今年創立33年を迎え、2.5次元作品が話題になる以前より原作物を上演し、耽美で情緒ある文学作品を生み出し続けている男性だけの劇団Studio Lifeが『アンナ・カレーニナ』を上演する。
何度も映画化や舞台化もされたレフ・トルストイの名作だ。この壮大な長編を約2時間半にまとめあげたジョー・クリフォード版の本作は、2005年にイギリスで初演、そして本邦初演が実現する。
周りの反応が大きくて、知名度がかなり高い作品なんだと実感しています
――― 日本初演について周りの反応などはありましたか?
曽世「この作品は映画化も舞台化もたくさんされています。僕は出ていませんが、Studio Lifeではジョー・クリフォードの『GREAT EXPECTATIONS-大いなる遺産-』を過去に上演していますので、とても相性がいいのではないかなと。『アンナ・カレーニナ』でジョー・クリフォード作品に初めて参加できるので楽しみです。アンナを演じると言うと周りの人が『え!あれやるの?』と反応が大きくて、知名度がかなり高い作品なんだと実感しています」
岩ア「このチラシをみんなに見てもらった時に、『これ読もうと思っていた作品』とか、『気になっていたけど長いから挫折した』とか沢山の反応がありました。これから稽古に入っていきますが、どういう風になっていくのかなと、面白さと恐さを感じています。作品を読むきっかけになってくれたら嬉しいですね」
船戸「僕は『GREAT EXPECTATIONS-大いなる遺産-』に出演していまして、その時も原作を読んでからジョー・クリフォード版の戯曲を読んで、こんなに大胆にアレンジして舞台化させるのかと衝撃を受けたので、今回の『アンナ・カレーニナ』も文庫版では、上・中・下ある壮大な物語を2時間半に収めるという作業はとても大変なことですが、ジョー・クリフォード版ではどんな構成になるのか完成がとても楽しみです」
石飛「いま何本か映画を見ています。本も読み始めましたがアンナが出て来ない(最初は出て来ない)! こんなに長い作品をどうまとめているのか気になって、実は第一稿の脚本を読みましたが、ジョー・クリフォードのまとめ方がすごいんですよ。僕はアンナの兄嫁・ドリー役を演じますが、リョーヴィン(アンナの実兄の友人)とキティ(ドリーの実妹)という人物がいまして、それぞれの夫婦の描き方が絶妙なんです。チェーホフは、トルストイを先生と慕っていたそうで、人間の業や生きるとはなんぞやとか、その対比が鮮明に書かれていて、僕は今、リョービンとキティにとても肩入れしてしまっています。これがどう演出されるか!? ドストエフスキーが非の打ち所がない作品と絶賛したというこの作品が、舞台でスピーディーにどう展開していくのかが楽しみですね」
――― 観る立場によって共感する人やシーンも変わりそうですね。
石飛「ぜんぜん違うと思います」
曽世「どのキャラクターにでも共感することができそう。キティとリョーヴィンというキャラクターや物語でみんなが安心して話に入っていける場所を作っておきながら、心の中のマイナス面をオヴロンスキーやカレーニンで表現したり、でも人間が生きていく上での大切な生活はリョーヴィン側にあるという構成が読んでいて凄いなと。戯曲になると多重に重なってきますが、それができるとは楽しみだな」
主演アンナをWキャストで演じるのは岩ア大と曽世海司
――― タイプの違う俳優2人が同役を演じる事は劇団史上珍しい。ここまで業を背負い、しかも美女。不倫(純愛)に生きるアンナをどう表現するのか注目だ。
曽世「美女の部分はヘアメイクと衣裳で何とかしてもらって(笑)、物語で不倫が公になる前、誰もがアンナを尊敬し絶賛しています。凛とした生き様が表れているから、そこは役者として体現しないといけないと思っています。彼女は不倫でどん底に落ちてしまってもなお輝き続ける。役者として、グジグジに落ちながらも最後まで凛とした彼女の生き方を全うしようと思います」
岩ア「不倫・純愛というものに突き進むということは、凛とした筋や何か核がなければ突き進めないですよね。自分では正義であっても周りからすれば悪なのかもしれない。自分の正義を全うした時に、花火の様にバーンと飛び散っている何かが美しいのかな。稽古はこれからですが、一花咲かせてやるという勢いで表現をしていけたら」
――― 全く違うアンナになるのでは?
岩ア「そうなんです。この2人のWキャストって少ないよね? 1、2本あった?」
曽世「かなり少ない! タイプが違うから相手役とかカップルで組むことはあったけど。どうなるのかな、彼女の描かれ方が瞬間湯沸かし器のようであちこちに揺れて振り幅がとても大きくて、どっちに振れるのかまだ自分でもわからないですね。演じて彼女の気持ちになって動いてみてやっと固まってくるのかな。材料は原作にあるので全部身体の中に入れ込んで凝縮したものを体現していくことが演劇の醍醐味。熱くなるのかクールになるのか、これから楽しみです。大ちゃん(岩ア)とずっと相談していると思います」
――― ほかのカンパニーですとWキャストはお互い見ないようにしたりすることもありますが。
岩ア「うちの劇団は役については良いとこ取りで、それぞれ盗めるところは盗もうっていう所はありますね。稽古は自分を客観視できる場所でもあるから違うと思ったら切り離して、上手くできちゃうんですよね」
曽世「ね(笑)! お互いの違いも認められる」
岩ア「演出の倉田さんも合わせないといけない部分以外は言わないよね」
曽世「違いを楽しんでくれていると思いますよ」
「不倫の果て、行き着くところが無い」「人間は人間をさばけない」
――― 現代にも通じる永遠のテーマ。様々な"愛"が見られそうだ。ちなみに自分が大事にしたい愛の形とは?
曽世「自分がこういう方向だと思っていた愛が、この作品を読んでいると“人って色んなこと考えて生きてるな”と気付かされます。登場人物はみんな振り子の様に揺れていて、この人のここはわかる、カレーニンの我慢する切ない気持ちわかるとか、よくわからなくなってきて“お前の愛の形は何?”と、トルストイが仕掛けているんだと思います。そこにリョーヴィンが地に足を付けて素敵になっていく姿に読者の気持ちを誘導しているのかと思うと恐ろしい作品だなと。何が良い愛の形なのかわからなくなって面白いです(笑)」
岩ア「物ではないからわからないですよね。誰かを大事に思う気持ちとエゴはみんな持っているものだと思う。我慢するものでもないし、わがままでいいわけでもない、愛の形ってなんだろう。自分に帰ってくるものだと思うから、アンナを通して一つ一つ噛みしめていけたら。今までスタジオライフの作品の中で色々な愛の形があり、改めて気付かされたことがいっぱいあったので、この中にも普遍的な愛が転がっていると思います。アンナは突き進んでしまったけれど、自分にとっての愛は…まだ模索中かな(笑)」
船戸「自分が仮に奥さんに不倫されたらどう思うかな?と考えたら、やっぱりカレーニンのようになるかもとちょっと思いました。僕の役は今で言うストーカーになってもおかしくないベクトルがあって、周りに平静を装っているけれど狂気の方に行ってしまうような所もある。きっと稽古では恋愛について色々討論するのかな(笑) 色々な愛を体験できそうです」
石飛「劇団では本当にたくさんの愛を描いてきましたが、役者としては演じる上でやっぱりどんな愛でも納得しないとできないんですよね。倉田さんにそこは気にしなくていいのよって言われますが、役者としては突き詰めたくなる。(全員うなずく)例えば、キリスト教の教えとかで、隣人を愛せよみたいな、そういう愛も納得しないとできなかったりします。Studio Lifeでは男同士の恋愛も上演してきて、ただの恋愛ではなく人間愛みたいなものと思っていて、だからこそ、この『アンナ・カレーニナ』は、そういう男と女の葛藤も含め人間としての愛も含まれていて、素晴らしい作品になると思います」
多少のボロをまとっていても姿勢が良ければそれだけで美しく、そして高そうに見える・美しさの秘密
――― 作品の特性上、耽美な世界観、豪華な衣装なども気になります。
石飛「Studio Lifeで衣装が凝っている作品はもちろんありますが、全部が全部いつも凝っていたわけではなくて…」
曽世「実はね(笑)。とてもキラキラしていると言われますが」
石飛「お芝居の細かい所をちゃんと構築していて、倉田さんがこだわっている絵的な綺麗さをちゃんと魅せることで、お客さまにフィルターがかかっていくのかなって」
曽世「Studio Lifeは中世ヨーロッパから近代ヨーロッパの社交界の物語が多くて、上流階級の人物はまず姿勢が良い。ウチの劇団は徹底的にそこを大事にしています。多少のボロをまとっていても姿勢が良ければそれだけで美しく、そして高そうに見える。社交界は“恥の文化”だと今回特に思いました。体面を重要視している社会をベースにしている物語が多いので、対人に関して距離感があり、凛とした人達が集っているので、そういう部分を大事にしているからStudio Lifeは綺麗に見えると言われるのかな」
岩ア「そうだね、芝居の作り方で美しく見えているのかな」
――― ちなみに役作りの時に行うルーティーン(決まり事)はありますか?
曽世「僕は無いですね……」
岩ア「でも稽古場来たらいつもコンビニの袋を持ってて食べてから稽古してるよ」
曽世「(笑)。そっか、腹ごしらえをして必ず甘い菓子パンを食べてるね! あれルーティーンなのか! そうか! 仕上げの菓子パンは我慢できない(笑)」
岩ア「本番がはじまったら曲を聴いているかな。この曲を聴くとその役になれるような曲を聴くようにしていますね」
船戸「僕は自転車で移動している事が多くて、必ず移動中に声を出してセリフを返しています。あとはお風呂でセリフをブツブツ言って覚えていますね」
石飛「特にこれというのは無いですが、集中するのが下手なので、なるべく一番最初に稽古場に入るようにしています。現場で『とても早く来るね』と、よく驚かれます(笑)」
――― 最後にメッセージをお願いします。
船戸「原作を読むといきなり浮気のシーンから始まったり、硬い文学作品と言われている本なのに衝撃的です。そしてアンナ夫婦とリョーヴィン夫婦を対比で描いていて“幸せって何なのか?”と。今溢れているドラマの原点では?と思う程深い作品です。多くの方に観ていただきたいです」
石飛「Studio Lifeではロシア作品はチェーホフの『桜の園』以来久しぶりになります。新しい形のロシア作品を楽しんでいただけたら。今作はとても凝縮した作品に仕上がると思うので文芸作品を読んだことがない方もこれを機会に観ていただけたらと思っております」
岩ア「僕は入団して今年で20年になりますが、20年目はじめの作品が本作になります。どれくらい自分が成長できたか試せる場と思っています。毎回そうですが、この作品で勝負をかけなければ前には進めない。メインの女性役は本当に久しぶりですが、新しい挑戦につながると思っています。よろしくお願いいたします!」
曽世「男女間の情愛だけで作品を1本つくることは珍しいと思います。これは勝負所と思っていて、劇団が少し成熟してきたこの時期にこの作品を今挑戦できることはとてもありがたいことです。ジョー・クリフォード作品とStudio Lifeの相性はとても良いと思っているので、代表作になるようにがんばります。是非いらしてください」
(取材・文:谷中理音 撮影:友澤綾乃)