世界6か国で上演された本作は、観客を「プロデュ―サー」と「投資家」に見立てた“バッカーズ・オーディション”(舞台作品のプレゼン)形式の演出と、20以上の役を2人で演じる劇中劇の面白さで最高のコメディ作品と絶賛され今も上演が続く人気作品だ。日本では2017年3月に福井晶一(作家ダグ役)と原田優一(作曲家バド役)により初演され完売続出の話題作に。早くも新メンバー鯨井康介(ダグ)と上口耕平(バド)を迎えWキャスト2チームで再演する。
歌あり、ダンスあり。役者の本領発揮、やりがいがある作品
物語はブロードウェイ進出を夢見るダグとバドの奮闘を描く。第一歩として、夢半ばで力尽きた印刷機の発明者・グーテンバーグの仮想物語を作ってプロモーションすることに。
20以上の役の中にはグーテンバーグのほか、悲恋のヒロイン、修道士、など中世ドイツの架空の町に生きる個性豊かなキャラクターが目白押し。夢を追いかける凸凹コンビの2人の姿に思わず笑いながらもほっこりできる、ミュージカル愛が詰まった作品だ。
上口「複数の役を演じた事は何度かありますが、こんな瞬時に変わっていく役はなかったので初めての経験です。それぞれの役をどう分けていくのか一番の課題になりそうです」
鯨井「僕もこんなにたくさんの役を一度に演じるのは初めてです。歌、ダンスは上口先輩についていきますよ!」
――― お二人の役柄について教えてください。
鯨井「ダグは、この作品の中の劇中劇の脚本を担当しています。真面目で情熱的で、真摯に作品に取り組んでいるようなまっすぐな男。もともとミュージカルが好きな俳優でした。ダグが率先してチームを作っていったという気がします」
上口「バドは、プレゼンするミュージカル『グーテンバーグ』の作曲家で音楽担当、音楽家なのでアーティスティックで少しエキセントリックでもあるかな。ダグがいないと作品作りができなかったのではないかなと。ダグあってのバド、ちょうどいいバランスでお互い無い物を補いながら支え合っている2人ですね」
――― バディの様に2人のコンビ力が必要になってきますが、大切にしようと思っていることは何ですか?
鯨井「それはもう嫌われないように!」
上口「そこは大丈夫ですよ!」
鯨井「初共演なんです」
上口「同じ作品で違うチームにいたことはありましたね」
鯨井「およそ2ヶ月一緒にいて頼れるのは上口さんだけなので嫌われたらどうしよう」
上口「大丈夫!好きだから!(笑)」
鯨井「先輩なのでいろいろ教えていただこうと思っています!」
――― 初演の先輩たちを大人チーム、この2人をヤングチーム(仮)として、2018年度版は2チームで上演されますね。
上口「僕たちがヤングチーム!」
鯨井「僕は康介、上口さんも耕平でWコウなんです」
上口「コウちゃんズ?」
鯨井「いいね、オーシャンズみたい(笑)」
上口「大人チームは、晶一、優一、でイチイチだ!」
鯨井「ホントだ!偶然にも!早く僕たちのカラーを追求したいですね」
稽古場でたくさんトライして失敗しまくる。そこで自分にしかない物が出てくる
――― 演出にはミュージカルからストレートプレイなど、数々の話題作を手掛ける板垣恭一氏が初演に引き続き参加しますが、印象など教えてください。
鯨井「僕は板垣さんの作品は拝見しておりますが、演出でご一緒するのは初めてです。優ちゃん(原田優一)から『絶対鯨井ちゃんと良い作品ができると思う』と言っていただいたので、とても楽しみです」
上口「僕は2回目ですね。板垣さんはその人のパーソナルなものを引き出し、本人にしか持っていない本人から出たものを尊重してくださいます。板垣さんの演出を受けて、稽古場でいっぱい失敗するべきだなって思いました。たくさんトライして失敗しまくる。そこで自分にしかない物が出てくるので、今回も大切な稽古場になると思っています」
劇中劇では帽子に役名が書かれ、2人で様々な役を演じる。シーンによっては1つの役を2人が演じることもあり、帽子を適当に置くことができない、自由に見えて実は細かい作業も要求される。
上口「初演の動画を見ましたが、凄まじいスピードで進んで行くのでちょっとゾッとしました(笑)。目印が帽子に書いてある文字だけなんです。普通の舞台の小道具は、決まった場所にあるので身体になじんでいきますが、そうではなくて長机の上に帽子が並んでいて、ひたすら名前でチョイスして、さらに重ねたりもしている。身体になじむまで鍛錬が必要じゃないかな」
鯨井「ほぼ同じ形の帽子なんですよ。置く位置もシーンで変わるよね」
上口「ちゃんと計算して連携して置かないと行方不明になってしまう」
鯨井「同じ役をどちらも演じるので、次に上口さんが使うから僕が勝手に置くことができないんです。チームプレイになりますよね」
上口「シンプルだからこそ人間力が必要で、これがこの作品の魅力かなと思います」
鯨井「持っているものをフルパワーで使わないといけないかもしれない。舞台上にずっといますよね、出はけがほとんど無いです。あとフリーな空気があるんです。システマティックな演出に対して、2人の関係性みたいなもの、僕ら俳優・鯨井と上口さんに寄せてくれている部分があって、そのコントラストも面白いです。自由にやっているのか、計算された自由なのか、ちょっとわからなくなるような部分も魅力な作品だと思います」
――― イッちゃんチームとコウちゃんチームは全く違うテイストになる所も見どころですね。
鯨井「イッちゃん!先輩たちが近づいてきた気がした(笑)」
上口「違う角度で僕たちのグーテンバーグができたらいいなと思いますね」
役者として遊びや挑戦がふんだんに盛り込まれた作品
――― さらに見どころとして、観客を「投資家」や「スポンサー」に見立てたプレゼン形式。プレゼンとアピールでお客さまを巻き込む演出にも期待が膨らみますね。
上口「お客さま自体が作品の大事な一部になっているので、観方も変わってきますよね。演劇的に巻き込んでいる感じが面白いですよね!」
鯨井「お客さまも今までにない体験ができると思います。しかも役名にも自分達の名前が入っていて、ダグ・サイモン・鯨井とか」
上口「そうなんです。作品の中でも鯨井くんと呼び合っています」
鯨井「本来客席とステージの間に壁がありますが、演劇にあった壁が色々曖昧にされているような。そこがまた不思議な作品です」
上口「ちょっとしたさじ加減でいかようにも印象が変えられるようなスタイルなんです」
鯨井「役者として遊びや挑戦がふんだんに盛り込まれた作品です。そしてこれだけ歌うのも僕にはチャレンジです! 大きく14曲ですが、中で細かく分かれているのでナンバー的には多いんです」
上口「歌ってダンス、2人でけっこう踊るよね」
鯨井「踊るね。始めにも言いましたが、僕は上口さんについて行きます!(笑)僕は翻弄される役が好きなので、いい具合にツッコミとか補っていけたらいいな。上口さんとの共演がとても楽しみで」
上口「僕もそうです。初共演がいきなり物凄く密な作品なので、どんどん彼のことを知っていけることがとても楽しみです。まずご飯から行きましょう!」
――― 最後にメッセージをお願いします。
鯨井「福井さんと原田さんの初演を経て新しく僕らが加わります。僕と上口さんとでできる色合いのグーテンバーグを目指していけたらと思っております。楽しい時間になるよう、精一杯がんばりますのでお楽しみにしていてください」
上口「前作を観た方も新鮮な気持ちでまた楽しんでいただけるように僕らのタッグを組みたいと思います。台本の最後にプロダクションノート(原作者からのメッセージ)があり、“目の前にいる方々に自分達が創った作品、熱意をプレゼンテーションすることが一番大切なこと”とありました。2人で精一杯プレゼンテーションしますので、買うか買わないか、皆さまに判断してもらいなと思っています」
(取材・文&撮影:谷中理音)