お得な公演チケットサイト Confetti(カンフェティ)

PICKUP

長田育恵・木野 花


キメ画像1

てがみ座在韓日本人妻たちの収容施設をモチーフに描く、半島で生きた人々の軌跡

時代の渦の中を精一杯生き抜いた人々。その姿を現代の眼差しから見つめる

劇作家・長田育恵が主宰するてがみ座が、演出に木野花を迎え、新作『海越えの花たち』を上演する。木野は、2015年に長田が脚本を手がけたグループる・ばる『蜜柑とユウウツ〜茨木のり子異聞〜』に女優として出演しており、それは長田にとって「とても幸せな毎日」というほど強烈な体験だったという。在韓日本人妻たちの収容施設・慶州ナザレ園をモチーフに描く本作で、今度は作家と演出家として組み合う二人に話を聞いた。


インタビュー写真

初めて演劇に触れた頃の感覚が蘇った

――― まず木野さんにお尋ねします。『蜜柑とユウウツ』では長田さんの脚本にどんな印象を持ちましたか?

木野「若いのにしっかり書く方だなと思いました。茨木のり子という詩人があっての作品だったので、その影響はあるんでしょうけど、すごく書く力を持ってるんだなと。あと、とても柔軟な方で」

長田「本読みから楽しかったです(笑)」

木野「あのときは本読みを割と長く取って、長田さんも参加して、台本にいろいろ手を加えてもらったりという作業があったんです。けっこう素直に、納得して書き直してくれるんです」

長田「てがみ座では私が主宰で脚本家なので、脚本に対するディスカッションは少ないんです。でも『蜜柑とユウウツ』*は演出がマキノノゾミさんで、木野さんも他の作品では演出をしていらっしゃるから、いろんなアイディアとか演出的な視点が座組全員からちゃんと出てくる。そうやって、たくさんの人の手で作品が磨かれていく実感をものすごく味わえて楽しかったんです。それに、マキノさんは作品全体の美学や風通し、舞台上でどう見えるかというところを大切にされているのに対して、木野さんは俳優が台詞を言ったときの皮膚感覚とか、内面で起こる核みたいなものをどうやって手離さないでいられるかという観点でアイディアをくださる。そういう2つの視点に応えていくことは、作品の空気感をきれいに磨きながら、人間を強化していくという作業だったと思うんです。だから最初の本読みの期間は、まるで天から与えてもらった合宿みたいでした(笑)」

――― それで、いつかてがみ座の演出を木野さんにやってもらいたいと?

長田「女優としての木野さんは演出家が作った土台の上に立たれていますが、演出家としての木野さんはまず、どんな作品を作るかという以前の、血潮みたいな部分に共感できるんです。私が学生時代に演劇を始めた頃、青山円形劇場とかTHEATER/TOPSとかに行って、ああいう作品を作りたいって憧れ続けていた熱い何かの中に、木野さんがいらっしゃる感じがして。それは同世代の演出家とは味わえないもので、“静かな演劇”の前というか……」

木野「静かじゃないですね、私は(笑)」

長田「ちょっとアングラな匂いもあって。私が演劇に触れ始めた頃は、好きになった劇団がどんどん解散していっちゃう時代で、そのうちに物語性とは別のところに重きを置いた演劇が主流になっていって、私がこういう作家になりたいと憧れた居場所みたいなものはどこに行けばいいんだろう、みたいな思いに囚われたこともありました。それでも、もともと持っていた熱い部分を忘れないようにしようと、何度か原点回帰を試みていたんですけど、木野さんとご一緒したときに、あのワクワクする感覚、ゾワゾワする感覚が蘇って、これが私のやりたかった演劇だったんだ!って思えたんです。それに今は、脚本を書いていく上で、人間に対する手触りをもうちょっと確かめたい時期でもあって。台詞を与えられて存在している人間に、ある種の真実がちゃんとあるように生命を吹き込む演出家とご一緒したいと痛切に思っている中で、ぜひ木野さんにお願いしようと」

*…『蜜柑とユウウツ〜茨木のり子異聞〜』は、グループる・ばるの“さよなら身終い公演”として9月に再演。その後地方公演が決定している。

インタビュー写真

役者は相当自分を追い詰めなければならない

――― 今回の会場となる紀伊國屋ホールも、長田さんにとって思い出深い場所だそうですね。

長田「生まれて初めて、自分でチケットを買って行った劇場です。そのとき、ここで上演するためには劇団を旗揚げしなきゃと思ったんです。ここで上演するのが私の夢だと、客席で思って(笑)」

木野「そうなんだ(笑)」

長田「そのときの自分の約束を叶えなきゃという思いがすごくあったので、紀伊國屋でやれる機会があるなら絶対にやろうと。でもあれから20年以上の時間の中で、紀伊國屋に対する思いも変わってきて、演劇の最前線のワクワクする場所というより、もうちょっと肩肘張った空間だと捉え直してしまっていた気がするんです。だけど木野さんも交えて話を進める中で、まだ私にとって紀伊國屋が、ただの演劇が生まれる場所だったライブハウスみたいな感じに立ち戻らせてもらえて。いろんな壁がなくなりました」

――― 木野さんは今回演出をオファーされてどんなことを思いましたか?

木野「まず、若手の先頭を走っている長田さんと仕事ができるのはすごく光栄です。長田さんは井上ひさしさんの最後の弟子と言われるくらい、きちんとした芝居を作る方で、私はどちらかというとそういうのがあまり得意ではないのですが、組み合わせとしては面白いかもしれないと思いました。私は年下の人と仕事をすることが結構多いんですけど、長年生きてしまって変な垢がたまっていないかどうか、いつも試される気がするんです。でも、若い人たちの挑発に乗って恐い目に合うのが好きなので、今回も楽しみの方が大きいし、どうなるんだろうっていうワクワク感があります」

――― 今回は慶州ナザレ園をモチーフに、在韓日本人女性たちの物語が描かれるそうですね。

長田「祖父が満州にいたという事実や、高校時代に日中青少年友好訪問団の一員として北京に派遣されたときの経験などを通して、もともと日本と東アジアの間にあるものに関心を持っていました。さらにここ何年かで、演劇活動を通じて韓国に対する縁がすごく深まってきていて、これは一度ちゃんと向き合わなきゃいけないと思い、この物語を書くことにしました。長年抱えてきた宿題を全部投入しているような感じです」

インタビュー写真

木野「私は、役者が演技を超えて、その役を生きる瞬間を舞台にのせたいと思って演出しています。そして長田さんの書く作品を何本か拝見するにつけ、過酷な状況の中でもがきながら生きようとする人間を描くんだなと。この生ぬるい現代に生きている人間が、その役を生きるには、相当自分を追い詰めないと答えが出ないだろうと……長田さんはそんな芝居をずっと書いていらっしゃる。それで今回、ああこれが来たか、これも1つの挑戦なんだろうなと思いました。逃げも隠れもできない現場になるだろうと覚悟しています。今回のメンバー全員が、その時代を生きて、今に伝えられるようなエネルギーを出せるかどうかが勝負だと思って、気を引き締めて臨んでいます」

これは今生きている自分たちの話でもある

――― 木野さんが仰った「今に伝える」というところに大きな意味を感じます。

長田「つい先日、北朝鮮と韓国がまた1つになるかもしれないという歴史的な1日がありましたが、状況としては朝鮮戦争はまだ終わっていません。それに、在韓で生き続けた日本人女性は決してかわいそうな人たちではなくて、その時代の中でちゃんと幸せになろうとしていろんな選択を重ねてきた。それって、今の自分たちと何が違うんだろうって思うんです。昔も今も、いろんな選択肢の1つ1つを納得しながら選んで、時には恨み言を言いたくなったりもしながら、最終的には自分の人生として引き受けている。それを単純に憐れみみたいなもので片付けるのは、二度とああいうことが起こらないという担保の上でなされていると思うんですけど、決してそんなことはないし、ちょっとでも状況が変われば、自分も同じような選択を迫られる可能性があるわけです。そういう意味で、皮膚感覚として、全然過去の話じゃないと思っています」

木野「そこでやっぱり、役者が橋渡しになると私は思っています。今生きている役者が、その時代を引っ張ってくる、過去ではなく今の話にする力を持つのだと」



インタビュー写真

――― 先ほどの話のように役者に求められる真剣さや切実さは、作品で描かれる人々の姿とも重なるような気がします。

木野「最終的には同じことだと思うんです。演劇という場所に自分の居場所を求めてやってきた役者たちが、今をどう生きているか、役を通して見えてくる。どんな時代だろうと。生き抜け、ということですから。脚本に挑発されて、さらけ出していくしかないですね」

――― てがみ座という劇団にとっても大事な作品になりそうですね。

長田「作家が主宰している劇団というのはちょっと特殊な存在で、演出家がいないということは、1年を通じて劇団員を育成することができないんです。皆さんがそれぞれ自分でビルドアップして、次の作品をやるときにまた集まる。そのビルドアップが果たして足りているのか、毎回作品に合わせて声をかけてお呼びする客演さんたちと比べて自分はどうなのか、いろんな不安があると思うんです。でも、それも含めて劇団員になっているし、主役じゃなくてもいろんな役をやったり、時には何役もやったりして作品の世界観を担う覚悟もある。私を含めてまだまだ脆弱な劇団ですけど、それでもちょっとずつみんな覚悟がついてきている時期だと思います」

木野「てがみ座の舞台をいくつか拝見した印象としては、ちゃんと演技も真面目に取り組んでますし、何がどう悪いということはないんですけど、何か薄い膜というか紗のような壁が邪魔かなと。そこを取っ払えたらいいのになと、大雑把な言い方をするとそんなふうに感じています。そこを突破しないと変われない。こわいけど、その壁は自分がつくったものだから、自分で破るしかない。破った者勝ちです」

長田「(静かに頷いて)わかります。旗揚げからそろそろ10年目を迎えようとしていて、劇団員全員が自分たちは変わらねばならないってすごく思っている時期なんです。だから、今回木野さんをお招きするというのは、私にとっても劇団員にとっても大きなチャンスだと思っています」

――― 最後に、お客様に向けてメッセージをお願いできますか。

木野「時間と場所を超えて、この時代の命が紀伊國屋ホールに立ち上がることを目標に、幕を開けたいと思っています。ご期待ください」

長田「『海越えの花たち』というタイトルですが、男も女も、自分だけの命の花を思い切り咲かせる人たちのことを書き留めたいと思っています。生きてる強さだったり熱さだったり、そういうものを演劇を通して感じてくれたら嬉しいです」


(取材・文&撮影:西本勲)

キメ画像2

PROFILE

長田育恵(おさだ・いくえ)のプロフィール画像

● 長田育恵(おさだ・いくえ)
1977年、東京都出身。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。2009年てがみ座を旗揚げし、全公演の脚本を手がける。てがみ座『地を渡る舟-1945/アチック・ミューゼアムと記述者たち-』にて第70回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞受賞。グループる・ばる『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』にて第19回鶴屋南北戯曲賞受賞。近年は、文学座アトリエの会『終の楽園』、市川海老蔵自主公演ABKAIの新作舞踊劇『SOU~創~』、ホリプロ『夜想曲集』など、外部公演の脚本も多く手がけている。

木野 花(きの・はな)のプロフィール画像

● 木野 花(きの・はな)
1月8日生まれ、青森県出身。
弘前大学教育学部美術学科卒業。1974年に女性だけの劇団「青い鳥」を結成。80年代小劇場ブームの旗手的存在となる。86年に同劇団を退団し、現在は女優・演出家として活躍中。近年の主な演出作品に、虚構の旅団『夜の森』(12年/脚本も担当)、月影番外地『どどめ雪』(16年/作:福原充則)、日本の30代『ジャガーの眼 2008』(15年/作:唐十郎)、モチロンプロデュース『クラウドナイン』(17年/作:キャリル・チャーチル)などがある

公演情報

「海越えの花たち」のチラシ画像

てがみ座 第15回公演
海越えの花たち


2018年6月20日 (水) 〜2018年6月26日 (火)
紀伊國屋ホール
HP:公演ホームページ

36名限定!4,500円 (全席指定・税込)→ 【指定席引換券】3,900円さらに2,200Pゲット!(6/19 17時25分更新)

詳細はこちら