女優・声優として幅広く活躍する朴璐美が「小さくも濃密な劇空間を体感して欲しい」と立ち上げた舞台製作チーム「LAL STORY」。本公演となる「ストレイトプレイシリーズ」の第一弾はアリエル・ドーフマンの心理傑作劇「死と乙女」だ。力量を求められる本作の演出には、4度目のタッグを組む劇団桟敷童子主宰の東憲司。青年座・山路和弘、文学座・石橋徹郎と実力派俳優を迎え、3人の演者の緊迫した台詞の応酬による密室劇が解き放たれる。
やっと真剣に冒険してくれる方々と出会えた
――― 本公演の第1弾に「死と乙女」を選んだのは?
朴「実は、演劇集団円に在籍していた頃、東さんとのタッグ作品で『死と乙女』が最有力候補だったのですが、制作の都合上、叶わず涙をのみました。その後、円を離れてから「濃密な空間で大人がガムシャラになる作品作りをしたいね」と、東さんと漠然と話していた時、東さん描き下ろしのNHKラジオドラマで文学座の石橋徹郎さんとご一緒して「石橋さん、良い!」と、二人で盛り上がり、お誘いし快諾いただき「こんな熱い人が参加してくれるなら……『死と乙女』をやるしか?!」と、東さんも私も同時に思ってしまい「となったらあの役は……青年座の山路和弘さんしかいない…!」と、直談判させていただく流れとなりました(笑)。
こんな手弁当な企画に参加していただけるなんて天にも昇る気持ちです。一緒に真剣に冒険してくださる方々と出逢えてやっと船出できる…という感じです」
山路「プレッシャーかけてる?(笑)。でも返事するまで2週間悩んだよ。だって圧が強い女優さんだし、彼女とやったら全部持っていかれるなと(笑)。
しかも暗い話だし、色々と思うところはあったけど、1年に1回は観客を間近に感じられる劇場でやりたいなという発想はあったのでちょうどいいかなと。20代ぶりぐらいかな。狭い小屋は息を飲んだだけで相手に聞こえるような距離じゃないですか、ヒリヒリする感覚は懐かしくも楽しいし、余計な芝居をしなくなる。そういう機会を持ちたかった」
客席との境界線がなくなる醍醐味。客の心をまさぐりたい
――― 小さい劇場ならではの魅力を教えて頂けますか。
朴「もちろんゴージャスな舞台も好きですが、根が暗いせいかジリジリする作品も好きなんです。舞台の良さは何よりもマンパワーであり、人のエネルギーが直に感じられるところだと思います。特に小さな小屋は演出の細部、役者の息遣いが漏らさず感じられる誤魔化しの効かない怖い場所です。その恐怖と闘う緊張感とライブ感がギンギンに小屋中に満たされて、舞台と客席の境界線がなくなり一体化できるのが醍醐味だと思っています。
要はお客さんの心をまさぐりたいんです。小劇場だからお金がなくてあたりまえ、安くてあたりまえ、ではなく、こういう空間だからこそ、真剣に相当な熱量込めて創りたいんです。そこにペイして欲しいんです」
山路「そうだよ。そういうところに金かけるから面白いんだよ。それをやらないと小さいところでやる意味がないよ。近いねー感覚が」。
後味が悪い思いをして帰って頂きたい
――― 本作では「拉致監禁」、「拷問」、「復讐」といった戦慄のキーワードが全編にちりばめられています。
朴「政治色が強い作品と思われがちですが『やられた側は忘れない』、『やった側は忘れる』、『見ていた側は忘れたふりをする』という全てに通じるシンプルなテーマを持った作品だと思っています。観に来た方は嫌な思いをするかもしれません。いえ、むしろ、嫌な思いをして帰って欲しいんです。今は痛い思いがなかなか出来ない時代。楽しいものや日々を紛らわす娯楽に溢れている中、自ら痛いものを求める機会は少ない。今回は痛い思い、後味が悪い思いをして帰って欲しいんです。そこが私たちの狙いです」
山路「嫌な芝居だなー(笑)。でも確かに普遍的なものだし、それをほじくり返されながらも感じる快感はあると思う。その意味では演劇的な満足度はきっと高いと思いますよ。他の劇場で今度、『死と乙女』をやると言ったら、『あれをやってくれるんですか!?』という声が多かった。広い劇場で面白い作品を観る一方で、狭いとこでこんな落ち込む作品を観る。お芝居好きの方って両方の感覚があるんでしょうね。その分、演じる側はマゾヒスティックにならないと出来ない。そこが楽しみでもあるけど、俺たちも相当な覚悟がいるね」
朴「きっと平穏無事な稽古場にはならないでしょうね(笑)。正直、稽古に入るのが怖いです。でもそうならないとダメな作品だと思うので、そこは腹をくくる覚悟です」
大人の本気の遊びを観に来て
――― 改めて舞台への意気込みをお願いします。
山路「面白いというよりも、どうなるか分からない怖いものみたさがありますね。同じことを長い間やっていると、どこか鈍感になってくる部分がある。そこをもう一度、鋭利なもので垢をそぎ落とす良い機会にしたいと思います。この強い女優さんと(笑)」
朴「いくつになっても向上心を持ち続けている方々とご一緒できるのは、本当に幸せな事です。どうか皆さん、演出家、演者、4人のバトルに、ヒリヒリしにいらしてください。大人の本気の遊びを観にいらしてください」
(取材・文&撮影:小笠原大介)