本作はステージの裏側で活躍するスタッフに着目し、バックステージを舞台に小屋入りから本番に向けて葛藤する彼らの3日間を描いた舞台あるある群像劇だ。伝説の作品『abc☆赤坂ボーイズキャバレー』で脚本を担当した堤泰之(プラチナ・ペーパーズ)のオリジナル作品で2016年に初演、2018年版では演出に川本成(時速246憶)を迎えブラッシュアップする。果たして川本によってどう演出が変わるのか?初演出に挑戦する川本成と舞台監督・小倉役の小林健一、そして振付助手・アキ役の前島亜美に話を聞いた。
『好きにやってくれて構わないよ』と言ってくださった
――― 脚本の堤さんとはどんなお話しを?
川本「ずっと以前から演出をやりたいという話をしていて、プロデューサーさんがそれを覚えていてくれていたことがきっかけです。堤さんとは先日ご挨拶をしました。『abc☆赤坂ボーイズキャバレー』初演以来だったのでおよそ10年ぶりでしょうか。お会いするのはそれ以来、思い出深い作品だったので久しぶりに再会ができて、更に『好きにやってくれて構わないよ』と言ってくださったので嬉しかったですね」
――― 小林さんと前島さんは『バクステ』はご存知でしたか?台本を読んだ印象は?
小林「僕は去年堤さん作・演出の舞台に出演しました。『バクステ』は初めて台本を読ませていただきましたが、この作品は人情喜劇なので突飛なことがなくお芝居としてある程度のリアリティを持って行った方がいいのかな、という印象を受けましたね」
前島「初めて台本を読みましたが、とても面白くて!普段役者として舞台に立たせていただいていますが、いつもプロフェッショナルな裏方の皆さんに支えてもらっています。その皆さんがフューチャーされ、私たちが普段耳にしていたもの以上にいろんなことが鮮明に描かれていて、こういうことがあったんだなぁとか逆に教わるものがありました。役者目線でも楽しいですし、舞台が好きな方には裏方さんの物語としてとても楽しんでいただける作品だと思います」
――― 振付助手のアキちゃん役について、まわりに参考になる方がいらっしゃるのでは?
前島「元々グループ活動していたので、振付師さんと接する機会ももちろんありました。バックステージで衣装さんの会話や役者さん同士の会話も聞こえてくる環境でお仕事をしてきたので、舞台あるあると言うか、台本を読んでいても情景が思い浮かんできて、自分がこの作品でどうなるかとても楽しみです。アキは自分を持っていてサバサバしていて『カッケー』とか言葉遣いが男の子っぽいんです。振付師さんにはそういう男勝りでカッコよく攻めている方がたくさんいらっしゃるので参考にしていきたいですね」
――― 舞台監督の小倉さんは熱い男ですね。
小林「舞台監督さんについて、昔はこんな人がいっぱいいたなぁというイメージですね。最近はキャラの濃い舞台監督さんはいらっしゃいますが、この役の様に演出に口を出してくる方は減ってきましたよね。僕らの学生時代の頃は本当にガンガン演出をつけてダメ出しする照明さんとかもいましかたらね(笑)僕ら世代の方がきっと共感する人物とか舞台あるあるを凄く感じると思います」
――― 細かいセリフが多く会話劇の部分も見所です。どう演出していこうと?
川本「僕は最近欽ちゃん(萩本欽一)のお家にお邪魔して色々話していますが、歳をとるごとに『なるほどなぁー』と納得することが多くなってきています。
若い頃は自分が目立てばいいみたいに思っていて、それはいけないと気づいて最近は反省しています。
『舞台に上がったら作品は役者のものだ』とか、今になって色々な人の言葉がよぎることがありますね。演出として奇をてらったことをやろうとは思っていません。セリフ劇ですがセリフ劇としての見え方をしないゴールがいいなあと。人柄、人間性が出る方がいいなと思っています。
役作りというところからもちょっと離れたいと思っていて、アキならアキ、その人自体がいる、その人が滲み出るといいな。そういうことを稽古場で一緒に作っていきたいです、真面目でしょう?(笑)」
お金と時間をもらうので、チャレンジではない。覚悟を持ってやりたい
川本「今回出演してくださる方にはありがたくて、お力をお借りしたいというところが本音です。僕は押し付けがましくやれるほど強くないのでお力をお借りしつつ、一緒に面白くさせてもらえたらありがたいなと、よろしくお願いします!」
前島・小林「よろしくお願いします!」
――― このお2人は得意分野があると思いますが、そのあたりを観ることはできますか?
川本「踊りたい?」
前島「ダンスはそこそこできますが、振付師を名乗るほどの実力があるかと言うと怪しいかもしれません」
川本「助手役だから大丈夫じゃない?やりたいことは全部やりましょう!」
前島「(笑)」
小林「さっき成さんが、人柄が滲み出ると言いましたが、こういう作品は普段僕がやるみたいなとっぴな事をあまりしない方がいいんじゃないかと思っていて、そんな奴いないとなってしまうとストーリー上よくないかもと思ったり」
川本「でもそれがスゴイですよね。普通の人がやるとこんな人おるか!てなるけど、コバケンさんがやると『いるいるこういう人』って思わせる凄さですよね。
僕も演者としてやってきて一番それがいいなって思うんですよ。稽古で色んな方法を試して、その人自身が無理なく立っていられる状態にまでなるといいなと思っています。真面目でしょう?
お金と時間をもらうので、チャレンジではないですよね。覚悟を持ってやりたいですし、覚悟を持って大きな気持ちで挑みたいですね」
小林「初演出となっていますけど、イベントとか演出されていますよね?」
川本「あさりどとしてコンビを組んでお笑い芸人をやっていますが、コンビが一番小さい劇団なんです。そこで演出力は鍛えられたかもしれません。昔コントライブの作・演出は経験がありますが、舞台で14人をいっぺんに演出することは初めてです。
コバケンさんとガッツリ共演をしたいとずっと思っていましたが、まさかこういう形(演出と役者)で一緒になるとは!また共演できない(笑)」
演劇ってこう感じで作られているということをお客様にも知ってもらえたら
――― お楽しみにしていることは?
小林「成さんとこういう形でやれることがとても楽しみです。意外と自分の役がカッコイイ役で(笑)本当の自分も男前と思われたいですね。キモとなるシーンも沢山あるので頑張って作品の力になれるようにがんばります」
前島「皆さんとは初共演なので新たな出会いはとても楽しみです。そして自分がどういう表現をしていけるのか挑戦とも思っています。 普段は極真空手をやっていることからアクションのある作品が多くて、等身大の普通の女性を演じる機会がなかなか無かったので、リアルに生きている人間を表現できるようにがんばりたいです」
川本「え!そうなの!?これは振付助手でアクションもうまい設定だね」
前島「マイ木刀を持っていきます!」
――― これは広がりそうですね、本番を楽しみにしております。では最後にメッセージをお願いします
前島「どんな作品になるか、私自身一番楽しみにしております。バックステージのお話ということで、舞台好きの方は必ず楽しんでいただけると思います。個人的には同世代の役者の方にも響くものや考えさせられるセリフがたくさんあるので、色々な人に観てほしいです。少しでも良い作品になるよう貢献できたら、頑張ります」
小林「堤さんの作品は『お芝居とは何ぞや』というところが含まれています。この作品を観たら役者がどう思っているのか、演劇ってこう感じで作られているということをお客様にも知ってもらえると思うので、そういうことも伝えつつ、いま成さんが考えることを聞いて僕もめちゃめちゃ共感できたので、一緒にバカやりながら本番へ向かっていきたいと思います。ぜひ観に来てください」
川本「今回一番勉強させてもらうのは僕だと思っています。本当にありがたくて皆さんに感謝しています。やりたいことはいっぱいあります。全員が誰かの引き立て役になるのではなくて、
最後のカーテンコールで14人が立っていて『みんな良かったね』ってなれば一番いいな。
皆さんとどこまでやれるか挑戦ですね。濃密な時間になると思います。僕としては早めに稽古を上げて早めに飲みに行く時間を作ろうかと、稽古は極力短く(笑)」
小林「同じシーンは一日に一回くらいで」
川本「そうそう!役者として感じていた演出家への不満を全部演出家として排除していきたい!みんなに好かれて終わりたい!」(全員爆笑)
小林「わかってるわー成さん!」
(取材・文&撮影:谷中理音)