ユニット【リベラリズム】この夏に旗上げされる記念すべき公演は、フランス戯曲ギィ・フォワシィのブラックユーモア『相寄る魂』『大笑い』を上演する。ごくありふれた一般市民たちの心の奥にひそむ凝縮された狂気を独自のユーモアで描いた名作だ。演出の寺山緑、出演者の工藤和之と金原並央(相寄る魂)、中井杏奈(大笑い)に話を聞いた。
型にはまらず自由にユニークな表現がしたい
―――東京 谷 正雄氏により1976年に設立され、フォワシィを一途に上演する「ギィ・フォワシイ・シアター」の日本での活動は、日仏演劇の懸け橋としてシュバリエ勲章(芸術文化勲章)受賞という形で称えられ、約40年以上にわたって上演され続けた。過去には某劇団の課題戯曲やコンクール、もちろん定期公演を中心に上演されてきたが、主宰の谷 正雄 氏の逝去後、近頃は一般的に触れる機会は減っていた。昨年に年間フェスティバルが開催され、この波に乗り新しいフォワシィが誕生する。
――― 「リベラリズム」とは?
寺山「直訳すると自由主義というフランス語です。思想や宗教的な意味はなく、古典戯曲に取り組んだ活動をしていく中で、色々な方々に集まって頂き、自由な感性で創り上げた表現をしていきたいという意味でつけました。今後はお芝居だけに限らず、色々なジャンルも取り入れていきたいと思っています」
工藤「とても自由に集められたメンバーという感じですね。楽しみです。」
――― 記念すべき旗上げ公演を、若年層にはマイナーなギィ・フォワシィに決める作品の魅力とは?
工藤「僕らも初めてギィ・フォワシィに出会いました。そもそも僕は、外国の戯曲をあまりやった事がなくて、知らないからこそ読んだ時に挑めるなと思いました。もしかしたらギィ・フォワシィを上演している様々なグループからすると違った作風になるかもしれません」
寺山「ギィ・フォワシィを今まで上演してきた俳優は老舗劇団の所属や出身が多く、そこで上演されるフォワシィ作品は新劇の型ありきなんです。私が思うギィ・フォワシィは、ブラックユーモアの中に型にはまらないフランス独特のウィットにとんだユニークな面白さがあると考えています。色々な人が色んな笑い方ができる作品だと思えるんですね。今作で本当に素敵な俳優に集まって頂きました。ギィ・フォワシィを上演される方は年代が高く、研修の練習材料になったりはしていましたが、近年の上演は少なく思え、受け継ぎたい想いがありました。今回のように若い層が上演するともっと広がっていくと思うんです」
――― 2018年の新たなギィ・フォワシィを作ろうと?
寺山「あまり華美に考えずに戯曲のまま、あえて忠実に挑戦したいと思っています」
上演される2作品は彼と彼女の会話劇。彼女を口説こうとしてる彼にスポットを当てている戯曲だが、今回は“彼”を同じ人物として2幕に繋がりをもたせられるように挑戦する。
工藤「これは他にない面白さだと思います。全然別の2人芝居なのに僕は同一人物として登場します。そういう演出なんです。彼という1人の人間が、それぞれの作品で女性と出会い、会話を繰り広げていく。まさに2018年のギィ・フォワシィなのかもれないな」
寺山「工藤さんでしたら演じられると思っています」
工藤「最初は戸惑いました。2幕目の彼女とのやり取りを最初の稽古で作っていって、その後に1幕目の女性との稽古に入り、当初考えていたキャラクターのイメージから変わってきて、解釈にとても苦労しましたね。でも今回の戯曲を読んでいるうちにキャラクターが掴めてきたので“これはいける!”と。そこからとても面白くなってきましたね」
工藤さんのイメージしていた彼女像から金原さんはかけ離れていた
――― 『相寄る魂』は70年代にフォワシィが評価を高めた傑作。夢と現実、希望と狂気の二面性を持ったストーリーで、初共演となる2人はどう演じていくのか。彼女のセリフに踊らされる彼を工藤和之がどう表現するのか期待が高まる。
金原「稽古ではとにかく遊んでみようと。企画をもらった時から型に捉われずに演じてもらいたいということだったので、では私はとことん遊ぶよと寺山さんへは伝えていました。こうやったらもっと遊べる、こうしたらもっと遊べるかもと試しながら稽古をしています。それに工藤さんは反応してくれるのでとても面白いですね」
――― 金原さんの魅力は?
工藤「金原さんと中井さんはとても対照的で、2幕を通して演じている自分がとても面白可笑しく思えて(笑)。金原さんは本当に色々なことをしでかしてくれるんです(全員笑)。『相寄る魂』を初めて読んだ時にイメージしていた彼女像から金原さんはかけ離れていましたね。それが面白かった!」
金原「(笑)。ありがとうございます」
工藤「そこに自分がどう乗っかっているのか色々な発見がありますね。」
寺山「最後はどちらの戯曲も苦々しく終わる部分はありますが、ライトとダークなそれぞれのブラックユーモアの魅力を感じられると思います」
金原「工藤さんはセリフ覚えが早くて私は焦っていたり(笑)」
工藤「いつも台本を持ち歩けるように、練習しやすいように小さく製本してね」
金原「でも文字が小さすぎてたまに迷子になってる」(全員笑)
――― 見どころを教えてください。
金原「緩急がある作品だと思っています。冒頭で“よくわからないけどついて行こう”みたいなゆったりした変な面白さがあって、そこでお客様をキャッチしていきたいですね。そこからジェットコースターのように上がっていって最後だーーーと下っていきますが、下り方が急降下というよりはぐるぐる回って落ちていく感じ。いかに落差を出していくかを考えています。最後は苦々しくプツッと終わるので緩急が見どころです。楽しんでもらえたら」
工藤「ふと思ったのが落語に似ているなと。普通の舞台はエンディングに向かってテーマが収束していきますが、この作品はオチがどうでも良かったりするんです。落語は間に面白い所があって“お後がよろしいようで”と終わる。そんな感じがするよね。」
金原「そうそう。すごくわかる!」
工藤「観ている側の感覚としてね、そのうちに気がついたら巻き込まれているという所を楽しんでもらえたら。落語の様な感覚で観てもらえるとわかりやすくなるのかも」
誰にでも当てはまる物語という意味で名前がないのかもしれません
――― 『大笑い』では彼の狂気が描かれる。彼女 中井杏奈が魅了する。2人の温度差がポイント。
中井「戯曲を読んだ時、私は最初に色のイメージが出てきました。『相寄る魂』を読んだ時はくすんだピンクみたいなカラーで、『大笑い』を読んだ時は黒にちょっと白が入った灰色、そんなイメージでした。その対比をどううまく出そうか考えている所です。まだお互いの芝居を見ていなくて『相寄る魂』から戻ってきた工藤さんがどう変わるのか、とても楽しみですね」
工藤「先に『大笑い』の稽古から入って『相寄る魂』に入り、今少し演じ方が変わってきているね。別々の作品で彼の2面性を出すというのは、演じている僕自身もそうだけど、観ているお客様にも、もしかしたら伝わりずらいという恐さもあるね。同一人物の希望と闇を見せられたら、この面白さは倍になって伝わるのかな」
――― それぞれの魅力はとは?
工藤「『大笑い』は最初の会話が短いスパンでやり取りされ、後半は亡霊であるヴィクトルへの語りと狂気に溢れますね。」
中井「工藤さんは発想が豊かで本の読み込みも早くてとても頭の良い方ですね。形に囚われずガンガン壁を壊しに来ていただけるのでとてもありがたくて、そこが工藤さんの魅力です」
工藤「長く演劇やってるだけだよ〜」
中井「私にない物をたくさん持っていて稽古場でも意見を言ってくださるので本当に助かっています。今必死に食らいついている所ですね。今回2作品共に役名が付けられておらず、彼、彼女でお話が進みます。誰にでも、どこの国でも起こる話だと思うんです。そして男女みんなが持っている部分だと思っているから、誰にでも当てはまるという意味で名前がないのかもしれません」
――― 中井さんの挑戦は?
中井「お客様がこの戯曲をどう受け入れやすくするかが私の中では挑戦ですね。一つの事を言いたいのに前後に長い説明があったりするので、それをいかにお客様へピンポイントに伝えられるのか、苦戦している所です」
工藤「そうだね。会話だからよりリアルにナチュラルに。こっちは同じようなやり取りが多いんだよね。僕は2人の女性に仕掛けられるのに翻弄されて……そこが面白くなりそう」
寺山「『相寄る魂』では彼女に戯れるような彼ですが、『大笑い』では下心全開で真剣に彼女を口説いている彼、彼女を落としている瞬間もあるのにそこに気が付かずグイグイ押して、彼女がだんだん狂気的な彼に恐怖を抱き、心が離れて家に帰ります。」
中井「そのすれ違いも見どころになると思います」
――― では最後にメッセージをお願いします。
寺山「個人的なことではありますが、日本で今までギィ・フォワシィ・シアターに関わっていた方々に感謝を込めて挑みます。古典をそのままやりますが、新しい感覚の表現も取り入れ創っているので現代風に、スタイリッシュなギィ・フォワシィをお楽しみにしていてください」
中井「古典戯曲ですが近寄りがたいと思わずに、遊びにくる感覚で観に来て頂ければ嬉しいです」
金原「溝の口劇場は2017年12月に出来たばかりの劇場です。2人芝居を肩ひじ張らず、ドリンク片手に気楽に観て笑っていただけたら嬉しいです。お待ちしております」
工藤「ひとりでも多くのお客様に楽しんでもらいたい気持ちでやっています。2人芝居はとても観やすいと思います。自然に近い空間で一挙手一投足を感じて楽しんでもらえたら嬉しいです。ぜひご観劇に来てください」
(取材・文&撮影:谷中理音)