本年末に劇団結成十周年を迎える企画演劇集団ボクラ団義が約三年ぶり、3作目の新作時代劇を上演することが決定した。舞台は戦国時代。武将の手紙を代筆する職業であった右筆と、その手紙を運び続けた者たちを描く。カンフェティでは、舞台の作・演出の久保田唱、出演の沖野晃司、竹石悟朗、平山空に話を聞いた。
――― 約3年振り3作目の時代劇とのことですが、今回は、どんな舞台になるのでしょうか。
久保田「タイトルに『梟雄と呼ばれた男 右筆と呼ばれた男』ってあるんですけど、梟雄というのはダークヒーローみたいなもので。戦国の三大梟雄って呼ばれてるものの一人に、松永久秀という人がいるんですが、歴史好きの人じゃなければあまり知らないかもしれないですが、歴史好きな人なら『ああ!』という存在なのではと。その松永久秀が織田信長に攻められ、自分の城に立てこもった一日と、そこに至るまでのことを、過去や彼に関わった様々な人物の目線を交えながら描きます」
――― その一日に何があったんですか?
久保田「信長から、とある茶器をよこせば許してやると言われたのに、その茶器に火薬を詰めて、茶器もろとも爆死したとも言われているんですね。ネットで調べるとすぐに出てきますし、それが事実かはさておき、とにかく「日本で初めて爆死した人」としても知られているんです」
――― それはインパクトがありますね!他にはどんな人物が登場するのでしょうか?
久保田「タイトルに右筆ともあるんですけど、右筆というのは、戦国時代で武将がしゃべったことを手紙に記した、書記のような職業なんです。松永も実はかつては三好長慶という武将の右筆だったんですけど、この時には自分が右筆を使う立場になっていまして、その松永の右筆を務めた人物を、沖野晃司が演じます。竹石悟朗はある時期からその松永久秀の手紙を運び続けた人物、つまりはその手紙の内容を全て知っている人物を」
沖野「自分が演じる役は、いろんな画策ができる役ですよね。手紙を代筆するわけですから」
竹石「それも、自分のためなのか、正義のためなのか、欲のためなのか、いろいろありそうですよね」
久保田「キャッチコピーに『聞いたままを書くのがそなたの仕事、そのまま書くか決めるのもそなたの仕事』ってありますからね。基本的には、聞いたままを書くのが右筆の仕事なんですけど、その手紙を書き続けた男は何を知っているのか、書き換えた事実はあるのかってところが重要になると思います。でも沖野くんは、松永のことを実はよく知ってるよね」
沖野「そうなんです。今も共演していますから(笑)。ちょうど今『戦国BASARA』に出ていて、そこにも松永久秀、いらっしゃいますね」
――― そうだったんですね。
沖野「やっぱり暴れん坊がいたほうが面白いですからね」
久保田「事実はともかくとして、現代に伝わっている、というか松永久秀を知っている人の認識では、彼はかなりの悪で(笑)、ちなみに、当時彼が亡くなったときは、地元の民が祭りをしたと言われているほどなんです。「梟雄」って「梟(フクロウ)が字に入ってますよね。悪鳥のイメージがある「梟」から、自分の利益のためには、身内すら殺すのもいとわないが、引き換えに大きなことを成し遂げるダークヒーローとして「梟雄」という言葉になったらしいです。三国志の時代から言葉自体は使われているらしいです」
――― 平山さんが演じる松永の妻はどんな人物なんでしょうか?
久保田「松永を見続けた人なんですけど、実際にはあまりその人生は明らかじゃないんですよ。ただ、松永は奥さんが亡くなった時は葬儀を盛大にしたそうです。それに、何があっても驚いたり怖がったりしない松永でも、呪術師に死んだはずの奥さんを甦られたときは、『勘弁してくれ』って言ったそうなので、それくらい恐妻家だったのかもしれないですね」
――― どうして今回の題材を選んだんですか?
久保田「秀吉と同じような出自の松永が、なぜ主家をのっとれるような梟雄になれたのか、そして松永の右筆や、手紙を運んでいた人は何を見ていたのか、本来だったら右筆が手紙を書き換えることってありえないし、不可能なことなんですけど、それを書きたいなと思いました」
竹石「そういうありえないことをなんとかするトリック、久保田さんは好きそうですね」
沖野「今まで絶対にありえないことを書き続けてきた人なので」
久保田「過去にもそういう公演があったんです」
竹石「過去の公演では織田信長や坂本龍馬の暗殺のトリックも書いてきていて……」
平山「久保田さんは完全犯罪ができますね(笑)」
久保田「めったなことを言うもんじゃないよ(笑)」
――― 時代劇というと、立ち回りを想像しますが、そのあたりはどうなっているんですか?
竹石「時代劇っていうと、大立ち回りがあって、立ち回りに次ぐ立ち回り!って感じの舞台を想像する方も多いかもしれないんですけど、そういうだけでもないんですよね。例えば、刀を抜くには必ず理由があるはずだし、その人、一人一人の人生があるわけだから」
久保田「もちろん立ち回りはありますし、出演者も立ち回りの得意な人も多いけれど、それだけではなくてドラマを作ってくださる方ばかりですね。舞台の中でも、そのときに合戦は起こっているんだけど、会話を重ねた上で闘いが起こることのほうが、意味があるだろうと」
――― そして、舞台の中では、松永が主役というわけではないんですよね。
久保田「松永は中心ではあるけれど、その周りの人を描くことで、松永の最後の瞬間までの経緯がわかるのではないかと」
――― 演じられる三人は、どんな舞台にしていきたいですか?
沖野「戦国時代の作品って、テレビでも舞台でもありますけど、その中でも久保田さんの書く作品は良い意味で独特だし、エンターテイメントでもあり、歴史がそんなに好きじゃない人であっても楽しめる作品だと思います。だから、その中で知らない武将が出てきたとしても、見終わって、こんな人がいたんだって思えると思います。僕も、その時代のことを、調べられるだけ調べて、後は久保田さんが書く台本に従って、新しい人物像を作るくらいの勢いで、がんばろうと思います」
竹石「劇団員としては、劇団で時代劇を作るのは三作品目なんですけど、これまでの時代劇も再演をやっているので、今回の新作も、再演を期待されるような作品にしないといけないと思って、気持ちが入っています。プレーヤーとしては、人には表舞台に立って矢面に立つタイプの人もいれば、その中で動き回って、中身を作っている人もいますよね。この舞台の中で演じる役も、動き回っている人なので、現代社会で働いてる人と同じように、いろいろな思いを持ってると思うんです。だから、歴史上こうだったというよりは、その時代に一生懸命生きた人の人間ドラマを演じられたらと思います」
平山「私は歴史が苦手で、基本的に授業でも寝ちゃってたんですけど(苦笑)。ボクラ団義では、三回目の時代劇です。いつも説明の段階ではわかんないんですけど、最終的にはそういう私でも楽しめる舞台に今まで必ずなってます。だから、歴史の苦手な人にも見に来てほしいです」
――歴史を知らないからこそ、その時代を舞台にした人間ドラマとして見られそうですよね。
久保田「そうしてほしいと思いますね。歴史的に有名な人ばかりが出てくるわけではないけど、『こんな人いたんだ』と楽しんでもらいたいし、こんな出来事があったことで、織田信長の時代に移行していったのかと思ってもらえたら、なんて。それから、今年の12月で『ボクラ団義』は10周年なんですね。人によってはボクラ団義って「時代劇集団」ていうイメージを持っている方もいるみたいですが、実はこの10年でこれが3作品目なんですよ。今年は象徴的な年なので、こういう新作もやりつつ、会話劇も大事にしたいなと思っています。10年目の年にこの時代劇をやるということは、それが今の形なんだよということでもあるので、ぜひ見ていただけたらと思います」
(取材・文&撮影:西森路代)