JOE Companyがおよそ2年の充電期間を経て再起動する。舞台は近未来の東京。コンピューターに職を奪われ困窮する俳優一家に、ある日極秘に開発されていたAIアンドロイドの試作品が人間として送り込まれることから始まる、笑いと感動に満ちたSFホームドラマだ。まさに稽古中の現場で話を聞いた。
壊滅から再生をテーマに2年をかけた想いをつぎ込み、さらにプロットから執筆まで1ヶ月以上かけた本作。それには理由があった
小野寺「2年ぶりの新作書き下ろしになります。世の中にはAIという言葉が溢れていて、その対比に魂や心があってそれに対してAIを通じて人の大切な物とは何かをメッセージとして入れています。自分の中に感じるものがあって普遍的なものになりますが、そこが描けたらと思って構想を練った物語です。
震災もありましたし壊滅から再生も自分の中に大きなテーマとしてあったので、2年かけてその想いを伝えられたらと思っております。(プロットから執筆まで1ヶ月かかったのは)かなり伏線を細かく張ったんですね。コメディの要素からテーマも含め、チラシのビジュアル(片目を隠している)の意味も芝居の中でわかるような形にしたかったんです」
――― 小野寺氏の作品では最多出演となる三浦浩一、長年にわたる信頼関係で結ばれている。
三浦「丈さんと最初に知り合ったのは、僕が劇団東京キッドブラザーズにいて、そこの女優さんが丈さんのお芝居に出ていて観に行ったのがきっかけです。今回もそうですが時間が交錯する独特な世界観を持った作品を作る人だなっていう印象で、そこにプラスお笑い要素と最後にグッと心つかまれるJOEワールドね。その後は藤田さんだっけ?」
小野寺「そうそう藤田まことさんの舞台で共演したんです。しかも1か月地方だったのでもうそこで意気投合しちゃって」
三浦「地方だから毎晩飲んでて(笑)飲む奴ばっかりだったんですよ。そこでいつか一緒にやりましょうってね」
小野寺「もう、よしッ!(ガッツポーズ)て、すぐオファーしました(笑)それから現在まで何本だろうというくらい出演していただいていて」
三浦「正確な数がわからないくらい。そのくらい彼の作品を愛しているし、彼の芝居に取り組む姿勢とかにも通じるものがあったり毎回刺激を受けます」
小野寺「とても信頼しています。三浦浩一さんはTVでのイメージがあると思いますが、最初からそこを変えたいと思ってまして、僕は今までやったことがないようなイメージの物をあてるのが好きなんですよ」
三浦「それが感謝ですよ。TVで怖い刑事役をすると同じような役が続くんです。でも僕は3枚目とかコメディが大好きなんですよ」
小野寺「やはり小劇場をやられているのでパッションが合うんです。今回も熱さ全面で浩一さんしかできないような役を書きました」
――― 小野寺氏の作品として2015年『マギサの家』に初出演の金城大和、今作で2度目の出演となる。
金城「前作もコメディでしたが、今作はコメディでも中身は少し違うと思っていて、人間の優しさやメッセージがあって、それをコメディというタッチで見やすくしている。前作とは違うので、今はどう作ろうかと冒険に出ている気持ちです。前作とは全く違う挑戦があります。今回は人間の愛が!これ以上は言えなーーい!」
――― 小野寺氏の作品に初出演の阿澄佳奈、本作ではストーリーテラー的な立場となる。
阿澄「丈さんとは劇団ナイスコンプレックスさんの作品でご一緒しまして、そのご縁でお声がけいただきました」
小野寺「その時にコメディセンスがあると思ったんです。ちょっとした所で色々やってくれるんです。これはしっかりコメディをやったら絶対に面白いと思ったら、コメディは初めてだと」
阿澄「そうなんです。ストレートのお芝居経験もまだ数少なくてオファーはびっくりしましたが、チャレンジしたいなと思いました」
――― あらたな阿澄さんが観られますね。
小野寺「そうだと思いますよ!間違いなく今までやった事のない様な事をやってもらっています」
阿澄「そうなんです(笑)大人っぽい笑いがあります。声優の面しか知らない方にも是非観に来ていただきたいなと思います」
丈さんの中の愉快な面と考え深い面のどちらも凝縮された物語になっている
――― SFでヒューマンドラマ、台本を読んでどんな印象を受けましたか?
金城「はじめはコメディとわかっていて台本を読みましたが、これをどう表現するのかなと。これがもし100%でできたら、お客様の心は掴めると思いました。でもどうやってやるんだろうと色々考え不安になりつつ(笑)でも稽古に入ったら、皆さんこう来るんだ!ああ…こういう解釈だったかとか、色々発見があったので、まだまだやることは盛りだくさんですが、それが第一印象でしたね。ワクワクと実写化不可能みたいなドキドキ感(笑)」
阿澄「お話全体の印象としては、近い将来実現しそうな可能性のあるお話ではありますが、夢があるようでちょっと怖いみたいなそういう感情が同居する物語だなと感じました。丈さんのお人柄が本当に濃く(丈さん爆笑)どんな物語を書く方か興味があり、読んでなるほど!と。丈さんの中の愉快な面と考え深い面のどちらも凝縮された物語になっている印象を受けましたね」
三浦「先ほども言いましたが、丈さんの世界観はお笑い中心の部分があってね、でもお笑いって一番難しくて。
稽古場でみんなが笑ってこれはイケると思っていても、いざ本番ではシーンとされる経験がある。いまの時代の危うさみたいなものを取り込みながらコメディにもっていくすごさ、これは見事ですよね。アンドロイドと人間の見せ方が見どころなのでテンポよく全力でできたら。AIは学習していくでしょ、失った家族にどんどん近づいていくその辺りが…もうたまらないね」
小野寺「コメディです」(全員爆笑)
――― コメディですが、最後はグッと心に響くということですね。
小野寺「そうですね、僕の作品にはテーマとメッセージがあって、人としての根源をいつも追い続けていたいと思っています。この作品はあと10年くらいの近未来で本当に実現しそうなSFにしています。CGに対してずっと僕が憂いでいたことを思いっきり出しました。そして笑いがあるからこそ、その先の怖さであったり感動や人間の本質が見えてくることがあると思うんです。作家としてそんなところを目指してきたので、わりと集大成のような、あらたな扉を開けるような作品になっていると思います」
物語はアイコウ家を中心に描かれる
――― 三浦の役どころはCGに追いやられてしまい俳優の仕事が減ってモーションキャプチャーなどで生計を立てている父親役、金城はその息子3人兄弟の長男タケル役で職業は美容師、阿澄は3人兄弟の真ん中シオン役、AI開発局チーフで実は実験を全部仕組んだ張本人でもある。
金城「一切ヘアカットのシーンは無いです(笑)練習なくて良かった」
阿澄「シオンはアンドロイドを世のため人のために使おうと開発したのに、実際はそうではない使い方をされかっとうします」
金城「それでもコメディです!」
小野寺「(笑)基本はホームドラマにしたかったんです。SF設定のシチュエーションコメディは今まであまりないなと思って、見たことのないSFホームドラマ」
三浦「そっか、ホームドラマだね!娘の結婚話のくだりとかもうね、おかしいから!」
小野寺「会話はチグハグで嚙み合わないのにあってるとか」
三浦「そこが凄い!頭の中どうなってるんだろう、よく考えると思うよ(笑)その勘違いも見どころだね」
小野寺「伏線が伏線を呼びどんどん違う方へ向かって行ったり、観ている方はどうなっちゃうの?と思うと思います」
三浦「飽きさせないと思うな」
JOE Companyでは必ず地方公演が含まれる。なかなか演劇に触れることが少ない地域にとってはとても刺激的だ
小野寺「宮古島はずっと行っている所です。この島自体、上演したことによって演劇が活性化して島でも劇団ができたり、宮古島を演劇の島にしたいから僕の力が必要だとおっしゃってくださって、今回も島を上げて呼んでいただいています。自力で行った最初はお客様が80人しかいなくて、でも行く度に倍々で増えてそこから900人の劇場を埋めるまでになりました、嬉しいですよね」
――― 金城さん、阿澄さんは初上陸ですか?
金城「僕は沖縄本島出身ですが、初上陸ですね。離島ですから知り合いはゼロなんです」(全員爆笑)
小野寺「簡単に呼べないよね(笑)」
金城「海を渡らないと、本島の人にとって宮古島は旅行ですね」
阿澄「私はプライベートでも初です。初めての宮古島が舞台になるとはラッキーです」
金城「今から色々確認しよう(笑)」
三浦「昔はゆるかったから飲んだり海に行ったり相当楽しみましたよね」
小野寺「ただ今回は2月から泳げないかも」
――― 東京とではお客様の反応も変わりそうですね。
小野寺「宮古島のお客様は最高です、もう笑いにきているので。そういえば旧盆は絶対に家から出ない習性があって。昔、まさにその時期にスケジュールを組んで全部宿も飛行機も抑えたのに、あとになって劇場からスケジュールを変えないと誰も来ないと言われて、そんな急に言われてもね!そんな思い出もあるのんびりした所。JOE Companyが浸透しているので次はどのくらいのお客様がいらっしゃるか楽しみですね」
――― では最後にメッセージをお願いします。
金城「肩の力を抜いて観られる作品を作っている所です。私達も真摯に向き合って一生懸命にやりますので、どうぞ気軽にいらしてください」
阿澄「随所に笑いの多い作品になると思いますがそれだけでは帰さない、丈さんらしさで作り上げられていくと思います。舞台を初めて観る方でも楽しめる作品になっていると思います。ぜひ劇場まで足を運んでくだい」
三浦「2018年はじめに何もかもを吹っ飛ばして笑っていただいて、最後に大きな感動を感じていもらい、良い年にしていただきたいなと思います」
小野寺「お芝居を観たことがない方も絶対に楽しめると思います。シンプルな作品なだけに笑いはストレート。気楽に観てもらいたいですね。また芝居を見慣れている方もおそらくこの伏線の妙であったり、練った脚本の構成や大胆な演出などは、今まで見たことがないSFホームドラマになっていると思います。コアな観方をする方もうならせる様な作品になったので、是非みなさんに観ていただきたいと思います」
(取材・文&撮影:谷中理音)