向に仕向けているっていう感じです。南くんも、演出は2回目ですけど基本的には役者なわけで、そんな彼があえて演出するとどうなるんだろう?ってチャレンジでもあります。キャストの皆さんに関しても、AUBEではいつもと違った役に挑戦してもらったり。そうやってみんなにハードルを作って、団体のパワーでグッと押し上げていく面白さというのは、目指しているところのひとつですね」
――― そんな山本の思いが『ざわつくから叫んでみたんだ』ではどのように結晶するのか、とても楽しみだ。最後に改めて、それぞれの意気込みを聞いた。
重元「女の子だけの舞台で、経験の少ない若い子たちも多いですけど、お話としてはすごく考えさせられる部分があると思います。パワーのある作品になるよう頑張りますので、ぜひ来てください」
小板橋「Wキャストのどちらのチームも個性的で、きっとそれぞれの違いがたくさんあると思うので、両方とも観ていただきたいです。私もフレッシュな気持ちを思い出して、みんなと楽しみながら頑張ります。ぜひ同じ空気を共有できたらいいなと思いますので、よろしくお願いします」
南「やっぱり十代、二十代って迷う時期じゃないですか。そういう年代のキャストが一生懸命いいものを作ろうとしている姿をお客さんが観て、何か元気になれるというか、この子たちこんなに頑張ってるとか、こんな若いのにこんなものができちゃうんだ、っていうところにもっていきたいと思っています。だから今、ちょっと迷ったりとか、元気ないなっていう人には特に観てもらいたいですね。この作品を観てよかったな、私も俺も頑張ろうって、絶対思ってもらえる作品にします」
山本「皆さんが言った通り、若い子たちのパワーや純粋さ、未来に向かっていくエネルギーが大きな見どころです。もちろん将来に対する不安もいっぱいあって、でもそれを抱えながら、強い希望を持って壁を破っていくところを見てもらいたいですね。
あと、演劇っていうのはテーマが大切だと思うんです。それを例えば“普遍”と“変化”に分けるとしたら、僕は“普遍”をテーマにしていた時期もあったんですけど、今は“変化”だと思うんですね。変わりたいとか、変わっていこうとする姿に、人は感動したり惹かれていくんじゃないかと。
今回、人工知能をテーマにした理由もそうですし、こうして若い子たちを見ていても、僕たちが彼女くらいの歳だったときとは全然違って、ものすごく素直になっている反面、どんどんネガティブな面も増えてきている。それを作品にもっと反映させないといけないと思うんです。この演劇界の中でどういう舞台を作っていくかということに関しても、このままでいいのか、もっと変わっていきたいと僕たちは思っているので、そこをぜひ観てほしいですね。若いお客様から、割と演劇を観慣れているお客様まで、どちらも楽しんでいただける作品になると思います」
(取材・文&撮影:西本 勲)