恵比寿駅東口から徒歩5分ほどのところにあるBAR・Starsで毎週末に『スターズ☆シアター』という芝居イベントを行いながら、年に2回、劇場でも公演しているエンターテイメントコミュニティ、LOVE&ROCK。その劇場公演で2012年の舞台『星降る夜に』から続いてきたシリーズが、10作目の新作『宇宙SORA』で最終章を迎える。
旧約聖書やギリシャ神話、史実やSFファンタジーなどを下敷きにした世界観のもと、繰り返される争いと普遍的な愛を描いた壮大な物語だ。作・演出を務める原口勝と、原口作品の多くに出演している有馬芳彦、今回初参加となる玉川来夢の3人に、シリーズの区切りとなる重要作への思いなどを話してもらった。
これで終わるのか、という寂しさもありつつ
――― 初めから、10作でひとつの大きな物語を描いていこうと考えていたのでしょうか?
原口「いいえ。最初に劇場で『星降る夜に』をやったときは、その1回で終わるはずでした。普段はBARを営業しながら毎週ここで芝居をやっているので、正直なところ、劇場を借りて公演する時間がなかったんです。でもやってみたら意外と反響が大きくて、もう1回やってもいいかなと思って生まれたのが2013年の『虹の彼方へ』。そうしたらまた反響が大きくて……同じ年にやった3作目『河の流れは』から、さらにストーリーを膨らませてシリーズものにしたら面白いなと考えるようになりました」
――― それが今回の『宇宙SORA』で、1つの区切りを迎えると。
原口「去年の『雨音』と今年5月の『朧雲』では、第三次世界大戦が起きて地球上の文明が一度リセットされ、ようやく生き延びた人類が新しい文明を築こうとする中で、また性懲りもなく争いを始める愚かな物語を描きました。今回はそのリセットから約120年後、“果てしない海”の向こうの理想郷=アルカディアに集まるさまざまな人たちの群像劇になる予定です。終わってしまうのか……という寂しさもありつつ、実は、その先のアイデアも考えているんですけどね。まさにライフワークです」
――― 有馬さんはどういう縁でLOVE&ROCKの舞台に出演するようになったのですか?
原口「東宝芸能にいた頃に共演させて頂いた大先輩にずっと可愛がってもらっているのですが、有馬くんの師匠の先輩でもあるんです。それで紹介されたのがきっかけでした」
有馬「僕はもともとイベント製作などの仕事をしていたんですけど、たまにドラマ班の仕事に駆り出されることもあって、芝居の現場に接してはいました。会社を辞めてから自分でも芝居をやりたいなと思っていた時に師匠の紹介で原口さんに出会ったのがきっかけです」
原口「彼は若くて芝居もしっかりしていて、大衆演劇で言うところの“花形”だと感じたので、自然な流れでメインキャストとして出てもらうことになりました」
有馬「ストーリーテラーのような役回りで、ほぼ舞台上に出ずっぱりなんです。BAR公演のときから出ていたので、これを劇場でやれるんだ、という喜びがありましたね」
予想もつかないところへ膨らむストーリー
――― そして、玉川さんは今回LOVE&ROCKの作品に初めて参加されますが。
玉川「初めて参加する団体さんで、しかも10作目という大事な作品なので、しっかり貢献できたらいいなと思います。ストーリーも未来のお話ということで、どういう展開になるんだろうって想像が膨らんで、ワクワクしています」
――― これまで玉川さんが出演してこられた舞台も、想像の世界を描いたものが多いですね。
玉川「確かにそうですね。創造の世界のお話って、私だけじゃなくてみんなで作っていくイメージがあります。やっぱり、楽しみというのが一番大きいですね」
原口「彼女はエスペランサ・ペインという役です。去年の『果てしない海』で生まれた子どもが成長した姿。父親のリアン・ペインは革命に巻き込まれて殺されてしまいましたが、死ぬ間際に部下に託した名前がエスペランサ。スペイン語で“希望”という意味の名前で、どのような活躍を見せてくれるかはお楽しみに。そして、まだ赤ん坊だったエスペランサと母親のシャーロットを連れて、理想郷であるアルカディアという国に渡ってきたのが、有馬くん演じるシンスケ・K・コルソー。彼は鬼の末裔で、エスペランサと共にストーリーの中心になっています。そのアルカディアでは、正木慎也さん演じるマスター・キエフが徹底的な思想管理のもとで自分の理想郷を作って支配している……(以下、物語の説明が続く)」
有馬「原口さんの考えるお話はいつも予想ができなくて、台本を受け取るまで何がどうなるのか一切わからないんです。毎回驚きがありますね」
原口「もちろんセオリーどおり起承転結があるんですけど、プロットを書いているうちにどんどん世界が動いて、そこから見えてくるものを書いている感じ。ほとんどはひらめきです。前に起きた出来事が、実はこういうことだったのか!というのを、書いていて後から気づくこともあります。自分で作ったものなのに(笑)。今回のラストシーンはだいぶ前からできていて、そこに向かう話を書いています。でも普通に終わらせるのは嫌なのできっと変化するはずです(笑)。楽しみにしていてください」
感覚で楽しめるエンターテイメントに
――― 過去の作品から繋がる部分が多いということで、初見の人がついていけるのかどうか気になるところですが。
原口「毎回、初めて出演する人の意見をたくさん取り入れるようにしています。僕や有馬くんのようにずっと出ていると、いろんなことが当たり前になっているから見落としてしまうんですね。今回で言うと玉川さんのような人に意見を聞いて、これちょっとわからないよねっていうところには説明を加えて、初見の人に優しくなるようにどんどん書き換えていきます。けっこう詩的なセリフもあるのですが、それを噛み砕いたり、耳で聞いてわかりやすい表現に変えたりすることも多いですね」
――― そんなLOVE&ROCKの作品に参加する面白さを、有馬さんはどのように感じていますか?
有馬「やっぱり、原口さんが何を起こしてくるのかわからないという面白さがあります。だから自分にとっては最優先事項だし、特に今回は今までの集大成的なエピソードなので、何があっても出ると決めていました。映像の仕事も舞台もあまり分けて考えてはいませんが、やはり生は怖いですね。今までも怖い思いをたくさんしましたが(笑)、それがライブの面白さでもあって、そういう意味では舞台はとても楽しい場所です」
――― 玉川さんはアイドリング!!!時代からいろいろな舞台に出演されていますね。
玉川「お客様の反応がその場でわかるのが、一番好きなところです。あとは、だいたい1ヶ月くらいかけて稽古をして、そこでみんなで協力しながら作ったものをお客様に見せるという、その過程もすごく好き。本番に向けた期間をどれだけ大切に過ごすかによって、本番も変わってきますから。お芝居で自分じゃない誰かになれるところも好きです」
――― では最後に、来場者の皆さんにメッセージを。
玉川「初めて参加する私と同じ気持ちで観ていただけたらと思います。今まで出演した作品とは違う新しい世界観の中で、新しい私を観ていただけるのが楽しみです!」
有馬「自分の中でも集大成であり区切りになるのは間違いないので、今やれる最大限の力で参加するつもりです。創り上げたものが一番楽しい、面白いと思っているので、うまく形にできればいいなと思っています」
原口「作品の大きなテーマは“愛と平和の理想”になっています。劇中の音楽はメジャーバンドのレジェンドであるBUCK-TICKさんのマニュピレーター、横山和俊さんのオリジナル曲で、しかも生バンドで演奏していただきます。ダンスや立ち回りの要素もあり、感覚で楽しめるエンターテイメントとして絶対面白くなりますので、ぜひ劇場にお越しください」
(取材・文&撮影:西本勲)