劇団名のイメージとは真逆の硬派な作品を上演することでファンの心をつかみ、紀伊國屋演劇賞団体賞をはじめ数々の演劇賞も受賞している劇団チョコレートケーキ。30回公演目前、第29回公演は劇団の代表作ともいえる2作品を4年ぶりに同時上演する。
新キャストも迎え、キャパシティも広がる今回、更にパワフルで骨太な人間ドラマになりそうだ。
2つの作品の質は全く違う、作品の持つ強い所をもっと差別化して創って行ければ
――4年ぶり3度目の上演となったきっかけを教えてください。
日澤「僕たちの作品群の中でも色々な意味で沢山のお客様に観て頂けた作品で、皆さんに知ってもらったきっかけになった作品ですので、劇団としてもう一度観ていただきたいなという想いと、あとは再演を希望するご意見もあって、そんなところから再演することになりました。
今回はキャストの面ではガラッと変わっておりまして、新しいメンバーでこの2作品をどう創っていけるか。4年ぶりですので、また新しく1から作る気持ちで挑みます」
――本作は『熱狂』『あの記憶の記録』の2作品で1つのくくりとなり、時間軸としては50年の時間の流れがあります。 どちらを先に観るか悩むところですね。そして初演との違いについては?
古川「色々な意見があり、どっち派もいますね。初演はギャラリー・ルデコの公演で、最初のコンセプトは狭い劇場で大きな物語を創るというイメージで創っていましたが、今回は大きな劇場で大きな物語をやる。王道になる時にどんな化学変化が起こるのか…作品がどう変わって行くのかなと。作家の立場から純粋に楽しみにしていますね」
日澤「4年前に初演と再演をやりましたが、その再演が急遽決まり4ヶ月しか開いていない再演だったので、3回目ですが気持ち的にはあの時の再演になるのかな。あの初演の時にガムシャラに創った作品が再演でも同じテイストで、期間を置いて冷静になりましたよね。
この2つの作品の質は全く違いますので、作品の持つ強い所をもっと差別化して創って行ければと。
あと当時けっこう荒く創ってしまったところもあるので、地に足をつけて創っていきたいですね」
――とてもエネルギーが必要な2作品だと思いますが、演じる皆様は再演と聞いた時は何を思われましたか?
西尾「おお!体力をつけなければ!ですね(笑)」
岡本「僕は演じる役の設定年齢が50歳くらいでして、初演の時は自分が30歳くらいの時でした。純粋にもう一度やりたかったので、歳を重ねて少しだけ役の年齢に近づき、また演じられることが嬉しいですね」
浅井「僕も体力と思いましたね。僕は両方に出演しますので体力づくりを頑張らないと。あと僕自身4年前からプライベートで変化があったので、本を読み返すと4年前に読んだ時とは受け取り方が違うことに驚きました。それで芝居が明確に変わるかはわかりませんが、4年を経たお芝居をする自分がとても楽しみです」
『熱狂』は若きアドフル・ヒトラーにスポットを当て、ナチスの台頭と国家の理想に沸く頃、成功していく様を描く
日澤「我々は歴史を知っていますが、当のヒトラーを含めて当時の人は先の事を知らないので、国のため国民のために政治を行っていたのではないかと思うんです。ヒトラーの末期を知らないこの時期にどれほど生き生きと情熱を持って生きていたのか…そこを描いていきます。ポジティブな話になればと」
浅井「僕は狂言回しの役どころで物語を進行します。なぜ語るのか?なぜお客様へ話すのか?そういう所を考えながら演じていきたいです。みんなが貧しくとも、一緒になって盛り上がっていく高揚感と楽しさがあって、実際生きていたらとても良い時代と思ってしまうと思うんです。でもそれは過去の事なので、そこのバランスを今回はもっと深めていけたらと思っております」
西尾「『あの記憶の記録』の世界観の方がチョコの作品ぽくて、後にも先にも『熱狂』みたいな作品は無かったから、いい意味でもう一度意表をつけたらいいなと思います。『劇団チョコレートケーキはこういう作品もやっているんだ!』と、もっと知ってもらえたら」
――対して『あの記憶の記録』では、ユダヤ人として迫害と殺戮の記憶を持った男性の苦悩の物語です。
岡本「常識では考えられないような過酷な状況を生き抜いてきた人物を演じるので、いかに説得力を持たせられるかがカギになってくると思っています。そしてキャストがだいぶ変わりますので新しい方達とコミュニケーションをとって、どう魅せられるか挑戦ですね」
浅井「これは家族の物語だと思っていて、家族ってなんだろうと。あらためて考えていきたいです」
日澤「作品単体で成立している2本なので、時系列通りでも単体だけでも楽しめると思います。謎解き要素が強いのは『あの記憶の記録』かな。 浅井君の役どころが全然違うので浅井君で言えば『熱狂』→『あの記憶の記録』の順番がいいのかな。もしまだ歴史について知らないことが多い場合は、辛い『あの記憶〜』を観ておいてから『熱狂』に戻ると、なんでこんな情熱を持って人の為に動いていた人が、なぜこんなことをしてしまったのか?と問いかけができるのではと思います」
――キャストが一新されましたが、新キャストについても教えてください。
日澤「チョコは古川の脚本の強さが武器ではありますが、『俳優の力』この3人の個性は劇団の強みだと思っていますので、そういった意味では新しいメンバーもなかなか個性的なメンバーが集まりました。この中でどういった化学変化が起きるのか。今回は凄いです、青年団、演劇集団円、若手などなど…やりたいと思っていた方々なので自信があります。どのようになるのか本当に楽しみですね」
劇団チョコレートケーキの作品創りとは?
――劇団の作品はどのように創られているのでしょうか?
日澤「基本的には劇団員が集まって企画会議をやりますが、古川君が書きたい物ありきにはなります。あとは『これが書きたいんだけど』と提案されて『いいね』という感じの流れですね。今回の2作品であれば、前にやった作品『1911年』の動員が良くなくて1年空いたんですね。
1年ぶりにやる公演は何にしましょうかという話で、最初はアウシュビッツをやろうかと。劇団としてはインパクトが欲しくて『古川君、ここで2本書いたらすごいよ』と」(全員爆笑)
古川「最初2本書く話があり、2本セットというとアウシュビッツとヒトラーが政権をとるまでのコンビか、過去作とそのスピンオフのどちらかとなり、どう考えても新作2本の方がキツイと言ったんですけど、皆が『できる』と」
西尾「魔法使いと思っています(笑)」
古川「そっか、できるのかと思って(笑)」
西尾「初演の時は古川さん舞台に出ながら本を書いていましたよね」
日澤「そうだ!出てたね!無茶でしたね」
――では当時の熱量がそのまま本に反映されているから熱い!
日澤「そうですね、古川くんが言いましたが、これが大きな劇場になった時にどうなるのかと。ギャラリー公演とは全然違うので、それも楽しみでもあります。それこそ俳優たちは本当に体力をつけなければまずいよね。60人規模のギャラリーから単純に5倍だから」
西尾「身体が割れちゃうんじゃないか?」
岡本「喉ももつかわからない…(苦笑)」
――会場が変わると見せ方も変わってきますね。
日澤「たぶんシンプルになっていくとは思います。俳優さんがいることで舞台を埋める、大きな舞台を大きく使えるようにしたいですね」
――役者から見て、日澤さんと古川さんはあらためてどんな存在ですか?
西尾「父と母ですね。稽古場では日澤さんと創っていて、どれだけ俳優がめちゃくちゃやろうが帰ってくる所は古川さんの本なんです。古川さんの本だけで飛ぼうとしても難しくて、ああしてこうしてとジレンマを抱えながら創っていることが面白いですね」
岡本「僕の場合は学生の時から一緒だったので20年近い付き合いになります。良し悪しも含め喧嘩もしてきましたが一番信頼している仲間であることは間違いないです。信頼をしているその一方で仲間だからこそ常に疑いの目をもって接していきたいと思っている所もあるし。まさに運命共同体の意識ではあります」
浅井「最近、古川さんの作品を外部から観る機会が何度かありまして、僕は歴史物が好きなので単純に好きだなと(全員爆笑)。なかなか内部にいると『セリフ長いな〜喋りづらいな』とか思ってしまう所、観客目線だとこの情報の感じ好きだなって…本当に最近思ったんです。日澤さんは厳しい時もありますが基本的にフランクで、硬い台本をとても柔軟にやわらかく稽古を進行します。稽古場の雰囲気をとても大事にする方で、古川さんとはベクトルが違ってとてもバランスがよい2人だと思っています」
西尾「この劇団は俳優のリピーターが多いんです」
浅井「そうそう、また出演したいと言ってくれる役者さんが多いんです」
西尾「他では創れないような創り方をしているのではと思いますよね。それは演出と脚本の力だと思いますね」
これからのチョコレートケーキ
――次が30回公演となり、この体制になって10周年も近づいてきました。
日澤「あっという間ではありますが、僕も古川くんも作家、演出家を目指してきた人間ではないので、そういう意味では何もない所からスタートしているので、それこそ必死にやってきた結果というか、作品とみんながフィットしたので色んな方に観てもらえるような団体になれた事は単純に嬉しいです。そういった意味では長かったかなとは思いますけども、特に10年だからどうとか個人的に感慨的な事は無いです。でも30回記念公演はやろうかなとは思っていますよ。
逆に不安になってくるところは多いかもしれません。色々な方に観てもらえるようになって色々なご意見も頂けてやっと批判的なことも言ってもらえるようになったので、これからが一番大変な時期になるのではないかな、頑張らなきゃと」
古川「作家になるとは思っていませんでした。でもここまで来たからにはできる限り息の長い作家でありたいと思っていますので、どうやったら書き続けられるのか考えますね。
作家として一番の挑戦の場がチョコレートケーキだという気持ちです。そこを問い続けていきたいです」
――では最後にメッセージをお願いします。
浅井「僕らの中では有名にさせてくれた作品ではありますが、アンケートを読んでいるとまだ観ていないお客様もたくさんいらっしゃるので、そういう方々にバーンと見せつけたいです!」
岡本「暗い物語ですが、何気ない日常がいかに尊いか大切なものかということ、ふとそんな気持ちになっていただけるだけでもやる意味があるのかなと思います。頑張ります」
西尾「『硬派で安心して観るだけがチョコレートケーキではないんだぞ』という所をもう一度再現したいと思います」
古川「お見せしたいのは歴史ではなく、その時代を生きた人間の生き方や想いを感じていただきたいと思います。そこを感じていただいた上で、今を生きるという事の何かのヒントや考えるきっかけになってくれたら嬉しいです」
日澤「是非とも2本観て頂いて、時代も立場も違う登場人物たちがどう生きていたかを感じてもらえたら。個性豊かな俳優陣がどう歴史を切り取って表出させているかかがウチの醍醐味ですので、是非とも劇場で目撃して頂ければと思います」
取材・文&撮影:谷中理音