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久保井研・藤井由紀


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海沿いの病院、大震災の記憶、居場所を探して彷徨う女。今の時代を予言していたかのような、ドラマチックな物語

青春、愛、挫折、希望。2018年の紅テントに“お世話の都”が立ち上がる

唐十郎主催、神社の境内や公園に張った通称“紅テント”で芝居を行っている劇団唐組。30周年記念公演第1弾として4月に幕を開ける『吸血姫』は、1971年に初演され、観客に衝撃を与えた大作だ。海辺のとある病院から始まる物語は、現在の日本を予言しているかのようなテーマに貫かれ、40年以上前に書かれたものとはおよそ思えない。演出も務める久保井研と、先日、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞し、今脂の乗っている看板女優・藤井由紀に話を聞いた。


インタビュー写真

若手が力をつけてきた今だから挑戦できる大作

――― 劇団立ち上げ30周年記念公演の第1弾ということですが。

久保井「唐さん自体がそういう節目みたいなものを気にする人じゃなかったので、10周年も20周年もやってないんですよね。むしろ、俺たちは役者集団なんだから、飯を食うみたいに日常的に芝居をする集団なんだ、ってすごく言ってて。だからここまで何もなく過ごしてきちゃったんですけど、まぁここらでまた襟を正して、初心忘るべからずじゃないですけど、新しい1歩を踏み出す意味合いも含めて、初めて。と言っても特別それに向けて何か新しい企画があるって事でもなく、自己確認みたいなものですよね。それとまあ、制作サイドとしてはそういう冠が付くとアピールしやすくなるんじゃないかと(笑)」

――― 『吸血姫』を選んだのは?

久保井「これまでは、すごくウェルメイドな物語……演じてる人間にある意味破綻が起きないような、そして唐十郎の言葉の文学的な魅力を味わってもらえるような作品を選んでいたんです。唐組になって書かれたものは、言ってしまえば“特別化け物でない人間が、社会の中で色々な出来事とぶつかりながら歳をとっていく”物語が多かったんですね。
 一方で状況劇場時代のものは、敵としてみなすものがイデオロギーだったり、時代を象徴してるものであったり、やっぱり今の現代とはちょっと距離が、隔たりがあるのかなって思ってて。なので状況劇場時代のものから作品を選ぶのは慎重になってたんです。
 でも去年辺りから若手が育ってきた、地力がついてきたこともあって、今度は彼らに物語の中軸を担わせたい、冒険させてみたいという意図があって、ここらで一回大作に挑戦してみるのもいいかな、と」


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――― 藤井さんは作品にどんな印象を持たれていますか。

藤井「『青春、愛、挫折、希望』っていう単語が台詞の中に出てくるんですけど、そういうちょっと青臭い感じのものが出るといいなあと思ってて」

久保井「唐さんが好きな言葉らしくて、よく『青春、愛、挫折、希望』ってサインの横に書くんですよ」

藤井「この台詞で終わりますし、すごく残るし。最近私たちも歳をとってきましたけど、お客さんも高齢化して、子供とか孫とかを連れて2代3代で見に来てくれたりするんですよ。だから、青春が過ぎ去った人、これからの人、それぞれがこの唐さんの言葉に何を感じてどう受け取ってくれるかなっていうのがすごく楽しみです」

久保井「藤井が言ったように、最近は観客層がすごく広いんですよ。この2年ぐらいで若い観客がすごく増えているので、テントでやってるっていう形態も含めて、ドラマも、全部持って帰ってもらえるように作っていきたいなって思ってます」

――― そういう若いお客様にとっては、かなり新鮮な体験なんじゃないですか。

藤井「みたいですよ。今、唐さんの名前は教科書に載ってるので、そういう意味で伝統のものっていうか、1回見とかなきゃ、みたいな感じで来て、何これ新しい!ってハマったりとか。えっ!?ってなりますよね。中毒性があるので、違う場所でやってるならそっちも行ってみようとか、地方にも行ってみようとか」

久保井「大学生がお父さんから勧められて来たとか、アンケートに書いてあったりするんです。僕たちの時代なんて、芝居に行くなんて言ったら親に変な顔されましたけどね(笑)」


言葉の力を信じて、真正面からぶつからなければ読み解けない

――― お稽古が始まって約2週間、手応えはいかがでしょう。

久保井「今の若い人たちは、文字とか言葉とかっていうものを表層的に捉えちゃうような習慣があるのかなって思いながら、この時代に書かれたものをどう読み解いていくんだろうっていうヒントを出しながらやってるとこなんで。解釈までは何とか辿り着けても、今度はそれを表現する、客の前でやる段階でどれだけの説得力を持ってくるのか。そういうところを、作りながらすごく楽しんでいます。
 この作品が書かれた当時の唐さんや劇団員と、同じくらいの年齢の今の役者たちを比べると、やっぱり当時の人達はとても大人ですよね。当時の唐さんたちと同じくらいの年齢の奴らで今の唐組は構成されてますけど、どれだけ言葉の力を信じて、説得力ある芝居を実体化するかは、真正面からもっとぶつからなきゃいけないことなんだなって、すごく痛感してる毎日です」

藤井「今回は久保井さんの希望で、劇団員には何の役になるかまだ発表してないんですよ。どこを読んでもちゃんと読めてなきゃダメだと。ホン読みも2週間くらいとってて、それも珍しいんですけど」


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――― その状態でホン読みというのは、どうやって?

藤井「今度はこの役を読んでみてとか、どれが来るか分からない日が毎日続いてます(笑)。ただ、自分がこの役やりたいなと思ってて、他の人が読んだ時に、あ、そういう読み方もあったのか、というような発見もあったり、なんで私はこう読んだんだろうって改めて考えさせられたり、そういうのを今みんな、私も含めて鍛えられてる感じですかね。
 役者って基本自分の役ばっかりで、だからこそ深くなる部分もあるんですけど、まずはみんなで作品全体を考えてみようと。それによって、小道具もセットも衣装も共通の認識がどんどん増えましたし、全体の話について、長く時間がとれたのが良かったなって。大作に挑むから当たり前なんですけど、そこらへんがいつもと違うかなあと思いますね」

久保井「大作ってこともありますし、やっぱり戯曲自体にものすごくポテンシャルがあるだけに、通り一遍の読み方ではとても追いつかないようなところがすごくあるので。全員が本について深く理解……をできるかどうかは分かりませんけど、深く意識はして欲しいっていうことがあって、こういうやり方をしてますね」

藤井「すごくいい緊張感の中でやれていると思います」

――― しかも今回、客演に銀粉蝶さんを迎えます。

久保井「もともと銀粉蝶さんはうちのすごくファンで、必ず毎回来て芝居の感想も聞かせていただいてたので、よく話す機会はあって。唐さんの脚本を一度やってみたいっていう話をよくされてたんです。71年の初演の『吸血姫』もご覧になってて、芝居の世界に入るきっかけになったくらいの衝撃だったっていう話をされてました。なので、今回出ていただくのも結構トントンと決まったというか、せっかくだからテントに出してってことだったので、これはどうでしょうって。テント立てるのも衣装作るのも私もやるわっておっしゃってくださってます」


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ドラマチックな物語と古びない唐十郎の言葉を、今の観客に提示する

――― 公演楽しみにしています!……では最後に改めて、作品の魅力をお願いします。

藤井「私は、キャラクターが多くて面白いところが大好きですね。どれも唐さんの分身で、唐さんのチャーミングなところが多彩なキャラクターに散りばめられてて。今回だと、看護婦2っていう役は『いいわあ』しか言わないんですよ(笑)。すっごい面白いし、『いいわあ』以外言わない役を作った唐さん、すごいなって。そのキャラクターの面白さと多様さ、それを劇団でできる幸せがありますね。唐さんの作品はあちこちでプロデュース公演もありますけど、キャラクターが濃いからっていろんなところから濃い人集めて来ると、一見良さそうだけど何かバラバラな感じになっちゃうところがあるんです。それが劇団だとキュッと同じ方向を向くというか、ちゃんとみんなで一個にしていく力が働くんです。それができる劇団っていう集団があるのがありがたいなと思いますね。みんながいろんなことにチャレンジしているので、いつもの唐さんの言葉を堪能しに来てくだされば嬉しいです」

久保井「この芝居の面白さは物語のドラマチックさだと思っていて。それは書かれた当時の時代背景が大きいんでしょうけど、やっぱりイデオロギーのようなものを仮想敵として書かれていたのではないかと推測しているんです。ただ、読み返してみると現代にものすごく通ずるところがあって。47年前に書かれたのに、まさにビットコインのような、現代の経済体系によって人は生きるんだっていう、そこにもう黙示録的な唐十郎の言葉が入っていて、その面白さに今またびっくりしながら作ってるって感じです。現代においても全く古くなっていない、そういうことを感じ取ってもらえるような芝居にしたいと思ってますし、そういう面白さが詰まった作品だと思います。
 だから、ノスタルジックに見てもらうっていうよりも、『今観ているお客さん達がどういうところで引っ掛かりを持てるか、持って帰ってもらえるどんな言葉を僕らが提示できるか』っていうところを狙っていきたいと思ってます」


(取材・文:土屋美緒 撮影:友澤綾乃)


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PROFILE

久保井 研(くぼい・けん)のプロフィール画像

● 久保井 研(くぼい・けん)
1962年生まれ、福岡県出身。89年に唐組入団。90年『透明人間』で演出助手を務め、97年の再演では初めて演出を担当。
 外部演出では『少女仮面』(10年)や渡辺えり一人芝居『乙女の祈り』(10年)などがある。唐組での代表演出作は『桃太郎の母』(93年)、『水中花』(01年)など。庭劇団ペニノやサンプルなど外部出演も多い。2017年劇団唐組×東京乾電池コラボ公演『嗤うカナブン』に出演。

藤井由紀(ふじい・ゆき)のプロフィール画像

● 藤井由紀(ふじい・ゆき)
1971年生まれ、埼玉県出身。95年に唐組入団。多くの作品でヒロイン役を飾る。優雅なたたずまい、繊細な演技で知られる紅テントの看板女優。
 主演代表作は『糸女郎』(02年)、『泥人魚』(03年)、『津波』(04年)、『ふたりの女』(10年)、『秘密の花園』(16年)など。外部出演も多く、泉鏡花のリーディングや、Project Nyx、温泉ドラゴン、青蛾館『宝島』(17年)などに出演。2017年の『動物園が消える日』で第25回読売演劇大賞 優秀女優賞受賞。若松孝二監督 映画『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08年)など映像作品にも出演している。

公演情報