重苦しい社会問題や時事ネタをテーマに描きながら、それらを笑いにしていく独特な作風「ふざけた社会派」として定評がある劇団チャリT企画。
死刑を題材とした作品を数多く発表してきた劇団が、再びこの問題をユーモアたっぷりに描く最新作。
晴れの日の結婚式に突如として巻き起こる騒動とは!? 劇団主宰・作演出の楢原拓に話を聞いた。
先輩から『簡単にやめられると思うなよ』と釘を刺されました
――― 旗揚げ20周年記念公演ですが、劇団を続ける秘訣は?
「やり続けていたら20年たっていましたね。やめたり休止する劇団はいっぱいありますが、幸か不幸かコアなメンバーがごっそり抜ける事もなく地味に続けられてきました。おそらく僕がお金や女性に汚くないからかな(笑)そういうのでダメになっていく劇団をいっぱい見ていますからね。できるだけ民主的な集団でみんなの意見を取り入れながらやってきたので、気づけば20年ですね。
もともと早稲田の演劇研究会(早大劇研)のサークルから始まりましたが、その中で劇団を作ることはとても競争が激しくてサークルの中で同時期に3つしか劇団が作れない決まりだったんです。当時劇団を作りたい人間がいっぱいいて、そういう人たちを蹴落として作った所があるので、その時の先輩から『簡単にやめられると思うなよ』と釘を刺されました。やりたくてできなった人たちの想いを背負っているのと、後輩からすると先輩は目標だったりしますよね。また、ちょうど同じ時期に人気劇団の少年社中も早大劇研にいて、彼らが変わらずにがんばっていたりするのも刺激になったりして、そういうのもあって辞めずに続けてきちゃいました」
――― 最新作はとてもインパクトがあるタイトルですが製作のきっかけは?
「実際に起きた親族間殺人事件を元にしています。夫が妻と義理の父親を殺害してしまい、起訴された後、死刑判決を受けてしまうんです。彼には事件当時小学生の一人息子がいたんですが、その息子は加害者遺族であると同時に、被害者遺族でもあり、母親を失った上に死刑によって父親も失ってしまう。なので父親を死刑にしないでほしいと講演活動をしていて、その方の話を聞いたことがきっかけです。
私達は社会問題や時事ネタを笑いにしていく『ふざけた社会派』がコンセプトなので、これをどうコメディ仕立てにしようかと考えた時に結婚式場が思い浮かびました。新郎の父親が死刑囚で、新婦側の親族はそれを知らない。結婚式の当日にその事実が明らかになってしまったらどうなるだろうというドタバタを描こうとしたら、この間オウム事件の死刑執行があったもんだから我々としてはそれを盛り込まないと」
――― いきなり初めからクライマックスになりそうな予感がします。
「人間関係がすぐ明らかになりますから、お客様はドギマギしながらキャスト達が右往左往するドタバタを見ることになります」
小劇場の醍醐味
――― 新郎はどなたが演じるのでしょうか?
「実は(8月上旬の時点)まだ確定していません。いつもわりと稽古をしながら決めていくことが多いです。これは小劇場の醍醐味ということで、本番までお楽しみにしていてください。
想定したキャスティングと全く違うキャスティングになることがけっこうあるんですよ。
僕はアンサンブルみたいな役で出ていただくのは抵抗感があって、モチベーションに関わるのでできるだけみんなが主体的に作品に関われるような状況をいつも心掛けていますね。なんのためにこの作品に存在しているのか、ちゃんと感じられるような現場にしたいなと思っています」
――― 今作の見どころを教えてください。
「披露宴の会場シーンだけだと面白くないので、同時進行で父親の死刑執行される過程を描こうかと。
結婚式の当日に死刑が執行される……恐らくその過程を知るだけで簡単に死刑賛成って言えなくなるような気がするんです。死刑囚がどう朝を迎えてどういう儀式を経てその時をむかえるのか。披露宴では騒動が起きていて、でも同じ時に粛々とプロセスが進んでいる。
刑状は公開されていますがそれがどういう状況なのか実際情報が少なく、どこまで迫れるかはわかりませんが、それを描いてみたいと思っています」
――― さらに今作ではチャリT企画・初参加のキャスト達にも注目だ。見どころ満載で期待が高まる。
「一つの問題に対してそれぞれがどういう立ち居振る舞いをしていくのか、みんな自分は加害者や犯罪には無縁と思っていたりしますよね。残虐な事件が起きた時に平気で加害者を罵ったり、加害者のみならず周囲の家族まで攻撃の対象にしてバッシングしてしまうことが多くて、個人が確立していないのかなって。一族郎党、村八分にするような所が根強い気がして、そういう日本人の姿も描ければ。
題材は重たいですがそれを笑いながら、それでいて考えさせられるような、でも押しつけがましくもなく楽しく観られる舞台になりますので、ぜひ気軽に劇場へ足を運んでいただきたいと思います」
(取材・文&撮影:谷中理音)