初演では“扇情的なタイトルと題材”“刺激的なフライヤービジュアル”が上演前から話題を呼び、大方の観客の予想に反して、真面目な問題提起として「表現の自由」と「芸術の邪悪さ」という題材に真正面から切り込んだ劇団NICE STALJERの問題作「ロリコンのすべて」が3年ぶりに再演される。
2020年東京五輪に向け国際基準に合わせたサブカルチャー規制の機運が高まる中、「邪悪」とは何か?邪悪な題材の「芸術」もまた邪悪なのか?さらに踏み込んだ視点から観客一人一人の価値観に“問い”が投げかけられる。
決してエロ目的の作品ではありません!
――― 初演では多くの受賞を含め、かなりの反響がありました。
イトウ「初演はほとんど男性客でした。特に最前列から3列目まではいつも劇場には来ないような男性の方がちょっと思いつめた表情で座っていました。何かを期待するような(笑)。敢えてそういうタイトルをつけて、チラシもちょっと過激なものにするなど、狙いはありましたが、作品としては決してエロいものではないです。意外と真面目な話なので見てもらえれば女性の方にもそんなに嫌悪感は抱かれないと思いますが、タイトルがタイトルなので。賞を頂いた時に周りからは『書き手の体重が乗っている作品』ですねと言われました。僕がロリコンなのかどうかについては否定も肯定もしません(笑)」
邪悪なものとは?を議論したくて
――― このテーマを選んだきっかけを教えてください。
イトウ「大学時代に読んだウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』に衝撃を受けました。中年の大学教授が12歳の少女に恋をするお話ですが、何カ国かで発禁を繰り返した作品です。作中で少女と共に暮らすことになった大学教授は少女に恋人としての思いを伝え続けるのですが、少女には伝わらずついには失踪してしまう。当時、僕の中にも人に分かってもらえない悩みを抱えていた時期があって、そこに強いシンパシーを感じたことが原点になっています。
近年の児童ポルノ規制の波の中で、漫画家の人達が、表現の自由を守るために、ロリ漫画を規制してはいけないと声を上げましたよね。けれどもそこではロリコンや子供の裸が悪いとか悪くないとかいう議論はほとんどされなかった。それでも表現の自由を守るために、子供の裸の漫画をOKにしようというのがなんか言い訳くさいなと思っていて、じゃあ、その類のものが悪いか良い物かを議論するべきでしょという思いがずっとありました。副題に『表現の自由よりも大切なこと』という言葉を入れたのもその思いから来ています。
とはいえ決して難しく考えて欲しくなくて、お話としては笑いあり涙ありのストーリーになっていて、僕としてはロリコンを笑いものにする気持ちで来てもらって構わないと思っています」
初演でチラシを配れなかった
――― 演じる側の俳優の皆さんは最初戸惑いも多かったとか。
帯金「もらった公演のチラシには部分的に白抜きされた女の子の裸の絵が載っていて、これはもう完全にエロいやつじゃないかと思って、誰にも配れなかったです。チラシを配る段階では台本もなくて、大丈夫っていう確信が1つもなかったんですよ(笑)。
でも、初日明けて中日ぐらいに差し掛かって、お客さんの反応や自分たち演じていて、めちゃ良い芝居じゃないかというのが分かりました。皆きっと、何か1つはコンプレックスを抱いていると思うんです。その中にロリコンがあっても良いと思うんですね。でも、ロリコンという単語がピックアップされるときは必ず犯罪とセットになっているのが問題だと思います。決してロリコンが皆犯罪者というわけではない。その当たり前の事を世間が忘れていることに、個人的には怒りを感じますね。イトウさんみたいな真面目な人もいるのに」
イトウ「初演の最初の頃は犯罪者を見るような目で僕を見ていたけどね」
帯金「今はそんなことありません!!(笑)」
宮武「私はオーディション前にタイトル見て、衝撃を受けました。えっ大丈夫なのかなと(笑)。でも台本を読み進めていくと、あ、そういう事なのかと思うことがたくさんあって、決してやばいものではないです。作っていく中で皆さんがこの作品に対して熱く考えているのが伝わってきて、もっと役に入り込まないといけないなと思ったぐらいです。ロリコンの男性は正直理解できないけども、そういう思考自体は一線を越えない限り、別に悪いことではないかと個人的に思います」
あなたなら、どんなタイトルをつけますか?
――― 主演の白勢さんは初演に続き、小学生役のヒロインを演じられますね。
白勢「3年前だったので初演を見た方も忘れかけている頃だと思いますね。時間も経っているから、私達キャストも人生経験を積んで、もっと深いところまで気持ちを入れ込むことができると思うので楽しみにしていて欲しいです。
前回、演じていて感じたのですが、私が女性としてドキドキするパートが客席とシンクロしていたように思います。タイトルだけではわからない恋愛のドキドキや、思い通りに行かないせつなさも沢山ちりばめられていて特に女性には共感できる部分が多いと思います。「ロリコンや子供の裸は邪悪なのか?」っていう議論にいくけども、「じゃあ“恋”って邪悪なの?」って私は問いたいです。そういう相手を想う気持ちが舞台上で何度も動いた結果が『ロリコンのすべて』じゃないのかなと。だからは私は敢えて“無題”としてこのお芝居を観てもらって、その後に『あなたならどんなタイトルをつけますか?』と聞きたいです。ストーリーにも様々な伏線があるので1回だけでなく是非2回は観ていただきたいですね」
是非、ワンチャンスを下さい!
イトウ「偏見を持って観にこられてもいいし、そういうものを期待しても良いです。それだけ厚みのある作品に仕上がったと自負しています。初演でこのタイトルだけを見て回れ右をする女性が多かったので、この記事を見て何か心の中にひっかかるものがあれば、それを是非信じて欲しいです。身長149センチ以下の女性には『ロリコン割引』が適用されて無料になります。何歳でもOKです!僕としては、客席には多様性に溢れた人達で埋まっていて欲しいし、色んな感想が聞きたい。なのでタイトルで弾かずに、是非、僕にワンチャンスをください!!」
(取材・文&撮影:小笠原大介)