2016年にスタートした女性キャストのみの舞台公演プロジェクト「AUBE GIRL’S STAGE」(オーブ・カールズ・ステージ)は脚本・演出家の山本夢人が「これからの芸能界や演劇界を担うタレント・女優に育って欲しい」との思いが込められ、意欲溢れる若手達の挑戦と飛躍の舞台となってきた。第4弾は山本自身が上京後初めて書き下ろした渾身の青春群像劇。今作のテーマとなる“現代の若者の心の渇き”を24人のWキャストたちがどの様に演じるかに注目が集まる。
やっている方向に間違いはない
――― 「AUBE GIRL’S STAGE」も今作で第4弾を迎えました。これまでの手ごたえはどうでしたか?
山本「1回目を旗揚げする時に考えていたのが、若い子達が未来に向かっていく中でどう、困難や壁を乗り越えていくのかという所にフィーチャーすることでした。特に手ごたえを感じているのが、事務所や関係者からの内部の好反応です。演じる子も1人の人間として役へのアプローチを考えさせる事で、しっかり舞台上の感情に反映されています。本人や事務所の方からの『また次もお願いします』という声になっています。また外部の反応としては、前回公演は特に評判が良くて、20代を中心にSNSで大きな反響がありました。まだまだ改善の余地はありますが、やっている方向には間違いないと思います」
――― なぜ女性だけのキャストにこだわったのですか?
山本「僕は大学の頃から女の子を主人公に描くことが多かったこともあり、近頃は女の子の方が元気があると感じていたので、そのエネルギーを作品に集約してみようというのがスタートでした。プロデュース面を考えても、他の団体さんとの差別化になります。それに、僕の作品に一貫している『どう困難を乗り越えるか』という部分でも、男女の違いが多少あると思っていまして、女性の方が涙など弱い部分にフィーチャーしやすい。昨今のリアルな若者にとっての壁というのはかなり高いものであると感じていまして、人の弱さや脆さ、女性らしさから描くことで、より共感を得られ、見せやすいのかなと感じています」
若者が抱える悶々とした思いや、社会への幻滅、挫折がテーマ
――― 今作「オレンジの画面2018」は14年ぶりの再演になりますが、どの様な内容ですか?
山本「これは僕が23歳の時に上京して最初に書いた台本で、ものすごく思い入れが強い作品です。2001年が初演で2004年に再演されました。青春群像劇で、若者が抱える悶々とした思いや社会に対する幻滅や挫折をテーマに織り込みました。今回は14年ぶりという事もあり、時代に合わせてリライトしました。当時、もちろん今もですが、社会問題になっている『引きこもり』も1つのキーワードになっています。主人公は20代前半の女性中学教師。同窓会でたまたま再会した親友の姉が引きこもりとなっていて、その姉が謎の女に連れ出されたという事を知ります。正義感の強い主人公が2人を追っていく中で様々な謎が出てくるという内容ですが、衝撃のラストが待っています。これ以上はお話できません(笑)」
喜怒哀楽、それ以外の感情が出てしまうかもしれない
――― その主人公の女性教師役を菅沢こゆきさんと重元美沙さんがWキャストで演じます。それぞれの役への意気込みや教師のイメージはありますか?
菅沢「チームレッドの主人公を演じます。前回公演の台本は読みましたが、まだ本作の台本ができていないので、まだ漠然とした感じですが、今回の作品では自分の喜怒哀楽が全部出て、それ以外の感情が出るかもしれないので、少し怖い部分もあります。あまり構えて臨むより、ちょっと壊れるぐらいがいいかなと(笑)。通っていた中学は厳しい学校だったので、私にとって先生は神様のような存在。勉強を教えてくれる神様的な。正義の象徴じゃないですけど、古臭い先生のイメージがあるので、演じる事になってあたふたしています。でも先生も同じ人間なんだというところを出せるように、色んな感情を反映できたらと思います」
重元「チームイエローの主人公を担当します。「AUBE GIRL’S STAGE」は2回目ですが、今回は初めて自分以外の人物に巻き起こる事象に対してどう感じるかという役どころなので、前回とは全く違った演技が求められると感じています。どちらかというと生徒役が多かった私にとって教師役は初めて。正義感溢れる役どころという部分からも普段、平和主義の私にとっては新たな挑戦になりますね。菅沢さんと違って私が先生に抱くイメージはフレンドリーで身近な存在。若い先生だった事もあって相談しやすくて。でも作品ではいい意味で生徒との距離感を出せたらなと思っています」
彼女たちの武器を見つけてあげること
――― 舞台を作る上で大切にしていることはありますか?
山本「オーディション46名受けて24人を採用しました。前回以上に力のある子が多いです。その中でも2人は頭ひとつ抜けていました。存在感や芝居に対する意識、演出への対応力などレベルが高かった。また全ての役がWキャストという事で舞台が全然違うものになります。それぞれのキャストが持つ個性や魅力を大切にして演出していくと、自然と違う作品になります。これは、実はとても労力のかかる作業なのですが、彼女たちの未来を考えると、自分のイメージだけに当てはめるという演出は、絶対にしたくない。その他に舞台を作る上で大切にしている事はしっかり公平に1人1人の役者を見ることにしています。決して主役だからと言って序列は作らない。色んな意見があると思いますが、タレントや女優として伸びていくにはまず武器を見つける事。ここに気づいている子とそうでない子がいます。まずはそこに意識を向けさせる事が先決で、欠点や短所はゼロにしていけばいいんです。自分の武器をいかに伸ばしてあげるかで今後の道が決まってきます。
今回は特に思い入れのある作品なので、めちゃめちゃ指導に力が入ります」
――― 今作への意気込みと読者の皆さんにメッセージをお願いします。
重元「今回もオールWキャストなので、違うグループの子達は私にとってのライバルでもあり、仲間でもあります。他の人が自分の役をどう演じるかで新たな発見も多いです。同じ舞台ですけど、お客さんには違う色に見えるように、自分の色を出したいですね。ラストシーンは観に来るお客さんの心境や体調によっても色んな感じ方を持ってもらえると思うので、色んな世代の人達に気軽に観に来て欲しいです。敷居は全然高くありません。お客さんがいてこそ、最後に作品が完成するので」
菅沢「どうしても自分だけだと視野が狭くなってしまうので、舞台全体を見られるようにしたいです。この公演の中でハネて自分の限界を超える事ができればまだ見たことがない世界を見られるような気がします。ここを登竜門としてハネたいですね。出演する24人全員が違う演技があるので何度観ても楽しい作品になります。生々しい24人の女の子たちのお芝居が見られるので何度も足を運んで欲しいですね」
山本「『チームレッド』と『チームイエロー』。赤と黄色を足すとタイトル名にもなっている『オレンジ』になるんです。そこにも意味が隠されています。
劇中のダンスにも注目して
山本「今回はエンターテインメントの要素も強く、特に劇中のダンスに注目してもらえたらと。また、今回はテーマ曲を作成しており、ラストで歌いながら踊ります。テーマ曲に関しては、1作目に続いて劇団鹿殺しのオレノグラフィティくんが作ってくれるので楽しみにしてもらいたいですね。さらに、テンションが高いパートや、ちょっとおバカなシーンも多く、今までの3回とは違ったタッチになります。そして、AUBEで一貫して表現してきた若者たちが今しか吐き出せない思い、彼女らの心の叫び、それらは今回も多く盛り込んでいますので、そこはぜひ注目してもらいたいですね。今までの作品を越える内容になると自負していますので、是非皆さんには会場で見届けてもらいたいです」
(取材・文&撮影 小笠原大介)