大晦日をもって廃駅になることが決定した“端毬駅(はじまり駅)”は、その名前から、願いをこめたリボンを結ぶと、その希望が叶うといわれていた。そんな駅の最後の日に、一日駅長としてやってきた売れないアイドルを中心に、駅をめぐる人々の姿をえがく物語。 この舞台を演出するBobjack theaterの扇田賢、出演の船岡咲、秋葉友佑、長橋有沙、民本しょうこ、丸山正吾に話を聞いた。
――― この物語は、駅が舞台になるということですが。
扇田「船岡咲ちゃん演じる売れないアイドルが主人公で、一時期は人気があったけど、そろそろ辞めようかどうしようか考えてるんですけど、“端毬駅(はじまり駅)”の最終日に一日駅長としてやってきて、いろんな人と関わり合う中で、今後どうしていこうかと考える話で。この“端毬駅(はじまり駅)”というのが、その名前から、何かを始めるときにお願いをすると、その願いが叶うと言われている架空の駅なんです」
船岡「私、アイドル経験というのは実はないんです。だから、そういうアイドルっていう役をやれるのが楽しみで。そんな中でも、売れないアイドルっていうことで、きっといろんな複雑な思いも抱えているだろうから、そこをどういう風に演じようと考えたら、それも楽しみで……」
扇田「やっぱり、そういう売れないアイドルにスポットがあたるところが芝居のいいところですからね」
――― 今日お集まり頂いた皆さんは、どのような役を演じるのでしょうか。
扇田「このお話が、大晦日が駅の最後の日で、新年があけるまでを描くんですけど、“端毬駅(はじまり駅)”で願いをかなえた人や、その家族の話がからみあっていて、一歩踏み出す人もいれば、踏み出さない人もいます。うちの劇団の民本しょうこは、アイドルのマネージャーの役を演じます」
民本「マネージャー兼お姉ちゃんみたいな感じで、この子にもう一度売れてほしいと思っているんです」
扇田「秋葉くんと長橋さんは、地元の高校生の役です。長橋さん演じる女子高生が、まだ見ぬ初恋の相手が駅にくるのを待っていて、秋葉くんは、女子高生の幼馴染なんだけど、ずっと彼女のことを思っているという役になります」
――― 劇団外の方たちと扇田さんというのは、古い付き合いの方もいらっしゃるんですか?
長橋「私は去年、Bobjack theaterさんの『ノッキン オン ヘブンズ ドア』という本公演に出させてもらって、おばあちゃん子の役を演じたら、そんなイメージがついて、おばあちゃん子女優と言われるようになりました」
扇田「まだ23歳なんですけど、母性というか家庭のイメージがハンパないんですよ。19歳くらいのときにも、アリスインプロジェクトの舞台で一緒になったことがあって、そういう外部の仕事のときによかったと思った方に声をかけています」
――― 長橋さんは実際、Bobjack theaterのお芝居に出演されていかがでしたか?
長橋「すごくほっこりした暖かい感じを受けました」
扇田「よく言われるんですよね」
民本「たまにグサっとくることもありますけど、あったかいことはあったかいかもしれないですね」
扇田「ハッピーエンドが好きだし、集まる役者さんも柔和な方が多いですね。尖った人は出なくなる(笑)」
民本「でも、なあなあではないです」
――― 秋葉さんは、扇田さんと初めて会ったのは?
秋葉「僕は、ほぼ初めての舞台だった『ラズベリーボーイ2』でご一緒して、一からコメディを教えてもらいました」
扇田「僕が教えたというよりも……」
秋葉「出ているメンバーから教えてもらいましたね。僕がただ出てきて、走っていくシーンがあったりしたんですけど、名だたる先輩たちが、僕のためにいろんな芝居の型をやってみてくれたりして。それを見て死ぬほど練習しました(笑)」
扇田「あの舞台もほっこりしてるし、ハッピーエンドを目指す話だったので」
秋葉「僕が演じたキャラも、ぶっ飛んでました。でも、打ち上げのときに扇田さんから、『まだお前の芝居は認めてない』って言われて……(笑)」
扇田「そんなこと言ったの?」
秋葉「冗談交じりでしたが、今回はこうやって本公演に呼んでもらったんで、挽回したいとって」
扇田「とにかく『ラズベリーボーイ』って出てる人がすごかったんで、勝手にやってるのをまとめるのが演出家の仕事だったんですよ。そのめちゃめちゃなメンバーは今はもう忙しくて集められないし、ほんとに毎回すごいもの出してくるんで」
秋葉「鍛えられました。でも、最近はBobjack theaterの劇団員の方とも共演が増えて」
扇田「うちの劇団員も秋葉くんの芝居には好感持ってるよ。うまいとは言わないけど、好感が持てるって!」
秋葉「うれしいけど…なにかが…(笑)」
扇田「今回も、感情を抑えた中で芝居をすることが多くなるので、そういう芝居もいろいろやってほしいなって」
――― 船岡さんとはいかがですか?
船岡「私も二年前にアリスインプロジェクトのお芝居で扇田さんとご一緒したのが最初で。ずっと出てみたかったんです」
扇田「僕のほうも出てもらいたかったんですよ。なかなか劇団の予定が立たなかったけど、今年はかなり早い段階から船岡さんに出てもらおうと動いていて。咲ちゃんの芝居は、まろやかで。初めて芝居を見たとき、殺陣とかのある芝居で悪役だったのに、まろやかな芝居で、キャラを作っていない感じが好印象だったので」
船岡「扇田さんがブログで褒めてくださっていたので、嬉しくてスクショしました。そのときのお芝居が、悪役がたくさんいて、その悪役の中の一人だったので、キャラを作るんじゃなくて、ニュートラルにやってまぎれないようにしようと思って。それを見てくれてたんだなって」
扇田「ここにいるみんなは2年とか3年とか知っている間柄でその成長を見てるので、今回はどんな芝居を見せてくれるんだろうな、と思うと楽しみなんです」
――― 劇団員の民本さんは、扇田さんから見てどんな役者さんですか?
扇田「いろんな現場でモンスター女優と言われています(笑)」
民本「はちゃめちゃな場面を用意されることが多いんです。でも、自分でも稽古場でそういうものを作ってしまって、やらなくてはいけないことになったりもします。この前も、扇田さん演出のアリスインプロジェクトの『終わらない歌を少女はうたう』という舞台で、豆大福を渡すシーンがあって、毎回、違う面白い感じで渡さないといけなくて……」
扇田「でも、今回はぶっとんだ役ではないんですよね」
――― 最後に、これから稽古が始まりますが、今の気持ちをお願いします。
扇田「では、看板女優から。今回、おびやかす女優いっぱいいるよ」
民本「おびやかされたいです(笑)。ボブジャックは、自分がいちばんのびのびと自由にできるところなので、みなさんにも好き放題やってもらって、もしかしたら、それも全部が採用されるかわかんないけど、それくらいの勢いでやって、年末にひとつかませられたらいいなと思います」
長橋「自分としては、ばんばん出していくことが苦手だったんで、今回はそういう苦手な部分を超えられたらいいなと思います」
秋葉「大晦日まであるっていいですよね。“今年はめいっぱいやったぞ”って思える舞台になればいいなと思います。昔からお世話になってきた扇田さんに恩返しするためにも、ちゃんとしたいと。ほんとプレッシャー感じてます」
扇田「新しいことにチャレンジする環境は作りたいなと」
船岡「私は自分の持ってる人間力を、まだまだ浅いんですけど、すべて出したいと思います」
(ここで丸山さんが合流!)
――― 丸山さんはどんな役を演じられるのでしょうか?
扇田「駅長の役で、駅がなくなるのが嫌だと思っている、ちょっと変な駅長なんです。今年は、劇団以外の芝居にたくさん出てます」
丸山「今年、事務所に入って、一年で16本の舞台に出たんです」
――― 外部のお芝居にたくさん出演されて、いかがでしたか?
丸山「いろんな演出のスタイルがあって、それはそれで面白かったですし、改めて、扇田さんもいい演出家なんだなと思いました。かなり自由度の高い演出家だったんだなと」
扇田「それは、自分で考えるものよりも、みんなが出してくれたものが面白いと思ってのことなので。鍋にいろんなものが入ってて、それにドキドキするタイプなんです。だから、みんなもいろんなものを持ってきてもらえたらと」
丸山「扇田さんて、何か出したらばんばんイエスが出るので、底なし沼みたいなところがありますからね(笑)。でも、みんなで楽しく舞台をやりきって、いい年末を過ごせたらと思いますね」
秋葉「大晦日が最終日なので、みんなで打ち上げで初詣に行きたいです!」
扇田「うるさくて迷惑かけそうだけど、そういうこともできるかもね。今回はとにかく良いキャスティングができたので本当に楽しみです。新しく参加するメンバーも多いので、その人たちが…なんていうか、こういう言葉は使いたくないんだけど、いい化学反応があればって思います。いや、やっぱ別の言葉がないかな。これ誰か別の人がいったことにして!(笑)」
(取材・文&撮影:西森路代)