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吉原光夫


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ふたりの弟・柳下大と太田基裕と共に紡ぐ、新しい兄弟の絆。

兄の背中越しからしか見えない弟の姿がある。吉原光夫が挑む2度目の『手紙』。

徐々に開幕のときが近づいてきた2017年版・ミュージカル『手紙』。その中で前回から引き続き出演する数少ないキャストのひとりが、兄役の吉原光夫だ。「演じながら壊れてしまいそうだった」と振り返る2016年版から1年、再び殺人を犯してしまった兄・剛志を演じる。しかも、今度の弟は柳下大と太田基裕のWキャスト。いったいどんな兄弟像が舞台に立ち上がってくるのだろうか。


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新しい弟と『手紙』をやることの意味を見つめていく。

――― 前回の『手紙』を演じるにあたって、吉原は獄中の兄・剛志が弟・直貴に手紙を書き続けた理由について「ただ自分の孤独とエゴのためにペンを走らせている方が、よっぽど人間らしい」と話した。果たして実際に役を自分の肉体に沁みこませてみて、吉原の内面にはどんな変化が生まれたのだろうか。

「言いましたね、そんなこと。どうだろう。それだけじゃなかったというのが、正直なところかな。半分は自分のためだとは思うんですよ。でももう半分は、弟のため。まあ、弟のためにやったことが自分のためにはなるんですけど。弟のことが愛しくて心配で仕方ないという気持ちもあるだろうし、弟から返事が来ることで自分の明日が新しく見えるところもあったと、演じながら感じていました」

――― そんな兄弟のつながりをリアルに感じられたのは、相手が三浦涼介だったことも大きいだろう。吉原自身、三浦との関係を「本当の兄弟みたいになっちゃったんですよ」と振り返る。

「本当に喧嘩したり、リアルだったんですよね、すごく。僕らふたりとも役を突きつめるあまり日常でも壊れそうになっていた。きっと周りの出演者も、僕らふたりが舞台に立つたびに、互いを引っぱり合う力が膨らんでいったのを感じていたんじゃないかと思う。
 でも、それは相手が涼介だからできたこと。今回、新しいふたりの弟に同じ公式や法則、色彩を求めていくこと自体、違うと思う。だから、またふたりとの間に、このふたりと『手紙』をやることの意味を冷静に敷きつめていきたいと思っています」


『手紙』には普通の演劇にはない、“ロック”がある。

――― 演出の藤田俊太郎とは、これで4度目のタッグとなる。進境著しい成長株を、最もよく知っている俳優のひとりが、吉原と言えるだろう。

「彼は、ある意味裸なんですね。常に一切取り繕うことなく、そのままをさらけ出す。僕の言ったことに対して納得がいかなければダダをこねるし、納得がいけば急に意見も変わるし。まるで玩具を与えた子どもみたいになる瞬間が度々あるんです。そういう演出家がいるということは、僕にとっては希望ではあります。
 ただ同時に、ひとりの演出家として見れば、まだまだ未熟。厳しい言い方になりますが、今の藤田俊太郎という演出家は、あくまで蜷川(幸雄)さんのところで10年演出助手をやってきたということだけ。その立ち位置を蜷川さんも望んではいないだろうし、彼自身が早くそこから脱却しなくちゃいけない。僕にしても藤田にしても、若手と言われながらも、もう次の世代に演劇をつないでいかなきゃいけない立場に差しかかりつつある。いつまでも同じようなところで足踏みしているかけにはいかないし、もっと先へ進まないと」


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――― だからこそ、稽古場では時に緊張感が漂う場面も起こり得る。

「僕も俳優として彼と惰性で付き合っていく気はありませんから。常に勝負をしていく気持ちはある。藤田は優しい人間なので、稽古場でも何とか全員を底上げしようとするんです。けれど、時にその作業のせいで、本来の演出家の役目である旗振りとしての仕事が疎かになってしまうことがあった。
 そんなときは、僕も怒ります。なぜなら、道標を立てることが彼の仕事。それを放棄しているわけですから。逆に僕が演出家の求める色を出せないときは、それは僕の怠慢なので、どうぞ怒ってもらって構わない。藤田とは、そういう関係でありたいと思っています」

――― そうした健全なディスカッションができる現場は決して多くない。この『手紙』は、吉原にとってそれができる数少ない作品のひとつだ。

「俳優がものを言うのはおかしいというのが日本の風潮ですが、海外では当たり前のこと。日本では、俳優というのは極めて弱い立場なんですね。だけど、この『手紙』はそれぞれの間に信頼関係があるから、ディスカッションができる。いわゆる商業演劇らしくない、“ロック”な現場だと思っています。僕は今、自分の劇団でロックしていく機会がなかなかないので、こんなふうに自由にエネルギーを放出させてもらえる『手紙』は貴重だし、刺激的です」


弟を描くためには、兄を描く必要がある。

――― 2017年版の『手紙』では、前回から脚本・演出・音楽のすべてが大胆に変更されるという。一度出来上がったものを敢えて壊すということは、クリエイティブの面でも興行の面でも強い勇気が求められる。

「楽にお金を生み出そうと思えば、前回やったことをそのままキャストだけ替えてやった方が断然効率的でしょうね。でも、ここにいる人間は誰も楽をしたくてこの仕事をやっているわけじゃない。僕も簡単な再演だったら乗り気にならなかっただろうと思いますよ」

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――― 2017年版『手紙』の大きな特徴は、他でもない吉原演じる兄・剛志の描かれ方だ。

「この作品に入ると、お守りのように東野(圭吾)さんの原作を読みます。もう50回くらい読んでますが、毎回新鮮に読めるんですよね。その中で改めて実感するのが、原作では“兄のことは描かれていない”ということ。弟について読んでいれば、おのずと兄が見えてくるようにできているんです。それを今回のミュージカル『手紙』では敢えて兄の存在について深く描いてきます。たとえるなら、本を後ろから読んでいくか、前から読んでいくか、そういう違いではないかな、と」

――― それは、2016年版の『手紙』で目指すところに到達できた手ごたえがあるからこそ生まれた、表現者たちの飽くなき探求心だ。

「殺人犯の兄を持った弟の心情を理解するには、彼の視線だけをいくら掘り下げても届かない。なぜなら、自分のために人を殺した兄を持つ彼のような立場は、石を投げてもそう当たらないマイノリティだから。それを今回は獄中の兄の目線を際立たせることで、観る人がよりクリアに想像できるようにするつもりです。牢屋の中にいる兄の背中越しにしか見えない弟の姿をくっきりと浮かび上がらせることができれば」


日本には『手紙』のような国産ミュージカルが必要だと思う。

――― それだけ演出が変わり、役者も変われば、楽曲が変わるのも必然と言えるかもしれない。特に音楽監督の深沢桂子は演じる役者の感情に重きを置き、その意見を柔軟に取り入れてくれる作曲家だと、吉原は敬意を示す。

「おけいさん(深沢桂子)は人の感情に対して、とても寛容なんです。芝居の心情によっては、この歌の入り方では入れないという場面は少なからずあります。僕らがそう言えば、おけいさんはその意見について決してノーとは言わない。稽古の中でどんどん音楽も変化していくんです。本来音楽は人の心理を扱うもの。だからそうあるべきなんですよね。ただ、海外から輸入したミュージカルの場合、契約の関係上、それが不可能なだけであって」

――― 多くのミュージカル作品で活躍する吉原だからこそ、その言葉には説得力が増す。

「それができるのが国産のオリジナルミュージカルの良さ。絶対にもっとたくさんの人が国産ミュージカルをやった方がいい。英語と日本語では語感も違いますし、歌う人間も感情の流れがまるで変わってくる。日本語に合わせてつくられた国産のオリジナルミュージカルの意義は大きいと思います。そうずっと声をあげ続けてきたのが、ミュージカル『手紙』の生みの親である(高橋)知伽江さんであり、おけいさん。僕らはこの『手紙』を決して奇跡にしちゃいけない。日本には素晴らしい音楽がたくさんあるんだから、もっと世界に向けて発信していく時代をつくらないといけないと思っています」

――― そう静かな熱をたぎらせた。後年振り返ったときに、国産ミュージカルの系図にこの『手紙』ははっきりと刻まれることになるだろう。それも、ひとつの重要な記念碑として。


(取材・文&撮影:横川良明)

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PROFILE

吉原光夫(よしはら・みつお)のプロフィール画像

● 吉原光夫(よしはら・みつお)
1978年9月22日生まれ。東京都出身。1999年、劇団四季に入団。『ジーザス・クライスト=スーパースター』『ライオンキング』などのミュージカルで、その才能を世に知らしめる。07年、退団。09年、ArtistCompany響人を創設。以後、響人本公演すべてに出演する一方、UNDERGROUND公演を中心に演出も担当する。2011年、帝国劇場開場100周年記念公演『レ・ミゼラブル』において、日本公演の歴代最年少となる32歳で主演ジャン・バルジャン役を演じる。16年は、『手紙』の他、『グランドホテル』『ジャージー・ボーイズ』などのミュージカルに出演する一方、『幽霊』『扉の向こう側』などストレートプレイでも活躍。