鈴木コウタと榊原仁による演劇プロデュースユニット『スキマニ』。誰にでも楽しめる作品作りでファンの心を掴み、人気作品『オブキ』シリーズは人間離れした心理学教授・小浮気芳郎(オブキヨシロウ)を中心に描かれるドタバタコメディだ。今回も出演者たちの体当たり演技は半端ないって!
堕天使の堕で“オブキ・オツ”と読んでいますが自由に読んでください
鈴木「スキマニの歴史は古くて13年やっていまして、仁くんと2人で我々自身のプロモーションをするべく、自分達が面白いと思う作品作りをしています。企画ユニットに近い形なので、その都度作品に合ったメンバーを集め作品作りをしております。仁くんが演出という立ち回りを持ってくれているので、よりスキマニのオリジナルな演出や内容をお届けできていると思っています」
榊原「演出の基本は僕が楽しいことをやっています(笑)。小劇場の舞台が多いので、どうせやるならちょっと偉い人に怒られたいかなと。TVやSNSはコンプライアンスの問題で自主規制が多いですよね。でも小劇場ってチケットを購入されて観に来てくださった100人ほどの方々が観てくれる所なので、せっかくならその人達しか楽しめないもの、そこで目撃できるものをやりたくて。昔のバラエティ番組ではないですがスキマニではそういう事ができたらいいなと思っています」
鈴木「偉い人に限らず、怒られたいと本気で思っている人なんです」
榊原「斬新なことをやろうという訳ではないです。せっかくそういう空間でやるのであれば規制のない状態でやりたいですよね」
鈴木「そういう意味ではこのオブキは、スキマニが作るお客様が何も考えずに楽しんでもらえるコメディをお届けするシリーズですね」
オブキを演じる事は何の苦労も無くて自分は奇人なのかも
――― 今だから話せる初演のエピソードなど教えてください。
橘「初めて台本をもらった時は『なんだこの台本』と思いました(笑)。コウタくんと仁くんは脚本家の門肇さんと長い付き合いなんです。素敵な脚本家なんですが、ちょっとおかしくて。どうなることかと思いましたが、仁くんの演出とこの仲間たちでなんとか一つの作品になりました」
小山「オブキは初演と再演がありましたが、初演の時は皆さんとはほぼ初めましての状態で、トリッキーな台本をいただき、さらに役どころもトリッキーだった印象があります。幕が開くまで本当に面白いのか、きちんと収まるのか不安がありました(笑)」
鈴木「その空気はひしひしと感じていた!」
小山「でも幕が開いたら客様の反応がものすごくて安心しました。これはお客様が求めている愉快さだったと感じたことを思い出します」
鈴木「当然仁くんは自信を持って作っていましたが、やっている本人たちは稽古をやればやるほど不安になって……。でも、お客様の反応がすべてを証明してくれましたね」
榊原「逆に良かったと言われるのがちょっと悔しかったけどね」
佐藤「僕は役どころで髪を染めました。金と赤のツートンにして欲しいと要望があり、僕には常にその色をキープし続ける勇気がなくて、下地を金にして毎朝絵の具で赤を塗っていまして、それがとても思い出深いですね。そこに全力をかけていました。再演では脱ぐことが課題になり、身体のメンテナンスが重要で(笑)、毎公演見た目と身体重視で挑んでいた記憶があります」
鈴木「彼はベッドに長いこといる役で、稽古中は布団をかぶってゲームしてたよね」
佐藤「それをここで言わなくても(笑)」
橘「オブキってタイトルは、わからなくないですか?」
榊原「なんだろうって思ってもらいたくて。主人公の名前をカタカナにしたらキャッチーかなって」
橘「チラシも真っ黒にして文字だけでね」
榊原「内容を書いても多分伝わらないと思ったんです。観てもらうしかないと」
鈴木「門さんとのミーティングで痛快な人情劇がやりたいとオファーして出てきたのがこれでした。少しあて書きをされていたようですが、オブキを演じると俺って友達がいないと思われてるのかなと(笑)。観た方から「コウタくんそのままだったね」って感想を言われて複雑な気持ちになりますが、オブキを演じる事については何の苦労も無くて、自分は奇人なのかもと思っています」
橘「本当にそのままだと思います」
稽古場で面白筋肉が鍛えられました
――― 新作はどんなお話になりますか?
榊原「シリーズものですが続篇ではなく、寅さんのように単独の物語になります。共通する登場人物はオブキとゴスヨの2人。タイトルに“堕ちる”の文字が入っているので、とにかく堕ちていきます。物理的に落ちる、落ちぶれることもある。舞台上でどう表現できるのかが今回のテーマですね。あとキーワードとしてタイムスリップします! 僕も門さんも基本的にひねくれているので、タイムスリップと言っても皆さんが思っているようなタイムスリップではないと思います」
鈴木「そのタイムスリップ具合は観てのお楽しみです! ここはひとつの見どころになると思います。今作はオブキとゴスヨが活躍しますね」
小山「ゴスロリの格好をしたゴスヨを今回も演じます」
榊原「ゴスヨが今回のエピソード主人公となります」
鈴木「オブキとゴスヨは『トムとジェリー』のような雰囲気で全力でやれたら」
榊原「例えばアニメだったら、縮小しているような2頭身キャラに見えることになったら面白いかなと!」
鈴木「小山さんは普段はヒロイン系を演じる女優なのに、この作品ではもの凄い表情をしてくれます」
小山「仁さんの力を借りてかなり濃い役になっています。初演のゴスヨは言葉が少ない役で、演出を膨らませていただき動きで遊ばせてもらいました。普段やらない役どころなのでとても楽しくて。それが新作で活躍するので体力的に成立するのか、今はまだ不安があります(笑)。まずは体力作りから始めたいと思います」
榊原「テンションの上がり方が半端じゃないのでね」
橘「今の見た目とは全然違うまりあちゃんが観られると思いますよ!」
――― では、橘さんはどんな役どころですか?
橘「今作で私は立場的に敵役の方になります」
榊原「普段のU子さんのイメージとはちょっと違う感じで行こうかなと思っていますが、U子さんのことなので、どんどんご自身で役を追加されていくと思います(笑)。初演ではナースの婦長をやっていただきましたが、なぜか通訳の役どころが追加されてきて。演出家や脚本家に断らずに勝手に役を増やしてくるという(笑)。それくらいかき回してくれるので、僕はお任せしています」
橘「そんなそんな(笑)」
榊原「台本通りなんてほんの2行ぐらいですよね」
鈴木「前は1分くらいで終わるシーンなのに5分くらいやっていましたよね(笑)」
橘「そうなんです、ページが少ないので出番を増やそうと」
榊原「勝手に台本を書いて配っていますからね。僕はそれが楽しくてどこまで遊ばせるかという役ですね」
橘「仁くんの懐がとても深くてありがたいです。今回は真面目にやります!」
小山「先輩方が他で見たことがない稽古を繰り広げるのを目の当たりにして、ここまでやっていいんだと気づかされました。もっと貪欲にやらなきゃと。今までの現場とは全く違う発見がありました。稽古場で面白筋肉が鍛えられました」
榊原「みんなエネルギーを出して作っているところが本当に面白いので稽古も見て欲しい!」
鈴木「そして仁くんは、演出としての仕事を本当に最後まで楽しんでくれることが、またエグい(笑)」
小山「本番中でも平気で一部演出を変えてきます。初演は千秋楽の前日に変えることになって、当日揃ったらまずネタ合わせしましょうって」
榊原「本番は積み上げていくものですが、2人が飽きてきたかなと」
小山「おかしいですよ」
榊原「余裕を感じてもっと行けると思ったんです」
――― 通常は初日を終えると演出家の仕事はほぼ終わりますが、オブキでは最後まで手を抜かずに続けているということですか?
榊原「そうですね、それが小劇場だからできることにつながりますね」
――― ちょっと迷惑ですね……?
橘「わかっていただけますか?」(全員爆笑)
榊原「初演、再演と僕自身も出演していましたが毎回違う事をやっていました。僕がやればみんなもできるので俺の背中を見ろ! と」
鈴木「それを言っている本人の背中は亀甲縛りになっていましたけどね(笑)」
佐藤「僕も皆さんの背中を見て、どこまで道を外れることができるかが見どころになるのでしょうか」
榊原「佐藤くんは今どきの若者でスンとしていますが、お芝居に対する想いは凄く熱くて、それを役どころに反映できたらなと思っています」
鈴木「今回はカッコいいところを魅せられるよね?」
佐藤「佐藤聡哉のカッコいい所も見られるし面白い所も見られる、こんなお得な作品はないです」
榊原「彼の役は実はキーマンでして、お楽しみにしていてください」
佐藤「ここで色々強気に言うことで、自分にプレッシャーをかけ追い込む作業をしています」
鈴木「そんなことを言って誰よりも早くセリフを入れてくる真面目な奴です!」
――― そしてオブキはさらに奇人になっていくんでしょうか?
鈴木「そうですね、僕の課題は……体力です(笑)! 身体を昔に戻していきたいなと。オブキをやると自然に痩せちゃうんです。今回は本番で痩せるのではなく、稽古で痩せてパフォーマンス面でより気色悪い動きをしたいと思っています。オブキのキーポイントは人間離れしている部分をいかに魅せるか、なので」
変態を生で観られることはとても価値がある
――― さらにレベルアップしそうな『オブキ・堕』。そして何度来ても面白く進化している、それがスキマニ作品の魅力だろう。
鈴木「今回は時間も場所も色々な所に飛びます。いい意味でびっくりする展開になると思います」
小山「『これなんだろう、愉快だな』と感じる素直な部分を舞台からお届けできると思います。オブキをまだ知らない方はオブキの正体を突き止めに劇場へいらしていただけたら」
橘「オブキの作品自体が一つのブランドになっていて、オブキファンの方も多くいらっしゃいます。でもうまく説明ができないんですよね。だから観に来て欲しいし、仁くんが言った通り何も考えないで劇場に来て、楽しかったら笑えばいいなと。不思議なお芝居なので初めてでも楽しめます! お待ちしております」
佐藤「見た目に注目です! オブキではこれを重要視しています。どこまで外れられるか。いつも真面目な人にものすごいスパイスがくるかもしれません。楽しみにしていてください」
鈴木「とにかくオブキは生で観ていただくのが一番です。心理学教授のオブキは人の心を操作しますが、観に来たら絶対に騙されると思います。ぜひ劇場までお越しください」
榊原「静かに観たい方もいるとは思いますが、TVに向かってツッコミを入れるように、笑ってTVを流し見するように、あまり考えずに気軽に観てもらえたらと思います。この作品は変態コメディです。劇場内では近くに変態がいても安全です。変態を生で観られるのはとても価値があると思っています。お楽しみください」
(取材・文&撮影:谷中理音)