和太鼓の魅力・イメージといえばどんなものを思い浮かべるだろう?お祭りで見る日本の伝統としての太鼓、打つ瞬間の大きな音や衝撃、打つ人の筋肉やポーズの美しさ…。辻勝によると、一番の魅力は「楽器として」の太鼓のだす音の素晴らしさだという。独立して1年。市川海老蔵主演の『石川五右衛門』『座頭市』等の舞台で活躍する辻が、元鼓童の仲間と自らの新しい本拠地である武蔵野で自主公演を行う。
当初、3人のインタビューが予定されていたが、諸事情によりTAHは当日欠席、2人のインタビューとなった。 ――― 独立されてから、初めての公演とお聞きしました。
辻「鼓童を辞めて初めての自主公演を、大好きな武蔵野で一周年記念という形でやらせていただくことになりました。実は辞めた後すぐは太鼓から離れてもよいと思っていました。そんな時に和太鼓スクールで講師のお話をいただいて、教えることで太鼓に関わっていましたが、教えることは楽しみつつも、何が何でも太鼓で舞台に立ちたいとは思っていませんでした。
時々、昔からの仲間に声をかけてもらい舞台に立つ機会を持つうちに、太鼓の魅力について自分の中で新しい意識が芽生えていきました。よし、じゃあ太鼓でやっていこうと決めてから、教えることと舞台をやることのバランスがあったほうがいいなという気持ちがでてきて、今回初めて自主企画としてやる決意をしました」
――― 共演するのは鼓童の研修生時代の仲間。一人はコンテンポラリーダンスでの演奏など世界で活躍する篠笛奏者の阿部一成。もう一人はプロ和太鼓プレイヤーとして活躍するTAH(たー)こと西野貴人だ。
辻「阿部は研修生の同期、西野は一個上。近い世代の中で私生活も含めてずっと一緒にやってきました。鼓童を辞めてからは、それぞれの道に進んでいきました。辞めてからは同じ舞台に立つことはほとんどなかったのですが、それぞれの積み重ねてきた経験がある。この年齢になって一緒にやったら面白そうだと思って声をかけました」
阿部「自分は14年鼓童にいた後、四国に行きました。愛媛の新居浜が私の生まれ故郷で、30代になった時に自分のルーツである場所に住みたいなというのがあって、そちらに移り住みました。最初はその周辺の活動だったのが色々とお誘いをいただいて、最近ではヨーロッパでコンテンポラリーダンスの作品の中で演奏させていただいたりしています。移動もだいたい関西からなので、関東に来るのが本当に久し振りです(笑)」
――― 脱退後はそれぞれの道で新しいことに挑戦してきた3人。
辻「11月に歌舞伎の舞台に立たせていただきました。外から見ると、太鼓と歌舞伎は伝統芸能というイメージで近いと思うのですが、自分としては全く新しい経験も多く、わからない事ばかり。けれど、踊りや三味線の方達と共に音を作り上げていく作業がとても楽しかったです。鼓童のメンバーとしてオーケストラと共演したりもしましたが、ジャンルの違う演奏家の方々とどういう表現が出来るかに挑戦するのが楽しく、印象に残っています」
阿部「私も歌舞伎の舞台で少しだけやらせていただいたことがあるのですが、共演者に挨拶するタイミングさえもいつ行っていいかわからなかったのを覚えています(笑)。まったく違う世界の人とやるのってとても苦労するけど、新しい世界に触れることって大事だし楽しい」
辻「独立する際に意識していたのは、お世話になった方に頂いた『不自由なところに身を置く』という言葉なのですが、自分で新しい場所に行ってみる、未知の世界に挑戦してみる、新しいことから受ける刺激によって太鼓の表現力が広がっていくのだと思っています。一度出演から距離を置いた事で、太鼓の可能性に気付きました」
――― 和太鼓と篠笛。それぞれの魅力はどういうところなのでしょう?
辻「日本人にとって、伝統的な和太鼓のイメージというものがあると思います。そのイメージの一部であるお祭りの太鼓も素晴らしいし好きなのですが、楽器としての太鼓も好きで、音楽としての太鼓の表現を高めていきたいという思いがあります。北海道の出身なのですが、鼓童に入って初めて太鼓に触れ、楽器としての和太鼓の魅力に惹かれました。太鼓はアタック音が強いので、そこばかり気になってしまうけれど、実は銅鳴りの長さが重要です。その長さをコントロールすることで演奏するのが楽しいし、聞く人もそこから生まれる響きを体全体で感じることができて楽しくなるのだと思います。
あと、太鼓は数ある楽器の中でも周波数の幅が広く、特に低音は群を抜いているそうです。聴覚に障害がある方の前で演奏する機会があったのですが、太鼓を聴いて気持ちが良かったという感想を頂きました。耳が聞こえなくても楽しいというのは、振動として感じる領域が広いということだと思います」
阿部「笛の魅力は息をそのまま音にするところです。作りはシンプルなので、吹き手の息遣いによって音色が変わるというところが魅力。太鼓も同じでしょうけど、人がすごくでる楽器だと思います」
――― しばらく一緒にやっていなかったというところでのやりにくさはないのでしょうか?
辻「十数年一緒に演奏していた中で育まれた共通の感覚があるので、細かい話し合いは少ないと思います。見せ方ひとつとっても共通理解があるのは楽で愉しいですね。音の出し方ひとつで違いが出る訳ですから。その共通理解の上にそれぞれの経験から引き出されるものがプラスαであって、あれもできるこれもできるという感じです」
阿部「根っこの部分は同じなのでやりやすいですね。ただ、同窓会的にはしたくない。今の自分たちから生まれてくるものを表現していきたいなと思います。今回、自分の笛の曲もやる予定なのですが、自分の曲に太鼓をつけてもらうときに、イメージしやすい太鼓の音とは違う部分が見えると思います。そういう太鼓の新しい音の可能性が提示できたらいいなと思います。笛と太鼓が合わさると、浄化の力が働くと思います。お客さんが聴いた後になんだかすっきりしたというふうになれば良いなと。笛だけでもできるけど太鼓の力が助けになる」
辻「逆もそうですね。笛があることで太鼓の音が引き立ちます」
――― 最後にカンフェティ読者へ一言お願いします。
阿部「西野が鼓童から離れてからは一緒に演奏にしていないのですが、楽しみ。彼は熱い人間なので(笑)。辻はナチュラルな人ですべてを受け入れてくれる、まるで出身地である北海道の大地のような存在です。今回久し振りに会いましたがそこは変わっていないなと思いました。私が辞めてからの鼓童ではきっと辻が引っ張ってきたので、さらにそういう部分が強くなったのかな。お客さんには何か風景を感じてもらいたいですね。私たちが思い描いている風景と同じでなくても良い」
辻「西野はスイッチを押したらポンっとでてきそうな人で、実際そういう音を出しますが(笑)、他の演奏者のソロを引き立たせてくれる技術も抜群です。自分は我先にというタイプではないし、阿部はお互いに話しをしたり演奏していくなかで探りあっていくことができる仲間。だから性格の違う3人が集まるとすごく楽しい。舞台ではお互いに良いところを出しあって、お客さんには音からいろいろと想像力を掻き立てさせられる演奏をしたいです。太鼓と太鼓、太鼓と笛の音の重なりを楽しんでもらいたいですね」
――― それぞれ別のステージで活躍してきた3人が合わさり、奏でる音色。その音の響きが私たちにどんな景色を見せてくれるのか今から待ち遠しい。
(取材・文&撮影:菅原康太)