2012年の舞台「星降る夜に」を皮切りに、争いを繰り返す人間の愚かさと核戦争後の荒廃した地で育まれる普遍的な愛、そして人間と鬼の末裔による壮絶な戦いを全10作に渡って描いてきたSF大河ファンタジーシリーズに新章が追加された。手がけるのはエンターテイメントコミュニティ「LOVE&ROCK」主宰の原口勝。
脚本・演出家、俳優として活動する一方で、週末には東京、恵比寿のBAR☆STARSで劇場と連動した参加型の芝居イベントを運営するなど、型にはまらない劇空間を提供し続ける。一度完結した長編大作に新たに加わる新章はシリーズの中核をなす重要な物語となるようだ。
――― 1人の人生だけでなく、その息子、また孫へとつながる因果を描いた壮大な大河舞台に新たなストーリーが加わった。
「シリーズで前作にあたる『朧雲』とその続きとなる『遥かなる空』の間をつなぐ、いわばエピソード6になります。核戦争終結後から10年後、日本を想定した“和国”を舞台に、恋人を人間に殺された鬼の末裔の唯一の生き残りである“名無し”が人間への復讐を誓うというところから物語は始まります。題名はまさに嵐の様に過ぎ行く乱世を走り抜けるという意味で“RUN”を入れました。
物語自体は10作目の『宇宙SORA』で完結したのですが、最後に歴史がリセットされエピソード1にループします。新たな時間軸(パラレルワールド)でらせん状にまた違った200年の物語が進んでいく感じです。もしかしたら続編の『遥かなる空』にも影響を与えるかもしれない重要な作品です」
――― シリーズを通して争いに耐えない人間の愚かさを描く一方で、普遍的な愛も対のテーマとなっている。
「基本的にはアクションエンターテイメントですが、争いを描くことで平和を考えるきっかけにしたかった。こんな時代にしていいの?というアンチテーゼの意味を込めて。でもその根本にはユニット名にもなっているLOVE&ROCKがあって、ROCKの転がるという意味から、いつの時代も転がり続ける愛という事を伝えたいんです。一方で、今回の話は人間(政府と革命軍)と鬼の三つ巴の争いを描いていますが、主人公目線というものが無いんですよ。三者三様の正義があって決して勧善懲悪ではない。皆、誰もが平等で平和な世の中を作りたいという希望があるのですが、その解釈が変わって行く事で新たな争いが生まれる。だからお客さんの置かれている立場や目線によっても、考える正義も違ってくるはずです」
――― 地下シェルターの暮らしや、核による汚染環境下での食糧事情などの細かい描写だけでなく、旧約聖書や哲学書を基にした台詞が取り入れられるなど、その壮大な世界観はどの様に作られたのか。
「元々歴史や哲学が好きで、そこにロマンを感じていました。東宝芸能に入ってミュージカルをやっていたときに海外の演出家と仕事をする機会が多くて非常に勉強になりました。その経験を通じて自分のやりたい世界は自分で作ろうと。自分の居場所は自分で作るという考えが根底にあります。特にこのシリーズは執筆していると、自分で書いているというより、どこか他人事で俯瞰的に見ている感覚がある。書いているより書かされているという不思議な感覚ですね」
――― BAR☆STARSでの芝居イベントもより作品を楽しむためのスパイスになっている。
「BARでの芝居は舞台のストーリーを補足する意味も込められています。さらには後日譚や、出演者を招いてアフタートークもおこなっています。舞台以上の至近距離で観られるのも醍醐味ですね。毎年11月から2月にかけては14週連続でエピソード1の『星降る夜に』をお店で上演しています。」
――― シリーズ物であっても初見の方も楽しめる工夫がされているなど、誰もが楽しめる作品になっている。
「ずっとやっているとどこか当たり前になってくる部分もあるので、初見の人にも分かりやすいように書き換えはしています。よりストーリーに入り込みたいのであれば、エピソード5の前作『朧雲』のDVDを見ることをおススメします!
うちの売りであるドラムやキーボード、ギターなど、第一線で活躍するアーティスト達が奏でる生バンドや、日本刀を使った鮮やかな殺陣とゴシック調の衣装に注目して欲しいですね。また今回は熱い芝居で有名な、劇団気晴らしBOYZのやるせなす石井さんを始めとする個性的な役者が沢山登場するので、先入観なしに楽しめる作品になると宣言します」
(取材・文&撮影:小笠原大介)