明治9年の京都で、かつて新撰組の一員だった斉藤一と島田魁が再会。二人の記憶の中で、日本が大きく動いた幕末への扉が再び開かれる……。明治維新から150年となる今年、演劇界でもさまざまな関連作品が生まれている中、特に注目したいのが劇団め組の新作『新撰組後日譚〜SAMURAI達の挽歌』だ。時代劇では定番と言える新撰組ストーリーを新たな角度で描きながら、歴史物ならではの面白さをたっぷり詰め込んだ本作について、め組の俳優陣は「時代劇が好きな人はもちろん、そうでない方にこそぜひ見てほしい」と力強く話してくれた。
新鮮なキャスティングに期待が膨らむ
――― 今回、皆さんがそれぞれ演じる役柄を教えてください。まず藤原さんからお願いします。
藤原「僕は島田魁を演じます。め組で新撰組を取り上げた作品では、ずっと土方歳三をやってきたので、あまりクローズアップされることのないこの役をやらせていただくことになったのは意外でした。彼はもともと新撰組に入ろうという強い意志があったわけではなく、たまたま江戸で出会って旧交があった永倉新八に誘われて、途中から新撰組に参加しているんです。そんな人なのに、五稜郭まで行って新撰組として最後まで戦い抜き、明治以後は西本願寺の夜警をしながら隊士の菩提を弔っていた。とても純粋で真っ直ぐで、素敵な人物だったんだなと思います」
――― 幕末〜明治維新を描く作品で題材になりやすい、熱く燃え上がった人物とは違うところに軸があるわけですね。
藤原「そうですね。もともと政治的な部分にも疎かったようで、ただ本当に新撰組を愛して、自分が決めた侍としての道を貫き通したんだろうなと。前回の公演(今年3月〜4月『小栗上野介忠順』)も、一般的にはあまりヒーローとして描かれない小栗忠順を題材にした作品でしたので、そのあたりも世に知らしめていければという、作家・合馬百香の思いの一端を、僕としても担っていけたらなと思っています」
ーーー新宮さんはいかがでしょうか?
新宮「僕は土方歳三をやらせていただきます。誰もが知っていて人気もある人物なので、やはりプレッシャーはありますが楽しみでもあります。め組では過去に何度か新撰組のお芝居をやっていて、その頃は藤原さんが土方で、僕が沖田総司を演じることが多かったんですけど、そろそろ年齢的にも沖田じゃないだろうなと思いながら(笑)、ついに土方が来たかというのが正直なところです」
――― め組のファンの方にとっても新鮮でしょうね。
新宮「皆さん、土方歳三にはいろんなイメージがあると思うので、そこから外れてはいけないし、でも違った意味でイメージから外れたい、という気持ちもあります。それに、今回は新撰組がなくなった後から話が始まるというところも、どういう展開になるのか楽しみですね」
――― では、秋本さんはいかがですか?
秋本「斉藤一を演じます。まさか斉藤一が来るとはまったく思っていませんでした。やっぱりイメージが強烈ですから。けっこう謎なところも多い人物なので、この役が決まったときは、自分にしかできない斉藤一の人間味を出せたらいいなとすごく思いました」
藤原「斉藤一の人間味って?(笑)」
秋本「謎なんですよね(笑)。剣の達人で新撰組では粛清役をしていたとか、スパイ活動もしていたとか……何を考えているのかわからないところは僕と似ているかもしれません(笑)。そういうところも魅力の1つとして、自分なりのものを作っていけたらなと思います」
こんなふうに生きてみたい、と思ってもらえるように
――― そもそも皆さんは、め組に入る前から時代劇が好きだったり、歴史に関心があったりしたのですか?
新宮「僕はまったくなかったです。テレビの時代劇もほとんど見たことがなかったし。でも、め組で時代劇をやってみたらすごくハマって、やりがいを感じたんです。殺陣とか着物とか、普段はなかなか携われないものに接するのが面白かったし、これまでめ組で何十本と時代劇をやってきた中で、歴史上のいろんなことがこういうふうにつながっているんだというのがわかると、だんだん楽しくなりました。だからといって歴史を勉強してみようとはあまり思わないんですけど(笑)、今はテレビでも時代劇をほとんどやらなくなっているので、どうにか復活してくれないかなって思ったりしますね」
――― 歴史云々というより、人と人が関わり合う物語として興味が持てたということでしょうか?
新宮「そうですね。こんな人がいたんだとか、こういうふうに生きてみたいとか。演じている自分達がそう感じるだけじゃなくて、見ているお客様にもそう思ってもらえるようなものをやってきていると思います」
秋本「僕も正直、歴史はまったく興味がなくて(笑)。ただ観客として、藤原さんや新宮さんの時代劇を見たときに“カッコいい!”と思ったのが最初の印象で。特にチャンバラのカッコよさですね。それから公演に出していただくようになると、やっぱり内容が濃くて、時代背景とか人間関係も難しいので、頭がパンパンになっちゃって(笑)」
――― 台本に書かれていない部分にも、史実があるわけですからね。
秋本「お客さんの方が詳しかったりすることもあるので(笑)、勉強しなければいけない部分が多いといつも感じています」
藤原「僕も歴史はあまり得意ではなかったんですけど、坂本龍馬のことはすごく好きでした。自分が福岡出身ということもありますし、父がいつも時代劇を見ていましたから。その父の勧めで、小学校2年から高校卒業まで剣道をやっていたんです。め組に入って時代劇をやるようになって、そんな今までのいろんなことがつながったような感覚がありました。最近は歳をとったせいか、ふと夜空の月を見たときに、“これと同じ月を坂本龍馬も見たのかな”みたいなことを思ったり、真っ暗な山奥とかで月の光しか頼りがないようなときに、“江戸時代の旅人達も、こんな月灯りの中で歩いたりしていたのかな”なんて思ったり。その時代にフッと飛んで行ける気持ち良さみたいなものはありますね」
リアリティのある人間ドラマに仕上げたい
――― では最後に、ご覧になる皆様に向けて一言ずつお願いします。
秋本「時代劇に詳しくなくても、新撰組という名前を知らない人はほとんどいないはずです。日本が大きく動いた節目の時代の話でもあるので、初めて見た人も楽しめると思います。もし僕がこれに出ていなかったとして、チラシを見たら絶対見に行きたくなるような作品ですね。ちょうど大河ドラマの『西郷どん』が盛り上がっている時期でもありますし……僕、すごく好きで見てるんですよ(笑)。たとえ進む方向は違っても、いろんな人たちが日本のために大きな志を持って頑張っていた。そういう侍の心は1つだったというところの面白さを感じてもらえたらなと思います」
新宮「時代劇というものの敷居の高さというか、先入観を払拭したいとずっと思っていて、若い人にたくさん見に来てもらいたいです。決して硬い感じではないですし、ちゃんとテーマがあって納得できる作品になっていると思います。普段イケメン舞台とかを見ている方たちも、め組にはいい男がたくさんいますので(笑)、ぜひ足を運んでいただきたいですね」
藤原「今回は、皆さんがよく知っている坂本龍馬や西郷隆盛、勝海舟といった人たちもたくさん出てきます。だからこそ、単にいろんなエピソードが詰め込まれたお祭り的なものに見えてしまわないように、各シーンで生きている人間のドラマをしっかりと、リアリティを持って見せたいですね。本格的な時代劇だけど、ただ遠い昔にあった話じゃないものとして仕上げていきたい。そして見終わった後に、ちょっとピュアな気持ちに戻ってもらえたら嬉しいです(笑)」
(取材・文&撮影:西本 勲)