古今亭菊之丞プロデュース『神楽坂落語まつり』は、芸能の灯を守り育み続けている神楽坂で落語にスポットをあて、伝統芸能を愛し育てる想いを形にと回を重ねて今年10周年を迎える。
落語は漫画やアニメ、若手俳優たちが舞台などでも取り上げ一時期よりブームになっている昨今、初心者にも優しい会としてもオススメできるこの落語会が、節目の年ならではの顔付けで、通をも唸らせる見逃せない寄席を実現する。「牛込落語会」に襲名披露で出演の立花家橘之助と、古今亭菊之丞の二師匠に話を聞いた。
この会は組んでいる時がとても楽しいです
菊之丞「10周年はあっという間ですね。10年前と言いますと自分が真打になって5年ぐらいでした。今年で15年、今のブームになる少し前でした。落語のテレビ番組もまだ多くはありませんが、関係するものはかなり増えてきて良い傾向にあるなと実感がありますね。お客様も10年前に比べたら確実に増えておりますしね」
――― 今回ご出演の皆様についてご紹介ください。
菊之丞「今回も旬なものをまず一つ、他ではできないものを一つというふうに考えています。旬なものとして、毘沙門天の昼夜では新真打、ホールの昼では襲名の披露興行、今一番旬なものを並べようと。そしてもう一つホールの夜は他ではまず見られないであろう“金馬・川柳”この両師匠の組み合わせはこれまで聞いたことがないですよ。
ホールの「牛込落語会」に関してはお忙しい方々ばかりで、今回は土曜日ですがその日取りにまず苦労しました。主人公が空いていなければ、そして主人公につながる方々の都合が合わないことには実現できないことなので。おかしかったのは、金馬師匠(現在89歳)にお願いをした時に1年近く前の段階で来年の6月か7月とお伝えしたら『大丈夫、空いてるよ、生きてたらね』と(笑)。師匠は絶対生きていると思います、とお伝えしましたが、そんなことを言われましたね。この会は組んでいる時がとても楽しいです」
――― 自らオファーをされていらっしゃるのですね。
菊之丞「はい、私自らお電話をかけてお願いをしております。そして私が信頼を置いている方々ばかりですので、この方々でしたらお客様ももちろん満足してくださるし、お客様もいっぱい来てくださるであろう方々にお願いしているので、こちらにとってもお客様にとっても安心して見て聞いていられる会でございます」
――― 今回の見どころの1つ、真打、襲名披露が重なる珍しい年になりましたね。
菊之丞「ちょっとできないことをやろうというコンセプトの元に考えましたので、通常絶対に見られない会になると思います。皆さん快くお引き受けくださって。橘之助襲名はどれくらい前にお話しがあったのですか?」
橘之助「お話があったのは26年前ですね、でもその時はとても大きな名前だからお断りをしたんです。30代そこそこだったので、あ、年齢がわかってしまいますね(笑)本格的にお話しがあり2017年9月に襲名しました」
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――― 「牛込落語会」では、三味線芸の高座は初とお聞きしました。
菊之丞「毘沙門天の会で出演されたことはありますが、トリをお願いするのは今回が初めてですね」
橘之助「びっくりですよね。色物でトリは通常ないんです、ありえないことなのでとてもありがたいと思っております。私は昨年50日間襲名興行をやらせていただきまして、初代・橘之助の人気作『たぬき』をやったんです。これを全編やると14分くらいあり、普段の寄席は高座自体が(全部で)15分だからこれだけで終わってしまうので、とても普通の寄席ではできないんですよ。今回はトリなのでやらせていただけることになりました」
――― そしてさらに見どころがあるそうで。
橘之助「実はもう一つ特別なことがありまして、『狸』には鳴り物・鼓(つづみ)が入るんです。鳴り物が入るととてもいいんですね。桂やまとさんという方が演奏しますが、その方を今回、菊之丞さんが頼んでくださって。特別に頼まないと入れられないものなんです。今回襲名興行を再現してやらせていただきます。やまとさんの鳴り物と私の三味線とのコラボですね! ギターとドラムのセッションのようなやり取りがあり、これも見どころになると思うので是非楽しみにしていただきたいですね」
――― この襲名披露口上では、この会ならではの菊之丞師匠の演出も見どころですね。
橘之助「襲名の披露口上は通常、上の師匠方が並んでくださるんです。私の50日間の披露口上は金馬師匠はじめそうそうたるメンバーが並んでくださいましたが、今回はありがたいことに菊之丞さんと今人気の真打の方々が口上をやってくださるということで、(三遊亭)歌武蔵さんと(柳家)喬太郎さん、菊之丞さん、これも見どころだと思いますね。なかなかないことで何をしゃべってくださるのかしら!いじられると思います(笑)そこも見ものかもしれません」
――― 口上は当日までご本人には内緒なのでしょうか?
橘之助「口上はみなさん、あまり考えないの。その場でバッと洒落を効かせるのが面白いんだと思います。今回の口上では3人ならんでくださいますが、前の人とは違う事を喋らなければいけないので、用意しても先に言われちゃう可能性があって、裏話もありそこが面白いのよね」
菊之丞「寄席に打ち合わせはないんですよ」
――― ではお馴染みの方が聞くと、クスリとなる訳ですね。
橘之助「そうそう! 何が来るが楽しみです」
菊之丞「高座でも前の方がどんな噺をするかわからないので、それによって次の演者はどんなネタをやったらいいのか、また当日のお客様のコンディションも大事で、その状況でネタも変わってきます。そしてなるべくトリの方がやりやすい環境になるように僕らが持って行くわけです。ばーっと盛り上げて最後にトリへお渡しする。そういう流れですね」
橘之助「そして今回は喬太郎さんがひざ代わり(トリの直前の高座)をします」
菊之丞「普段の寄席では落語以外のもの、色物がひざ代わりをするのですが、今回は逆になるんです。音楽で終わる高座はこれからもまず無いでしょうね」
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――― 「牛込落語会」夜にはレジェンドが登場しますね。
菊之丞「本当にありがたいことです。金馬師匠は第一回目の落語まつりの「毘沙門寄席」の方にご出演いただいておりました。1970年代、今の毘沙門天善国寺の舞台が新築された時に落語の会を始められたのが金馬師匠の勉強会「金馬いななく会」でした。神楽坂落語の原点が金馬師匠なんです。川柳師匠もここで独演会をやっていらっしゃいます。金馬師匠には1年目、10年目という節目の会に出ていただくことはとても価値があることですね」
――― そして「毘沙門寄席」では、真打になった古今亭志ん五、柳亭こみち両師匠が登場ですね。
菊之丞「こちらも真打昇進の当人が空いているのが大前提、そしてその師匠が空いていないとできませんので、この会も運よく決まりました」
橘之助「本当にいいメンバーですよね、よくつかまえました(笑)」
菊之丞「お客様さまから見ても魅力的な方々で組めました。主役の古今亭志ん五、柳亭こみちも、仕事の合間をぬって出演してくれます。橘之助襲名の口上も本来なら圓歌師匠にお願いするところですが、非常に残念なことにちょっと前に師匠が亡くなってしまったんですね」
橘之助「真打は人生に1度きり、師匠が口上に上がってくれることは、これほど嬉しいことはないと思いますよ。私の場合は1周忌になりますが、口上書きを作らなくてはいけなくて、師匠に一筆入れていただけるかどうか悩みながら貰いに行ったんですがもう具合が悪い頃で。そしてある日呼ばれておっしゃったことを全部書き留めたんです。私は三遊亭ですが『立花家になるので名前が変わるけれども、私の弟子であることは変わりないから』を入れるんだぞって言ってくれて印刷に出したことを覚えています。その5日後に亡くなられたんです」
最初にいいものを見ると本当に好きになれる
橘之助「こんな贅沢な会を最初の落語として観て、普通のことと思ってしまって大丈夫かしら?(笑)金馬師匠、川柳師匠の二人会はもうないと思います。本当に最後かもしれない! 是非お楽しみになさってください」
菊之丞「寄席はどうやって行けばいいのか、高尚で難しいと思っている方もいらっしゃると思いますがそんなことはありません。最初にいいものを見ると本当に好きになれるので、この機会にいらしていただきたいですね。とは言っても私達はゆったり気だるく普段通りのことをやっておりますので、寄席ってそういうところですから、お客様にもゆっくりそうした雰囲気を楽しんでもらえればと思っております」