松崎史也主宰・SP/ACE=projectが9月にCasual Meets Shakespeare『HAMLET SC(エスシー)』を上演する。本シリーズは「普段着でシェイクスピア」をコンセプトに、高尚・難解と思われがちなシェイクスピアを現代の日本で上演するという前提のもと、シェイクスピアらしい魅力的な長台詞は生かしつつ作品の面白さを研究、伝えるシリーズで6作品目となる。満を持して『ハムレット』に挑む脚色・演出の松崎史也とハムレット役・田口涼、レアティーズ役・船木政秀に話を聞いた。
シェイクスピアをちゃんと読んで受け入れてやってみようと思った
――― 初演から公演を重ね6作品目となりますが今の心境は?
松崎「第1作目『夏の夜の夢』を2013年に始めてその頃は手探りでした。シェイクスピアは演劇をやっている者には一般常識のようでありつつ、自分も含め皆やったことがなく、ちゃんと読んで受け入れてやってみようと思ったことがきっかけです。普段やっている演劇は自分の気持ちを伝えるのに1、2行のセリフで済みますが、シェイクスピアでは2,3ページに渡ることもあり、今の上演には向いていない部分もありますが、俳優としてその技術は一方で必要なことではないかと。それを要求された時に答えられない俳優は違うと思ったこともあって、一度ワークショップ的にシェイクスピアをやってみよう、そして上演する時にはお客さまが見て面白いと思う作品を作ろう、という2段階の創作でやっていこうとスタートしました。いつも稽古の時には原作台本を使って1、2週間稽古をしてお客様には見せずに仲間内で通し稽古をしています。そして僕が台本を上演用に書き直して、改めて本稽古を行い本番を迎えるやり方を立上げからずっと続けています。これをやることで俳優がだんだんシェイクスピアのセリフが上手くなって、回数を重ねるごとに勘が良くなって行くんです。喜劇悲劇をやって役者たちも下地ができ、だいぶ身についてきたので一番ボリュームがありにハードルが高い『ハムレット』に挑戦します」
――― 確かにシェイクスピアは知ってるつもりも多い。シェイクスピア作品ではスキルアップしている田口と船木の心境の変化も気になる。
田口「技術が少しずつついてきたことによって周りが見えるようになってきたと思います。演出の(松崎)史也さんや出演者たちとより高みを目指してしいきたいという気持ちが強くなって、昔より演じる事が楽しくなってきました」
船木「昔は考えなかったことを考える様になりました。セリフの言い方ひとつや役作り、お芝居に挑む姿勢、役者として当たり前のことですがシェイクスピアをやって新しい発見が増えました。でもまだ自分が未熟だなと思う所もあり、まだまだ勉強できる場、役者として成長できる場と思っています」
――― ちなみに台本はシリアス、コメディ、どちらを先に完成させるのでしょうか?
松崎「2バージョン上演する場合はシリアスから書きますね。流れを作ってから(笑)。コメディの方は役者に頼っている部分もあって、稽古場で通しながらどうしたら面白いことができるか役者と協力して作っています」
この膨大な量を前にするとチャレンジしたくなっちゃう
――― プレ稽古も済み、いよいよ本稽古になりますが今の手応えはいかがですか?
船木「原作稽古を通しましたが、ただ本を読んだ時の理解と、実際に芝居を付けながら読むと違う意味が見えてきて、まだまだ自分が知らない『ハムレット』が見つかります」
松崎「原作台本を読んで本番をやると全然違うと思います」
船木「本当にそうですね」
松崎「そしてプレ稽古では最初台本を持ちながら立ち稽古をしますが最終的に台本を外してやっています」
――― え!? 本番も含めますと3つ台本があるようなものですよね?
松崎「はい、誰かひとりがやり出すとみんな意地で」
船木「この膨大な量を前にするとチャレンジしたくなっちゃうんです(笑)」
田口「僕は別の本番があり今回プレ稽古に参加できていないのですが、早く追いつけるように頑張ります!」
松崎「それができるようになったのもこの2人の仕事が増えて来て、こっちに出演する時もその経験をフィードバックしてもらえることが多くなるし、不在の時はこっちで仲間と作って待っていることがやりやすくなったのでいい事だなって思います。彼らが活躍してくれるのは単純に嬉しいですね」
共通言語をわかり合っているメンバーとしか創れないものを彼らとだったら創れる
――― 今回の役どころについて、いま考えていることや挑戦となる部分などについて、教えてください。
田口「今回のハムレット役は本当に挑戦です。過去にもありましたが久しぶりの主演で、その間にいくつかの舞台に出演し様々な座長を見てきて、主役としてのお客様の引きつけ方、人としてみんなが付いていける立ち居振る舞いとか色々な勉強をしてきました。ハムレット役についてはうっすら聞かされてきたので、そのためにこの1年はずっとハムレットの事を考えながら過ごしていました。座長としてみんなを納得させる人間でありたいと思っているので、当然そのためには良いお芝居をしないといけない、お客様にも納得してもらえるハムレットを演じられるように挑みたいと思っています」
――― 田口さんはS(シリアス)とC(コメディ)の2役に挑戦するんですよね?
田口「はい、Cではフォーティンブラス役を演じます。実はCに出るのは初めてなんです。まずコメディの温度に触れるところからはじめて、Cには面白いキャストが揃っているので負けないようにがんばります!」
――― 船木さんは今回Sバージョンのみの出演ですね。
船木「レアティーズ役を突き詰めます。この作品はハムレットがザ主役の印象が強くて、その中でレアティーズはハムレットと決闘するライバル役。役者としての存在感も対等かつそれ以上にならないと、と思っています。いかにハムレットに負けない存在でいられるか。本を読むとレアティーズは意外と出番が集中しているので、存在感を残せてどれだけやり切れるかがチャレンジです」
松崎「2人が役で対決するのは今まで無かったよね」
田口「初めてですね」
船木「ライバルで敵対は初、ここは見どころになると思います!」
――― 田口さんと船木さん、お2人の魅力はどんなところですか?
松崎「師と弟子みたいな関係で付き合いは長いですね。もちろんたくさん魅力があるし足りないと思う所もあるから一緒にやっています。僕の伝えたい言葉ややりたいビジョンとか、いま魅せたいことに対して理解する能力や表現する能力が高く、共通言語をわかり合っているメンバーとしか創れないものを彼らとだったら創れるので、そういう場所があることは自分にとって演劇の財産だなと思っていて感謝していますね」
――― 2人にとって松崎さんは厳しい存在ですか?
田口「昔は厳しかったですが、最近は優しいですよ」(全員笑)
ぜひSとCを見比べて頂きたい
――― 壮麗な衣装やメイクで見た目を煌びやかに、また男女逆転キャスティングを施すなどライトユーザーにも優しい工夫で着実にファンを増やしてきた。作品ごとに凝ったビジュアルも本シリーズの魅力だ。
松崎「このシリーズでは毎回、車杏里さんに衣裳を作ってもらっていますが、彼女の独創性が素敵なので話しながら方向を決めていく作業が楽しいですね」
田口「僕らも衣裳は毎回とても楽しみなんです」
松崎「あとは音楽についてはロミジュリほかもやってくれている谷ナオキくんにお願いしています。谷くんは出会った時は22歳でしたが、若いセンサーを持った作曲家でバリバリとアニメの劇場版や映画音楽で活躍していて、彼と一緒に良い作品を作って活躍していきたいですね。今作では音楽も多用していくと思うので、そこも期待して欲しいです」
――― では最後にメッセージをお願いします。
田口「ぜひSとCを見比べて頂きたいです。ストーリーは悲劇なのに喜劇になったり、しかも普通のダブルキャストでもなく、シェイクスピアで同じ時期にこんなことをやっている企画はないと思います。どちらから見ても楽しめます。お客様同士で語ってもらえたら」
船木「ハムレットは様々な所で上演されてきましたが、僕ららなりの分かりやすく、かつシェイクスピアの良さもあるので、まずは演劇をあまり観たことがない方にきっかけとして観て欲しいですね。
さらに演劇をたくさん観ているツウな方にもきっと伝わるものがあると思うので、幅広く色々な方にご来場いただけたら嬉しいです」
松崎「僕らはこのシリーズで、“誰が観てもわかりやすいシェイクスピア”を目指すことに自信を持っています。それが許されるのは物語が非常に強く面白さの奥行きがあるから。450年前に書かれた物語で我々とは感覚が全く違うはずなのに、感じていることや言っていることは変わらない。人の営みの普遍性を追求し、そして人と人は繋がれると思っています。シェイクスピアをやり続けている理由はそういう所にあるので、今まで観てくださっている方にはご期待いただいて、シェイクスピアを観ずに気になっていたという方には1度観に来てもらえたら、絶対理解でき楽しめるので、演劇の入り口として是非いらしてください」
(取材・文&撮影:谷中理音)