4人の脚本・演出家が制限なく30分の作品を書き、出演者も総入れ替えの4作品オムニバス演劇シリーズ「舞台エンテナPLAYUNION」。第6回公演『心の旅人、今は秋』の開催が決定した。
それぞれの個性を発揮できる貴重な機会とあって、気合いが入るこの企画。今回も多彩な作品に出会える予感がする。代表して4人の演出・脚本を務める田中彪、奥山太一、平康臣、市川大貴と、主演の大島崚、長谷部優、光希沙織、新井惟に話を聞いた。
初演から総合演出としても関わってきた市川大貴、回を重ねるごとに手応えを感じている
市川「いつも上演の季節にそったタイトルですが、全く内容に関与せず自由に書いていただくことがこの企画のコンセプトです。この企画の流れは特殊で、稽古も時間を4分割して順番にやっていくスタイルです。そんな現場はなかなか無い中で5シリーズを終えて、この稽古ペースで行けば本番に間に合うというスケジュール的な事がわかってきたのは大きいですね。そして先日まで本番だった舞台『愛、お姉ちゃん、湯の花の舞う頃』もこのPLAYUNIONで知り合った脚本の方と組んだ作品です。新しい作品につながるような出会いの場になるので、とてもいい企画だなと思っております」
――この企画は挑戦の場でもある、脚本・演出家の中には普段役者として活動しているメンバーも含まれる
田中「もともとはお芝居の勉強にもなると思って脚本を書いていたんですが、それがたまたまプロデューサーの竹田さんとご縁があって舞台化することが決まりました。本当に偶然が重なって今回初めて演出もすることになり気合いが入ります」
平「きっかけは、ウチ(萬腹企画)の公演を竹田さんが観ていて声をかけていただきました。とても楽しそうだったので是非にと。実はこの企画の1回目をお客として観ていたんです。運命的な感じで参加させていただいております」
奥山「僕はEnthenaさんの方と縁があり、プロデューサーの竹田さんとお会いして話しているうちにやってみない?とお誘いをいただきました。楽しみです」
――それぞれのチームの見所を教えてください
演出・市川大貴×主演・新井惟『あさこちゃん』。演劇界のあるあるバトル物語
市川「今回は、劇団員をしているあさこちゃんの物語です。団員募集で新しくイケメンが入ってくるのですが、その人から告白されることによって劇団内の立場がギクシャクしてきて大変なことになる……というお話です」
新井「この経験はないですね(笑)キュンキュンすることもなかったのでプレッシャーもありますが、一座の一員としてかき回すのはちょっと楽しみでもありますね。告白されるのは女性としては憧れますが。イッチーさんの作品はセリフの応酬が特徴で印象的です。キャラクターも濃いめの人が多いですよね」
市川「実はそんなにキュンキュンにはならない予定です。あさこちゃん、大変な目にあっちゃいます(笑)」
演出・平康臣×主演・光希沙織『Atonement→Future』未来の地球を救うアトラクションコメディ
平「直訳すると“未来への罪滅ぼし”のような意味になります。 自分がいつも書く本は、世界が滅びることがテーマになっているので、今作もなんとかして救おうというのが大筋の軸になります。ヒロインが未来から現代にやってきて、滞在時間が1800秒(30分)しかないので、この間で未来を救いたいというお話です。風呂敷は広げ気味ですが、とてもくだらない理由で未来が滅んでいるので、こんなきっかけで世界が簡単に滅ぶのか?とそこを本番で楽しんで頂けたらと思います。ウルトマランは3分で世界を救っていたので、30分もあれば地球を2回くらい救えるのではと(笑)」
光希「1800秒で世界を救う、それを聞いただけでワクワクしますよね。私はタイムスリップものが好きなので演じることが楽しみです」
――では衣裳もそういうヒロインぽい雰囲気に?
平「そうですね、検討中です。アトラクション感覚で観ていただきたいです」
演出・奥山太一×主演・長谷部優『海をよぶ歌声』。宇宙と人魚をイメージにしたSFファンタジー
奥山「ある星に女性の宇宙飛行士がたどり着き、その星で起こるSFファンタジーです。その女性は救いたいものがあり、そのためにこの星にやってきた。そしてその星には秘密があるという作品です。今回はイメージから物語を創っていまして、宇宙と人魚をモチーフに水の星で起こるやさしく切ない物語をお届けしようと思っています。長谷部さんはその長い時間を宇宙船に乗って旅をしてきた宇宙飛行士の役になります」
長谷部「とてもドラマチックになりそうですよね。ファンタジー作品はあまり経験が無かったのでとても楽しみです。お客様もどんなものに出会って、どうなっていくんだろうとワクワクして観てもらいたいですね。宇宙飛行士ということは性格的に強くて好奇心旺盛な子だと思うんです。奥山さんと一緒に創り上げて行きたいです!」
演出・田中彪×主演・大島崚『僕と君の物語』。田中が大島の為に書き下ろした珠玉の恋愛ミステリー
田中「このお話は、大島崚が演じるアツシという青年とヒロイン・アヤという女性の恋愛ストーリーになります。アツシは一冊の本に固執して本を読み続けている男子なんですが、それが何故なのかアヤは悩みます。
アヤも普段の生活の中で違和感を感じていて、現実なのか夢なのか区別がつかない状態。でもそれはアツシが持っている本に答えがある……少しミステリーの要素もあります。彼とは4,5回共演していましたが、2.5次元作品が多く自然な会話劇を観たことがなくて、ずっとそういう芝居をやらせたいと思っていて、実はこの話が来る前から彼のためにあて書きをした作品だったんです」
大島「嬉しいですよね。何度も共演させていただいておりまして、彪さんの稽古場の向き合い方とか、僕が持っていないものをたくさん持っているんです。色々ズバリと言ってくれるので、彪さんに演出をやってくださいと、僕を7番手くらいで使ってくださいって(笑)。ずっとそんなお話をしていたところに、まさかこの作品を書いてくださるとは、こんな嬉しい事はないですよね。ぼくは負けず嫌いなので、どのチームにも負けないように戦っていけたらと思います」
今回も個性的な作品が揃った。各チームには出演者が8人ほどになるという。顔合わせもチームごとに行い、全チームが合流するのは稽古最終日の全体リハーサルになる
――出演者として今回の挑戦と思っていること、意気込みをお願いします。
大島「僕は日常を描いたストレートな作品の経験がほとんどなく、リアルな会話劇の挑戦になります。また彪さんと違う意味で戦うことになるかと。映画はよく見るので、近い世界観を研究して、お芝居の経験として絶対に良いものになると思います。日常の大切な想いや、印象的な言葉が散りばめられています。この作品を通して何かを受け取って帰ってもらえたら、チームの皆を引っ張っていけるようにがんばります」
長谷部「稽古場の雰囲気は良くしたいですよね。そして私は鍛えたいと思っています。ジムにも通っているのですが、体力をつけて元気に作品と向かい合いたいと。オムニバス作品で脚本・演出家も全員違う演目はとても珍しいです。だからこそ本当に面白いものが作れる企画になると今から楽しみにしています。もちろん負けたくない気持ちもありますが、観ている人が4作品を全部楽しんでもらえたら嬉しいです」
光希「稽古場は交代なので、1日3時間ほどしか稽古場での時間がないんですね。限られた時間の稽古で創り上げなければいけないので、本をいただいたらセリフはすぐに入れて、カンパニーで結束できるように、当たり前のことですが期間が短いからこそしっかりやって行きたいと思います。各チーム、ライバル意識よりも仲良くしたいですね。稽古の入れ替え時間がタイト、ちょっと長引くと後ろのチームの稽古時間が減ってしまうので、時間内に精一杯の事をやっていきたいです。この中ではおもしろ担当なのかな?私はおバカっぽい作品が好きなのでとても弾けられそうです。お客様も笑顔になっていただけたら」
新井「私は発足の旗揚げ公演から出演しており、今回で3回目になります。イッチーさんほか、皆さんの作品を見てきて、本当に全く違った作品が30分、全体で2時間に詰め込まれているので、お客様は切り替えが追いつかないほど見応えがあります。その中でも濃い部分は印象付けて行きたいなって思います。劇団員の一員としてがんばりたいです。総勢30人以上なので熱気は凄いと思います!4つの作品を通して色々な想いを持って帰って欲しいですね」
新しい好きなものを見つけて帰っていただいて、またその人の作品を観に行ってくれたら
――演出の皆様からもメッセージをお願いします
田中「初めての演出なので右も左もわかりませんが、より良いものになるように精一杯、大島崚と努力していきたいと思います」
奥山「4つの作品が盛り沢山ですごい企画、お客さんもきっと満腹になってくれると思います。僕も新しい俳優と出会うことが楽しみですし、そのみんなでいい作品を創っていきたいです!」
平「4人方向性はそれぞれですが、想いを凝縮して叩きつける方向は同じだと思うので、観終わったお客様が濃い1日だったなと記憶に残っていただければ幸せです。自分が作る作品は娯楽なので、何も考えずに楽しんでもらいたいです」
市川「僕の作品のお話しをすると、僕は小劇場の劇団でお芝居をさせて頂くことが多いのですが、その中で恋愛の色々があって、、実は〇〇だったからあんな事があったんだよみたいなことをたまに聞くんです。(笑)もちろんどんな職業であっても人が集まれば色々あるとは思うのですが、、。演劇の舞台裏を覗き見ている感覚を味わっていただけたらなと思います。そして劇団の話なので稽古着でのシーンが出てくる予定なのですが、本番の舞台上に稽古着の人達が出るという感じが個人的に面白いと思っています。いつもとは違う側面から演劇を楽しんでもらいたいです。
そして公演としては、お客様は誰かのファンであると思いますが、1度来場してくだされば、お目当ての作品以外も観られるので、新しい好きなものを見つけて帰っていただいて、またその人の作品を観に行ってくれたらと思い ます。劇場でお待ちしております」
(取材・文&撮影:谷中理音)