約一年ぶりとなるツアーで、全国を回る早乙女太一。12/17(水)には、調布市グリーンホールでの公演が行われる。一部では女形、二部では芝居・時代人情剣劇、三部では舞踊ショーとまったく異なる三つの世界を見せ、観客を魅了する。 さまざまな作品に出演し、役者としての幅を広げている彼が目指すところとは――?(取材・文:木下千寿 撮影:新保圭子)
――― 公演の準備には、どういったところから携わっているのでしょう?
早乙女:今回のツアーは、僕が曲を決めて、振付をして、とほぼやらせてもらっています。たとえば芝居は昼と夜、また日ごとでも演目が違い、同じ演目は一回しかやりません。テーマは、「舞台に立ったとき、今まで磨いてきた芸をどれだけぶっつけで出せるか」。役者がその日その時の一瞬にすべてを賭けて、できることを全部やるというのを軸に作っています。
――― 今回、そういうテーマでやろうと思った理由は?
早乙女:大衆演劇は、一日2回公演をやって、終わったら次の日の稽古を夜中までやって、前日と違う演目をやって、また次の稽古をして……っていう流れなんですよ。そういう形に近いようにやりたいなと思って。それも稽古を重ね、技術を身に着けて舞台に出るというより、役者が何も持たず、真っ裸の状態で舞台に出たときに、どれだけできるかっていうようなことをしたかったんです。
――― 女形を演じられるときと男役をやるときで、気持ちの面に違いはありますか?
早乙女:女形をやるときは「無」の境地に行くというか、生きている感じや人間味を消せるように心がけています。それは、男役にはない心の持ち方ですね。白塗りだし、セリフもないので、良くも悪くもその日の自分の心の状態がすべて空気となって出てしまう。そういう点で、女形は“空気を作る”というのが難しいなと思います。
――― さまざまな舞台にも出演されていますが、その経験から得たものはありますか?
早乙女:どの作品でも、公演が終わったときには必ず、今まで知らなかったことを学べているんですよね。舞台を重ねることによってそれが自然に体に染みついていて、裸になって舞台に出たときに、そういう部分がふわっと出てきたり、「あのときの芝居の感覚でやってみよう」と思えたり、引き出しが増えてきているなと思います。
――― 2014年の出演で、印象に残っているのは?
早乙女:劇団新感線の『蒼の乱』です。新感線には『蛮幽鬼』、『髑髏城の7人』と出させていただいたんですが、本当に好きで尊敬している場所だから、二作目までは毎日ずっと苦しくて。でも今回は、「言われたことにすぐ反応できるようにして、考え込まずに楽しもう」と心がけました。「ダメかもしれない」と思ってもやってみたら、演出のいのうえ(ひでのり)さんが「それ、もっとやっていいよ!」と言ってくださったりして、すごく楽しかったです。自分の劇団だったら、捨て身でチャレンジできても、外の場ではチャレンジするのが怖かった。その殻を破れたのが大きかったですね。
――― 調布市グリーンホールでの思い出があれば教えてください。
早乙女:実は前回、公演の稽古中、木刀で鼻を折ってしまったんです。固定するためにスポンジを鼻の奥まで入れられていたんですけど、そのせいで鼻水がすごく出るんですよね。鼻をすすりながら動かなくちゃいけないし、舞踏でクルッと回ったときにスポンジが飛んで行ったりして大変だったのが、調布でした(笑)
――― 公演を楽しみにしていらっしゃるお客様へ、メッセージをお願いします。
早乙女:今までのツアーとは雰囲気が全然違うと思いますし、気楽に見に来てほしいです。大衆演劇ってもともとは、ごはんを食べながら、お酒を飲みながら見ていただくようなもの。それにできるだけ近い感覚で見ていただけるよう、お客様との距離を縮めて、会場が狭くなればいいなと思っています。