堤泰之が脚本・演出を手掛ける3人芝居『トリスケリオンの靴音』が上演される。出演するのは、若手男性俳優集団D-BOYSの碓井将大、劇作家・演出家として幅広い作品を手がけている赤澤ムック、そして劇団☆新感線の古参メンバーの1人である粟根まこと。演劇ファンなら色めき立つこと間違いなしの座組から、いったいどんな作品が生まれるのか。以下のインタビューから、その手がかりを探してほしい。
出演を決めた理由は、3人とも「面白そうだったから」
――― オファーを受けたときは、どんなことを思いましたか?
粟根「3人芝居というのは初めてで、赤坂RED/THEATERも出たことがない。そんな初めてづくしの中、堤さんの作品には出させていただいたことがあって(2012年『abc★赤坂ボーイズキャバレー3回表 〜自分に喝を入れて勝つ!〜』)、碓井くんとも共演したことがあるので(2017年『スキップ』)、初めての要素と知ってる要素がどう絡むのか、すごく興味深かったのでお受けしました」
赤澤「私はお2人とは初めてで、舞台に出るのも長編ではかなり久しぶり。ずっと裏方でやってきたので、そんな私によく声をかけたなと(笑)。堤さんの作品を拝見したことはありますが、随分昔のことで、むしろ自分は俳優として堤作品に合わないんじゃないかと思っているくらいです。どちらかというとキャスティング、お2人の名前で受けるのを決めたというのが強いですね。面白そうだなと思ったので」
碓井「D-BOYSの先輩方が、この作品のプロデューサーである難波利幸さんの手がけた作品にいくつか出ていて、僕も観たことがあったんです。そんなご縁もあって声をかけていただきました。それ以来、どういう内容なのかわからない状態が続いていますが(笑)、この3人を面白いと思って観に来ていただけるような作品にしていきたいです。去年、粟根さんとご一緒したときは、いろいろ教えていただくこともあったので、心強く思っています」
赤澤「粟根さんには俳優としてどういう印象を?」
碓井「けっこう何でも試してくるな、という感じでした。まずはやってみて作っていく。そんな印象が強いです」
粟根「演出家にもよりますけどね」
碓井「そのときは僕より年下のキャストがたくさんいたんですけど、みんな“粟根さんがやってるから自分もやっちゃえ”みたいな、良い空気が生まれていました。現場の潤滑油になっていたというか」
粟根「僕から見た碓井くんは、変わった青年だなと。去年、共演する前に、吉祥寺シアターで彼のお芝居を初めて拝見して(オフィスコットーネプロデュース『The Dark』)、そこで演じていた引きこもりの少年みたいな役が印象的だったんですけど、終演後にご挨拶させていただいたら、ずいぶん違ってすごくしっかりした青年で。共演した舞台では、先生に恋をしてしまう高校生の役でしたが、僕が知っている若い俳優さんとは、アプローチの仕方がだいぶ違うなと思いました。どちらかというと若さを前面に出して、パワーで行ったりする子が多い中、彼は“引く”ことでお客さんを引き込むような芝居をするタイプ。運動エネルギーよりも位置エネルギーが高いというか。これは面白いぞと思っていましたね」
赤澤「稽古場が楽しみですね」
粟根「あと、稽古の休憩時間とかに話をしているとき、彼に電話がかかってきて急に英語やフランス語で喋り出すことがあってビックリしました(笑)」
碓井「(笑)」
粟根「友達に英語圏やフランス語圏の人が多いらしくて。さっきまで一緒に喋っていた子が急にフランス語喋り出したら、それは驚きますよ(笑)」
公式サイトのプロフィールから人柄が見える
―――この3人で会うのは今日が2回目だそうですね。昨年、堤さんを交えた飲み会が開かれて、それぞれがやりたいことを言い合ったとか。
粟根「ほとんど雑談でしたけど(笑)」
碓井「でも1人1人、こういうのがやりたいっていうのがありましたよね。ムックさんがお母さん役をやりたいって……」
赤澤「言ってない言ってない(笑)。逆です。お母さんはやりたくないって。普通のいいお母さんみたいなのは、ほんと下手くそなのでやめてくださいって言ったんです。堤さんは“じゃあそれで”って言ってましたけど(笑)」
―――そんなふうに作品作りが始まることって……
粟根「あまりないですね」
赤澤「本があった上で、どの役をやりたいっていうことはありますけど」
―――フライヤーや公式ウェブサイトに載っているあらすじは、その後に書かれたんですよね。とある田舎町が舞台で、十数年前に亡くなった彫金家の工房を資料館にして街を活性化させようというプロジェクトが立ち上がり、彫金家の弟子だった男が粟根さん、市役所の担当者が碓井さん。そして、彫金家の娘を名乗って現れる女が赤澤さん。
赤澤「飲み会の内容は反映されていないですね(笑)。やっぱりな、と思いました」
粟根「このあらすじだけ読むと、サスペンスっぽい印象は受けますね。文体もそんな感じだし」
碓井「僕が気になったのは、《資料館のオープンまで1ヶ月を切ったある日。一人の女が現れる》っていうところ。ということは、そこまでは粟根さんと僕の2人だけなのかなって」
赤澤「そうか、私はたぶん1時間45分くらいで出てきて、10分くらいの出番で終わる」
粟根「ダメだよそんなの(笑)」
――― 皆さんのプロフィール文もちょっとユニークですよね。いわゆる公式プロフィールの文章とはちょっと違っていて。
粟根「あれは3人それぞれ自分で書いたんです。面白いのを書けと言われて」
赤澤「文体から微妙に人柄が見えるのがいいですよね」
――― それによると、碓井さんは身体を鍛えることにハマっているそうですが。
碓井「さっき粟根さんが言ってくださったように、去年は引きこもりの青年と、ちょっとナイーブな男の子をやった後に、アイスホッケーの選手をやることになっていたので(風琴工房『penalty killing -REMIX VER.-』)、身体を大きくしなきゃと思って。もともと僕は58kgくらいしかなかったんですけど、そのときは70kgくらいまで増やしました」
粟根「デニーロ・アプローチだね。自分は嫌いなんだけど(笑)」
赤澤「私は書き仕事が多くて1年の半分くらいは引きこもっているので、資料を読みながらスクワットとかやっていたんですけど、最近はそれさえもやっていない。年末の飲み会で、来年こそは運動しようって言ったのを今思い出しました(笑)」
―――赤澤さんのプロフィールには、《長編舞台に5年以上出演していない》とあります。
碓井「そんなに長く出演されてなくて、今回はどういう感覚なんですか?」
赤澤「いやもう、恐怖ですよ。最後にやったのは2人芝居で(2012年『愛のゆくえ(仮)』」
粟根「じゃあ、今回は1人増えましたね。さらに5年後は4人芝居で」
碓井「また5年空くんですか(笑)」
赤澤「私は面白い演劇が世の中に増えればいいと思っていて、それに寄与するためには、自分が出るより裏方の方が面白い作品を作れるのではないかと。つまり、やりたい順番として脚本、演出が先にある。俳優としての自分は評価していないんです。でも今回、お2人と並ぶからには150%くらいの力で頑張ります。そうじゃないと失礼ですし」
視点を変えて2回3回と観てほしい
―――粟根さんは、《博物館や資料館に弱い。アウトドアショップにも弱い》とあります。
粟根「旅公演に行ったりしたとき、時間があればその土地の博物館や資料館に行きます」
赤澤「アウトドアショップに弱いというのは、私もよくわかります。眺めているだけで燃えますよね」
粟根「いろんな装備がズラッと並んでいるのが楽しいです。機能を突き詰めていった結果、美しくなっちゃった器具とかが好きですね」
碓井「《冬は釣りベストがカバン代わり》って書いてありますけど、粟根さんと初めて会ったときに釣りベストを着ていらっしゃるのを見て、すごい方だなと」
赤澤「(爆笑)」
粟根「申し訳ない。もう20年くらい、このスタイルです」
―――そろそろ公演の話に戻します。会場となる赤坂RED/THEATERについてはいかがですか?
赤澤「私、劇団の外で初めて演出した公演がRED/THEATERだったんです(2009年『赤と黒』)。だから、近所の食事処を思い浮かべてます」
粟根「あの界隈はいろんな飲み屋さんがあったり、昔からやっている酒屋さんや煙草屋さんがあったりする古い町。最新のものと歴史とを同時に感じられる町ですね」
碓井「RED/THEATER自体もすごくいい空間ですよね。内装のところどころに赤が使われていて。役者の火みたいなイメージで」
赤澤「使いやすいコメント(笑)。ところで全然話変わりますけど、今、私チェーホフの『三人姉妹』を演出しているんですけど(1/17〜2/4 博品館劇場)、あれって台詞の量がすごく多いじゃないですか。でも今度は3人芝居だから、下手するとそれ以上かなって」
粟根「確かに、1人あたりの台詞の量は普通のお芝居より多くなるから大変だと思います。じゃあ、ムックさんは『三人姉妹』を演出した後、3人芝居に出るわけですね」
赤澤「これも使いやすいコメント(笑)」
粟根「今、新感線は豊洲のキャパ1,300人の劇場でやっていますけど、RED/THEATERは150人も入ればいっぱいになる濃密な空間。ほんとに目の前が舞台なので、そういう空間を楽しんでいただきたいですね」
碓井「ライブ感がありますよね。3人芝居なので、それぞれの視点にフォーカスしながら何度も観るという楽しみ方もできると思います。ぜひ2回、3回と観に来ていただければ」
赤澤「ほんとにいいことおっしゃいますね(笑)」
粟根「考えてきただろ!(笑)」
碓井「はい、昨日考えてきました(笑)」
(取材・文&撮影:西本勲)