作家・八鍬健之介の作品を上演するための企画制作団体wonder × works(ワンダーワークス)。2010年に旗揚げされ、登場人物の内情や葛藤に重点を置いた作品づくりで骨太な作品を多数届けている。また役のイメージに合う役者をとことん探し出し出演依頼をするなど、独特な手法も魅力だ。
本作は、鹿撃ちイベントで同級生3人がおよそ20年ぶりに再会してしまったことから動き出す、零下二十度のサスペンス。思い出したくなかったある過去とは……その同級生を演じる亀田佳明、石田佳央、中島大介、作・演出の八鍬健之介に話を聞いた。
“美しいもの”を書きたい。物語の企画意図
八鍬「wonder × worksは作品ごとにカラーがガラリと変わるのがひとつの特徴で、一貫して人間ドラマを描いています。僕が北海道出身なんですが、今回はまず“美しいもの”を書きたいと思い、美しい景色といえば地元の冬景色が浮かびました。本当に雪しか見えないような状況で、余計なものが入り込む余地がない、その分やりたい事が明確に書けるのではないかなと。
ドラマを線で表現しますと、僕は今まで太いドラマを書いていましたが、時代の流れもあって太いだけでは心の中には入って行かないなと思い、今回は一本一本のドラマを細くして、それが束になって一つの大きなドラマになっていく形を創っています。その軸になるのが同級生3人の話です。
亀田「僕はキイチを演じます。キイチは故郷を離れてライターみたいな仕事をして東京で活動しているのですが、あることがあって北海道に戻ってきた所からこのドラマが始まります。この舞台はサスペンスなので、どこに進んでいくのかが見どころです。 細かい人間関係が個々で描かれているので、ひとつひとつ丁寧に役と相手を意識しながら時間を進めていきたいですね」
石田「ヨシヒロ役を演じます。彼は北海道の雪深い田舎の地元に根付いて生活している男です。ジビエ料理を出すゲストハウスを経営していて、狩りも行う地元の人と都会では味わえないような自然を体験するツアーを組んだり、経営者としてゲストハウスをもっと展開したいとも考えている野心家の一面もあるパワフルな男です。キイチとは対象的な人物ですね」
中島「僕が演じるナオユキは、父親の仕事を継ぐということで地元に残っています。僕が思っているナオユキ像は、やりたい事をやっている2人とは対象的に、父親の後を継いでいることに対して不満ではないけど少しフラストレーションや、2人に対する憧れからくる嫉妬心がある。
でも自分は地元に根付いて仕事をしっかりやっている自負もあり、2人に負けないという複雑な感情を持っている役だと思っています。サスペンスは普通はじめにドカンと事件が起きてドキドキする展開だと思うのですが、今回は台本を読んでいるといつの間にかドキドキしているんです。それが3人の人間関係だったりするのかな、観ているお客様もそれぞれのきっかけでドキドキしてもらいたい」
同級生3人はイベントで再び会うまでに22年という時間がたっていた。しかし時を超えて忘れようとしていたものが再び顔を出す……。タイトル『アカメ』に込められた意味とは?見どころとは?
八鍬「タイトルにはいくつか意味があります。ですが、物語の謎に触れてしまう部分なので、そこは劇場で確かめて頂ければと(笑)。見どころはドラマの奥にある背景です。今回は台本の段階で余白を多くしています。役が抱えている背景が立体的に立ち上がってきて、実際に観客が目にしているドラマと重なり厚みを増していく、空間を超える奥行きを楽しんで頂きたいです。
亀田「個々の関係で緊張感のあるやり取りが所々あるので、そういったものがずっと続いていく2時間であれば、とてもいいものになるのではないかと思っています。仕掛けはもちろんあります。 登場人物達とのやり取りも細やかに書かれているので、そこは演じる側としてはザックリではなく丁寧にやっていきたいと思っています。」
石田「キャスト選考の際、役のイメージということで探しに探してくれたとのことで、自分であれこれ考えるよりも、本を信じてやろうと。過去から現在までの数何年間、そこが描かれている訳ではないですが、そこがたぶんやる側も見る側も面白い所だと思うので、そこを自分でも妄想しながら創っていけたらと思います」
中島「僕も2人がおっしゃっていたみたいな、人間関係を一番濃密に、観ているお客様が自分に照らし合わせることができたら。 仲のいい3人組はどこにでもいますが、2対1だったり3人の中でも人間関係が複雑にあって。 観ている側に共感する部分も含め、さらに自分の中でもイマジネーションできるような、そういったリアリティをもって、嘘はつかずにしっかりとできればと」
劇作家協会新人戯曲賞ノミネート! 大賞は誰の手に!?
――― 女性は仲が良かった同級生と何年ぶりかに再会した時、すぐに時を超える事ができることもありますが、男性はどんな感じなんでしょう?
中島「基本盛り上がると思いますよ。でも中にくすぶっているものが残っていたら、それは消えていないので、何かの拍子に出てきてしまったり、でも普通を装ってしまったり」
亀田「意外に男の方が根深かったりしますよね」(全員笑)
八鍬「表面上は装いますけどね」
中島「自分が大人になったっていうことを周りに見せて、成長した自分をアピールしないと(笑)」
――― ちなみにこの作品になぞらえて、秘密やくすぶっていることはありますか?
中島「昔のくすぶっていることで言えば、中学の時に自分は仲がいい子とよくじゃれていたんですけど、でも本人はそうではなくて成人式の時に言われましたね、本当は違ったんだと。悪い事しちゃったなって、自分ではそんなつもりはなかったのに。実は台本を読んだ時にそれをちょっと思い出したりしましたね」
亀田「いっぱいありすぎて思いつかない(笑)」
――― リップサービスありがとうございました!(笑)
八鍬「今回は1つの出来事で結ばれているので、物語の3人は離れられないんです。
この物語は“執着と選択の瞬間”がテーマです。誰しも執着している事があって、でもにっちもさっちもいかなくなった時に、では何を選ぶのか?という選択が始めに言っていた“美しい”ものにつながっていきます」
――― そしてこの作品は2017年度、劇作家協会新人戯曲賞ノミネートされているそうですね。
八鍬「そうなんです、5作品の中に入っています。実はその大賞発表が『アカメ』千秋楽の日で、閉幕した夜に同じ劇場で発表されます」
石田「発表を聞いて万歳して終わりたいですね」
八鍬「取る自信はあります!!大賞受賞なるか!?」
中島「ほかのノミネート作品は読んでいるんですか?」
八鍬「もうすぐ戯曲集が出版されるので読めると思います。地下の劇場で公開審査なんです。僕らが舞台のバラシを終えたころに始まるのかな」
――― では最後にメッセージをお願いします。
亀田「この2人とは初めての組み合わせで、そして初めて共演する方ばかりですが、それが楽しみです。異種格闘技戦みたいに面白いものが出来上がるようがんばります」
石田「色んな人間がいて、たまたま偶然で北の山小屋に閉じ込められてしまい、その中で普段見えない人間の色々なものが見えてくるドラマになっています。余白が多く、いちいち説明していないので、そこを楽しんでいただけたら、より登場人物の関係も楽しく観られると思います」
中島「本当に初めての方ばかりで、芝居をやってきた過去やキャリアとか経歴が全然違う者達が集まっているので、そういう者が集まった時にどんな化学変化が起こるのか、一緒にやりながらも自分も勉強し、楽しみをもってやっていきたいですね。一見すると疑問があるかもしれませんが、楽しんで観て頂くためにも、セリフを素直に受け取らずに疑いながら、探って観ていただけるととても楽しいと思います」
八鍬「それぞれ映像や舞台など出自がバラバラですが、上質なごった煮を楽しんでいただけると思います。wonder x works流の“劇的な瞬間”、いわゆる演劇的と言われるものとはまた違った、見えないものが立ち上がる瞬間を感じに来ていただければと思っております」
(取材・文&撮影:谷中理音)