脚本家・江頭美智留が立ち上げた劇団「クロックガールズ」の第15回本公演は、劇団旗揚げ当時に発表され話題となった『結婚の条件』を上演する。物語は結婚するには免許が必要となる、近未来のニッポンが舞台の社会派コメディだ。2017年版はTVドラマや映画で活躍中の女優・鈴木砂羽が主演を務め、さらに初の演出に挑むことで注目が集まっている。稽古場から出演者を代表して、鈴木砂羽、鳳恵弥、阿部みさと、牧野美千子に話を聞いた。
――― ただ今稽古中ですが、手応えはいかがでしょうか?
鈴木「皆さんの扉を開けていきたいという段階で、ひとりひとりにコンコンと今は色んなノックをしている状態です」
鳳「まだ手探りの状態ですが、クロックガールズさんの前々回の舞台『コメディカルナイト』、主演させて頂きました舞台『こと〜築地寿司物語〜』、ドラマ『あじさい』と続き、江頭先生の脚本でお芝居をするのは4回目です。先生の本は舞台、映像に関わらずお客様に投げかけるものが必ずあるので、それをしっかりお伝えできるように表現できたらと思っています」
阿部「うちの劇団はいろんな方がゲストで出演してくださいますが、女優として第一線で活躍していらっしゃる方をお迎えしたのが初めてで、とても刺激を受けています。メンバー一同、全てを吸収して本番に挑みたいという意気込みで挑んでいます」
牧野「この劇団に参加させていただくのは初めてです。皆さんは結婚したい役柄ですが、私は既婚で子供の親を演じますが、実生活でも適齢期の子供がいますので、他人ごとの様な自分事のような、でも近未来の物語なので、こんな結婚もあるんだなぁと感じながらお芝居を楽しんでおります」
稽古が進行し「演出家に向いているかもしれない」と手応えを感じている鈴木。
女優として第一線を歩んできたからこその挑戦だ
鈴木「(演出を)『やってみたいな』というより、『やるぞ』と思ってしまっていて、でもそう思っているだけではただの想いで実際に試さないと実現しないと。そういう気持ちが何年も前からありました。
実際に映像の監督を経験しまして、とても楽しくて。物づくりが好きなので、その中の一つとして演出もあるのかなと」
――― そして現実に主演と演出の同時進行になりました。
鈴木「私は実際偉そうなんです(笑)。意外と演出家に向いているかもしれない。言わないと進まないので、今は演出家としてこの芝居を良くするためだけを考えているので『言っていいんだ!』と開き直っています。
あとはみんなを統率して行かなければならないという大きな作業があるので、針をひと針ひと針縫って、最後にキュッとまとめあげる。今は針を入れている感じです。でも一人ではできないので、みんなの協力も必要ですから、その協力のひと針ひと針のステッチが効いて、作品としても完成度が高くなると信じています」
鳳「以前から砂羽さんの作品を拝見していたので、とても嬉しいです。砂羽さんの演技がとても好きなのでこの場にいます。普段から情がこもったお話をなさるので、人を思う気持ちに溢れた方だということを再認識して、しっかり受け止めてくださるので、これから稽古が進んでいく中で色々メモしながら勉強していきたいですね」
阿部「ドラマやTVの印象できっとサバサバしているのかな?というイメージでしたが、想像していた通りの方でした。女性の演出家さんというよりは男性の演出家に近い印象を受けました。毎日稽古が楽しみです」
牧野「強さや潔さはもちろん感じますが、時折される表情がとてもチャーミングで…」
鈴木「もうかえりたい!(笑)」
牧野「(笑)。とても可愛らしくて、そしてリスペクトしています。短い時間でも引き出しがポコポコ開いてきて、本当に稽古が楽しいです」
――― それぞれが女優・鈴木砂羽に魅かれ、刺激を受けながら距離を縮めている。稽古以外でもカンパニーで出かけ、交流を深めているそうだ。
物語は結婚に免許が必要な時代、その免許獲得のために試験に挑む姿が描かれる。
『結婚ってなんだ?大人ってなんだ?』
鳳「稽古の中で大人としての常識を話あったりしています。マナーや常識で普段かけているのではないかと思っていたことが、物語の中で出てきます」
牧野「私の役は結婚に免許がいらない時に結婚した世代で、娘が初めてその免許の為に試験を受けます。親目線で見ておりますが、生徒や先生がいて、そのやり取りがとても面白くて楽しめます」
阿部「江頭さんの描く作品のキャラクターは個性の強い人が多いので、脚本に負けないように今後役を作っていく中でどんどん味を出せるようにと思っています」
この出会いに感謝しています。
鈴木「江頭先生は脚本家として一流な方で、TVドラマでもたくさん書かれているように、きちんと最後まで提供していらっしゃいます。連続ドラマはとても大変な作業だと思っていて、今が旬のキャストがたくさん出てくるトレンドと時代を合わせて作っていくのが連ドラで、そのトップを走っていらっしゃいます。その先生が自分の世界観をもっと表現したいと思っている欲求がこの劇団ではないかと。
私は先生の劇団に興味があったんです。そして嬉しいことに劇団に呼んでいただいて、恐れ多くも演出をすると言ってしまい、今までは脚本家の先生は自分とはちょっと違う分野の人という意識があったのですが、いま同じ戦場で一緒に仕事をしているという気持ちがすごく強くなって、この出会いと運命にすごく感謝しています」
本作は劇団立ち上げの2008年に上演された作品で再演となるが、第15回本公演にしてターニングポイントになりそうだ。
来年の設立10周年に向かって、さらなるパワーアップが期待される
阿部「再演ではありますが、今いる劇団員は初めての作品です。10年近くずっと手探りで作り上げてきましたが、この3、4年で劇団として骨組みができた所で『このままではいけない、変わりたい』と思ったんです。大きな変化が欲しいと思った時に『鈴木砂羽さん』という存在ができて、とても縁を感じています。
実際いま稽古をしていて大きな衝撃を受けていて、劇団員みんなに刺さるといいなと。砂羽さんは大きな風で、今作は一つのターニングポイントになる機会ではないかと思っています」
――― では見どころや意気込みをお願いします。
鳳「いま持っている大人としての常識が間違っているのかもしれないと感じるところがある作品です。どんどんそこに感情移入して揺さぶられて欲しいなと思いますし、私たちも観ている方を揺さぶるような舞台にしていきたいです。ある騒動が起きるのですが、そこはお楽しみに!」
阿部「タイトルが結婚の条件ですが、それほど結婚の話ではありません。テーマに『大人ってなんなんだろう?』とあるように、色々なところにチクリと刺すような部分がありますが基本はコメディです。楽しんでもらって何か残れば嬉しいです」
牧野「個性的なキャラクターがいっぱい出てきます。観ているお客様たちがそのキャラクターに寄せてもいいですし、役者同士の掛け合いもあって、色々な楽しみ方ができる作品です。舞台は生き物ですから、本番でも進化すると思うので私も楽しみです。是非劇場にいらして頂きたいです」
鈴木「一つの作品を作る時に、発信している側は観にきている方のアンテナにひっかかるものを作らなければいけないと思っていて、それをどんな感性でどう見るかはお客様次第だと思っています。でも私がいまここで示唆するのは、こうした表現をやっていきたいとはっきり明確に自分で自覚をもってやることだと思っているんです。それを観ている方が『感動するかしないか、どう受け止めるかはかまわない』という覚悟です。
そして主演としては、ある女性の人生を描いているので、この女性の人生の価値観や自分のアイデンティティがどこにあったのか?ということを、観たお客様たちにどう感じてもらえるのかなというのが舞台の本命だと思っています。
映像作品は色々なグラフィティが入ってきて、その監督の感性がグラフィックに出てくると思っていて、それによって演者は監督の駒として動かなくてはなりません。
でも舞台はその中で生きていれば成立はするのではないか、そういう世界だから面白いなって思っています。そういう作品の世界を1つ自分に任せていただけるのは、また違う私の扉が開くことです。結婚がテーマでありながらも、どういう表現でみんなを入れて行くかという事と、私自身がこの作品の中で『サクラ』という女性として生きていく力強さみたいなものが最後に残ったらいいかなと思っています。
『鈴木砂羽の演出がどんなものか』と、きっと思う人はいっぱいいると思うので、ぜひそれを観にきてください」
(取材・文&撮影:谷中理音)