舞台作品で何度もタッグを組んできた演出家・板垣恭一と俳優・原田優一。本作主演の田村良太も舞台ではほぼ初共演としながら、原田とは同じ役をダブルキャストで演じるなど縁が深い。この3人が満を持して朗読ミュージカル『カラフル』に挑む。原作は森 絵都の「高校生が選んだ読みたい文庫No.1」として名高い、累計100万部突破の大人も泣ける不朽の名作青春小説だ。本作が本邦初舞台化となり、朗読と音楽にこだわった見逃せない内容になっている。
死んだはずのぼくは生前の罪により輪廻のサイクルからはずされていた
――― ある日、天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得る。それは小林真の体に乗り移り、自分の罪を思い出すということ。天使のプラプラは下界のガイド役。僕のホームステイが始まる。
原田「この間、買い物の途中でバッタリ会いましたね」
田村「同じデパートで買い物中に4回くらい会って」
原田「そうそう驚いた(笑)同い年なのでプライベートでも仲良くしています」
田村「大先輩で演出家としてもお世話になって、色々な事を教えて頂いています」
――― 板垣さんと原田さんが会うとディープなお話しに?
板垣「あ、ならないかも。僕は放っておくとディープな話ばかりしていて疲れるから、優ちゃんと一緒だとディープな話にならなくて楽なんです」
原田「今まで仕事で経験なさった知識などを、『覚えていた方がいいよ』と若者に対して惜しみなく広げてくださるので、仕事面でもプライベートでも頼れる板さんですね」
――― 本作上演のきっかけや原作の印象を教えてください
板垣「プロデューサーから朗読劇をやりたいと話があった時に『この小説をやりましょう!台本を書きます!』とすぐに提案して。この作品はずっと舞台化したくて、2年くらい前にやろうと決めていましたが、男子に力がないともたないなと思って一旦諦めたんです。いつ実現しようかと思っていたので良いタイミングでしたね。日本にオリジナルミュージカルという物があまり根付いていないなと思っていて、この10年なかなか増えないので、実5年くらい前からコッソリ作り始めていました。
今ブロードウェイに行くと、極端ですが映画や童話、小説の原作しかやってないんですよ。オリジナルミュージカル=オリジナルストーリーをやらなければならないという呪いがかかっていることに気づいて、日本の小説で演劇にしやすい原作を探していたんです。今も探していますが実はめったにない。その中で『カラフル』は舞台に向いていると思った数少ない作品のひとつで、しかも歌も入れられると思ったんです」
原田「僕は出演が決まってから小説を読ませていただきました。朗読ミュージカルとは聞いていたので、とてもミュージカルに向いている作品だなと思って、しかも朗読にも向いている。それは場面場面がクッキリ色で描かれていてわかりやすくて、読み手にとってついて行けるスピードで、かつ情景がわかりやすい内容だと思ったんです。またミュージカルに向いているなと思ったのは、テンポがお客様と共に進んで行きます。
森絵都さんの意図なのかわかりませんが、テーマやオチ的なものが前半でわかってしまうんですよね。わかりつつも読んでいるという事が、計画性なんだろうなと。それで感動している自分もいる。オチを読み手がフライングしているのではないかと思うくらい。
ミュージカルって音楽に入ると足止めされることがあるじゃないですか、それがこの作品ではないんだろうなっていう事を思わせてくれた。そして今回板さんが書いてくださった脚本を読ませていただいて、音楽にしている部分がとても秀逸なんですね。自分も小説を読んだ時に、あ、ここ!て思った所を音楽にしていらっしゃる」
田村「原作を読んだ時に、すごく深く考える作品だと思いました。しかも読んだ後に議論ができる作品でもありますよね。あと主人公の少年は答えが出ますが、周りのキャラクターは描いていない部分があって、そこはどうなったんだろうと、舞台でも観た人が考えられる部分が残されていて、そういう部分が面白いなと思いました。また同時に、ここで音楽があれば更に盛り上がるなと。エンターテインメントになって心に染み入りやすく、多様に楽しめる作品になりそうと思いました。早く音楽が手元に来ないかワクワクしている所です」
――― 朗読ミュージカルとはどんな見せ方になるのでしょうか?
板垣「朗読と歌で、普通の朗読劇だと思います。朗読劇を演出する時に『台本から目を離すな』が僕のルールなんですね。朗読劇の最大の武器はお客様の想像力のみで世界を語るということだから、あまり役者さんを動かしたりすることを僕はやらないんです。一番の武器を手放しちゃう。また演劇をやっている身としてみると、台本を持っているのに目を離して動き回ったりすると、立ち稽古をやっているように見えて(笑)」
原田「ああ、なるほど。まだ本が離せないように見えちゃう」
板垣「本を読んでいて、例えば『世界は白かった』と言ったとしたら、どういう白か考えるでしょ。でも役者さんが顔を上げて『世界は白かった』と言ったらその人の顔を見ちゃう。そうすると白い世界が浮かばないんですよ。演劇は演技をやりながら想像させるメディアですが、朗読は言葉と今回は音楽が含まれますが、そういうものでお客様の頭の中に“像を結んでもらう”ということをやりたいので、きっちりとした朗読劇になると思います」
心のパンツを脱がしにかかる
――― 主人公・小林真役を演じるのは田村良太、天使プラプラ役には原田優一が決定している。2人のやり取りを想像するだけで面白い
田村「真くんは中学生で、周りの言葉や状況にとても影響を受ける年ごろだと思うんです。男子であれば色々身に覚えがありますね。自分もそうで、原作の通り髪型を変えたり高いスニーカーを買ったりもしまして色々なことに共感できました。 本作では自殺をきっかけに物語が始まりますが、日常でも大きな病気をしたとか大きな失敗をしたとかで、大切な事に気付くことってあると思うんです。そういう経験を生かしながら演じていきたいですね。板垣さんの演出は初めてなので稽古が楽しみです」
原田「僕は天使ですが人間ぽくて不完全で人間味のある日本人ぽい天使です。自分は人間ではない役がなかなか多いのですが(全員笑)その中でも未知な生物といいますか、天上界にいる時と下界に降りてきている時と性格が違い色んな性質を持っています。一見チャラく見えたり色々なべールに包まれているような役だと思っております」
――― 板垣さん的にはこの役はこの2人しかいないと
板垣「そう思いました。僕は半分は本人を使う演出をするんです。優ちゃんのたたずまいが役に放っておいても混ざるじゃないですけど、それは僕は排除しないんです。うまくそれを使おうかなと思うので、優ちゃんとやるという事は、優ちゃんの新しい魅力を毎回見つけることになるし、今回田村さんとやることも同じなるかと。田村さんがどういう人なのか?ということを見極める旅と稽古が同じになるんですよ。役を通して田村さんの何かの部分を突出させるみたいな。そんな考え方をいつもしていますね。役者のパンツを脱がすような仕事なんで、怖くないよーって」
田村「(笑)」
原田「板さんは徐々に徐々に気づいたらアレ?何も着ていない!みたいな感じです(笑)」
板垣「役者さんは最前線の兵士だと考えていて。僕は偉そうな事を言っていますが、司令部にいて遠くから進め〜って言ってるだけなんです。例えばお客様が敵だとしたら、その人たちを負かさなくてはいけないのは役者さんですよね。だから本人たちの能力を最大限に引き出すことが一番強い兵士になるはずという考え方になっています。自分が見せたい面しか見せないような人はやっぱり違う角度からは弱いということになるから、そういう時は心のパンツを脱がしにかかると(笑)」
原田「(笑)板さんが“カッコ悪い芝居ができないと”と言っていて納得したことがありました。カッコ悪い所を見せたくない人ってけっこういて、芝居でカッコ悪いことができるって凄く強みだと思うし、なかなか脱ぎ方を知らない人がいて」
板垣「おお、ナイスフォローありがとうございます」
原田「板さんと自分は朗読での演出とキャストは初めてなんです。朗読なのでどうなるのか、板さんが今まで培ってきた板垣理論というのがあって、自分はそれをとても崇拝しているし、今回も楽しんでやらせていただいていますが、朗読になった時にどういう理論があるんだろうかと凄く楽しみですね」
板垣「僕は演出家なので、この役はこうなんだよと最初のカードは僕が切れば良くて、その次は役者さんが切る番だと思っていて、切らないと怒ります」(全員笑)
原田「作品に貢献しない人は死ねばいいって言ってますよね」(全員笑)
板垣「(笑)作品を面白くするために僕らが集まっているから、これに貢献しない人には暴言を吐きます〜と最近顔合わせでよく言ってます」
生演奏の魅力
――― 朗読の他に見どころとして音楽そして“歌”がある
板垣「脚本と一緒に、森絵都さんの小説の言葉をなるべく使って作詞をしています。今回は詞先(詞が先で)で、音楽のYUKAさんにそれを渡してイメージの確認をして作ってもらい、言葉を音にはめてもらいお互いに調整しながら作っています」
原田「凄く楽しみなんです」
田村「早く聞きたいですね」
――― 音楽では今回仕掛けはあるのでしょうか?
板垣「今回は5人編成のバックバンドがいます!弦が入るとカッコいい!と何度も言ったら実現しました(笑)キーボード、ギター、ベース、ドラム、そしてヴァイオリン」
田村「すごい豪華ですよね」
板垣「アレンジはYUKAさんに任せつつ、歌だけでなくてBGMもたくさん入るので、このイメージはピアノだけとか、ギターだけにしようとか話ながら」
――― では劇中は全部生演奏になると?
板垣「そうですね」
原田「なかなか無いですよね!」
――― 生演奏ですと、朗読の呼吸とタイミングを合わせたりできるので、録音されたものとは違う効果がでますね
板垣「その場で尺を合わせることもできますし、その日のテンポで微妙に揺れるのが良かったりしますよね。同じものが出来ない、とてもカッコいいものになると思います」
日本の物語を日本の俳優が日本語で歌うという作品を作りたい
原田「この作品の出演者は、歌やミュージカルを中心に活動している方が多いので、朗読ミュージカルとして無理のない、歌が入ることで相乗効果を得られる方が揃っています。板垣さんとYUKAさん2人のタッグがクリエイティブ的にとても合っていて、他の稽古場でも雰囲気が良くて好きなんです。芝居はキャストとクリエイティブ陣の化学反応だと思っていますし、まだ稽古をしていない状態ですが、面白くなるという予感がバンバンしている所です。この原作が高校生に読ませたい本bPですが大人が読んでもすごく気付くことがいっぱいあります。今生きている事はどういうこととか、ダイレクトに問いかけられてくるんですよね。それが音楽によって膨らんで、作品としても魅力的になるのではないかな。いまの日本でやる意味がある作品だと思っています」
田村「まずとても素晴らしい原作です。そこに素晴らしいメンバーが揃いました。絶対に良い化学反応が起きるだろうなと思っていて、僕もとても楽しみです。そして実は2部にレビューショーがあります。せっかくこのメンバーですので、カラー(色)をテーマにとても素敵なものがお届けできるのではないかと。この作品をきっかけに人生について考え方が変わるかもしれない、そんな力のある作品なので是非答えを探して楽しんでいただきたいと思います」
原田「良太が主演で、ここを中心に集まって来るところが何とも面白い図なんです。本人がフンワリした感じなので」
田村「みなさんにサポートされる立場です」
原田「はいはい、こっちこっちって(笑)」
板垣「まずは原作の面白さがあります。先に小説を読んでいらしてもそれはそれで面白いかもしれませんよ!それもオススメです。ミュージカルってこういうことができるんだと、演劇になった時に何が立ち上がるのかという事を見ていただきたい。ぜひ小説ファンの方にも届いてくれたら嬉しいですね。オリジナルミュージカルという物の実験の一つとしてやろうと思っています。
この作品に限らず、“日本の物語を日本の俳優が日本語で歌う”という作品を作りたいなぁという野望がありますので、その一環のはじまりとして皆さんに是非目撃していただきたいです!」
(取材・文&撮影:谷中理音)